武具を手に入れよう4
ノンオフを読んでもらってる人と数人出会ってビックリしました。
相羽君と話を続けていると店長が「さっさとこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」と怒鳴り込んできたので、とりあえす一度話を中断して店長についていった。
と言っても会話を続行しても相羽君のお怒りしか待ってなさそうなのでこのままうやむやになって欲しい所である。
そんな事を願いながら店長の後ろ姿を追ってついていくと、いつのまにか鍛冶職人達が集まって仕事をしている工房にたどり着いた。まぁ今は休憩中らしく割と静かだけどね。
だが暑い、物凄く暑い。
サウナの中にいるような体感温度だと感じた。これで全開の作業をしたら一体気温はいくつになるのだろうか。鍛冶職人恐るべし。
気を紛らわそうと思った俺はキョロキョロと首を動かして、周りの機材などに視線を渡らせた。
コンクリートみたいに頑丈そうな石壁に囲まれた巨大な部屋では様々な器具が置いてある。天井からはクレーンらしい物も吊り下げられている。
それとバカでかい炉やハンマーに細かい機材。今でも数人のドワーフがそれらを使って作業を続けていた。鉄を叩きつける打撃音が工房に軽く響いている。
すると鉄を鍛えるための火から洩れ出した熱が熱風となって頬叩く。吹き荒れてた高熱に額から汗が溢れ出してきたのが感じられた。
「きゅぅ・・・」
背後から絞り出したようなうめき声が聞こえてくる。フレキちゃんが先ほどの熱風に当たって苦し紛れにでも行ったのだろう。
俺の背中では既に暑さでダウンした狼娘がグッタリともたれかかっている。
うーん・・・完全に弱ってるな、フレキちゃんは鍛冶場の温度は苦手というか暑いのが苦手なのだろう。
大汗かいてるし、飲み水を持ってきてよかったな。既に何度か水筒の水を飲ませている。脱水症状は避けたいしね。
でも水分だけ補給してもダメだな、確かギルドに塩飴とかあった気がする。日本でも夏場によく売れてるあれだ。それで塩分を補給すれば大丈夫だろう。後で買うことにしよう。
スポーツドリンクとか売ってないからなぁ・・・その内転移された日本人が作りそうだけど。
にしても暑いな。マジで汗だらだらじゃねぇか。このローブも洗濯決定だな。
「あ、ちゅぃ・・・です。」
今まさに俺が苦情を申したい感想を気だるそうな声でフレキちゃんが愚痴る。
背中の上ではいつもパタパタ元気に動いてる尻尾もダロンと垂れてしまっているのだろう。ピクリとも動いていない。
「大丈夫フレキちゃん・・・?」
「・・・むぅ。}
心配になった俺は力尽きたフレキちゃんに声を掛けてみるもの、さっきまでの意地のせいなのかフレキちゃんはぶっきらぼうに返答するだけだった。
だけど背負われてるフレキちゃんは俺の背中のマントをギュッと握ってきたので心配されるのが嫌というわけではないのだろう。さっきまで動かなかった尻尾が左右に振ってる感触が伝わってくる。
くふふふ、かわいいワンコめ。
「・・・カイハラさんの・・・汗の匂い・・・フガフガ」
今フレキちゃんは何も言ってない俺の幻聴だ。フレキちゃんが変態じみた発言をするわけがない。
「・・・まぁ、いいんじゃないんですかね?構ってもらえてますし。」
相羽君が呆れたような視線とめんどくさそうな口調を送ってくる。
余計なことを言うんじゃないよ相羽君。せっかくフレキちゃんの機嫌が戻ってきたのに台無しにする気かアホンダラ。
俺はなんでフレキちゃんが不機嫌になったのかわかんないんだからどうすればご機嫌をとれるかわかんねぇから。
「ふがふが」
「・・・・」
