交戦1
戦闘が始まります。
難しい!只でさえ難しいのに!
俺は逃げようって思ったんだよ。
勝てる訳ないしさ、こういうのは適切な立ち回りってのがあるのよ。
俺らみたいな一般ピーポーが、何?「突然変異種のデットスネーク」?無理無理勝てないって。
こういう時はさ、村に帰って村人避難させて王国行ってお偉いさんに任しときゃいいんだよ。
俺、門番してる騎士より弱いからね?
どーよ?チートなんてない現実主義者は地道な努力が必要な訳。一発逆転の必殺技なんてないし俺の立場はせいぜいモブキャラくらいだろ
それを?この目の前の年下のチート野郎が何?
「戦いましょう」って?
うへぇぇぇぇぇえ。脳味噌ぷりんかよ。
自分の足を見るとめっちゃ震えてるのが見えるよ電動式顔負けの勢いで動くモンなんだね。
今どうでも良いけど。
「ちょい待ちなさい相羽君。何?秘策あんの?」
俺は自分でもわかるほど青ざめた表情で「戦いましょう」なんていった相羽君にニヒルの笑みを向けてガン見する。
これで秘策無しで村の人達が危険だからとか主人公みたいなこと言い出したら殴るぜ?
相羽君は重々しく口を動かす
「確実に勝てる秘策なんてありませんよ・・・すこしは警戒してましたけど、ここまで規格外な相手は想定できませんでしたし・・・」
なんだと?
「もちろん、村が危険ってのもありますけど・・・」
相羽君はデットスネークから目を離さず俺に返答するが、まだ何か言いたげだね。
もう拳で殴る準備出来てるよ?
いつでも綺麗事バッチ来い。
「一番は・・・僕達の生存の為でもあります」
相羽君は両腰に納刀してある双剣の柄を握り締めて戦闘スキルを起動させながら言った。
俺的には呆気にとられて何言ってんのこの子は?である。
明らかに逃げた方が生き残れそうじゃん
俺がおかしいのかな?
俺だけがオカシいのかな!?
相羽君は視線をそらさずに俺に説明を続けた。
「多分、アレはもう『獲物として』僕らの事を狙ってます。逃げて背を向けたら確実に不意打ちを喰らうと思います」
「・・・え?狙ってるの?マジ?こっち向いてないじゃん」
巨大百足は未だに仕留めた猪の亡骸に食らいついている。
補食中はこちらに背を向けて一度も俺達の方を向いていない。食事に集中してる証だ。
それに加えて俺達は背丈の長い草むらに体を隠してるし、気付かれているようには見えないんだけど
いや、あえて気付いてないフリをしてるなら・・・油断したところを襲ってこようとでもしてるのか?
相羽君がこの緊張状態で嘘を付くとも思えないし、デットスネークが俺達を狙ってる確証でもあるのだろうか?
もしかしてだけど・・・
「狂戦士の能力?」
俺は躊躇いの含んだ声を出す。
誰に狙われてるのがわかるとか、そんな能力も加算されてるなら超チートだろ。
ただでさえチートなのに、不意打ちすら通じないの?
語り手交代する?
そんな俺のくだらない考えを打ち砕くほどあっさりと正直に相羽君は答える。
「そうです。狂戦士は一体の敵を認識するとステータスに似た情報、敵対心がわかるんです。」
「・・・チッ」
「今舌打ちしましたね?」
そりゃするわ。チートは憎ましいに決まってるからな。
つまり相羽君はあのデットスネークのヘイトを調べて、その結果次のターゲットは俺達って認識されてるってことか。
でもなんで俺達の居場所がわかるんだ?
視覚で確認された訳では無いのだから、ましては相手は補食に夢中になっている。
それを聞くとちゃんと答えてくれた。
「熱探知・・・元の世界ピット器官と呼ばれる蛇の持つ器官をあれも同じく持っていたりしたら・・・多分バレます。」
あー、なんかピット器官ってニシキヘビとかが持ってるってテレビでやってたな。サーモグラフィみたいに暗闇でも熱を感じ取って何がどこにあるかがわかる第二の目とか
でもここ地味に気温高いし暗闇でもないよ?それでもわかるっての?
異世界すげぇ。絶対納得しねぇよ?
