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ノンストップ・オフライン  作者: ケモナー@作者
第三章『火種』
22/47

真実

修学旅行中に書きました。

「っ!!」


フェンスさんの突然の言葉に、俺は一瞬動揺する。

いつバレた?フレキちゃんの髪の毛の色か?いや、それぐらいじゃ疑う事はないハズ・・・

高速で頭を回転させて原因を考えてしまうが、それどころじゃないと気付くと、俺はすぐに意識を切り替える。

俺は絶句してるフレキちゃんを片手で()(かか)えるとソファーを蹴って後ろに飛び下がる。

そして同時に念のためにと用意しておいたナイフを懐から取り出して自分の抵抗の意志を見せつける。


「か、灰原さん!?」


俺がナイフで牽制した俺に対しフェンスさんは一瞬目を鋭くさせたが、一番反応が強かったのは相羽君だった。

突然の俺の行動に相羽君は表情に焦りの色を見せながらも流石というべきか、狂戦士(バーサーカー)を使って威圧を発動している。


相羽君自身はどちらが自分の敵になるかわからないために身を守れる程度にはしておいて、どっちの味方に付くとしてもすぐに戦闘する事ができるようにしているのだろう。

それに威圧を使えば動きを鈍らせる事も可能だ。スーオさんの護衛の時にそれを見たことは何度がある。


(チッ、分が悪いな。)


俺は内心で舌打ちして脱出経路を探すが、背後の大きな扉しかないが、今は鍵で閉ざされている。

脱出経路は皆無、前方にはそれなりの力を持つ者。絶望的である。

てか、フェンスさんはどうやってフレキちゃんの《突然変異》を見抜いた?

フレキちゃんの耳はフードで隠してあるし、それにフレキちゃん自身魔力の制御を得意としている。

そうして自らの魔力を隠しているのだ。簡単にバレる事じゃないハズ。


「どうしてわかったんです?」


俺はナイフの先端をフェンスさんに突きつけながらそれを尋ねた。

その時、困惑状態に陥って大人しかったフレキちゃんが正気を取り戻したのか俺の腕の中で反応を起こす。


「カイハラさんっ!!やめてください!!」


我に返ったフレキちゃんが必死な表情で俺の抵抗を()めようとしている。

だが時既に遅し。俺は引くつもりはない。

確かにフレキちゃんを見捨てるという選択肢も無きにしろあらずだが、それじゃ後で目覚めが悪い。幸いにも俺は《ヤタガラスの加護》があるから死んでも一回は蘇るから問題はない。

それとさっきも言ったけど、ペットを手放すほど俺は薄情ではないしね。


「ふむ。」


フェンスさんはそんな俺を一目見ると頷いていた。

何気ない仕草なのだが、相羽君の威圧より遙かに上回る圧迫感が俺を襲っていた。プレッシャーで足が震える。

原因を探る為に、俺は気を失いそうになるほどの威圧をなんとか意識で振り切って、フェンスさんのステータスを回覧した。


名前

《フェンス・ヴルフ》


力・2350

耐・1806+12「皮の着物」

賢・530

速・3000


冒険者レベル10

スキル

「威圧」

「獣王」

「武闘師」

「覚醒スキル・炎天皇(えんていおう)


こりゃ・・・やばい。

何がやばいってスキルとステータスの数値が異常過ぎる

流石獣牙族代表のいったところか?いや、それでもヤバすぎる

なんだよ腕の良い冒険者でも500が良いところじゃなかったのかよ、桁が違うだろ・・・

相羽君の狂戦士(バーサーカー)発動時よりも高いステータスだぞ?


さてどうする?このまま逃げるか?

いや、素早さで勝てる自信はないな。となるとフレキちゃんのスキルを使って何とか抵抗して隙を見て離脱するか?

・・・それも駄目か、そんな事したら相羽君とフェンスさんを同時に相手取る事になる。そんな事態になったら生き残れる可能性なんてゼロに等しい。

でもこのままだとフレキちゃんを拘束されて処分され━━


「カイハラ殿、(しば)し落ち着いてくれぬか?」


近っ!?

刹那とも言えるその瞬間、見覚えのある狼顔が俺の視界を覆い尽くしていた。

そして理解する。フェンスさんがまるで瞬間移動したような速度で俺の目の前まで移動したのだ。


これが《速》3000の速度━━━━っ!?


