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ノンストップ・オフライン  作者: ケモナー@作者
第三章『火種』
21/47

え?真面目?

うわぁぁぁあ

「ではつまり、デットスネークが単に巨大化したものであって、あれはピートレックスではないと?」


相羽君が確認するようにフェンスさんに問うと、その人狼さんはゆっくりと、しかし確かに頷いていた。


衝撃的な事実だった。もしそれが事実なのだったらあれは巨大百足(デットスネーク)蟲王(ピートレックス)の両方の能力を合わせ持つ魔物(モンスター)だったということだ。


と言うことはもしかして、討伐のレベルでいうと下手したら軽く6を越えていた可能性もあったはず。

レベル6といえば最早ベテラン扱いである、素人と玄人とは雲泥の差があるのだ。


一般的普通の冒険者のステータスは高くても平均300といわれている。これは討伐レベルが4から5の範囲内だ。

だが、それでもデットスネークには届かない。


そんな俺達が勝てたのは、相羽君の狂戦士(バーサーカー)を使って一時的とはいえ殆どのステータスを規格外の1000レベルまで引き上げる事が出来たためだ。

素人の俺達が運良く生き残ることが出来たのは素人も玄人も関係ない滅茶苦茶なスキルのお陰である。

逆に言えばその1000レベルのステータスですら、デットスネークの甲殻にヒビしか与えられなかったと言う事なのだ。


ちなみに今回の報告の件について何も聞かされていないフレキちゃんは俺の隣でポカーンと頭に「?」マークを浮かべている。

まぁとりあえず後で説明をしておこう。


「それって、並大抵の冒険者が戦って、まともに勝つことなんて出来るんですかね?」


「無論だ。歴戦の冒険者とて、スキル無しなら高くても攻撃力500が良いところだろう。少なくとも通常種でも600に届くほど高い防御力を持つデットスネークを、レベル1から2までの冒険者が相手できるのはその体の大きさが小ささにある。まぁそれでも強敵でありのは変わりは無いのだが・・・」


「それじゃ、あのデットスネークが他にいたら、相当拙いんじゃないんですか?」


「うむ、相当拙いのだ。」


フェンスさんと相羽君が互いに言葉を交わしながら頷き合う。

俺は《突然変異》の可能性があると見ている。しかしフレキちゃんの件もあるから聞き出しにくい。

でも今の話の流れなら言えるかもしれん。そこで俺は《突然変異》の話題(・・)の種を撒くことにした。


「ヴルフさん?で良いでしょうか?それとも様付け?」


「フェンスで構わぬ。」


「それじゃフェンスさん。お一つお伺いしても構わないでしょうか?」


「ぬ?なんだ?」


「このデットスネーク、スキル覧に《突然変異》が有ったんですけど、それは関係あるんでしょうか?」


俺があのスキル名を口にすると、フェンスさんは驚いたように目を開き、対照的に相羽君は「そんなのもありましたねぇ」と気軽に呟いていた。

そして最も強く動揺したのが、フレキちゃんだった。あまり言いたく無かったんだけどねぇ


「う・・・む。確かに関係しているかもしれぬな、だがそれは外れかもしれぬぞ?」


「嘘下手っすね。」


「キャウン!?」


予想外に嘘の隠し方が下手だったので、思わす指摘してしまった。「う・・・む」でバレバレだわ!

つか驚きの声が「キャウン」と鳴くのは想定外、やべぇ可愛いどころか逆に怖い。


「あのスキル・・・《突然変異》は魔族との戦争の産物、でしょう?」


「ぬぅ、そこまでの情報をも入手していたとは、不覚。・・・いかにも、今回の亜種とも言っても良いほどに蟲王(ピートレックス)に酷似した巨大百足(デットスネーク)。アルフギルド上層部では《突然変異》の可能性があると見て研究をしている。」


やっぱりか。でもここまで正直に言ってくれるとは予想外だな。

まぁいいや、そう俺は口の中で呟いてから考えを纏める。


ようは《突然変異》は大幅に生き物を進化・・・とは言わないか、数世代先まで変化させる性質があるのかもしれない。それが例え良し悪い関係なく。


(解説・世代を交代せずに変化するのは進化とは言わない。この場合、変化、変態という。)


ピートレックスがデットスネークから進化したのは既に知っている。

だが、俺達が戦った《突然変異》持ちのデットスネークは受付嬢さんまで勘違いしたほどピートレックスに酷似しており、なおかつ先祖(デットスネーク)の勝っている部分を受け継いでいた。考えられるとしたら、《突然変異》は生物の進化先にある能力を先取りし、体をも変化させる効果なのかもしれない。