「温度だけじゃなくても・・・匂い、音ってのもあるかも知れません。ピット器官はあくまで例えです。まぁ結論はどうあれ、僕らはもうバレてターゲットされてます。」
相羽君はあくまで冷静に言い放つ。
突然の予測不可能な突然変異種の登場にも、もう既に心を落ち着かせて分析をしているのを見ると、ただ者じゃないよね。
本当に彼は元の世界で何者だったんだよ。
あ、ハーレムか。
「・・・何だったら、灰原さんは撤退して、僕が囮になっても良いですよ?どうせ死んでも一回は蘇れますし」
相羽君はどうやっても引くつもりは無いらしい。逃げ出したら無防備な背中を襲われる可能性がある分、戦闘してすこしでも生存率を上げようとしてるのか
そんな彼の提案はとても魅力的だ。こんな状態だし、正直甘えたい・・・
でも俺にできるか?否、そんなことしたらストレスで胃に穴開くぜ。
「・・・ヤバくなったら逃げるよ。」
俺の言葉をしながら銅の剣を鞘から抜く。すると相羽君は少しデットスネークに向けてる睨み目を少し緩めた
こんな敵相手だから仲間一人居るだけでも心強いのだろうか
まぁ俺としては、一時的とはいえ仲間を囮にして見捨てて帰るのはたぶんメンタルが保たない。
最悪死んだら目覚め悪くて罪悪感に潰されて多分保たない。
だから強い相羽君についていく。
まぁなんにせよ、デットスネークを討伐または撃退するにはある程度の作戦が必要だ。
「作戦は?」
「さっきも言いましたけど今から罠を仕掛けることは出来ません。奴が僕らの隙を作らせる為に自らの隙をさらけ出しているなら、利用させて貰います。」
「奇襲って訳か。」
猪の筋肉を食したデットスネークは、骨を噛み砕きながら内蔵を貪り始めている。
俺達が逃げ出すのを待っているのだろう。
だが俺達は逃げるつもりはない、デットスネークの作戦を逆手に取るってか
そう判断すると相羽君も頷く。これで話は決まった。
「先攻は僕が仕掛けます。狂戦士によるステータスドーピングは発動まで溜が必要です。使えるようになったら合図します」
「じゃ、俺は防御しながらダメージ与えるわ」
話終わった瞬間、レースカーの如く相羽君が飛び出した。
早さはかなり速く、音は殆ど無い。
両手に双剣を握り締めて走る姿はまるで忍者のようだ。
補食中のデットスネークは近づく相羽君に気付いていない。
相羽君はそのままデットスネークまで3メートルまで接近するとジャパニーズ忍者も涙目になる大ジャンプをかました。
そして近くの細木の枝まで跳び、それを蹴る。これは俺も驚いた。忍者できんじゃね?
枝を蹴った反動で相羽君は6メートルの高さまで飛び上がった。
補食で頭を下げていたデットスネークには丁度良い高さだ。
空中で体勢を整えた相羽君は双剣の刃をデットスネークの脳天に向けた。
相羽君はそのまま地面の重力に引き寄せられるまま双剣をデットスネークの頭殻に突き立てる
そのまま頭から地面まで縦にデットスネークの後ろ姿を縦に斬った。
奇襲攻撃であるし、会心の一撃だろう。
普通のモンスターなら、頭骨ごと背骨を一刀両断していたのかもしれない。
それでもデットスネークの甲殻は堅く、銅性の双剣の刃では、肉まで届くことはなかった。
だが、威力はあったはずだ。
デットスネークの背中の甲殻には深い切り傷が出来、それと
「ギュゥギャァァァァァァァァア!?」
デットスネークは予想外の攻撃に悲鳴を上げている。
ここまで約5秒。
この短い間に繰り広げた相羽君の攻撃に俺は見取れ、動けずにいた。
恐怖というより、心強い興奮に似た感情だ。
「すげー・・・」
俺は目の前の光景にただ淡々と呟く。
が、すぐに正気に戻って俺も相羽君に続いた。サボってばかりでは恐らく相羽君も押される。
本来モンスターに対して抱くはずの恐怖は感じてしまうと動け無くなってしまうだろう。
しかし俺の足は、体の何かの力によって動かされているようにも思える。
これは《戦闘スキル》による補佐だ。斬り方、避け方、体の動かし方が自然とわかる。
俺がたどり着くまでの間に相羽君とデットスネークは既に交戦を開始していた。
先程の攻撃が戦いの火蓋を切ったのだろう
