武具をてにいれよう3
今年の最後の更新です。
店長がぎゃーぎゃー悲鳴を叫びながら足をバタバタ動かしてのたうち回っている。
それほど酷い激痛なのか、はたまた大切な髭を引き抜かれたショックなのか・・・両方だな。
うーん、この姿は子供が駄駄こねてるみてぇだな、顔はオッサンだが体は小学生だからね。筋肉ダルマだが。
まぁそんなこと俺は一切気にしない。過去に鬼畜と言われている程の俺がこんなのに同情するハズもない。
俺は転げまわる店長の顎の髭を掴み引き寄せるように持ち上げた。
む、筋肉質だからか?意外と重いな。ステータスの強化が無ければ今までの俺じゃ無理だったかもしれない。
自身の進化にいつもなら喜んでいる所だ。
当たり前である。俺はすごく運動音痴だったからな、コンプレックス程じゃなかったが男として少々思うところはあったのだ。だってもやしってなんかあれじゃん?
俺の過去を語っても良いが、今はこのオッサン店長のお説教が最優先である。
俺はゴワゴワの髭を抜くか抜かないかの力の加減で引っ張った。店長の目が涙目になっていく。
なんだこの罪悪感。
「おいコラ髭オヤジ。こっちは安くない金払って注文してんだぞコラ。あぁん!?」
「イデデデデデデデデデデッ!!わかった!真面目に説明するから髭を離せ俺の髭っ!」
「灰原さんがヤクザみたいになってる・・・」
後ろでパーティメンバーの相羽君が呆れたような声で何か言っているが知らない。こういう場合はスルーするのが一番良いのだ。
ソースは俺。
大抵俺の場合誰かに呆れられてそれに反論すると、ほぼ100%の確率で言い負かされるのがオチなのである。自分でも何となく自覚してたりするからな。
今回の場合も今俺の姿は怪しさMAXなのに加え、目つきの悪い目の瞳孔を開いてオッサンを脅している構図だ。物騒なことこの上ないだろう。
まぁそれ以前にこんな厨二全開のヤクザさんがどこにいるよって話だけどね。
まぁ相羽君達の視線がそろそろキツいというのもあるし、誰かに情けをかけるつもりはないがこのままこのオッサン店長を痛めつけても話が進まないのは容易に想像できる。
それにこれ以上続けるのも正直不毛だ。俺の評価が下がるのみだろう。フレキちゃんに至ってた黙ってるし。
俺は「はぁ」とため息を吐いてから手の力を緩めて店長の髭を放すとそのまま解放する。
急に手放された店長はそのまま尻餅をつくように転んぶが、すぐさま髭に手を当て無事かどうか確認しだした。
どんだけ髭が大切なんだよ・・・その内命よりも大事とか言い出しそうだな。
「おーイテテ、容赦ねぇぜカイハラのにーちゃんは。」
「うるせぇ。こっちは命かかってんだ。」
店長は自分の髭の無事を確認してホッと安心しすると、その余裕から軽い口調でボヤくよう店長が言う。
俺はそんな店長にツッコミを入れながら睨みつける。
すると流石にこれ以上大事な髭を失いたくないのか、店長は肩を竦めながら両手を上げて降参のポーズを作った。
俺はそれを見て「はぁ」と再度ため息をついてから睨みつけるのを止める。
「で?説明とやらを聞かせてもらおうじゃないか?」
「わかったから睨んでくるのやめろ。」
店長は俺を見てわざとらしく身を震わせてから、「付いて来な」と言って部屋から出ていってしまった。
そうして、ポツーンと俺たちだけが残されてしまう。
返事待ちもなしかよ。一人でズンズン行きやがって。
むぅ、思えばなんかドワーフって変な奴らだよなぁ・・・気がいいのはわかるけどさ。
あまりこのドワーフ店長とは俺は温厚にできそうにないと思ってしまう。
一々見せてくる訳のわからんテンションに神経を逆撫でされるような感覚に陥るのだ。
最も、ちょっとイラっと来るだけで気にはしない。
それに本人は悪気は無いのだろうしな、だがおふざけは程々にしてほしい。一応店なんだし。
俺は真面目にここに来ているのである。遊びに来て欲しいなら呼んでくれ。
まぁ不愉快ってわけじゃないんだけどさ、変に雰囲気の固い店なんかよりよっぽどいい。
日本現代のたまに見たりするやる気のなさそーなバイト店員とかよりも好感は持てる。
店の評価は店員で決まることもあるしな。
店員となる人員自体が閉鎖的な性格だと店そのものがいい印象では残らないだろう。ドワーフは、そういう意味では優秀な人材となるかもしれない。
それに、この店に限った事ではなくこの異世界の賑やかな店のフレンドリーさのある空気が、居心地いいのかもしれない。
屋台が立ち並ぶ商店街なんか毎日が祭り事みたいに賑わっているからな。
うーん・・・そう思うと、さっきの俺はじゃれてるようなものだったのか?
