敗走の王
魔王城「魔王の間」の扉が勢い良く開かれる。
飛び込んできた魔王軍の兵士が息も絶え絶えに叫んだ。
「報告します魔王様!神の軍が…天使が攻めてきました!」
次の瞬間…魔王の間の天井が消えた。
崩れたとか吹き飛んだとかではなく、突然消えたのだ。
「…は?」
あまりに突然のことに反応できていない魔王。
「なんだよこれ。天使?なんで天使が攻めてくんだよ!」
魔王城の上空の天使の軍を見て一瞬で状況を把握した水色の髪の長身の男…つまり魔王の側近が魔王を抱え、部屋の隅に逃げる。
側近は魔王を部屋の隅に避難させると叫んだ。
「魔王軍総員に告ぐ!
全軍全戦力を持ち、天使軍を迎撃せよ!」
側近の命を受け、魔王城に待機していた魔王軍が飛び出してくる。
「何言ってんだよウィル!勝てるわけねぇだろ!国民の魔力は全部…」
そう、国民の魔力は全て魔王に注がれているのだ。
つまり魔王軍と言えど兵力は人間の軍隊と同等。
天使に勝てる訳が無いのだ。
ウィルと呼ばれた魔王の側近は、魔王に優しく微笑み、腰の西洋剣を抜いた。
「お逃げください。魔王様。10分だけ、我々で持たせます。」
魔王は更に混乱する。
自分は国王だ。
国民の命を背負う者だ。
ウィルはなぜ逃げろと言った?
何もわからなかった。
ただ分かるのは、いま自分にできるのは、戦うことでも勝つことでもなく、逃げることだということだ。
「みんな…ごめん。」
そう呟き、魔王は空間移動を使い、どこかへ転移した。