今度は鼻息荒くして俺の匂いを嗅ぎ始めたし・・・まぁいいか、いつもの事である。
獣牙族のスキンシップは過激なものなのだ。と、フェンスさんの「獣牙族の飼い方」に書いてあった。
「イチャイチャしてねぇでさっさとこっち来いや。」
すると何かが気に入らなかったのか店長がイライラしたような口調で俺達を呼んだ。
姿は見えないが。工房の隅に半開きになったドアが見えた。そのドアの隙間から店長が顔の上半分だけ出してこちらを睨みつけていたこえー。あの中に入っているのだろう。
キレすぎだろ、待ちくたびれたのか?まぁあの部屋で無駄に時間取ったからなぁ・・・てかイチャイチャはしてねぇだろ。匂い嗅がれてるだけで。
しかし店長のセリフに特に反論はなかったので俺たちは「はいはい」と言いながら店長の方へ小走りで向かう。
ふがふが音を鳴らしてるフレキちゃんを背負いながら近くまで到着するとおうおう睨んできやがった髭抜くぞこら。
「ったく、俺だってかみさんとイチャイチャしてぇっつのにブツブツ・・・」
単に欲求不満なだけのようである。
「あー、ゲフンゲフンッ!」
ブツブツ独り言の愚痴の世界に突入して行った店長にわざとらしく相羽君が咳の真似をした。
するとさり気なく注意された店長はハッとした顔で正気に戻った。おかえり。
とりあえずひと段落着いたので改めて部屋を見渡してみる。
店長に呼ばれてやってきた部屋はなんというか薄暗く、湿気がジメジメと空気を濡らしているような・・・カビでも生えてそうな気味の悪い部屋だった。
先ほどの工房との環境のギャップに驚いた。寒さのせいで汗が冷えて身震いする。背中にくっつき虫のようにくっついているフレキちゃんはまた強くローブを握ってきた。フレキちゃんも寒いのだろう。
「あー、まぁそうだな。おいカイハラ、オメーどうしてデットスネークの甲殻が布になったか知りてーんだってな?」
「ん?あぁ。」
俺は店長の言葉に頷く。その拍子に装備しているローブの裾が揺れた。
見ての通り俺の装備は完全に柔軟性に長けたただの布だ。紙防御で有名な魔法使いがよく着るローブである。これならまだ革の鎧がまだマシだと俺は考える。
いや、木で作った盾の方が優秀かもしれないな。かもしれないじゃなくて断言したい気分である。
それに比べて、見ろよ。相羽君なんか完璧に前衛装備じゃん。軽鎧とか羨ましいわ。
フレキちゃん?あの娘は後衛だからいいの。
「最初は驚くだろうが・・・こいつを見てみろ。」
店長がそう言って指さした先には巨大なプールがあった。ただし石でできているのでなんだか汚そうな印象があるが。
大きさはだいだい大人3人くらいが肩まで浸かれるくらいだろうか、なんか石油みたいな匂いがするし・・・なんだこれ。
「・・・プールか?」
「ご名答よ。だが泳いで遊ぶもんじゃねぇ」
当たり前だ幼児しか遊べなそうだし。
「外はいいから中身を見てみろ。」
「んだよ・・・って、うわぁ・・・。」
石のプールを見下ろすように中を覗き込むと、そこには緑色の謎の粘液がグチュグチュと小さな音を立てながら蠢いていた。
石油のような臭いの正体もこいつらか。キメェ。
俺の嫌そうなセリフの後に、相羽君とフレキちゃんもそれを覗き込む。まぁフレキちゃんの場合俺の背中にいるから自動的に見えちゃうんだけどね。
「キモイですね・・・。」
「気色悪いです」
二人がありのままの感想を述べてくるがもうちょっとオブラートに包んであげなさいよ。キモイと思った俺も同罪か。うん、なら仕方ない。
しかし店長はこんなキモイ物体も使ってんのか?てか、これが俺とフレキちゃんの装備の布とどう関係があるんだ?
