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ノンストップ・オフライン  作者: ケモナー@作者
第4章『武器入手』
43/47

見聞

時間がない・・・

「んーっ」


黒い背景を象った亜空間で、黒髪の妖しい雰囲気を纏った美青年が、中性的な声を漏らしていた。

造形の如く整った顔立ち、どことなくまるで胡散臭そうな外見であるが、かえってその外見が重なったのもあり見る者を魅させるような妖艶な人物像を完成させていた。

そんな彼の黒曜石から削りだしたかのような黒い瞳は、空中に展開させられているウィンドウのような四角い画面をにやにやしながら見つめていた。

悪党のような怪しさのある笑みだが、彼の外見のお陰かより一層彼の魅力を引き立てている。濡れ羽色の黒髪を右手でかき上げ、口元を三日月のように綺麗に歪める。


「くはははっ面白いなぁ、よもや本当に物語のようじゃねぇか。」


歓喜が満ち溢れた言葉を吐いた彼は、その背中から生えた(・・・)濡れ鴉のような黒い羽をピクピクと動かして、また「ははは」と笑う。

愉快で堪らないといった風に笑う彼の内心はどこまでも邪悪で、醜悪で、そして無邪気だった。


「あぁ、進行具合はどちらも順調な様だな。まぁ正義のヒーローと悪者の組織のどっちが勝とうが俺は関係ねぇけどなぁ。」


彼、ヤタガラスは艶のある唇をニヤリと歪ませ、ウィンドウに映っている人物達を見て再び愉快そうに笑い始める。

このようなウィンドウを広げる魔法はこの世界には存在しない。故にヤタガラスが自前で作ったのだろう。

《覚醒スキル・次元支配》を持つヤタガラスにとって、空間と次元の狭間を繋ぎ、こような簡易監視映像機を創ることは容易いことだった。

そんな高度の技術を、ヤタガラスはただ自分の娯楽の為に使っているのは、彼自身がどれだけ暇をしているのかをよく証明していた。この技術をいとも簡単に使っているのを研究者が見たら、ハンカチを噛み千切るくらい引っ張って、滝のような涙を号泣して悔しがるだろう。

そうして一人上機嫌に娯楽(技術の無駄)の映像に夢中になっていると、どこからか聞き慣れた幼い少年の声が聞こえてくる。


「ヤタガラスぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


「・・・おや?」


最早恒例事態。小学生の姿をした創造神が涙を目に浮かべながらヤタガラスの方へと走ってきた。このよいうな幼子であるが、こんななりでも実際は世界を創り、宇宙を生み出し、星を錬成した世界の創造主なのだ。

そんな本来、人々に崇め讃えられるハズである創造神は、何故かゴスロリの服を身に付け猫耳カチューシャを頭に飾った何とも言えない姿をしていた。

ヤタガラスはそんな主の姿を見ても情けのつもりなのか、特に話題に擦れることなく寧ろ見て見ぬフリをして華麗にスルーした。手馴れた意識操作である。


「・・・フッ。どうしたんですか創造神様?」


無意識の鼻笑いを除いて。


「ねぇヤタガラス!今僕のこと鼻で笑ったでしょ!?笑ったでしょ!!」


創造神は信頼している眷属にまさか鼻で笑われるとは思っていなかったのだろう、クワっと目を見開いて大声でヤタガラスに問い詰める。

しかしヤタガラスはそんな創造神を相手にしても笑って受け流す。悲しいかな、眷属であるヤタガラスは既に状況把握が完了し、なんとか主の被害に巻き込まれないよう方法を脳内で模索していたのだ。

つまり創造神を初っ端から裏切る気でいるのである。


「いえいえソンナコトハアリマセンヨ。」


「棒読みじゃん!あるじの僕になんて態度だっ!」


創造神はわかりやすく「プンプン」と頬を風船のように膨らませてお叱りの言葉をヤタガラスにぶつける。これでも神なので、普通なら天罰などを恐れる場面であるのだが、残念ながらいくら創造神が怒ってもその可愛らしい外見のせいで全く怖くないのである。