デットスネークはまるで槍のような顎を使い、もの凄いスピードで突進をし、相羽君に突きつける
相羽君は双剣を無い盾の代わりのように使ってガードする、その力を火花を散らせながら突きを受け流す。
避けられてしまったデットスネークの突進を受け止める者が無くなり、スピードを殺しきれずにデットスネークはそのまま突進をして相羽君をすり抜けてしまう。
その僅かな隙に、相羽君がデットスネークの腹部に双剣を突き刺し、までバターのように切り裂き血液を飛ばす。
よく見るとデットスネークの腹部は薄い鱗があるだけで、皮と大差ないようだ。
体の甲殻を滑らかに動かす為に、腹部が鎧の関節のような役割を果たしているのだろう。
柔軟性がある代わり、柔らかい。
さらにそこには百足という名の由来の足が無い。
甲殻や触覚といったものがなければ完全に蛇だ。
柔軟性とスピードを優先したために、只でさえ小さい数が頼りのムカデの足は退化して消えてしまったのだろう。
これでは腹部に刃物が入った時守ることは出来ない
「キュァアァァアアア!?」
デットスネークに最も高いダメージが入り、悲鳴を上げる
かなり痛かったのだろう。電気ショックを受けたようにビクン!と体が伸びて痙攣する
その隙に俺も到着することができた。
俺は思いっきり銅の剣を縦に振る、剣はそのまま甲殻へとぶつかるが、
ガン!!
堅い。
まるでコンクリートの壁に鉄パイプで殴り付けたような感触が痺れを起こして腕に伝わる。
「くっ!?」
甲殻は傷一つ付いていない。俺はそれを見て苦悶の表情を浮かべる。
ダメージを入れるには相羽君のように会心の一撃を入れる他無いだろう。
それか、地面に擦り付けてる柔らかい腹部を狙う。
俺が取ったのは後者だ。
とりあえず腹を出すまでは盾でぶん殴ることにした。剣で叩いても切れ味が悪くなりそうだし
盾で殴り、叩き、また殴る。
堅いもので殴れば直接ダメージは当てられなくても、内蔵にダメージを送らせる事ができるかもしれない。
だが、いつまで経っても覚悟していた反撃は来ない
異変に思った俺はデットスネークの頭部を見上げる。
すると相羽君とデットスネークが格ゲーの達人のように攻防を繰り返していた。
え?俺居る意味あるの?無視されてんだけど・・・
ま、攻撃されないに越した事は無いだろう。
俺はとりあえず盾で殴ることを専念した。
うらー!くらえ~
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「はぁ」
思わず重いため息を出してしまう。
私は未だに彼の言った意味のことを考えていた。
『大丈夫、俺らは一回死んでも生き返るから』
私より10年近く年上であろう冒険者は理解の出来ない言葉を口にして森へと入っていってしまった。
死んでも蘇る・・・もしかしてアンデットなのだろうか、いや、理性もあるしゾンビって事はない
冒険者の考える事はよくわからない事が多い
それは住む世界が違うと思ってたから
冒険者は常に危険と隣合わせの生活を送って、私達は最低限の身の安全が保証された保護下で生活をしているからだ。
でも、昨日料理を食べてもらってあの二人は笑顔で『美味しい』って言ってくれた。
嘘や虚言の混ざった言葉ではなく、本心から言ってくれたような、そんな気がした。
それで思えたんだ『あぁ、彼らも人なんだ。私達と同じなんだ』って。
だから巨大百足の討伐なんて行ってほしくなかった。
もちろん、それが彼らの仕事なのだから仕方ない。
でも、同時に彼らも人であるのだ。
モンスターの攻撃をまともに喰らえば死んでしまう。
これは私の我が儘だ。彼らと会ってまだ一日も満たないけど、彼らが討伐に失敗したら・・・
嫌でも考えてしまう、母さんが私を庇ってモンスターの毒に冒され、病にかかって死んでしまった時のことを
彼らはこの村を守る為に戦う。
母さんは私を守って死んだ。
姿が母さんと重なる。
父さんをこの村まで連れてきてくれた彼らには何度感謝しても足りない
まだ恩を返しきれてない、だから
「どうか無事に・・・!」
私は門の前でそう祈るのだった。
主人公は・・・
ハーレムをつくりま(殴っ