ノンオフ【零】話。
暗い。
何にも無い殺風景な空気が漂う病室で、"僕"は眠りについていた。
手足が動く様子はない。いや、動けないのだ。
手足を繋ぐ神経の殆どが機能を停止してしまっている。
殆ど・・・そう、殆どだ。唯一動かせるのは右腕だけ。
それだけじゃない。僕は最早声すら満足に出す事なんて出来なくなってしまった。
今僕が出来る事は起きること、書くこと、食べること、寝ること。大抵の事はこれだけしか出来なくなってしまった。
だから僕は動くことは出来ない。一生この真っ白い病室で寝て過ごすのだろうか?
そんなの・・・やだよ。
せめて、有るかわからない未来では動けるようになりたい、傷害が残っても歩けるようになりたい・・・置いて行かれるなんてやだよ。
幼い僕の心は、ただお見舞いに訪れる友人を見る度にそう思ってしまう。
「さようなら」と言って病室を出ていってしまう友人。
やだよ、行かないでよ、僕も行きたい、ドアを閉めないで!僕は歩けるよ!いつかは歩けるようになるよ!だから━━━━
数日後に彼らがまたお見舞いにやってくるのは知ってる。
知ってるけど、耐えられない。
何で僕は動けなくなっちゃったの?どうして?
心が壊れていく・・・そっと、少しづつ、砂時計の砂のように。
そういえば・・・彼女は無事だろうか、無事なら良いなぁ・・・そうじゃないと僕がこうなった意味がない。
夜は訪れる。
『何故こんな所で寝てるんだ?お前はこんな所でだらけてるんだ?』
誰?
『ん?あぁそうか。もうあの刻は終わってしまったのか。そうだな。神様とでも言うか。』
神様?ここは夢の中なの?
『いいや、違う。ここは現実だ。それより質問に答えろ。お前は何故ここで寝ている?彼らについて行きたいならついて行けばいいじゃないか?』
無理だよ。僕、よくわかんないけど事故で動けなくなっちゃったんだ。
『はあ?何だそれ?お前に事故に遭う運命なんてなかったハズだぞ?』
神様はうんめいを知ってるの?
『あぁ知ってる。だが、これは俺の知ってる未来じゃない。何故事故に遭った?』
知らないよ。僕が聞きたい。
『まぁガキに聞くのがお門違いってやつか。』
お門違い?
『ガキが知らない単語だよ聞き流せ。』
う、うん。
『たぁーく、大方誰かの身代わりにでもなったんじゃないのか?』
何で知ってるの?
『知ってるから知ってんだよ。その様子だと俺の考えは間違ってないようだな。』
うん。
『お前はお人好しだからな。さてどうするか。お前が望むならその怪我を治してやってもいい。』
え!ホントに!?
『お、おう。元気あるな・・・』
そりゃそうだよ!僕の夢だったんだ!皆とまた遊ぶ事を!!
『ちっせー夢だなおい。』
僕にとっては大きいよ。
『ま、それでもいいか。ただし、体の失われた機能を取り戻すんだ。それ相応の対価がないとな。』
僕お金持ってないよ。
『そういう対価じゃねぇ。そうだな。それならこうしよう。お前の性格、記憶をイジられて貰うぞ』
え?どういうこと?
『お前が助けたあの女の記憶を消させて貰う。』
え!?な、何で!!
『よく聞け。いいか?ここで治したとしてもまた誰かが事故に遭いそうになったら、お前はどうする?』
・・・助けると思う。
『だろうな、普段なら鼻で笑ってるんだが、実際やっちまってるからなぁ。』
ごめんなさい。
『謝る事じゃねぇよ。それは人間の美点だ。だが実際にやっちまうのは流石に拙い。だからあの女を助けた記憶をなくさせて貰う。そうすりゃ今度は躊躇する。記憶は無くても心の記憶は消せねえからな。』
心の記憶?
『本能みてぇなモンだ。まぁそれはどうでも良い。要は助けた記憶を無くして性格の方も自己犠牲できないように制限をかける。体を治すならこれが条件だ。』
・・・・ぼ、僕は
『別にその女と一生会えねえ訳じゃねぇだろ?事故による記憶障害にしときゃ揉めることはないさ。それに治さなきゃ多分会えねぇぞ?あの女引っ越しちまったしな。』
うっ
『一時的のこの現状に悩むんじゃねぇ。これから先お前は十年二十年、さらに生きるんだ。未来を見ろ。』
・・・します』
『あ?』
お願いします!
『そうこなくっちゃな!ちなみに俺の記憶も無くさせて貰う。そうじゃないと二度とこの世界に来れないんでね。』
う、うん。・・・ありがとう神様!
『それじゃぁな。生きろよ。最後に俺の本当の名前を教えてやるよ。どうせ忘れるだろうが。』
知りたいです。
『そうか、耳の穴かっぽじってよぅく聞け、俺の名は・・・』