不安
この初狩りが終わったら・・・ヒロイン作るで・・・・
黒い背景がその空間を支配していた。
明かりが無いのに部屋の家具などはしっかり見える
そこには黒いスーツ制服を来ている男が本を読んで椅子に腰掛けていた。
「~♪~♪」
鼻歌を歌いながら彼はページをめくる。
そのたびに濡れ鴉のような艶のある黒髪が揺れた
本のタイトルは「異世界漂流記」。
異世界へと連れ去られた人間たちが元の世界に戻るために世界を旅するファンタジー小説だ。
読者を楽しませるために作られたシナリオはよくできている。
「滑稽だなぁ。俺がした事とまるで同じだ」
彼はクスクスと笑い、またページをめくった。
彼は人の形をしながら人間とは酷く特徴がかけ離れていた。
手首には黒い羽が生えており、足はまるで鳥のように鱗に覆われている
背には大きな黒い羽を納めていて、その姿はまるで鴉天狗のように見えるが、彼はそんな軽い妖怪には入りきらない威圧感を持っている。
雰囲気だけで生物は皆、それを感じ取ることができるだろう。
その質こそが、自然とこの空間の静けさを保っているのだ。
彼は女性のような大きな瞳で本の活字を読み取り脳へと情報を送る。
彼は一人、読書を楽しんでいた。
そして、同時に自分の仕組んだ時間も過ぎていくと思うと笑いが止まらなかった。
嗚呼、愉快愉快。今頃奴らは何をしてるのかなぁ?
その静けさを断ち切ったのは笑い声ではなく、子供の声だった。
「ヤタガラス~、いるの~?」
華奢な子供の声がドアを開ける音と同時に聞こえてくる
その声に気付いた彼は本を閉じた。
「ここにいますよ創造神様。」
彼━━ヤタガラスは創造神という名の子供に向かってそう頭を下げた。
創造神。全ての空間に世界を作り上げた全ての始まり。と言っても、どこからどう見ても小学生くらいの子供にしか見えない。
その体は、創造神が産み出した新しい器。
何千、何億、何兆年と生き続けた肉体が滅んだ創造神は、新しい体を造り意識を移植さることを何度も繰り返している。
創造神は死を知らない。
よって、まだ子供の姿だがそれは確実に数多の世界を創った神だということは間違い無いのだ。
ヤタガラスも彼によって創り出された存在。
だが、精神年齢的にはヤタガラスの方が上である。自分を世話させる為にヤタガラスを創ったのだからそれは当たり前だ。
創造神はいつまでも子供のままを保っている。
子供は常に夢を、世界を想像することに長けているからだ。無邪気な心こそ、世界を創る事が出来る、想像できる。あとは創造するだけ。
しかし時が経てば意識は自然と大人びる。それを拒むために創造神は産まれた時に、自分に呪いをかけた。永久に子供でいる呪い。
同時に自分を育ててくれる3人を創った。中でもヤタガラスを気に入っている。だから創造神は常にヤタガラスの側にいた。
その姿は我が儘な王子とその執事。という風にも見える。
そして、王子は今日も我が儘を口にするのだ。
「ヤタガラス~!何か面白い事おきてないの~?」
「創造神様、まだ三日ですよぉ?先日見せた狂戦士では満足できないのですか?」
彼はまるで人を喰ったような嫌らしい笑顔を浮かべ、そう言う。
裂けたように歪んだ口はヤタガラスの特徴でもあった。だから創造神はそれを気にしない
ヤタガラスが見せた狂戦士は最近、と言っても創ってから4千年の月日も経っているが、その世界に連れてきた人間の事だ。
連れてきてまだ三日しか経っていないのに覚醒スキルを開墾させた男。
それは無邪気な創造神を満足させるには十分だったが、もう飽きてしまったらしい。
新しい物語が必要だとヤタガラスは考えていた。
