努力の実り
冒険者ギルドに到着した俺達2人は早速掲示板に向かう。
広大なギルド内では今日も怒声と歓喜の叫び声が広場を満たしていた。美味そうな肉料理の香辛料にツーンとするクセのある酒の香り、荒れ狂う冒険者達がこれからの戦いの準備や、狩りを終えて仲間と勝利の宴でもしているのだろう。
数日前に何度かギルドに来たりしたが、このゲームで見るような光景は相変わらずである。毎日がこうなのだろうか?
そうなら冒険者ギルドは毎日がバカ騒ぎと問題の連続なのかもしれないな、だからこそ強者が集まるのだろうけど。
同行者のフレキちゃんは俺の背中に列車の連結部分のように貼り付いて離れない。
フレキちゃんにとってあまり冒険者ギルドは良い印象はないようだ。
そりゃそうだよね、初めて来てみればゴツくて屈強なオッサンやロリコンに絡まれるやらフェンスさんに脅されるやら散々だったもんな。
俺から決して離れないようにしてるっぽい。
ふむ、そんなに離れたくないなら首輪でもつけるか?犬・・・じゃなくて狼だし。
いやそんなことしたら幼女Sプレイ大好きな変態に見られてしまう。それは心外である。
変な妄想をしてしまったので、それを取り消す為に寄生フレキちゃんに話を振る。
「あーっと、依頼はどんなのがいいかな?」
「そーですね、個人的には軽い討伐系がいいです。スキルも試せますし収入もいいので一石二鳥です。」
「うん、この世界に一石二鳥って言葉があるのにビックリしたわ。」
まさかフレキちゃんの口から一石二鳥なんて日本語四字熟語ことわざが出てくるとは思わなかった。この世界には一石二鳥があるらしい。
まぁそれは置いといて、討伐系の依頼だったら前デットスネークをやったきりだったな。ていうか初依頼で凄い稼いだからニートになったんだけどさ。
やるんだったらよくRPGでよく知ってるモンスターとか見てみたいな、スライムとかゴブリンとか。
とりあえず依頼を探してみないとわからないのでそのまま掲示板の方へ向かう。
受付嬢の所でも依頼表は見れるんだけど、他の人が依頼を受理できなくて迷惑になるから基本掲示板と言われてる看板で、自分好みの仕事を探す事が暗黙の了解になっている。
デットスネークの時は初心者で依頼の受け方とか教えてもらってたからあれは例外だけど。
「フレキちゃん、ゴブリンっていう魔物とかいない?あとスライムとかそういう雑魚系。」
俺は掲示板に向かって歩きながらフレキちゃんに質問してみた。だってギルドの広場イベント会場並に広いから掲示板まで遠くて暇なんだもの。
お喋りくらいしたい。
「え?ゴブリンですか?図鑑では緑色の鬼って書いてありました。でも凄く弱いらしいです。」
「ゴブリンが強かったら俺もビックリだよ。」
「?そうですか。あ、でもスライムは強いですよ?」
「なんだって!?」
謎のスライムつおい説を口に出したフレキちゃんに驚く俺。
スライムってあれじゃん。粘液生物じゃん。女の人の服を溶かすくらいのエッチィ魔物じゃんか!
ぷるぷる震えてるだけじゃん!
「そ、そこまで驚きますか?」
フレキちゃんが若干引き気味の苦笑いで対応する。すこし傷つく。
「いや、スライムって弱いイメージあるからさ。」
「どこのイメージかわかりませんけど、スライムほど厄介な魔物はいないと思いますよ?あれ、魔法攻撃を撃っても体内で魔力に分解されて吸収されちゃいますし、物理攻撃を喰らっても分裂しますから。」
フレキちゃんから聞いたこの世界のスライムの特性に俺は驚いた。
魔法共に物理耐性もあるのかよ。意外に厄介だ。
倒せないこともないかもしれんがメンドクサそうだな。
「でもそれだけなら別に強くはなくない?」
俺はそうフレキちゃんに問う。
魔法物理の耐性を持っていても、敵を倒す力がないなら対して危険ではないんじゃないのか?