「すいませんすいません。謝りますから拗ねないでください。」


「拗ねてないもん!僕拗ねてなんかないもん!」


明らかに拗ねてしまった創造神にヤタガラスは内心「めんどくさいな」と思いながらも、なんとかご機嫌を取ろうと反省の表情を取り繕って創造神の相手をする。

そうしてなんとか機嫌の戻った創造神に、ヤタガラスは「やれやれ」とため息を隠すように吐いた。


「・・・で?その姿はどうしたんですか?」


ヤタガラスの質問に、創造神は思い出したように顔を上げて喋る。


「そうだよそれなんだよ!リリスがまた僕に女の子の服を着せたんだよ!ひどくない!?」


「あーあの。大体予想ついていましたので、もう諦めた方がよろしいかと。」


「ヤタガラスも大概ヒドいや!!」


創造神が喚くように騒ぐが、ヤタガラスはどこ吹く風。

彼は既に創造神以上にショタコン眷属リリスの暴走欲求の恐ろしさをよく知っているのだ。その黒い瞳には諦めの色が浮かんでいる。


「あぅ、もうやだよぉ女装なんて・・・」


「でしょうね。オシリスがいればリリスも自重すると思いますが・・・」


ヤタガラスは眷属の三柱の最後の一人、オシリスの名を口にしていた。


三柱にはそれぞれの役割がある。もっとも、創造神の世話をするという共通点はしっかりあるがその他に世界を維持する創造神のサポートも補っていた。


世界を繋ぎ、物理と次元を支配する眷属『ヤタガラス』


愛と性を与える眷属『リリス』


そして生物の死と生を司る『オシリス』


創造神の眷属として三柱となっている代表はこの三名である。

ヤタガラスもリリスもそれなりに奇行が目立つが、オシリスもかなり変わり者だ。

オシリスの場合、正確というより変わった姿をしていてる。その姿はまるでミイラのように全身を包帯でグルグル巻きにしている奇妙な存在だ。

更に性別が不明。男とも女とも似つかないが決して醜く見えないのは創造神の眷属として創られた結果だろう。

口数も少ないオシリスだがその分眷属の中では最もマトモで、よくリリスの暴走のストッパーとして役割を果たしていた。

しかしそんなオシリスは最近姿を消しており、オシリスという楔が無くなったリリスが好き勝手に騒動を引き起こしているのである。主な被害者なのは創造神であるが。


「そーだよオシリスは何処行ったんだよぉ!」


創造神は唯一の希望を思い出したのか、藁にもすがる勢いでヤタガラスに聞き出す。創造神からしたら貞操の危機なのだ。このままでは何時(いつ)リリスのタガが外れて襲いかかるかわかったものではない。

しかしヤタガラスも知らない様で、首を傾げながら創造神に答える。


「それが・・・俺も知らないんですよねぇ・・・」


「そんなぁ・・・《次元支配》でなんとかならないぃ?」


創造神の涙目プラス上目遣いの頼みに、ヤタガラスは「残念ながら」と眉を下げて申し訳さそうな顔を左右に振った。

本来ヤタガラスの《次元支配》は文字通り空間、物質、現象を全て含めた次元・・・それをまるごと操作する事ができる能力である。普通の生物・・・例えば人間や亜人などならすぐに発見できることは可能だ、現に今尚《次元支配》で作ったウィンドウで人間達を見物しているのだから。

だが同じ眷属となると流石に分が悪い。元々同じ力を持って創り出されたのだからいくら《次元支配》といえども無力化されてしまうのである。

その結果、外出をしているオシリスの居場所を知ることはできなかった。


「むむむ、なにかオシリスは言伝とか残してない?」


「いえ、特には・・・ただ数週間ほど前、「しばらく・・・開ける・・・ノシ」とか言ってましたね。」


「のしってなんだい?」


「ノシですよ。」


「うん?」




★✩★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「・・・どういう状況ですかね?これ。」


ある程度聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

声の主を手繰り寄せるようにその方へ向くと、受付嬢の制服で身を包んだエルフの美女がこちらを呆れた目で見ていた。


ギルド職員のサーファさんだ。俺はあまり交流はないが、相羽君とはそれなりに仲が良いらしく、それと俺の知らないところでフレキちゃんの数少ない友人となってくれたりしてくれている人である。感謝しきれないな。


