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夏の夜の君

作者: みそ汁定食

捻りも技巧もないし、なんならホラーでもありません。

 わたしは生まれたときから体が弱かった。

 医者からは激しい運動を禁止され、母にもそれが呪いであるかのように厳しくしつけられた。2つ上の兄に驚かされて、心臓が止まりかけたこともある。比喩ではなく、心肺停止状態ってやつだ。それ以来、兄はわたしの部屋に入る時、声をかけてノックをするという手順を踏んでから悲しい目で入室するようになった。

 その目を見て、わたしは不幸なのだと悟った。


 外をかけ回る女の子たちがうらやましくて、窓から日が暮れるまで眺めていたこともある。ティンカーベルが好きだったわたしは、その姿に地を歩く妖精を見た。飛ぶための羽根はないけれど、地は踏みしめるための足と、耐えられる体を持っている。

 本来外で使うはずのエネルギーは、頭の中で消費された。

 眠る前に妄想をしたのだ。

 漫画に出てくる髪の長い彼に想いを焦がし、主人公を自分にあてはめてみたりもした。すると、胸がドキドキして、このまま死んでしまうのではないかと思うこともあった。夜は長く深く優しく、死んでしまうならベッドの上がいいと考えてもいた。

 

 みんなが普通にできることは、頭の中で補完した。お化け屋敷もジェットコースターも、漫画の世界だけのものではない。テレビの世界だけのものでもない。想像を膨らませて、体験しているように思い込むと、少しだけ気が紛れた。

 もっとも、お化け屋敷なんて実際にあっても入れないだろう。わたしは怖いのが苦手だ。

 テレビの心霊特集も、予告を見ただけで逃げ出してしまう。

 きっとお化けに出会ったら、わたしの心臓は停まってしまうのだ。

 そう思っていた。




 夜中に目を覚ましたとき、変なモノ音がした。お兄ちゃんが起きているのかもしれない。

 高校生になってから夜更かしをするようになったお兄ちゃんは、だんだんとわたしより大人になって行く。体も大きくなったし、わたしにはできないいろんなことを経験している。顔つきも声も、子供のわたしとは全然違う。

 喉の渇きに耐えきれなくなって、こっそりと部屋を出る。家族が寝てから家の中を歩くことは、ちょっとした冒険でもあった。見つかったら母に怒られてしまう。

 廊下をゆっくり歩き始めた時、遠くに青い影が見えた。

「お兄ちゃん?」

 声をひそめて訊いてみる。返事はない。

 なんだか嫌な予感がした。

 闇と同化しそうでしない、光もないのに形が浮かぶ。音もなく、温度もない。

 涼しすぎる夜、わたしは額から汗が流れていることに気付いた。

 部屋に戻ろうとした瞬間、その影がこちらを見た。

 青白いそれは、人の形をしている。

 幽霊だ――直感した。

 目元までかかる髪、真っ白な肌、スラッと伸びた背丈、凍えるような瞳、透明な目。

 逃げなくちゃいけない。でも、足が動かない。体が言うことを聞かない。


 幽霊は足音もなく近寄ってきた。

 体の中のどこかが、激しく警告する。危険、待避せよ、と。

 頭が真っ白になるくらい怖い。

 怖い怖い怖い。

 怖いのに……かっこいい。

 目が離せない。熱っぽい息が出て、頭がくらくらする。

 幽霊はわたしに近づくと、目を見開いてなにかつぶやいた。

 意識が遠くなって…………。

 

 こうして、わたしは死んでしまった。



「あなた、悪い霊なの?」

 わたしは冷静になって、幽霊に尋ねた。

 幽霊は首を振り、困ったようなな顔を浮かべる。

「僕はたまたま通りかかっただけだよ。そんな力も持ってないし、あったとしても使いたくない。君がなくなったのは、君のせいなんだよ。僕はなにもしていない」

 心当たりはある。心あたりにある。

 幽霊に出会って、きっと心臓が止まってしまったのだろう。

 すぐに部屋に戻れば、死ぬことはなかったかもしれない。

「わたしの体が弱いからだと思う」

「そっか……残念だったね」

「ドキドキしすぎると、死んじゃうって言われてたんだ」

「その、なんだろう……ごめんね、あんなところを通ったばっかりに」

 わたしは胸に手を当て、考える。

 正解はここにあった。

「いいの。これからは好きなだけドキドキできるから」

 わたしは彼の冷たい手を握った。


書いてみて思ったことは、ホラーの表現技法がわからないってこと。

これは稲川大先生を参考にするしかないな。こわいなーこわいなー。

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