お仕事しようか
お久しぶりです。
受験生なので更新おくれます。
はてさて、経験値不足の問題を脱却する方法だが、特に良い考えは浮かぶことはなかった。
デットスネーク並みの強敵などそこらにはいるはずないし、王国の外に出て雑魚狩りをするにしても、大した期待はできない。精々経験値は雀の涙程度である。
まぁ何もしないよりはマシだから、しばらくの間俺達3人はバーナル平原で小物モンスターを狩りながら経験値とお金を稼ぐ日々を送っていた。たまにスライムに遭遇したりして全力で逃げたけどね。
そんな時だった。たまたまなのだろう、スキルで《高速移動》を持っているスライムと遭遇してしまったのだ。
《高速移動》とはその名のとおり素早い動きで移動速度が増すスキルである。ノーマルスライムはよちよち歩きの速度であるため、相手にしないで逃げれば戦闘は回避できた。
だが、このスキル持ちのスライムはなんと自転車みたいな速度で追ってきたのだ。ローションを塗りたくったボールみたいのが延々と俺達に飛んでくるのだ。軽くホラーである。
しかし、それが経験値不足の今の状態から脱却できる基点だったのだ。
なんとかスキル持ちのスライムを・・・物理、魔法攻撃が無効化されるとわかっていたが・・・足止めをしながら仕留めだのだが、実は案外スライムは中々良い経験地になってくれるようで驚いた。真面目に相手にしていたらステータスの数値が微量ながらも増えていたのだ。
試しにスライムを発見次第、落とし穴に突き落として燃やしたりして乱獲したが、そのやり方ではステータスの向上は見られなかった。
なぜだ?と皆で原因を考えてみた。三人寄れば文殊の知恵って言うしね。
最初は単にスキル持ちの方が経験値が美味しいからでは?と浮かんだが穴で焼き殺したスライムにはスキル持ちも希に含まれていた為、違うと断定。
その中で思い浮かんだ仮説が、スライムの倒し方によって経験値の良し悪しが変わるのではないか?である。
最初に遭遇したとき、周りから見たら「何やってんだこいつら?」みたいなテンパり方でスライムを相手していた。
その時は油や着火道具を持っていなくて、有効な倒し方が通用しなかったのだ。相羽君なんか初っ端から《狂戦士》を発動して切りまくってたし、フレキちゃんなんか魔力が枯渇する寸前まで魔法をぶっ放したりして、俺は足止めしようとして薙刀の反対側にある石突きで突きまくってたらスライムに取り込まれて死にかけたし・・・ん?一人おかしいって?気のせい気のせい。
まぁ取り込まれた際、俺が持っていた「猛毒」でなんとか助かっ・・・じゃなくて討伐することができた。どうやら「猛毒」の酸性の方が強力らしい。まぁそれは置いといて、経験値の増加はその討伐するまでの過程が原因ではないか?である。
俺達は時間を稼ぐというのを目的として長い時間スライムに攻撃を与えていた。しかし、スライムは物理攻撃も魔法攻撃もすべて無効化してしまう。
要は倒すまでの過程が一種のスパーリングに近い形になるのではないか?だ。
俺達も模擬戦でお互いの戦闘訓練をしたりしているが、どうしても手加減、悪く言えば手を抜いてる形になってしまうのだ。
しかし魔物相手にそんな遠慮は無縁だ。ましてやスライムなんてチートモンスターには尚更である。
スライム自身はゴブリンに毛が生えた程度の経験値だが、特性である攻撃、魔法無効をうまく利用すれば、半永久的に自分の全力を出し切れるサンドバックになってくれるのである。
疲労がたまって戦闘が継続できなくなれば油をぶっかけて火打ち石で燃やせばいい。素材は手に入らないが、工夫次第では経験値が美味しい魔物だとわかったのだ。
この世界はゲームではない。どんな雑魚を相手にしてもそこでしっかりと鍛えられれば、ちゃんとした経験値になってくれるのである。
バーナル平原には手付かずのスライムなんて探せばいくらでも遭遇できる。俺達はスライムでのスパーリング作戦を開始した。
この経験値稼ぎ方法は俺達以外にはまだ知られてはいない。そりゃ、逃げるか燃やすしかない魔物なんて誰も相手にしないよね。情報秘蔵?素晴らしい事だと思います。
そんなわけで俺達は嬉々とスライム狩りに専念したのだった。
しかしまさかスライムが経験値生産機になるとは・・・スライム製法の武具と武器といい、俺達はなにかしらスライムと縁があるようだ。
感謝してます。全て狩らせていただきます。駆逐だ。
とは言ったものの、何事もそう上手くはいかない。
このスライム狩りでのデメリットが問題なのだ。さっきも言ったが、この方法では経験値を稼げてもお金は稼げないのである。
ギルドの掲示板で『スライムが大量発生したので駆除して欲しい』という依頼書はたまに見るが、これは経験値稼ぎには向いてない。大量発生したスライムの場所で時間のかかる特訓なんてできるはずがないのである。そんなことしてたら大量のスライムに囲まれてお陀仏になってしまうからね。