創造神は床に寝っ転がってブーブーとブーイングをしている。ヤタガラスはそれを見てほっとく事にした。伊達に何兆年と世話してきたのだ。この時の対処法をちゃんと把握している。
やれやれと言い、ヤタガラスは閉じた本をまた開く。
その場面は勇者が竜族の王、竜皇を倒した所だ。
しかし勇者に悲劇が巻き起こってしまう。竜皇の血が勇者に降りかかり、呪いが巻き付いてしまったのだ。
「・・・。」
それを見てヤタガラスは思う。
そうだ。どうせなら主人公に呪いをかけてやろう。竜皇の呪いという最高にカッコいい呪いを。
ヤタガラスはまた本を閉じ目をそらす。そらした視線の先には創造神がジト目でこちらを見ていた。ヤタガラスはその視線に応えた。
「創造神さまぁ、面白い事思いつきましたよぉ」
ヤタガラスは汚い笑みを浮かべて創造神を見た。
創造神はそのヤタガラスの答えにぱぁと満面の笑みを晒した。
創造神からしたら、世界は本でヤタガラスは作者なのだ。単純に、新たな物語が楽しみなだけ
そう思い、ヤタガラスはまた笑みを浮かべるのであった。
さぁて、誰に付けてやろうかなぁ・・・
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
目の前に出されたのは白いスープだ。
中に一口サイズに切られたジャガイモやニンジンが入っている。
野菜の甘い香りが鼻に刺激を起こす。
これは、これは!
「シチューだ・・・」
「えぇ、シチューですね・・・」
俺と相羽君は元の世界の味に驚いていた。
目の前に出された料理はまさしく元の世界のホワイトシチューだったのだ。
俺達の目の前にはそのシチューを作ってくれたスリフちゃんとその父親のスーオさんが同じように夕食を食べていた。
「どうだ?うちの自慢の娘が作ったシチューは?」
スーオさんが満面の笑みで夕食の感想を聞いてきた。もちろん答えの解答は一言だけだ。
「「メチャクチャ美味い」です!」
俺と相羽君は思わずハモってしまった。
だがそれでも構わない。実際おいしいんだもの
「しっかし、まだ7才になったばっかでしょ?もうご飯作れるのか?」
俺がそう聞くとスリフちゃんはえへへと照れている。何この子可愛い。
「私達みたいに森に村を作ってるような者達は早い内から料理や家事が出来るよう学ぶのさ。でないといきていけねぇからな。」
照れているスリフちゃんの代わりにスーオさんが答えてくれた。
なるほどそう言うことか。
「本当に、お父さんの護衛をしてもらって感謝しています!ありがとうございます!」
スリフちゃんはそう言って頭を下げてくる。
でもその感謝は必要ないと思うんだよね、半分利用したようなものだし
「いいんだよスリフちゃん。元々この村に来ることが目的だったし、それに夕食も出してくれたんだ。感謝するのはこっちだよ」
俺はそう言ってスリフちゃんとスーオさんに頭を下げる。隣を見ると相羽君も同じ姿勢だ。
スーオさんは感謝の言葉を並べながら笑い、スリフちゃんも笑顔でそんな夕食の時間を過ごし、夜は更けていく。
その夜、一羽のカラスがその村に降り立ったのを誰も見ていない。
次の日、俺達は巨大ムカデ「デットスネーク」討伐の為に依頼主の村長と面談をしてた。
場所は村長の自宅、木で出来た縦床式住居のような家は奈良時代を連想させた。
そこにいた村長はドワーフ族。スーオさんやスリフちゃんもそうだった事から恐らくこの村はドワーフの村なのだろう。
その証拠に村長の家の窓やドアから大量の小人がこちらを見ていた。
ドワーフだろうな、ちょっと怖い
アル村はドワーフ族の村であるが鍛冶などやっているものは少なく、主に農業や家具を作ったりして生計をたてている。
森で恵みを貰い、荒れ地を耕し、果実や野菜を実らせる。
