平穏
明日で期末テスト終わります・・・終わるんです・・・色んな意味で。
それから店員さんと少し話をしてから、俺達はたこ焼きを買って改めて帰路に着いた。
食べ歩きは行儀が悪いかな?と思ったけど案外この世界ではそうでもないらしい。ただやっぱりゴミは捨てちゃいけないみたいだけど。
ただ、たこ焼きはやっばり美味しかった。あ暖かい薄い焼き皮を、口の中で噛み潰すと熱々でトロトロの中身が口に広がった。
それを奥歯で噛むと、実であるタコ肉の独特とした触感が口を楽しませてくれる。シャキシャキとしたネギも入っていて、たこ焼きにかかっていた少し濃いタレとマヨネーズと上手いことマッチしていた。
久しぶりに日本で食べていた食べ物を食べることが出来、俺は上機嫌に次々とたこ焼きを口に放り込んみながら屋台通りを歩いていった。
ちなみにフレキちゃんは猫舌だったようで、食べた途端「ふにゃぁぁぁあ!?」とまるで猫みたいな変な悲鳴を上げて、ちっちゃな舌をべーっと出して冷やしていた。
本当にこの子、狼だっけ?と思う一時であった。
その後夕食などに使う食材を商店街で買い揃えてから自宅に帰宅し、氷の魔石が入って作られた冷蔵庫モドキに生物を入れて保存した。
そうしてからキッチンに向かおうとすると「今晩はわたしが作りますっ!」とフレキちゃんが意気揚々と言っていた。
久々の狩りで疲れたし(主にダイナマイト級の火球によって)夕食の用意はフレキちゃんに任せる事にした。おそらくだが、狩りの時の失敗を挽回をしたいのだろう。
そう思ってキラキラ目を輝かせるフレキちゃんを微笑ましく感じたので、とりあえず頭を撫でてしまう。
子供扱いされ、フレキちゃんはなにやら不満だったようでプクーと頬を膨らませていた。
大人っぽいシッカリとした一面がある反面、やはり子供そのものを表すような仕草を見てしまうと、どうしても自然に笑みが零れた。
ギャップ萌えというものか?いや萌えてはいないんだけどさ。
本当だよ?
まぁそんな姿を見て俺はまたサラサラした頭を撫でてしまう。どうやら俺はフレキちゃんによって撫で撫で癖が付いてしまったらしい。別にええんやけど。
いつまでも頭を撫でていると「わたしだって料理できますーっ!」とプンプンと怒りながらキッチンに行ってしまった。そういうことじゃなかったんだけどな。
しかしながら、10才の女の子一人に料理させるのは中々不安であったんだけど、まぁフレキちゃんはシッカリしてるのでその辺は信用しておいた。
というか、料理スキル持ってたし心配はいらないだろう。
そんなわけで、俺はリビングでソファーに転がって、気ままに本を読みながら時間を潰すのだった。
いつめだったら勉強している時間だろう。だがこの世界には学校はあるが俺達に勉強なんてする必要などないのだ。ふははは!
