鈍感は主人公のスキル。
テストが近くて更新が遅くなりそうです。
教室(仮名)の中央に俺達三人が座らせられると、面接というか、好みとか使ってる武器などを凄く細かく聞き出された。その質問量の多いことなんの。
持っているスキルや前衛後衛の立ち回り、挙げ句の果てには武器の持ち方すら聞き出された。
お客用だと思うお茶が机に出されたがそれを飲む暇もなく怒濤の質問タイムが行われたのだ。
俺は武器の持ち方なんて無意識に行ってるし、大体スキルに頼ってるから、俺も相羽君も同じ様な持ち方だったので何問かロスした事もあった。
一番困ったのはフレキちゃんである。
彼女は親方に「好きなものはあるか?」と聞かれて「カイハラさんっ!」とか元気よく答えてた。いやいや俺は物じゃねぇよ。
こんな事言ってくれてるこの子も、いずれは「ウザイ」とか「キモイ」とか言う反抗期少女みたくなってしまうのだろうか・・・それだと俺が死ぬ主に精神面で。
悪い男に捕まったりしないだろうか、彼氏とか出来てもオトウサン絶対許さないからな。
あれ?俺父親か?
いや飼い主である。
兎に角、面接と言う名ばかりの質問の嵐は一時間ほどで完結した。
「おーし、おまえ等がどういう武具を欲しがってんのかよーくわかったぜ!」
親方がアンケート用紙のような羊皮紙を手で整理しながらそう言った。
親方の手の中にある羊皮紙には、主に俺達の武器の好き嫌いや、内面の性格などの先ほどの質問の答えを記したものだ。こんなものが武具のベースになるとか俄に信じがたい。
俺がそんな事を考えてるような顔をしていたのだろうか、親方が口を開く。
「この羊皮紙に書いた情報は専用注文するときは結構重要なんだぜカイハラよ。何しろお前等専用の装備を作るんだから、お前等にピッタリの武具を用意しねぇとな!」
なるほど、そう言うことか。
確かに俺だって騎士団みたいなフルプレートの重装鎧なんか渡されても着やしない。
ちゃんと使用者の特徴の情報を集めておく必要があるのかもしれないな。
「わ、わたしのも・・・本当にできちゃうんですねぇ・・・なんだか不思議な気分ですよ。」
フレキちゃんが惚けながらそう言っている。
彼女は今まで装備品といえば「ボロ布コート」と「木の枝」とかしか無かったらしかったから、こういう本物の武具が自分に与えられるというのは中々驚いてしまう出来事なのだろう。フレキちゃんが装備を受け取った時の表情を想像して、楽しみにさせて貰う事にしよう。
そこで親方がフレキちゃんの様子を見てこう言った。
「嬢ちゃんの回答には困ったもんだぜ。答えがほとんど《カイハラさん》だからな。」
親方がため息を吐きながら、先ほどのフレキちゃんの有様を思い出すようにそう言った。
流石に俺も恥ずかしくなって《カイハラさん》を禁止させたのだが、その時の絶望的な表情は忘れられない。
完全にペットの子犬状態である。
「わたしはカイハラさんでも使えます!!」
フレキちゃんは元気よくそう答えたが、一体どう俺を使うというのだ。
だから俺は武器じゃねぇよ。聖剣はあるけど。
下ネタである。
「まぁいちよう話は纏まったからよしとするか。完成までに時間が掛かるから暫くはまだ前の装備を売り飛ばさないで着けといた方がいいぞ?」
「わかりました親方。」
「はーい義父さん」
「えっと・・・髭さん」
「思い思いに呼ぶんじゃねぇ!!つかカイハラっ!!誰が義父さんだ!?絶対娘はやらねぇからな!!」
親方はそう言うと、ファイルのような謎の物体に羊皮紙を差し込むとブツブツと何かを呟きながら部屋を出ていった。ふむ、娘ちゃんが居るのか会ってみたいものである。
客置いて何処に向かったと思ったのだが、おそらくあのアンケート用紙を仕事場に持って行ったのだろう。
やる気が十分にあるとみた。
俺のコメントでイライラした顔をしてたが、手に持つアンケート用紙の存在を思い出しかのように見ると、めっちゃ興奮した表情で歩き去っていった。思い出せば、質問してた時にも何故か面白そうにしていた記憶がある。
疑問に思ったので、面識もあるらしい相羽君に訪ねた。
「なんで親方さんあんなに嬉しそうなの?」
「え?そりゃドワーフだからだと思いますよ?何かを作らないと落ち着かない種族らしいですし」
マジかよドワーフって製作バカなのか。
まぁ思い出してみれば、ファンタジー小説とかに出てくるドワーフとか結構鍛冶とかそれ系の職業ばっかりだし・・・そういや、アル村のドワーフ達も農業とかしてたな。スーオさんも商業を営んでたし、もしかしたら商品は自作だったりしてな。