普通な生活を幸せに送っていた村だった。
が、そこに驚異が訪れた。モンスターである。
「そこで、ギルドに討伐依頼を流したと?」
「さよう、デットスネークは作物を育てて来ただけのワシらには到底かなわない相手なのです。目撃した村人から聞くと並大抵の大きさではなかったらしい、このままでは村だけではなく森の生き物達も食い尽くされてしまう。
お願いします、どうか我々を救ってくだされ」
村長はそう言うと土下座までしてきた。
外を見ると集まっていた村人達、すさんスーオスリフちゃんも同じく土下座をかましてた。
てか、元々巨大ムカデの討伐に来たのだからお願いされなくても仕事はする。
それでも「お願い」をしてくるのだからかなりこの村は危機に瀕しているということだろう。
「約束は出来ません。しかし、全力を尽くします」
相羽君は現実的な返事を返した。それはこの依頼を失敗するかもしれないと言うことだ。
それでも村人達に笑顔をしているところを見ると精神的に安心出来たのだろう。
「(相羽君、約束はできないってどゆこと?)」
ただ、俺はあの言葉が気になったので、小声で相羽君に話しかけた。
「(討伐の依頼は油断大敵です。成功という断言は、できませんよ。)」
相羽君も空気を読んで同じ音量で返事を返す。
確かに討伐なら命のやり取りだ、ちょっとしたミスが命取りになることはわかる。
でも相羽君は冒険者レベル3で更に俺も居いる
奴とはニ対一だ。しかもその相手は冒険者レベル1でも相手に出きるモンスターだ。
なぜ彼が必要以上に警戒しているのか、それが気になったのだ。
それを伝えると耳元で返答してくる。
「(それでも実際はわかりませんよ。奴等が例えランク1のモンスターでも、たった一撃で僕達の命を刈り取れる事を忘れないでください。それに、敵はデッドスネークだけでは無いこともあります。突然他から予想も出来ない乱入者が現れる事もあるんです)」
相羽君は、まるで自分が体験したかのようにそう言った。
彼はこの三日間何を体験したのか。平和ボケした日本の住人をこうも「戦闘種族」に変化させた原因はなんなのか、この時の俺では想像もできない
結局そのまま面談も終わり、各自準備に取り掛かる事にした。
俺の荷物はスーオさんの自宅に置きっぱなしだっだ。
相羽君は既に持ち出してたので村の出入口で整理中だ。しっかり者だねぇ
スーノさんに頼んで家に入る。寝泊りに貸してもらった空き部屋に俺のカバンが置いてある。
街から運んだアイテムが入ったカバンを取る。
中には「回復ポーション」「投げナイフ」「干し肉」「飲水」などが入っている。店で買った時にはRPGみたいで興奮した
ちなみに「毒ポーション」も売ってて興味があったが買わなかった。なんか怖かったんだよ。でもポイズンってなんかカッコイイよね。
「猛毒」が売ってた時にはかなりビビったケド、こっちは買った。
そんなアイテムが詰まったこの革カバンは、俺が世界に来て初めて買ったもの
使い勝手が良いので重宝してる。
「さってと、行くか」
初めての狩りなのでイマイチ何を用意すればいいかわからない。
ギルドでいろんな冒険者に聞いたりしても答えはバラバラ。習うより慣れろってことかもしれない
相羽君にも確認をとったが中身は似たような状態だった。となればもう用意は終わってるハズ。
俺はすぐに外へ出て、相羽君の待つ出入り口へ向かおうするが・・・
ドアの前ではスリフちゃんが立っていた。
「・・・やぁ」
「・・・」
挨拶をするが会話が途切れる。昨日会ったばかりでなんて言えば良いのかワカラン。
俯いているその顔は不安そうに見えるんだけど・・・