はぁ、とため息をついてからパラパラと紙の子擦れ合う軽い音を聞き流しながす。
そうして読み終わった本をソファーに放り投げる。そして新しい本を手にとってページをめくった。
読んでいるのは魔物に関する本である、いわゆる図鑑というやつだ。
この世界独特の言葉遣いに少しわからないところもあるが、助かったのはこの世界の共通語が『日本語』と酷似していたところだろう。
もしこれが訳の分からないミミズみたいな文字や記号みたいな文字だったら俺は確実に本を読むことなどなかっただろう。
それはさておき、何度か読んだが魔物はかなりの種類が存在しているらしい。
ファンタジーといえば、色々な種類のモンスターが出るゲームや小説を見かけるが、この図鑑に載ってる魔物は「どうやって進化したこいつら?」という説明がつかないような非現実的な動物の描写が多い。
まぁファンタジーだし、気にしたら負けなのだろうけど。
とにもかくにも、魔物の種類を大きく分けるとこのような分類に割れるらしい。
・魔人類、ゴブリンなどがこれに該当するそうだ。チンパンジーくらいの知能を持っていて武器や防具を持ったり、悪知恵が働いたりとする。
他に醜巨人、鬼、緑豚鬼、犬魔人が存在するらしい。
あと魔人とか書いてあるけど魔族とは一切関係無いそうだ。
・怪蟲類、よく冒険者のギルドで依頼ランク2のところに発行されるいわゆる雑魚という感じの虫型の魔物である。
ただ俺と相羽君とで戦ったデットスネークやその上位種であるピートレックスなどの例外もいるので注意しなければならない。
他にも竜類や爬獣類、魔獣類などと存在するのだけれど、まだ遭遇したことがないので大したことは理解できなかった。
ちなみに最強であるスライムは固有類という一種類しか存在しないらしい。
なんかスライムの方が俺よりチートじゃね?俺も欲しいわチート能力・・・。なんせ俺のは曰く付きの呪いだからな。
「カイハラさーん!できましたーっ!」
図鑑に描かれているスライムの図を睨み付けていると、キッチンからフレキちゃんの弾むような呼び声が聞こえてきた。それと同時に、肉を焼いた肉汁の匂いが届いてきた。
その食欲をそそる匂いに、俺は口の中で無意識に分泌された唾液をゴクンと飲み込みんだ。
「うん、おつかれー」
俺は自分の声がキッチンの厨房まで聞こえるように言う。
パタンと読んでいた図鑑を閉じて、寝っ転がっていたソファーから身を持ち上げ体を起こす。
もちろん、料理をリビングまで運ぶのを手伝うためだが、それ以前にこの後の展開は大体予想できていた。
フレキちゃんの筋力ステータスはなんとも言えなくなるほど貧弱である。そんなフレキちゃんが重いものを持つことが出来る事なんてそう滅多にないだろう。
だから言うとしたら発議の台詞は・・・
すると案の定、今度は焦るような声が聞こえてきた。
「カイハラさぁぁぁん!重くて持てません~!」
予想的中、やはりフレキちゃんは料理を作り過ぎて運べなくなってしまったようだ。
フレキちゃんがキッチンで、嬉々と尻尾を振っりながら料理を作っていたのを俺はチラッと見ていた。フレキちゃんの事だからきっと張り切りすぎてしまうことは大体予想出来ていたのだ。
予想通りの事態を引き起こした幼女を思い浮かべ、少し顔に苦笑を浮かべながら立ち上がる。
「手伝うよ・・・」
やはりフレキちゃんは貧弱だった。
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「・・・作ったねぇ・・・」
「あぅ・・・」
テーブルに並べられた豪勢な料理の数々を見回し、俺はそう呟いた。
一つ目の品はシチューのようなものだ。色は焦げ茶色っぽいが失敗というわけではなく元々の色らしい。コンソメっぽい匂いが良い感じに漂ってくる。
お次は鳥の丸焼き・・・とでも言おうか。鶏くらいの大きさの鳥が丸ごと調理されている。この鳥はコカトリスと呼ばれる石化能力を持つ凶暴な魔物の子供らしい。
その隣にはサラダ、刺身、デザートなど。
パーティーでも開く前準備かと思ってしまうほどの量に、一瞬俺の視界に目眩が生じた。
「いや、美味そうなんだけどさ・・・」
「ごめんなさい。」
俺の呟きに、フレキちゃんはしょんぼりとした口調で謝ってくる。いつもは元気な尻尾も今では力なく床に崩れていた。
「ぁー、とりあえず食べようか?」
「・・・はいです。」
俺が頬を人差し指でポリポリとかきながらそう言うと、フレキちゃんは気分を落としながらもそれに応えてくれた。
俺達はそれぞれテーブルに設置されている椅子に座って、改めて目の前に並ぶ品々の数に圧倒される。
しかし、どれもこれも美味そうな匂いが鼻まで届き、俺は思わずゴクンと喉をならした。
そんな俺の様子を見て、すこしフレキちゃんがホッとしたような顔をする。料理がちょっと不安だったのかもしれない。
俺達は料理の前に両手を合わせて、こう言った。
「「いただきます!」」
フレキちゃんも小さな手を合わせて同じように言う。この世界にも「いただきます」の文化があるらしい。
意味は日本と同じく「命に感謝」だそうだ。これを皆言っているらしい。