実際、元の世界の動物の進化も数世代に渡る突然変異が重なって起こっていった。《突然変異》は、それを強制的に起させるのかもしれないな。


「あのー、こっちが話から置いて行かれてるんですけども?」


相羽君の呼ぶ声によって俺のブッ飛んでいった意識は強制的に引き戻された。

まぁそろそろ相羽君にもフレキちゃんにも現状の件に説明しておく必要があるな。


「あー・・・つまりね」



それから出来るだけ手短に説明を済ませた。

過去に起きた魔族との戦争のこと、それによって出来たのが《突然変異》という一種の呪いじみたスキル、そしてその効果。

元々、日本に居たときからファンタジーを知っていた相羽君はすぐにそれを理解してくれた。

いやはや、同胞なら話が早くて助かる。


「・・・僕そんな歴史教えて貰ってないんですけど?」


相羽君は俺の説明を聞き終わると、早速フェンスさんに視線を向けた。

この世界で生きるにはやはり必然的に歴史も、必要となってくるだろう。

だが相羽君含めて、俺達は王宮で説明を受けていたとき、一切戦争について触れる機会はなかった。つまり戦争については隠されていた。と相羽君は思っているのだろう。

フェンスさんは相羽君の鋭い眼力を直撃してポリポリと後頭部を掻いて唸る。

どう答えようか迷っているのかもしれない。


「うむ、戦争など血生臭い話はお主らには不要と思っていたのだ。只でさえ前の生活を壊され、世界転移などの最大極大魔法が行われていたのだからな。ストレスが貯まっていると思ってい、戦争の話は必要になったら自分で調べてくれるだろうと、という結論に至ったのだ。」


へぇ、フェンスさんの話はまぁ一理はあるな。

確かにこの国には約7000人の人間が住んでる。そしてその大半がまだ家に閉じこもっているらしい。

全員が全員。吹っ切れるわけではないのだ。事実俺だって最初の2、3日はへこんでた。

とりあえず稼ぐという結論に至らなかったら、ギルドカードを作った後も部屋に閉じこもっていたかもしれない。

いや、散歩したら亜人美女が沢山存在していた事で生きる希望を見たのも無きにしろあらずである。


「うむ、話を戻すが・・・カイハラ殿と言ったか?其方(そなた)の《突然変異》への考えは大体合っている。《突然変異》は肉体の進化を可能とし、尚且つ前の肉体の有利な部位を吸収する事ができる、ある意味万能なスキルなのだ。」


「そんなに素敵スキルなのに、なんで亜人の突然変異者を処分なんかするんですか?兵士として有能になる気がするんですけど」


「むむ!?そこまで知っていたか・・・まぁ良い、どの道近い将来知られる事実だ。確かに亜人の突然変異者は兵士として、騎士として、冒険者として強力な人材が出来上がる事に違いないだろう。だが、《突然変異》が魔族によって作られた事を忘れて貰っては困るのだ。」


ん?つまりどういう事だ?

《突然変異》は強力だけど、魔族に生み出されたスキルだから拙いのか?それとも魔族に作られたから何か欠点があるのか?

まぁそれも説明して貰えそうだけど。


「《突然変異》の本質。それは"暴走"にあるのだ。」


「「暴走?」」


俺と相羽君は同時に首を傾げる。フェンスさんは話を続ける。


「その通り、《突然変異》は肉体に急激な変化をもたらすのだが、それと同時に理性を失うのだ。そして同時に、亜人・・・つまり人を優先的に襲うようになる。」


「理性・・・ですか」


相羽君が呟き、フェンスさんは頷いて肯定した。


「その通り、《突然変異》は例え弱い生物であろうと大量の魔力を与えさせ、強大な魔物へと変貌させる。」


フェンスさんはいつの間にか取り出したのか、デットスネークの頭を軽々しく持ち上げると、デットスネークの"耳"の部分を見つめていた。そこは、赤い甲殻で見えにくいが、僅かに紫色へと色付いていた。


「相羽君の狂戦士(バーサーカー)の改造版ってのが近いのかな?」


俺が全員にそう言うと、相羽君は無言で前を向いて・・・おそらく自身のステータスを見ているのだろう。静かに考え事をしている。

フェンスさんはその様子を見ると「うむ」とデットスネークの頭部に視線を戻した。

そしてフレキちゃんは動かずジッとして自分の服をすがるように握り締めて、何かの感情を押さえ込むように震えていた。とりあえず何も言わずに頭を撫でておく。


無言の空気が流れる中、誰かが「ふぅ」と溜息をついたのをキッカケに、話し合いが再開した。


「聞くが、その者の《突然変異》をどう説明する気かな?」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「ぎゅるがぁぉぁぁああ!?」