しかしフレキちゃんは俺の予想を簡単に裏切ってくれた。
「スライムは肉食性なので全身がタンパク質を分解する粘液で出来てるんですよ。」
うわっうぜぇ!生き物の体は大抵タンパク質で構成させてるからかなり危険じゃないか!消化液みたいなもんか。
むむ、タンパク質って事は革鎧でも駄目なのか。装備を鉄とかの武具で充実させないと戦える相手じゃないのだろう。
「んなやつどう倒すのさ?」
「スライムを倒すなら魔法を使わないで油でもかけて火で燃やすくらいしかありませんね。しかも倒しても燃え尽きますから素材とれません。」
「ゲッ色んな意味で厄介だな!」
金目の物にもならんとはな。
「そうですよ?だからスライムに遭遇しても大抵は無視が一番です。スライムは感覚を感じ取る事ができないので触らなければ基本無害です。」
フレキちゃんがこっちを見上げながら解説をしてくれる。フレキちゃんは中々に物知りなのでたまにこうやって情報のサポートをしてくれる事が多い。
俺に会うまでは本を読んだりとしていたらしく、お陰で様々な知識を身に付けてるらしい。
正直助かる。
そうやって色々教えて貰ってる内に掲示板に到着した。
無数の依頼が貼られている掲示板はかなり大きい、学校の教室にある黒板のように巨大な掲示板である。
そこに冒険者レベル1、2、3、4、5、6とそれぞれのカテゴリー順に依頼が貼られていた。
俺の現在の冒険者レベルはまだ1。だから2までしか受けられないが雑魚を探すならかえって都合が良い。
冒険者レベル2までの依頼なら大抵は雑魚ばかりだ。まぁ俺達が遭遇したデットスネークの《突然変異》は想定外の事態だったけど。
「さて、どれにしようか。」
蟻人間に蜻蛉、それとミミズ芋虫か・・・相変わらずの虫モンスターのオンパレードだ。最初の頃は完璧に害虫駆除だと思ってたね。
あ、巨大百足も貼られてる。
やはりあの《突然変異》が強かっただけで普通のはただ硬い雑魚らしいな。パーティ前提の話だけど。
「うーん。イマイチパッとしないなぁ。」
「あ、カイハラさん!これどうですか?」
悩みながら依頼書を流し読みしてるとフレキちゃんが声をかけてきた。良さそうな依頼でも見つけたのだろうか?
ドレドレとフレキちゃんか指を指す依頼を見てみる。
《小鬼の討伐×10匹》
討伐証明・右耳。
討伐場所・バーナル平原。
報酬・1200G
依頼人・『セズ・ブレット』
契約人・『』
「ゴブリン・・・か。」
ゴブリンはRPGを好む人で知らない人はいないだろう。
ヨーロッパの伝説とかに登場する架空の怪物だ。
ファンタジー作品では醜い緑色の小人として描かれる事が多い。
設定では弱い分繁殖力が強くてよくゴブリンAゴブリンBゴブリンCとかで群れてやって来て数による戦闘の描写をよく見たことがある。
まさにファンタジーゲームなどでお馴染みのモンスターの一つであった。
「ゴブリンは大した驚異は無いと思います。練習相手には丁度いいかと・・・」
フレキちゃんが少しだけ不安気にこっちを見てくる。自分のチョイスが良かったのだろうかと思っているのだろう。
ふむ、フレキちゃんも言ってたし、これにしてみるか。個人的にゴブリンを見てみたいという気持ちもある。
「うん、これにしてみるか。」
「よ、よかったです。」
依頼書を手にとって満足げに答えた俺に、フレキちゃんがホッとしたような顔でこっちを見てくる。別に依頼なんてなんでも良かったから怒ったりしないのにね。
「フレキちゃん、バーナル平原ってどこ?」
俺は依頼書に書かれている討伐場所をフレキちゃんに訪ねる。