意外だが、ギルドで酒を飲んでた荒くれの冒険者達でさえキチンと「いただきます。」と言っていたのを見かけた。
そういう事は気にしないと思ってたのに、日本でも「いただきます。」をマトモに言わない人もいるし・・・
細かい事は意識しない大ざっぱな冒険者はいただきますなんて言わないと思ってたのだけれど、逆に「いただきます。」を言わない奴が怒られてたくらいだ。
行儀の良さに拍子抜けしたのだが、日本より遙かに命の危険が多いこの世界では、もしたら日本より「命の大切さ」に対する意識が強いのかもしれない。
そう考えると納得できた。
さて、食材に対しての感謝が済んだところで、早速食事用のナイフを使って、メインであるコカトリスの丸焼きを頂くことにする。
取り皿を持ちながら、丸焼きにナイフを当て食べる量だけを切り落とす。
丸焼きの身をナイフで切ると、突然サクッとした感触がナイフから手に伝わった。
皮がここまでカリカリ仕上がっているとは驚きである。しかし、フレキちゃんの料理の驚きはそれだけではなかった。
皮を破った瞬間、「ジュゥゥゥ」と音をたてながら肉が切れたのだ。
肉をナイフで断ち切る度に肉汁がまるでダンスのように跳ねる。そしてその都度に食欲をそそる油と肉の香りが唾液を分泌させた。
焼き終わってなお、ジューシーな印象を抱かせる肉を切り終わり、皿に乗せるとそれを口に放り込んだ。
「・・・おぉ。」
思わずそう声を漏らしてしまう。
カリッとした皮を噛み砕くと弾力性のある焼き鳥の肉が現れる。
それを皮と同じように噛むと、まるで雑巾で絞った・・・例え悪いな。
まぁいいか。絞ったように肉汁が溢れ出し、舌を楽しませる。
鶏肉なのにビーフステーキのような癖のある・・・なのに全然嫌にならない繊細さ溢れる料理だった。
パリパリとした皮は鳥で、中身が牛肉といった感じだ。これは美味い。
「おぉ~・・・」
なのに「わお」とか「うおぉ」とかしか言えない俺を許しておくれ。
「ど、どうですか?」
俺がそのまま肉をもきゅもきゅ頬張ってていると、不安げな表情を残したままフレキちゃんが訪ねてくる。
それに俺は親指をぐっと立てて返答した。
「美味しい。」
「ふわぁぁぁ」
そう言うと、フレキちゃんが不安げな顔から一転し、花が咲いたような満面の笑みを見せる。褒められたことで尻尾もブンブンと振っていた。
なんだろう、初めて料理を作った娘を褒めてるような感じがする。
娘なんていないけど。
続いてシチューをスプーンですくって食べてみる。
ドロッとした液体は仄かに暖かく、チーズとコンソメの混ざり合った濃厚な味わいが口一杯に広がった。
そして、それと一緒に煮込まれた具材である肉や野菜もその濃厚さが染み着いており、家庭的な・・・温かい気持ちになってくる。
秋風で少し冷えていた体をポカポカと暖めてくれているような、そんな感じがした。
「これも美味いな・・・」
「えへへへ」
俺が何度も何度もスプーンを茶碗と口に交互に動かしながらそういうとフレキちゃんは照れたようなはにかんだ笑顔を浮かべていた。
なんというか・・・
「将来フレキちゃんは良いお嫁さんになるなぁ」
そんな親父臭い台詞を吐いてみたくなってしまった。
「え、えぇぇぇ!?」
フレキちゃんは俺の台詞に反応して、驚いたような・・・実際驚いていた。
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにスカートの裾を握っている。尻尾はバッチリ振っていたけども。
「お、およめ・・・さん・・・ほわぁ」
しかし恥ずかしがっていたのも束の間。次の瞬間フレキちゃんは脱力したように頬を緩ませていた。
あれなのかな?フレキちゃんもやっぱりお嫁さんに興味があったりするのだろうか。結婚式のウエディングドレスとかか?女の子ってあの服にどうも憧れてるよね。
男は人生の墓場とか言ってる奴らいたけど。わからん。
そうしてる間にドンドン食べていく。
最初は量が多いと思っていたけど、美味しかったので案外簡単に完食する事が出来た。
シャキシャキしたサラダに、シーフードのパスタ。どれも絶品だった。今度お礼してあげないとな。
食べ終わった後だが、皿をフレキちゃんは運びきれなかったので俺も手伝って、ついでに食器洗いも共同でやった。
水道モドキの水の魔石を使い食器を洗っていると、横でお皿を拭いているフレキちゃんが「お、お嫁さん・・・共同作業・・・えへへ。」と嬉しそうに呟いていた。どうやら気に入ったらしい。
それが終わって歯磨きも終えた後(お風呂も済ませてある)、まだ眠くなかったので本(図鑑)の続きを読んでいたらなにやらフレキちゃんが上機嫌で話しかけてきた。
「か、カイハラしゃんっ」
かみまみた。
「んー?」
本から目を離さずに、とりあえず返事をしておく。
噛んで恥ずかしかったのか、少し頬を赤くしながら再度何かを聞いてきた。
「えっとですね、その・・・カイハラさんはどんなお嫁さんが欲しいですか?」
唐突だな。やはりかなりお嫁さんがお気に入りらしい。てか童貞の俺にわざわざそれを聞くか?