「店長、これ何?」
「あぁ、スライムだよ。」
「はぁ!?スライム!?なんつー危険生物を持ち込んでんだ!魔法も打撃も効かない殺人生物をなんでこんな工房で隔離してんだよ!」
店長の「それがどうした?」とでも言いたいような簡単な受け答えに俺の声も怒鳴るように大きくなった。
プールにたっぷりと注ぎ込まれているスライムは最早一体化しており、巨大アメーバと化した怪物がうねうねと蠢いている。
こいつの攻撃手段はこの身体・・・つまり粘液自体が消化液になっていて取り込んだものを溶かす習性があるのだ。もしこいつが日本というか、地球にこのスライムが生息していたら世界が破滅していたかもしれない。この世界では最早スライムがマスコットキャラクターになるなど不可能な話なのである。
そんな危険生物に良い思いをしなかったのは俺だけじゃなかったようで。
「なんでこんな所にスライムがいるんですか!?危ないですよ!」
先程までヘトヘトだったフレキちゃんが無理矢理復活してまでこの慌てようである。やるね。
しかし逆に相羽君は最初こそ「キモイ」と暴言を吐いたものの、すぐに調子を取り戻して物珍しそうにスライムを観察し始めた。
相変わらずのマイペースぶりに惚れ惚れするぜ。
「・・・これがスライムなんですね・・・水色じゃないんですか。」
「それ以上言っては禁句ワードだ相羽君。」
「でも、もうここ日本じゃないですし・・・某RPGくらい出しても」
「馬鹿か君は」
相羽君の甘い考えを俺はあっさりと一言で一蹴する。・・・たるんでる、たるんでるよ相羽君。
君はこの物語を終了させる気か?次元が違うとしても著作権とは時に恐ろしい力を発揮するのだよ。
あのゲームにどれだけ支持者が集まっていると思っている!あの権力と勢力に俺らみたいな矮小が勝てるわけないだろ、気を付けたまへ。
そう言って注意すると相羽君はしぶじぶといった感じに納得した。うん、素直でよろしい。
ちなみに店長とフレキちゃんの異世界人側はそんな俺と相羽君のやりとりに首を傾げていた。
「ヒューマン二人の言ってることが訳分かんねぇぜ。」
「いやわかんなくていいから。」
「「・・・?」」
店長とフレキちゃんがますますわからないと言う顔をするがそれ以上こちら側に来るんじゃない。もみ消されるぞ。
謎の危機感に襲われた俺はなんとか話を装備の軌道に元に戻そうと口を開いた。
「それよりもなんでこんなとこにスライムがいるんだよ、説明してくれ」
「あ、ああそうだな。」
店長はなんとか納得してくれたようだ。ふぅ、なんで俺こんなに必死になってんの?
そんな疑問はさて置き、店長の説明に俺は耳を傾ける。フレキちゃんの不思議そうな視線が背後からダイレクトにグサグサ刺さってくるけど知らない。
「まずこのスライムだがな、こいつはアルフ王国に認められた専用の職人にしか扱えねぇんだ。危険すぎるからな。」
そりゃそうだ。こんなでかいやつを気軽に取り扱ってたらこの王国全土に逃げ場なんてなくなるからな。だからスライムを使用するには要は免許や資格を取らないといけないのか、覚せい剤を取り扱える医者みたいなものなのだろう。
「鍛冶屋でスライムを使うのは少し特殊な技術なんだ。・・・これを見てみろ。」
そう言って店長が懐のポケットから取り出したのは黄土色をしたとんがった物体だった。
大きさはちょうど手のひらに収まるサイズだろう。頑丈そうには見えるが、魔物の素材ではなく普通の動物の部位に見える。家畜かなにかかもしれない。
店長はその動物の角らしきものを壁に立て掛けてあったマジックハンドのような器具で挟んだ。
何をするつもりだ?
「これは山羊の角なんだが、これをこうすると・・・」
店長はそう言って山羊の角をマジックハンドで挟んだままスライムのプールの中に突っ込んだ。
ジュワァァッ!!
するとスライムは粘液を器用に操って山羊の角に染み込むように巻き付き、緑色の煙を噴出させて肉が焦げるような音を鳴らした。
おぅふ、俺もスライムに捕まったらああなるのか?絶対にあれで死にたくないな。
今まさにスライムが山羊の角を消化し、分解しているのだろう。初めて見る異様な光景に戦慄するような気分が俺を満たした。
スライムの体も緑色に発光して薄暗かった部屋を緑色で染める。店長の顔面には直接光が当たって怪しく光らせた。やべぇな、店長強面だから犯罪者にしか見えねぇぜ。
てかなんかやばい実験してるみたいだな、オラワクワクすっぞ。
「そろそろ・・・か。」
店長は真面目な顔でボソッと呟いた。独り言なのだろう。
俺は今初めて店長の真剣な表情を見た。おお、店長職人らしいぞ。髭フェチだけど、間抜けだけど、アホだけどっ!!
「よっと、ほれ。見てみろ。」
店長は勢いよくマジックハンドをスライムから引き抜くと、俺たちに見えるようにこっちに向けてきた。見ろ、ということなのだろう。
まだ煙を出してるので触れないように顔をくっつけないよう俺はそっと近づける。
その後から相羽君とフレキちゃんも山羊の角をまじまじと見つめてきた。
形に大きな変化はない。
だが驚きの変化を山羊の角は遂げていた。
「・・・え?」
「マジですか」
「ほえぇ・・・」
角が布で出来たようにペラペラになっていたのだ。
最近パンツ大好き疑惑が掛けられてます。
違うんですよ。パンツと言う響きが好きなだけで。