俺はオッサン店長にじゃれついている自分を想像してみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・うむ、無いな。
「あははっ灰原さんと店長は見てて面白いですよ」
仲間の方で振り返ると相羽君が清々しい爽やかな笑顔で俺に向かって言ってきた。
そりゃぁ傍から見ればただの漫才に見えなくもないだろうよ、面白いかどうかは別として。
やってる本人からすれば疲れることこの上ないんだからな。と相羽君に言い返すが、相羽君は俺のジト目を見て更に笑うくらいだ。こん畜生。
こうなったらウチのマスコット兼癒しエネルギーの塊であるフレキちゃんに助けを含めた視線を送る。
フレキちゃんなら問題なく俺側に付いてくれるだろう、と期待に満ちた気持ちでフレキちゃんをチラッと見てみた。・・・が。
「・・・」
フレキちゃんはプクゥと頬を膨らませて俺を半目で睨んでくるだけだった。
あるえぇ?俺なんかした?
「あははははははははっ!!」
「うるさいよ相羽君っ!」
幼女に睨まれてビビる俺を見て相羽君がついに耐えきれないと言った風に、今度は腹を抱えて大爆笑しだした。
とてもウザかったので注意するが相羽君は止まるどころか地面に座り込んでひーひー言っている。・・・チクセウ。
なんだよ?俺が悪いのかよ?いいや俺は悪くない。悪いのは髭だ俺は髭に全ての罪を背負わせる。
「むぅ・・・」
「・・・えっとぉ?」
「くっくっくっ・・・」
俺の心の中で全てが解決してもフレキちゃんは解決しないようだ。そりゃそうだ。
やべぇめっちゃこっち見てくる。美幼女のジト目は中々かわいらしいとか言える空気じゃないわ。つか相羽君うるさい。
もうお手上げだ、一体何がフレキちゃんを怒らせたのか皆目見当もつきません降参しますはい。俺は先ほどの店長のように両手で降参ポーズをする。
するとフレキちゃんは急に俯いてプルプルと震えだした。
「むぅぅぅぅぅ」
「ふ、フレキちゃん?」
気分が悪いのかと思い、「どうかした?」と声を掛けようとした次の瞬間。
「もうっカイハラさんの馬鹿ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「何故にっ!?」
フレキちゃんが叫びながら俺の横を通り抜けて行ってしまった。解せぬ。
叫びながら走り去っていったフレキちゃんはそのままドアを開けて店長の方に行っていく。解せぬ。
大事なことなので二回言いました。
「・・・どうしてこうなった。」
店長だけではなく、フレキちゃんにもポツンと置いて行かれた俺は黄昏るように呟いてそう言った。
なんで俺は馬鹿と呼ばれたのだろうか、意味がわからん。馬鹿なのは自覚しとるが。
実に世界は不可思議に、そして理不尽に作られるな。黄昏るしかないよ。
するとさっきまで大笑いしてた相羽君が俺の疑問に反応したのか、急に真顔になってこっちを見てきた。
な、なんだよ。
「ば、バカっそんなに見つめるなよ。」
「灰原さんってたまに壊れますよね。」
「冗談ですごめんなさい。」
相羽君のツッコミに冷や汗を掻きながら俺は謝る。こうやってすぐに謝るからヘタレと言われるのだろうか。
「はぁ、灰原さん、フレキちゃんの事ちゃんと褒めました?」
「え?褒めたけど?」
あの装備を着たフレキちゃんをだろ?