もちろん本気ではないだろうし、出したとしてもあのヤタガラスには劣るだろう。

しかし、ただの凡人である俺にフェンスさんの速度を追えるだけの実力は無いと理解した。


勝てない。


どんなに知恵を働かせてもそれを覆される実力の前には適わない。

どんなに巧妙な罠を仕組んだ迷路でも、爆弾を落とされては意味がないのだ。

ヤタガラスの時のような、諦めに似た感情が俺の思考を埋め尽くした。


(嗚呼、駄目だこりゃ)


死ぬ前に彼女欲しかったわ。って言いたい。

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・・

しかし何時(いつ)まで経っても衝撃や痛覚は襲ってこない。それはつまりフェンスさんが攻撃はせずにしていると言うことだ。

フェンスさんは俺の目をじっと見つめているだけだ。

何をしている?《突然変異》保有者のフレキちゃんを保護してる俺をフェンスさんは始末しない?

そう疑問を持ちながら俺はただ真っ直ぐフェンスさんの瞳を見続ける。

そして次の瞬間、フェンスさんは右手を振り上げると俺のナイフを素手で打ち付けて叩き壊した。

粉々に吹き飛ぶ刃を見て俺の攻撃手段は完全に失う。


絶句して完全に戦意損失した俺は尻餅を突くように床に座り込んだ。

でも不思議と恐怖は感じなかった。むしろショックを受けて虚無のような感情に満たされる。


「か、カイハラさん?」


急に静かになった俺を心配したのか、俺が抱えてる腕の中からモゾモゾとフレキちゃんが出てきてそう言う。


「ははっこりゃ勝てねぇわ。降参するしかねぇ」


俺が呆れ気味に口を開けてそう言うとフレキちゃんは俺の腕を掴んでコクコクと縦に頷く。

ごめんな。


「どうやら落ち着いたみたいだな?いきなり殺意を向けられたからビックリしたぞ?」


「いやぁははは、フェンスさんの早さの方が驚きですよ。」


「む、そうか?まぁ誉め言葉として受け取って置こうか。」


「そうゆう事にしといてください。」


「灰原さん・・・」


俺とフェンスさんの会話に相羽君が何とも言えない声で俺の名を呼んだ。

首を動かしてその表情を(うかが)うと不安やら心配やら様々な感情が混ざり合ったような顔をしていた。

まぁ相羽君は今の騒動は無関係者だからね、悪いことしたかな?

うん、したな。


「安心しろ、拙者は其方(そなた)達に危害を加えるつもりは毛頭ない。まぁ攻撃しなければの話だが」


「嘘か誠かはわかりませんが、とりあえずそれを信じさせてもらいます。それ以外に生きる道は無さそうなんで」


「はっはっはっ!そんな事はないぞ?」


いやそんな事あるからめっちゃあるから。


とりあえず俺達は場の雰囲気を先ほどのようなや整える為に改めてソファーに座る。

とりあえずは死なずに済むのか?

いや、流れ的に尋問が始まりそうだ。あのステータスで尋問とかされたら普通に死ぬけどな。

まぁとにかくフレキちゃんの安全を確保しなければならない。相手は話し合いを望んでそうだし、下手に殺し合いにならないようにしなくては、折角のチャンスを無駄にするつもりはない。

俺達は最初の配置に座って少し間を置いた。

そして俺は口を開く。


「なんでフェンスさんはわかったんですか?」


「む?そこの娘の《突然変異》についてか?」


「はい。どうしてですか?」


「いや、どうしてと言われてもな・・・」


俺がそう聞くとフェンスさんは口を「へ」の字に歪ませて呆れたような視線を俺に向けてきた。

何故だ?


「普通にステータス回覧でちょちょいのちょいだろ?」


「・・・」


盲点だっつぁあああああああああああああああああ!!

すっかり忘れてたわ!そうだよ誰でもステータス回覧できるの初日で知ったろが俺のバカぁぁあああ!!

てか、さっき俺が自分でフェンスさんのステータス回覧してたじゃんバカなの俺は!?

やべぇ恥ずかしいリアルに恥ずかしいぃぃぃ!!

あれ?でもあのロリコン共は気付かなかったのか?まぁそれなら良いけど今はそれどころじゃねぇぇ!!


あまりの羞恥心に俺は頭を抱えて地面に顔を向けるとうなり声を上げてうずくまる。おそらく今の俺の顔は茹でタコのように真っ赤になっている事違いないだろう。

そんな状態の表情を見せないためにも俺はそのまま顔を上げようとはしない。絶対にするもんか!