スライムでの特訓は、3体1がベストだ。
それに、これらの依頼のセオリーは、スライムを一箇所にまとめて焼却処分するしかない。
そんな事しても経験値になるはずがないのだ。報酬金もイマイチ。
つまり、必然的に野生のスライムを探しに出掛けるしかないのである。
だがこの方法、予想外に金が掛かる。主に油と猛毒だ。スライムは燃やすか毒で蒸発させることでしか倒せない。
それにゲームじゃないんだから、当然生活費も掛かる。武器と防具のメンテもしないといけないし、このスライム狩りではいつか破産してしまう。
だからこのスライム狩りはたまにしかできないのだ。実入りはいいが、ここは妥協するしかない。
そんなことなので、今日俺達三人はとある依頼を受けてその仕事をする予定だ。
で、これが依頼内容。
《スビル町までの護衛》
依頼達成証明・スビル町のギルド証明書。
護衛場所・スビル町までの間を警護。
集合場所・アルフ王国北門。
報酬・5800G
依頼人・『セズ・ブレット』
契約人・『《蒼い風》《黒狼隊》』
こんな感じだ。スビル町ってのはアルフ王国から馬車で3日ほど先にある港町である。
依頼内容は文字通りスビル町までの護衛だ。
この依頼を受けた理由としては、まず稼ぎがいいというところ。5800Gとは日本的感覚からすると安そうに見えるが、この世界では大金である。少しの間スライム狩りができるかもしれない。
それとは別に、フレキちゃんが海を見たことがないからでもある。本で知識は知っているようだけど、実際見たことがないので興味があるそうだ。
それに俺と相羽君も、この世界の海がどうなっているのか見てみたいという好奇心があった。
・・・海鮮丼とか食べれるだろうか。なくてもいいけど。
ちなみに《黒狼隊》とは、俺達のパーティ名のことである。全員黒い装備と武器を持ってるし、なによりうちの紅一点であるフレキちゃんが狼の獣牙族というのもあって、俺と相羽君の厨二と中二のコンビで決定してしまったのだ。反省はしてないし後悔もしてない。
「初めまして冒険者の方々、私はこの商隊のリーダーで、セズ・ブレットと申します。スビル町までよろしくお願い致します。」
礼儀正しい言い方でこちらに頭を下げてきたのは旅商人のセズ・ブレットさんだ。
聞いたことのある名前だと思ったら、前に依頼を出してた人と同じ人物だった。たしかゴブリンの討伐依頼だっけ?フレキちゃんの炎魔法のオーバーキルでゴブリンが炭になったあの日の衝撃は未だに忘れられない。
今俺達はアルフ王国の北門という場所に来ている。スビル町はアルフ王国から北にあるらしいから当然なのだろう。まだ朝早くだというのに騎士と門番の皆様が忙しく働いている。お疲れ様です。税金払ってるからその分働いてね?
騎士と門番以外、この場には俺を除いて10人程の人たちが集まっていた。2人は相羽君とフレキちゃん、そして4人はセズさん含めた商人達。そして残った4人が冒険者の人達だ。この4人は《蒼い風》というパーティらしく、今回俺達と一緒に商人達を護衛することになっている。ちなみに一人が俺と相羽君と同じ人間だった。すこし驚いたがその程度だ。全員シャキっとしてるからきっと仕事のデキる人達なのだろう。
うちのパーティのメンツの様子だが、相羽君は早朝という早い時間であったせいか、少し眠そうだ。むにゃむにゃと瞼を擦っている。篭手付けたまま擦るなよ。
フレキちゃんは知らない人が沢山いるせいか俺の足にしがみついてプルプルしていた。小鹿かい君は。
そして俺はフードで顔をほとんど隠していると・・・ダメだな俺ら。
「では依頼内容を説明させて頂きます。今回の依頼は我々と商品を無事スビル町まで送り届けていただくことです。野営なども想定しておりますので、見張りの順番などは冒険者の方々にお任せします。尚、食料となる携帯食料はこちらから出しますので食事に関しての心配は不要ですよ。依頼達成の報酬はスビル町のギルドで発行しています達成書と共にお渡しします。他に質問はございますでしょうか?」
セズさんが説明に区切りをつけると、《蒼い風》のメンバーであろう一人の獣牙族が質問をする。
「護衛中の際、魔物を俺達が捌ききれなくなるほどの数で押し寄せてきた場合はどうする?」
「最悪の場合、商品は捨てて私達を守ることを優先してください。」
「わかった。」
「道中で倒した魔物の分配はどうなります?」
眠そうだった相羽君が質問する。話を聞いてたのか、ちゃっかり者だな。
「それは倒したパーティが決めてください。複数魔物を倒してどちらのパーティの所有権かがわからなくなった場合、私達が平等になるよう計算させていただきます。」
まぁそうなるよね。倒した魔物のどれがパーティのものか諍いを起こすよりも、いっそ平等に分けたほうがいいしね。
どうしても利益が欲しいのなら自分達で倒して印でも付ければいいのだし。俺はリボンでも付けとくかな?・・・あれ?なんで俺リボンなんて持ってんの?