俺は挨拶代わりに苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げた。現状についての説明はスルーさせていただきます。

どういう状況か?それは聞かないが吉ですよサーファさん。


そうやり取りをしていると、相羽君とフレキちゃんも流石にサーファさんに気づいたのか相羽君が未だに笑いながらも二人共それぞれの反応をした。


「あ、サーファさん。こんにちぶふぅw」


相羽君ツボ浅すぎね?


「もー!笑わないでくださいよぉ!うぅ、サーファさんこんにちわです・・・。」


「う、うん、フレキちゃんこんにちわ。なんだか大変ね。」


「うぅぅ。」


フレキちゃんの恥ずかしそうな表情に向かってサーファさんが同情的な言葉を言いながら頭を撫でる。傍から見たら親子みたいに見えるな。

そんな感想を思いながら、俺はサーファさんになぜここに来たのか疑問の言葉を送る。


「そういや、サーファさんなんか用事でもあったのでは?」


サーファさんの職業は言わずもがな、数多くの冒険者の接客を行う受付嬢である。

冒険者ギルドは前にも言ったが、大きさは東京ドームのように巨大な施設となっている。この訓練場だって相当デカいからね。

そんなギルド内では、まるで地球のイベント会場のように数千人の冒険者が毎日やってくる。当然、ギルドで働く職員の数も相当な数になるのだが、だからといって仕事を怠けている暇などない。

つまり、サーファさんがここにやってきたということは、俺たちに大事な用があるのか、あるいはこの訓練場事態に用があってやってきてるだけかもしれない。いずれにせよ、何かはあるのだろう。

と、考えているとサーファさんはコクンと頷いて俺達にこう言った。


「はい。実は三人方に、ギルドマスターが話があるらしく、お呼びになっています。」


サーファさんは業務用のスマイルでニコッと笑った。予想以上の大物からの召集命令に、俺達は口元をひきつらせて沈黙していた。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★





「ふむ、三人とも久しいな。」


凶悪そうな肉食獣の外見を綻ばせて目の前にいる狼・・・フェンスさんが言う。本人は笑みを浮かべているつもりなのだろうが、こちらから見れば獲物を見つけた捕食者という風にしか感じられない。それに熊みたいに巨大な体だから相変わらず威圧感も半端ないな。流石は獣牙族代表兼ギルドマスターである、どんな態度をとっても脅しにしかならない。


「まぁ、座るがいい。拙者だけ座っているというのも悪いからな。」


フェンスさんはそう言うと、ギルドマスターの部屋の隅で直立している俺たちに座る事を勧めてきた。勧めているのはスライム製法で作られたドラゴンの皮のソファーである。


「お、お邪魔します」


「あぅぅ・・・」


「フェンスさんお久しぶりです。」


俺達はそれぞれバラバラの反応をしながら、遠慮がちにソファーに座る。フカフカである。

そんな俺達の挨拶に、フェンスさんは「うむ。」と満足げに頷くと、用意されていた客用のコップに茶を入れてくれた。お茶大好きだなこの人。


「ふむ、装備もステータス向上しているな。成長速度が早いことは良いことだ。」


フェンスさんはコップに注いだ茶をこちらに届けながらそう言う。ギルドマスターにほめられた事で、俺達は「恐縮です。」と返答しながら茶を(すす)る。

あ、フレキちゃんが苦そうな顔してる。相変わらずフレキちゃんはお茶がまだ苦手なようだ。


「け、結構な、おてまえでです?」


どこでそんな言葉を覚えるんだこの娘は。



º∀)

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