「ドワーフさんって頑固って聞いてましたけど、結構軽いんですねー。」
フレキちゃんがふわっと呟く。それに律儀に相羽君は解説してくれた。
「ドワーフが頑固なのは自分が気に入らなかった人に対してだけらしいですからね。そういう性格ですから自分が認めなかったらたとえ王族相手にも喧嘩売るような人達です。」
「うぉい。あの親方俺に対して無謀とか言ったけど人のこと言えねぇじゃねぇか」
王族に喧嘩売って斬首になる可能性もあるわけだよね?バカかよ。
「う~ん・・・どっちもどっちですね。」
「えー!?」
相羽君は全く俺の味方をしてくれる様子は無いようだ。俺は唯一の希望であるフレキちゃんへと目を向けるのだが・・・
「おちゃってやっぱり苦いですぅー・・・」
苦手らしいお茶と悪戦苦闘していた。フェンスさんの件まだ気にしてたのかい。
「とりあえずフレキちゃんの服を買わないとなぁ」
「そうですねぇ・・・流石にこれは」
「ほえ?」
場所は商店街の休憩スペース。
あの後帰っても良いと言われた俺達は武具店をあとにしてこれからの予定を決めようとしていた。誰もこのあとの希望を考えていなかったので行き当たりばったりである。
そんなとき、フレキちゃんのボロボロな服を見て俺はそう言ったのだ。
そうだ、服を買おうと・・・京都ではない。
「ええええ!?服ですか!?お金無いですよわたし!」
「いやいや俺が金払うから!?」
有り金が無いことをアピールしようとぴょんぴょんと兎のように飛び跳ねるフレキちゃんを俺は宥める。別にここ不良とかいないから!カツアゲみたいに「ちょっとそこで跳ねろ」とか言う人いないから。
それにこの子に所持金なんて物は無いと知っている。あるならスラム街で餓えて倒れてたりしないはずだ。
その今の状況で自分で買おうとしてたのか?
何でこの子は出来ないことをしようとするかね?
「でもでも!カイハラさんはわたしの防具まで買ってくれたじゃないですか!これ以上は迷惑な気が」
「・・・迷惑だと思うなら最初から引き取ったりしないっての・・・」
俺は頭を片手で掴むようにしてうなだれてみせる。フレキちゃんに対しての初期投資に金をかけることなど最初から覚悟していた。子供を育てるには金がかかるというのも、ちゃんと学校で習ってるしそう言うことに関しては抜かりはない
決して俺は感情輸入で自爆するバカにはならない。フレキちゃんに金をかけるというのは、それだけフレキちゃんに価値があるということだ。
そう言うことだ。
しかしフレキちゃんは、俺の腰に突進するように抱きついてきて「ダメダメダメ!」みたいな感じになっている。
というか、どうしてこの子は甘えてくるのに我が侭は言わないのだろうか?少しは言ってほしい。
これが親心か。いや、飼い主心である。
「どうしてフレキちゃんは、灰原さんに甘えてるのに、物とかを強請ったりしないんですか?」
うはっー!流石相羽君!思った事をそのまま言う君の性格は長所だとオモウヨー。
「え?甘える?」
何を言ってるんだ?という感じでフレキちゃんは首を傾げる。しかしその両手は俺の腰にガシッと固定するように締み付いていた。何処かの怨霊のようである。
《力》のステータス低いから楽だけど。
「ほぇ?・・・きゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」
それに気づいたのか、フレキちゃんは顔を茹でタコのように真っ赤にして、神速の如く逃げてしまった。
どうやら反抗期は割と近かったようである。
ぐすん。
「えっと!?あれ!?わたしいつの間に!?」
「フレキちゃんー、そろそろ戻って来てあげてー。灰原さんが両膝抱えてイジケてますよー?」
戸惑うフレキちゃんに届くように、相羽君がすこし声を張って呼びかけた。
別にいじけてないもん!!・・・もん。
「HAHAHAHA、良いんだよ相羽君・・・そろそろ加齢臭気にしてた時だからさ?」
「まだ十代ですよね!?灰原さん臭くないですから大丈夫ですからね!!」
「いやいやいや、人間何が起こるかわからないよ~?出るはずもない加齢臭を感じてしまう俺は末期かもしれない。」
「灰原さんがショックのあまり壊れた!?」
もう誰も信じないお。
信じるのは己の拳のみだ、よろしくね拳ちゃん。
「違うんです違うんです違うんです!!えっと、わたしいつから抱きついてました!?」
「今日の朝にフレキちゃんの話を聞き終わって昼からずっと・・・」
「あわわわ・・・」
何やらフレキちゃんが両手をブンブン振り回して慌てている様子。
もしかして・・・気づいていなかったとかそんなパターン?