まぁ俺しか居ないからだろうけど・・・。
俺が結婚するとして、欲しいお嫁さんねぇ?
「そーだなー、まずは面白いかな?」
「面白い?」
「話しても苦にならない感じのが第一条件」
「ふむふむ」
何メモってんだフレキちゃん?まぁいいけどさ。
「あとは料理が美味いとか家庭的なところが強いのがいいかな。」
「美味しいご飯ですか。」
「そっ」
男なら可愛い嫁が自分のためにうまい飯を作ってくれるのに何かグッとくるものがあるだろう。
だからフレキちゃんにさっき良いお嫁さんになりそうって言ったんだし、料理上手の嫁がいやなやつはいないだろう。
「えへへ」
なぜ照れる。
「あ、カイハラさんって人種差別とか・・・しますか?」
「え?」
「お嫁さんはこの種族じゃいやだ。嫌いだ・・・とか。」
うーん・・・要は黒人を差別するようなものだろうか。日本でも、なんか黒人と結婚をしようとすると親に「黒人やめろ!」とか反対されることもあるらしいし。
俺が人種を気にするかどうかか・・・
「ないな。」
「ないんですか?」
「うん、ない。」
そもそも人種差別自体意味が分からん。理解ができない。
人は人種で決まる訳じゃないんだから。人それぞれだろ。良い部分があれば悪い部分だってある。
というか、人種で見下すような奴は「お前何様だよ」という感じだ。
少なくとも俺はそう思う。
それを伝えると、フレキちゃんは上機嫌犬耳をピコピコと揺らした。
「そうですか・・・えへへ」
だからなぜ照れる。
あ、そういや・・・後一つあったな。
「後は・・・年上がいいかな?」
その瞬間、フレキちゃんの顔が絶望に染まった。
「と・・し・・・上・・ですか・・・?」
「う、うん年上・・・大丈夫?」
先ほどとはまるで真逆である。幸せそうだった顔も今では体調が悪いんじゃないかと思うほど真っ青になっている。
どうしたんだフレキちゃんは。
「だ、いじょうぶじゃ・・・ないです。」
大丈夫じゃないんかい!
とりあえずやばいと思った俺はフレキちゃんをお姫様だっこの状態で持ち上げる。寝室まで持って行くつもりだ軽っ!?人形持ってるみたいに軽いよ!一体フレキちゃんに何があった!?
「因みに・・・どうして年上なんですか・・・?」
「え?」
このタイミングで聞くか。
「そ、そうだな・・・シッカリしてたり、頼りがいがあったりする・・・からかな?」
「へぇ~・・・」
先輩に毒されてるなんて死んでも言えない。この事実は墓まで持って行くつもりだ。
「そうですか・・・」
「あ、あのさ、寝室に連れてくけど・・・いい?」
「あ、はい。お願いしますそのまま寝ますので。」
その後フレキちゃんの寝室に連れて行き、ベッドに乗せ布団をかけてあげると本当に寝てしまった。
だがその表情は安らかと言うより、早く何かを忘れたいという感じに見える。
フレキちゃんはどうしたのだろうか。いきなり好みのお嫁さんについて聞いてきたり、好みが年上と知られた途端元気がなくなったり・・・。
「もしかして・・・フレキちゃんは・・・」
いや、それはないな。
俺は最後にフレキちゃんの頭を撫でてから寝室から出ていった。
誤字脱字あったらおねがいします