俺なんてどこにどこがあるかなんてまだわかってないから土地勘とか皆無なんだよね。
俺に聞かれたフレキちゃんは愛らしい尻尾を振りながら答えてくれる。
「バーナル平原は王国の門を出たらすぐにありますよ。」
「へぇ」
案外ここから遠くないとのこと。今後もフレキちゃんに聞いてみるか?10才の女の子の知識を宛にしてる俺って・・・
あとで俺も勉強しよう、うん。
そして依頼書を掲示板から切り離して受付嬢さんのところに持って行く。
受付嬢さんは前と同じのエルフの人だった?なんか縁があるなこの人。
「すんません。依頼を受けたいんですけど」
「あ、カイハラさんですね。こんにちは」
名前覚えられちゃった。デットスネークの件でやらかしたか俺(相羽君込み)。
「サーファさんこんにちはです!」
「あ、フレキちゃん。今日も来てくれたんだ。おカイハラ兄さんとお仕事?」
「はい!」
フレキちゃんが受付の机から顔をひょこっと出して受付嬢さんと会話を始めた。
この二人いつの間に仲良くなってんだ?てか今日もって何さ!?フレキちゃん何回かここに来たの!?
そういえば昨日姿を見なかったこともなきにしもあらずな気がするでござる・・・
「う、受付嬢さん、サーファさんっていうんですか。」
苦笑いで俺が話す。それに受付嬢さんが笑顔で答える。
「はい。」
「あの・・・うちの子と随分と仲良しですけど・・・何でか教えて貰えませんか?」
フレキちゃんが自由に出歩いているなら別に気にすることではない。寧ろ喜ばしいことだ。
家でダラダラしているより、外で色んなものを見たりしていた方が良いにきまってる。耳とスキルは《隠蔽》で隠せてるから問題ないし、何より四六時中俺に貼り付かなくても行動できるようになる。
でもどこか行くならまず俺に話してほしいってのもあるからさ。心配するじゃん?
やだっまさかHANKOUKIかしら!?
「ふふふ、別にフレキちゃんを盗ろうなんて思ってませんよ」
「ちゃいますから。」
百合展開なんて期待してません・・・・・から。
「ふふっ。フレキちゃんは一日一回ほどここに来て情報収集をしてるんですよ。わたしも何度か聞かれたので仲良くなりました。」
「はぁ!?」
え!?マジで何度かここ来てるの!?初耳なんですけど!!
フレキちゃんがギルドで情報収集なんて事をしてると知って驚く俺に、フレキちゃんがあわあわと焦りながら誤ってくる。
「ごめんなさいカイハラさんっ!隠れて何回かここに来てました!」
フレキちゃんが勢いよく頭をさげる。
いや、別に良いんだよ。別にそれは良いんだよ。問題なのはそれじゃなくてですね。
「なんでフレキちゃん俺にくっ付いてきたのさ!?一人で来てるなら別にもう怖くないっしょ!」
「ええええええ!?そこですか!?」
「そこだよ!」
フレキちゃんに抱きつかれるの嫌いじゃないんだけどあれ結構恥ずかしいんだからね!
離れて歩こうとか言えばいいんだろうけど、フレキちゃんの満面の笑みとブンブン振られる尻尾を見たら凄く断り辛いんだよ!
「さぁ言え!なぜ抱きついてた!無意識というのは無しだぞ!」
「ええっと、その・・・はぅぅ」
「聞こえないお!もっと大きな声で喋りなさグハッ!!」
「いい加減にしてください!」
フレキちゃん問いつめてたら受付嬢さん改めサーファさんから打撃を頭に喰らった。
地味に痛ぇ、何で殴ったんだって依頼が書かれてるあの秘伝書みたいなデッカい巻物じゃねぇか!
武器にしちゃダメだろ確かに使えば辞書みたいにおっきいからってさ!