俺がそう掠れるような声で聞くと、フレキちゃんはブンブンと今度は首を上下に振った。
「なんで抱きついてたの・・・?」
長い時間抱きついてたのがショックだったらな俺は余裕で死ぬ自信がある。
そんな思考回路と同時に質問すると、フレキちゃんはモジモジとして、恥ずかしそうに頬を赤くさせてこう言った。
「それは・・・その・・出来るだけ近くに居たくて・・・気付かない間にその・・・」
「え?何それ?」
「本当です!獣牙族は皆そんな風なんですから!」
「理由になってなくね!?だとしたらフェンスさんも同じ様な事をするってこと!?想像出来ないんだけど!!」
フェンスさんが俺に抱きつく・・・うわっ、寒気が
「そう言う事じゃなくてですね!・・・あぅ」
フレキちゃんが反論しようと何か言おうとすると、言いにくいのか、またモジモジしながら黙りこんでしまった。
言いたいことならハッキリと言ってほしいんだけど・・・なぁ。
てか相羽君、ニヤニヤしてないで君も何か言いなさい!こういう時って何故か相羽君黙るんだよな。意味がわからん。
でも、何処かで似たような会話をしたことがある記憶がある。どこか、暖かいそんな記憶が・・・
何だろ、どこで話したっけ?これに似たような会話。
そこまで昔じゃない・・近くて遠くない記憶・・・あ、そうだ!まだ日本に居たときだ!!
それで━━━
『リョーくんぎゅーっ!!』
『だわぁ!?な、なんすかせせせせんぱい!?』
『お~、相変わらずサラサラの髪の毛だね、男の癖にこのキューティクル許しマジ』
『な、なんで抱きついてんすか!?つか離れてくださいよ!!』
『姉弟なんだから良いじゃーん』
『理由になってませんから!?本当の姉弟でも義姉弟でもありませんって!!』
『あははは~!!』
『話聞いて!?』
「あの、カイハラさん?」
「灰原さん?」
しばらくぼーっとしてたのか、二人の呼びかける声で意識をこちらに引き戻す。
なんであの時の思い出が出てきたんだ?でもこれからは気をつけないとな。
そうじゃないと・・・だめだ、俺が耐えられなくなる。
「ごめん、ぼーっとして話聞いてなかったわ。あの後何か言った?」
俺が苦笑いで聞くと、フレキちゃんは「なんでもありません!」とそっぽ向いてしまい、相羽君はポンポンと俺の肩を慰めるように叩いてきた。
え?何この状況?
俺が意識飛んでる間に何があった?
「えーと、それじゃフレキちゃんの服を買いに行きましょうか灰原さん?」
「なんでそんな哀れみの込めた目線で言ってくるの!?ねぇなんで?」
「鈍感とは罪だと思います。むしろ主人公は灰原さんだとおもいます!!」
「う、うん!?」
相羽君が俺の肩を力強く握ると凄い必死そうな顔で、熱血の如く言ってきた。
反論を許さない態度に、俺は戸惑いながらもそれに同意する。
「そ、それじゃフレキちゃん・・・服買いに行こっか?」
「・・・はい。」
なんとか相羽君の拘束を外して、なるべく穏やかそうな声でフレキちゃんに言うと彼女は口を尖らせながらもそれに頷いてくれた。ホッ
「それじゃ僕に付いてきてください。古着屋の場所わかりますから!」
「なんでも知ってんのな相羽君は!!」
俺が怒鳴りに近いツッコミをした後には、相羽君はドンドン先に進んでしまった。やばいまた置いて行かれる!!
「あーもう!!行こっかフレキちゃん!」
「え?あ、はい!」
フレキちゃんはそう元気そうに答えたが、戸惑ってるようにフラフラ手を動かしてるだけで、動き出そうとする気配がない。
それにチラチラと俺を見ては俺に手を伸ばして、また引き戻すのを繰り返している。
大体何をしようとしたのか理解できた。
俺はフレキちゃんの手を取って、その小さな体を持ち上げてからリュックのように背負った。
「・・・え?」
「相羽君に置いて行かれるから!本気で走るから落ちないようにしっかり付かんで!」
「は、はい!」
俺はフレキちゃんがぎゅーっ!と抱きつく感触を確かめてから、相羽君に追いつけるようにダッシュで追いかけ始める。
走りながら背中から伝わるフレキちゃんの尻尾を振っている感触に、俺は頬を少し赤く染めながら走った。
急いで描きました。