モンスターが怖いのかな?まだ7才だもんね。
「デットスネークは必ず討伐するからさ、元気だしなよ」
俺はできる限り明るい声で言う。
それでも黙ったままだ。
あう・・・
「怖く、ないんですか?」
スリフちゃんがようやく顔を上げてそう言った
その目には不安と恐怖がごちゃ混ぜになった瞳が潤んでる。そしてスリフちゃんは「お願いしといてなんですけど」と呟いていた。
「デットスネークは熟練の冒険者でも手ごわいと、聞きました、カイハラさんはっまだ若そうなのに逃げ出したりしないんですか?」
その問は、おそらく彼女自身を俺の立場に置き換えてみて感じたのだろう
自分だったら逃げ出す
勝てるかわからない
死ぬのは怖い
そう感じるのは臆病じゃない、ただ普通なだけ。
普通なら怖い。この世界でモンスターは人々にとっての捕食者だ。
逃げ出さなきゃ死ぬ、そう本能が命令するのだから仕方ないと思う。
でも俺はまだこの世界に来てから三日しか経ってない。
正直自分より格上のモンスターがそういうものかわからない
俺は単に怖くないんじゃい、勇敢でもない
無知なだけだ。
彼女の問いに答えないまま俺は玄関を開け、村の出入り口に向かって歩き出す
スリフちゃんは黙って後ろから俺を眺めているだけ。
俺と相羽君が死ぬのが怖いのかな?
例え昨日会ったばかりの人でも、一度は共に食事をして喋りあった仲だ。
昨日は居た存在が突然死という形で消え失せるのが子供にとって怖いのかもしれない
だから俺は振り返って彼女に言った
「大丈夫、俺らは一回死んでも生き返るから」
その答えにキョトンとした表情を浮かべたスリフちゃんを無視して、俺は集合場所へと足を速めた。
相羽君と俺のパーティは荷物の準備を整えると早速森へと向かった
腐葉土を踏み潰すたび、生々しいような感触が足を伝ってくる。
森は日本のような静けさはない。
例えるなら熱帯のジャングルのようだ。
ツタに巻きつけられた樹木々はあたり一面に生い茂っている。
植物の匂いが強烈で、せっかくの「狩りスキル」と「戦闘スキル」で感じ取れる動物の臭いなどが全く感じられない。
モンスター達はこれで気配を隠しているのだろう
奇襲をかけられたら不利に陥りそうだが、皮肉にも臭いを消してくれてる無数の樹木が俺たちの盾になってくれていた。
だが念のため、背負っていた銅の剣を抜刀しておく。
武器の手入れも完璧だ。抜刀した銅の剣刃は太陽の光を反射し、光り輝く。
しかし、そんな俺よりも遥かに臨戦体勢を構えながら移動しているのは相羽君だ
目からは明確な殺意が埋め込まれている。
・・・相羽君は怒らせないようにしよう。
「デットスネークはランク2のモンスターの中ではトップクラスです。体長は約5メートル、酸性の毒液と硬い甲羅を使って攻撃してきます」
相羽君は今回の獲物の特徴の情報を流してきてくれた。
5メートルかぁ、でかいな。昨日はちょっと調べて大体の大きさは3メートルかと思ってたけど、依頼を受けた時はちょっとおっきい地球にいるムカデくらいかと思ってた。
俺は甘く見すぎてたね。馬車移動中でのもんんすたー戦闘経験はいい感じに俺に情報として血肉になっている。
よく思い出すと、実力もトップクラスってことなら、受付嬢さんと周りの冒険者が驚いていたのも納得できる。
なにせ登録一日目の新人がボスキャラに挑むようなもんだもん
とにかく受けちまったのはショウガナイ。いっちょやってやりますかぁ!
俺の銅の剣が唸るぜぇ!
「ちなみに銅製の剣だと外殻は斬れないので注意してくださいね」
・・・・俺のやることが早速なくなった。
とある村・・・
ある村・・・
アル村・・・
・・・ハッ!
(ぶっくまーく6件ありがたや〜)