すこし困惑していると、《蒼い風》の面々がこちらに向かってくるのが見える。うわっこっちくんなオッサン!
「俺は《蒼い風》のパーティリーダーをしているダリルってもんだ。よろしくな。」
どうやらこのオッサン、じゃなくてダリルさんはあっちのリーダーらしい。ダリルさんはどうやら獣牙族の狐タイプらしく、可愛らしい狐耳がぴょこぴょこと動いていいる。
だが男だ。だがオッサンだ。ちくせぅ。
「で、そっちのパーティリーダーは誰だ?」
「「灰原さんです。」」
あ、そういやリーダーなんて決めてなかったな。パーティ名を決定してギルドに登録した時、受付嬢のサーファさんは特に何も言ってこなかったし・・・うーん、ここは既に異名持ちの相羽君の方が・・・はい?
「・・・ちょい?二人共何を言ってるの?俺?」
なんで二人共息合ってんの?なんでそんな前から決定してたみたいな顔してんの?もしかしてはめられた?あの時サーファさんが何も言ってこなかったのはこれが理由か?
「だって私、カイハラさんに育ててもらってる身ですし」
「だって灰原さんの方が僕より年上ですし・・・」
「「ねぇ?」」
「おっし二人共まずはよぉぉく話し合おうか?」
人はそれを丸投げと言うのです。
「あー・・・カイハラってのか?お前がリーダーでいいんだな?」
少しは待とうじゃないかダリルさん。こんなことは決して認めませんよ?弁護士、弁護士を連れてこいっ!正当な意見を要求する!!
「さっきも言ったが、俺は獣牙族の狐人ダリルだ。職業は戦士で前衛を担当している。で、後ろにいるのがエルフ族のリード、うちの魔術師で後衛だ。それとこのちっこいのが俺と同じ獣牙族の鼠人のリック。シーフでサポート役、最後に最近パーティに加入した人間のカズだ。同じヒューマンとして仲良くしてやってくれ。職業は片手剣士だ。」
「俺がリード、よろしく。」
「あっしがリックでさぁ。よろしく頼んます。」
「・・・前原 和。」
《蒼い風》の面々がこちらに自己紹介をしてきた。エルフ族のリードは金髪碧眼の美青年だ。爽やかそうな笑顔を浮かべているいわゆるイケメンというやつだ。くそっ俺の目がががががが。で、身長がフレキちゃんとほぼ変わらないくらい小さい子分口調なのがリックだ。ネズミというから出っ歯か?と思ったがそんなことはなかった。尻尾と耳がネズミなだけだ。そしてなんだか素っ気ない言い方なのがカズさん・・・ここは和でいいのかな?和さんだが、年齢は19歳といったところで大学生くらいなのだろうか、目つきが悪いがそこまで目立っていない。
この人達が《蒼い風》のメンバーだということだ。《蒼い風》は自己紹介が終わったら黙りだしたのでなんだ?と思ったらそうか、今度は俺達が自己紹介をする番か。と気づく。
まぁ、これから一緒に3日は仕事を共にするんだし、それくらいはしておいた方がいいだろう。俺がリーダーだなんて認めてないが、仕方がない。
「えーと、《黒狼隊》のパーティリーダー?の、カイハラです。種族は人間で職業は・・・わからないのですが多分軽戦士で武器は見ての通り薙刀ですね。リーチが長いので中距離担当です。」
薙刀を使う職業ってなんだろう?一応装備とかは軽いから軽戦士にしたけど・・・俺ワリと毒も投げたりしてるから謎だ。
「アイバです。職業は双剣士で武器はもちろん双剣です。こんな体ですがパワータイプの力押しが得意なので前衛を担当してます。」
「ふ、フレキです。職業は魔術師で、攻撃と回復が両方使えますので、怪我したら言ってくださいっ」
相羽君は先ほどの寝ぼけ眼はどこにいったのやら、冷静に自己紹介をする。一方フレキちゃんは焦りながらも恥ずかしそうに言い切った。うん、ここで俺の後ろに隠れながらじゃなかったら合格だったんだけどな。
「お、嬢ちゃんは回復魔法が使えるのか。ならガンガン戦えるな!」
ダリルさんは豪快にがっはっは!と笑ってフレキちゃんを褒める。まぁ前衛で怪我しやすい職業なら回復魔法の使い手ほどありがたい存在はないだろう。フレキちゃんは「怪我しないでくださいぃぃ」とあたふたしながら言う。
うん、その忙しそうに上下に動かしているケモ耳は撫でてもよろしいですかな?
こうして俺達《黒狼隊》と《蒼い風》の面々は護衛の依頼を開始するのであった。
まだ、後一個ストックがある・・・編集編集