「え!?ステータス回覧って魔物(モンスター)以外にも見る事ってできるんですか!?あ!本当だっ!便利ですね!」


「へぇ!確かに《突然変異》持ってますね!」と、フレキちゃんのステータスを見ても細かいことに気付かない相羽君に若干心癒されるが


「・・・まぁ、そうだね。便利だね。」


俺は死んだ魚のような目をしながら相羽君に向けて言葉を放つ。

先程までのシリアス空気が消え去っていくのを感じながらも、さっきの出来事を思い出してなんとか警戒心は残しておくことに成功する。

そんな茶番に区切りが見えたのか、言い辛そうにフェンスさんが言葉を投げてきた。


「あー・・・ではこちらも質問しても良いか?」


「え?あ、はい。」


今更、俺から何を搾取(さくしゅ)するというのだ。穴があったら埋まりたい。


「質問というか・・・お願いなのだが、その(フレキ)殿をこちらに渡して貰えるか?」


「イヤですけど?」


「・・・」


残念だがその言葉にゃ即答する。そう簡単に身柄引き渡したらさっき俺が命懸けた意味なくなるじゃん。

まぁ生き返りますけど。


「理由を聞いても良いかな?何故そこまでする義理がある?」


「と、言いますと?」


「カイハラ殿は人間(ヒューマン)、フレキ殿は獣牙族。祖先も故郷も違う存在だ。それに聞けば、其方とフレキ殿は出会ってから一日も経っていないではないか。何故(なにゆえ)そこまで命を天秤に掛ける事ができる?」


「なるほど、俺がフレキちゃんに対して無償で護衛してるように見えると?」


「事実そうではないか?」


フェンスさんの考えは半分正解で半分違う。

確かに俺はいざとなればフレキちゃんの肉壁になれるし魔物(モンスター)が襲ってきたら真っ先に助けると思う。

でもそれは"フレキちゃんの為"じゃくて"俺の為"だ。

俺は元の世界に帰れない以上、平穏に暮らす気MAXである。

その為にはフレキちゃんの力が必要となるだろう。

それにフレキちゃんが出て行きたいと言っても俺は貯金をよくするタイプだからリスクは少ない。

第一フレキちゃんは例えで言うと金の卵だ。《突然変異》って言ったって必ずしも凶暴になるとは限らないんだし、仮に《突然変異》を起こしても俺だけで抑えられる様に今からフレキちゃんに特訓してもらうという手段もある。

それになんと言っても死んでも蘇るという強みが人間(おれ)にはある。

つまり俺自身にとってはハイリターンノーマルリスクであり、そこまでは酷くはないのだ。


まぁ、例えそれがなくても


「ペットは最後まで世話するのが保護者(飼い主)の仕事でしょう?」


結局俺はスラム街からフレキちゃんを拾うと自分で決めた時点で、最後まで面倒を見なければならないのだ。

俺は若干冷たい人間だと思うが、自分で決めたことは最後までやらなければならないとは思っている。

俺は無責任な人間にはなりたくないのだ。


「「「・・・」」」


俺のコメントにフェンスさんとフレキちゃんと相羽君の三人は言葉を失ったかのように黙り込んだ。

いや、フレキちゃんは尻尾を振っているな。

うん癒しだね、最高。


「ぷっ・・・くっくっくっ・・・フゥーハッハッハッハッハッ!!」


突然、フェンスさんが壊れたように大声で笑い始めた。

ちょっと何何何!?怖いんですけど・・・。


「はっはっはぁ、いやすまぬな。流石に"ペット"と言い返されるとは思っとらんかったわ!「この子は俺が守るんだぁ!」とか言うと思ってたのだがね。」


なんだその痛い台詞。


「そう不機嫌そうにならないでくれないか?拙者だって予想外の返答だったのだ。」


「まぁ灰原さんは天然でそんな事言えますもんね。」


「オイコラ相羽君それどう言うことだ?」


「ペット・・・飼い主・・・ほわぁ」


駄目だこりゃ。


「良いだろう。フレキ殿の自由を保証しよう。」


え?いいの?そんなあっさり?

フェンスさんが「明日遊んでもいいよ」と同じくらい気軽に、そして簡単に言いはなった事で俺は少し混乱した。

そんな簡単に決めていいの?ギルマスで軍事部門の大臣でしょ?