「痛いじゃないですかやだー。」
「少しはフレキちゃんの考えわかってあげてくださいよ!フレキちゃんはカイハラさんの為に受けやすい依頼とか稼ぎ方とか滅茶苦茶勉強してたんですよ!そりゃもうお嫁さん修行の如く!!」
「ふぁぁぁぁぁぁあ!!さ、サーファさぁん!!」
サーファさんが巻物をチラつかながら俺を叱るとフレキちゃんが顔を真っ赤にしてそれを止めようとする。お嫁さん修行だってさ。まだ10才じゃん。
「・・・そんなフレキちゃん無理しなくても良かったのに」
「それはカイハラさんが原因じゃないですか?お金があるからって自堕落なニート生活を送っていたのはカイハラさんなんですから。それを真面目なフレキちゃんが心配するのは当然の事です。」
「・・・」
何も言えねぇ。
「カイハラさんを仕事に出させるにはどうしたら良いか、良い依頼書はないか、ここからそう遠くない狩り場はないかなど、フレキちゃんは色んな所で頑張ってたんですから!」
フレキちゃん、君は俺の親か。
「他にも男性に好かれる為の仕草や口調など」
「あぁぁぁぁぁあ!!もぅ、もおやめてくださいぃぃぃぃ!!」
ペラペラ滝の水のように喋るサーファさんをフレキちゃんが顔面蒼白にして涙目でそれを制する。
どうやらサーファさんは俺の知らないフレキちゃんのプライベート情報を大量に保有しているらしい。
別に年頃っていうか、好奇心のある年齢なんだからレディーになるための?訓練的な事をしてても悪いとは思わないんだけど・・・本人からしたら恥ずかしいものなのだろうか。
まぁ自分の事をべらべら喋られたら良い気分はしないかもね。
まぁ俺にとってはどうでも良い話だけどね。とりあえず依頼を受理して貰おう。
「あー、女の子が仲良く遊んでるのを見るのは微笑ましいんだけど・・・依頼を受けたいん」
「大体フレキちゃんは積極性が足りないんです!ただでさえ年が離れてるっていうのにアピールしなくちゃいみないでしょ!?そんな簡単に獲物を確保するなんて簡単な事じゃないの!男ってのはバカが多いんだから!」
「あの~」
「そんなこと言われたって、わたしぶっちゃけただの毛玉女じゃないですかぁ!!む、胸だってないし、いくら色仕掛けしようとしても笑われちゃうんですよぉ!どうしたらいいんですこんなチビ狼なんか!」
「依頼を」
「何言ってんの!まな板胸とケモ耳幼女ってのはある意味ステータスなのよ!ロリコンなら一撃だしケモナーにも相手にされるから!そんか事で諦めちゃ駄目よ!フレキちゃんは可愛いだからめげないでガンガンいきなさい!」
「受け」
「だって、だってぇぇぇ。町を歩いてたらわたしみたいなちんちくりんよりおっきい女性を見てましたもん!結局男は巨乳の方がいいんです!」
「・・・」
「それは男として当たり前の行動だから!いい!?確かに男はデカ乳好きが多いけど!それが恋に繋がるかはまた別だからね!」
「そ、そうなんですか?」
「当たり前じゃないですか、フレキちゃんだってギルマスの事好きらしいけど、結婚したいとは思わないでしょう?」
「・・・はい。」
「つまりそういうこと。憧れはあるけど好きかそうでないかはまた違う問題だから。それに本当に好きになるのは中身も絶対必須!それに獣牙族って大人になればグラマラスな体になるのが多いらしいし、心配しなくても大丈夫!」
「ほ、本当ですか!?」
「本当よ。だから諦めないで!大人になれば年が離れてても対して気にならないから!」
「サーファさん!」
「フレキちゃん!」
「あのすいません。ゴブリンの討伐を受けたいんですけどいいっすか」
「え?あ、はい。」
美女と美幼女がガシッと握手して友情を育んでたので、俺はサーファさんの隣のカウンターにいた受付嬢さんの所で依頼を受けたのだった。
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