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特別でもなんでもない。

作者: ゆな

ガチャッ


大きな音を立てて、鉄製のドアが開いた。

廊下の奥からぱたぱたとスリッパで走る由美の足音が聞こえてくる。



 「ただいま。」



一応、帰って来たことを知らせる挨拶をしてから、後ろ手に鍵をかけて、壁にもたれて靴を脱ぐ。

すると廊下の奥からエプロン姿の由美が姿を現し、少し高めの声で言う。



 「ダイちゃん、お帰りなさい!」



その瞬間、ふわりと玄関の空気が柔らかくなったような気がした。

暖色の電球のせいだろうか。俺が昼間、長い時間を過ごすオフィスとはまるで違う世界のように、家の中が温かく感じる。



「お夕飯もう少しで出来上がるの。先にお風呂入ってきて。」

「ん。」



笑顔を見せる由美に軽く返事をして、俺は寝室へ入って行った。

スーツをハンガーにかけ、ネクタイを外しながら浴室へ向かう。

その間にも、またぱたぱたと廊下を走ってキッチンへ戻る由美の足音が聞こえていた。

由美の足音は、どこか軽快で不思議な音だ。


着ていたものをすべて脱ぎ、洗濯機に放り込む。

靴下なんかはネットに入れないと後で由美がうるさいので、ちゃんと小さめのネットに入れた。

そして浴室の蛇腹戸を開けると温かい蒸気がもわんと立ち込め、新鮮な湯のにおいと、石鹸の清潔な香りに包まれた。

思わず深く空気を吸い込む。いい匂いだ。


シャワーもそこそこに、俺は誘われるようにして湯船に浸かった。

四十度ちょっと、少し熱めの湯が全身の疲れに染み渡る。



「っはぁ~・・・」



思わずもらした声がオヤジ臭くて自分でも少し呆れるが、まぁそれだけ疲れているということなのだ。

日中オエライサマ方と会議を続けた体は、思った以上に緊張で強張っていた。

サラリーマンも楽じゃねぇよな、と頭の片隅で独り言ちて、後ろの壁に頭をあずけて天井を仰ぐ。

そうすると少しだけ、肩の凝りがほぐれるような気がした。


十分ほどそのままでいると、うとうとと眠気が襲ってきて湯船の中に沈みそうになる。

やばい。風呂で死ぬとかシャレにならん。と、強烈な眠気を振り払って風呂から上がり、髪をタオルで拭きながらリビングへ向かう。


リビングの戸を開けると、キッチンから夕飯の美味しそうな匂いが漂ってきていた。



「ちょうどよかった。お夕飯できたところなの。食べよ!」



由美に促されて、ダイニングテーブルにつく。

すでにそこには丁寧にひかれたランチョンマットの上に、色とりどりの料理が並んでいた。

エプロンを外しながらキッチンから出てきた由美が、俺の正面に座って嬉しそうに笑い言う。


「ダイちゃん、今日もお疲れ様!いっただきまーす!」

「いただきます。」


熱めの風呂のおかげなのか、由美の料理のおかげなのか、すっかり体の緊張はほぐれている。

いつも当たり前の「ただいま。」から「いただきます。」までの、なんでもないこの時間が、 今日は何かとても特別なもののような気がした。


「なぁに、ダイちゃん。何笑ってるの?」

「ん、なんでもないよ。」

「変なの。」


そうやって由美はクスクス笑う。軽快な笑い声は、どこにでもある、ありふれた幸せの象徴みたいだった。




映画の主人公の一人語りみたいに、淡々とした文章が書きたくて初めて挑戦してみたスタイルなんですが、淡々としすぎてストーリーを進めるのが難しかった…。日常をテーマにもっとたくさん、こういうスタイルのものを書いてみたいです。


稚拙な文章ですが、読んでくださってありがとうございます!

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