寧ろ内心でめちゃくちゃ愛でまくりましたが何か?
あの子は絶対に嫁にださないからな。親父か俺は。
「むぅ・・・それじゃぁたぶん、フレキちゃんはもっと構って欲しかったのかもしれませんよ?」
「構う?なんで?」
「灰原さん、褒めたって言っても一言くらいでですよね?」
「まぁそうだけど。」
フレキちゃんを愛でてたら今度はカッコイイ装備を着た相羽君が出てきたからな。そのまま店長に攻撃を仕掛けだけど。
うーん、構ってないっちゃ構ってないか?
「そうなら多分、フレキちゃんはもっと灰原さんに反応して欲しかったのかもしれませんよ?なのに灰原さんは店長とじゃれついてばっかりだったから」
じゃれてるとか言うな。寒気がしてくる。
「嫉妬・・・的な?」
「うむむむ」
相羽君の出した結論に対して、俺は口元に手を当て唸りながら考えてみる。
嫉妬か?自分よりオッサンとギャーギャー騒いでるのを見て羨ましいとでも思ったのだろうか?別に店長とイチャイチャしていたわけではあるまいに。
俺にはそういう趣味はないのだ。受けでも責めでもないのである。
はっ!?まさか・・・ホモか?ホモネタなのか?フレキちゃんは腐女子だったいうのか?だとしたら「アーッ♂」って言ったほうがいいのだろうか?
ぬぅ、フレキちゃんと行動しているせいでロリコン疑惑を掛けられている噂も聞くし、ここで新たなゲイ疑惑も伸し掛ってくるというのか。
ロリかゲイか・・・どちらにしろ世間から冷たい目で非難させるのは確定じゃないかっ!
究極の選択である。
冗談はさておき。
「でもさ、普通ここまで怒る?」
フレキちゃんは元々我慢強いところがあるし、一言しか褒めてもらえなくてもそれで満足そうに見えてたんだけどなぁ。
「えへへ」とか嬉しそうに言ってたしさ。
そういや走って出てった時すれ違った際、なんか悔しそうな顔していた。
女心とは複雑なものである。大雑把なヤローにはわかりかねます。
「昨日なんかあったんじゃないんですか?」
「灰原さんは無自覚で女の子を傷つけたりしますからね」と言葉を付け足して、相羽君は疑わしそうな視線を向けてそう訪ねてきた。
何だその目は、まるで俺に前科があるような視線ではないか。おのれ無礼なっ
「・・・自覚してないのが何よりな証拠だと思いますが?」
言い返せません。
俺はそんな相羽君の前でこほんっと咳をして誤魔化すと「誤魔化しましたね。」うるさいよ。
うーん、昨日か・・・。
俺は腕を組んで目を閉じると昨日の朝にかけて夜まで何があったかの記憶を掘り起こしていく。
えっとぉ?まず朝起きて訓練して、その後ギルド行って一仕事終えて、そんで帰ってフレキちゃんの手料理を食べて寝た、というのが昨日の出来事を大雑把にした感じである。
ここまで特に変わった事はないな。普段通りだったと思う。
「う~ん・・・特に変わった様子はないなぁ。」
「小さな事でもいいんですよ。ちょっと変わった場面とか。」
相羽君がしつこくそう言うので、しかたなく思いながらももっと細かく思い出してみる。
えーとぉ・・・サーファさんと仲良し、ゴブリン黒こげ、日本人遭遇、お嫁さん話・・・。
振り返ればなかなか濃い一日だったな。どうしてこう異世界は一日が凝縮されてるんだ。
まぁそれは置いといてだな。
さっきのフレキちゃんの反応と結びつくとしたら・・・サーファさん、ゴブリン、たこ焼き屋、お嫁さん・・・。
「・・・あっ!」
「なんか思い出せました!?」
俺が片手を開き、もう片手で拳を作りそれを思い出したかのようにパァンと打ち鳴らすと相羽君がワクワク顔で迫ってきた。
お、おう。
「確かお嫁さんのお話して、フレキちゃんが寝込んだ。」
「何があったかもっと詳しく言ってくれません?」
相羽君は俺の言葉に対してこめかみを押さえて首を傾げるのだった。
説明不足ですんまそん。