「む?何だ?嬉しくないのか?」


「い、いやぁ・・・勿論嬉しいですけど、そんなにあっさり決めていいものなんですか?」


「無論だ。確かにカイハラ殿の言い分ももっともだ。其方達が最初抵抗したのは《突然変異》者を見つけ次第処分するという噂を知っているからであろう?だが勘違いされては困るが、そもそも《突然変異》者を処分していること自体"噂"でしかないのだ。」


「え?それって」


「うむ。保護しているのは事実だぞ?処分と言ってもそれは暴走した者のみで、基本は《突然変異》の解除と治療を行っているのみだ」


「「ええええええええええええええっ!?」」


衝撃の事実を知らされた事によって、俺とフレキちゃんは盛大にハモった。

そりゃそうだろう。それが本当なら何のために最初からビクビクしてたんだって話だ。

やばい。一気に疲れが・・・


「噂の発生源は確かにアルフ王国の政府で間違いない、だがそれもちゃんとした理由があるのだ。フレキ殿を保護するお主には言っておいた方がいいか。この噂は《突然変異》者を拉致している組織を炙り出す為の作戦でしかない」


「組織を炙り出す?そんなのが複数あるんですか?」


フェンスさんの話が真実なら、魔廻教みたいな組織が何個か存在してると言うことになる。

そうなれば厄介だ。敵は魔廻教だけではないかもしれない。


「例えば何があるんですか?」


「ふむ、情報が余りにも少ないが・・・《ソロモン》。戦争時に寝返った裏切り者の集団《山羊の眷属(バフォメルズ)。そして・・・」


フェンスさんはそこまで軽く流すように言うと、今度はフレキちゃんの顔をじっと見て、言葉に威圧(・・)を乗せてあの名を言った。

おいやめろ、その名前に力を込めるな!!


「"魔廻教"とかな」


魔廻教━━━っ!!


その名を聞いた時、フレキちゃんの全身の毛が逆立った気がした。

威圧が加わった魔廻教(その名)を聞いた瞬間、フレキちゃんの顔が今までに無いほど真っ青になり、目も限界まで開かれて息も荒くなっていく


「はあっはぁっはぁっゲホッゲホッ!!」


「おっと!?」


「フレキさん!?」


「ふむ、やはりか」


ストレスが限界まで溜まったのだろうか、フレキちゃんは酸欠したように咳込むと力を失ったように倒れ込む。

その先には固い床が・・・!!

俺は素早くフレキちゃんの肩に腕を回すとその小さな体を支える。

フレキちゃんの状態を見ようと顔色を見るが、調子が良いとは言えない。


「ちょ、フレキちゃんの大丈夫!?」


「はっは、はい。だいじょ、うぶで、す。はぁはぁ、ま、魔法回復(マジックヒール)。」


今にも意識を失いそうなその状態で、彼女はその単語を口にした。

すると刹那、青白い光がフレキちゃんを覆う。

すると呼吸は次第に落ち着いていき、顔色も正常へと戻っていく。

驚きの効果だ。俺は初めての光景に絶句した。


「やはりその魔力、そしてその名・・・間違いない。フレキ殿。お主魔廻教から抜け出した者だろう?」


フェンスさんは先程とは一変して「逃がさない」という目つきでフレキちゃんを捕らえていた。

フレキちゃんはそれに抵抗出来ずに、大人しくコクリと縦に首を動かした。

俺はその様子を見て居ても経ってもいられない気持ちになってフェンスさんを睨みつける。


「何なんすかいきなり!わざわざ威圧しながら言うことはないだろ!?」


「いや、拙者もここまで拒絶反応があるとは思わなかった。謝罪する。」


俺が怒りに任せて文句を言うと、フェンスさん反省したように素直に頭を下げて謝罪をしてきた。

本当に悪気がなかったと確信すると、俺は「もういいです」と言ってフレキちゃんの背中をさすった。


「で?いきなり魔廻教の事を言いだしたんですか?」


「うむ、最近拙者の部下がある情報を仕入れてな」


「それって・・・」


「ああ、魔廻教が『フレキ・フィンリル』を総出で探しているとな」

魔法回復(マジックヒール)

スキル《回復神官(クレリックヒール)》で行う回復魔法。主に状態異常など 小さな傷口を治す程度の初期魔法だが、フレキの《魔法女王(マジッククイン)》で大幅に威力は倍増している。


《威圧》

その名の通り、敵にプレッシャーを与えるスキルで、主に行動の阻害である。

相羽は《狂戦士(バーサーカー)》のオマケとして使用しているが、フェンスの場合能力事態高いため、敵に状態異常を起こさせる効果もある。

人によってその効果は変化すると言っていいだろう。





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