生臭い唾液を飛ばしながら獣は吠えた。

全身に電流のように流れる激痛、体の骨、筋肉、内蔵が作り替えられていく未知の感覚と痛覚に、その"亜人だった者"は恐怖しながらその理性を失っていく。


「「「ああ!魔族様!我らの大地に祝福を!」」」


黒いマントを羽織った老若男女達は尊敬するような声を合わせながらそう合唱をする。

本人達からすれば、生きる感謝と未来に訪れるであろう理想の大地に感謝している神聖な儀式なのだが、端から見れば異質そのものだった。


「うぎゃぁぁぁあああっ!!だ、たすべがががが!!?」


檻に閉じこめられたその異質な亜人は助けを求めるようにそう泣き叫ぶ。しかし誰も助けたり手をさしのべる者はいない。

なぜならこれは命の生まれ変わる喜ばしい出来事であるからだ。


「「「ああ魔族様!我らに未来をっ!!」」」


「ぎゃぁぁぁあぁグルルルルガァァァアアア!!」


遂に時が満ちた。檻の中にいるのは既に亜人ではない、限界まで強力化した魔物とも言える魔族がそこにいた。


「「「魔族様っ!魔族様っ!魔族様っ!」」」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


彼らは喜びの声を上げる。また一人、尊敬し、崇拝し、敬う魔族が復活したのだから。

突然変異(ニューティション)》。奇跡とも言えるそのスキルは彼らにとって希望以外の何物でもなかった。


魔族の復活に喜び狂う信者達の裏では、その信者達を纏め上げる最高司祭の男もまた、喜びを口にしていた。


「ふふふ、喜ばしい事ですね。また偉大なる魔族様が復活しました。我らが求める理想の大地まで後少し・・・」


魔廻教最高司祭バルベウス・グラバナスはそう言いながら、血のように赤いワインを一口飲み込んだ。

彼らが求めるのは漆黒の大地。

強大で、王者とも言えるほどの魔物達が溢れかえる大地、そしてその魔物達を束ねる魔族、彼らの夢はその魔族の側近へと立つ事・・・


「これも貴方のお陰なですよ?アスタロト殿。」


彼が感謝の言葉を贈る先には、黒髪で不気味な男が口元に笑みを浮かばせながらそこに佇んでいた。


「いえいえ、魔族の復活とあらばいくらでも力を貸しましょう。それが我ら秘密結社ソロモンの願いの一つであるが為。」


「ふふふふ、そうですな、我らは同士。偉大な魔族様の復活を成功させる者。」


「その通りです!魔廻教とソロモン。互いに望むものは同じなのです!」


このアスタロト。どこからどう見ても胡散臭い男なのだが、その実力はバルベウスも理解していた。彼と共になら、魔族の復活という偉業を成し遂げる事が出来ると信頼できるほどに。


「あ、そいえば・・・フレキ様の居場所は突き止めましたか?」


バルベウスは大切なものを思い出したかの様にそう言った。

フレキ・フィンリル。魔廻教が確保している《突然変異》保持者の中でも神童と言われてきた少女である。

幼い(よわい)にして数値1000越えの魔力。将来は自分達を導く魔王になる可能性を持つ彼女が、数週間前に失踪したのだ。

王の器が消えたことに焦った信者達が懸命に捜索を始めたが、遂に見つける事は出来なかった。

そこで同士とも言えるソロモンにも協力を依頼したのだ。もちろんソロモンは喜んで力を貸した。

にも関わらず、フレキは見つかってはいない。

それもそのハズ。ソロモンに依頼したのは昨日、しかし既にフレキは灰原に保護されていたのだ。

そんな事もつゆ知らず、アスタロトは首を横に振る。


「残念ながら・・・居場所は判明しておりませぬ」


「何ですと!?まだなのですか!?もう失踪から3週間たっているのですよ!!何故見つからないのですか!?」


理不尽。その言葉は今のバルベウスにピッタリな言葉だった。

第一、自分達が3週間も見つけられなかったのを棚に上げてソロモンには一日で連れてこいと言ってるようなものなのだ。

しかし、そんなバルベウスにアスタロトは眉一つ動かさず、手を上げてバルベウスを制する。


「落ち着きくださいバルベウス最高司祭。居場所は判明しませんが、潜伏している都市なら既にわかっております。」


「な!?そ、そうでしたか。すみません。」


自分達では見つけることも出来なかった情報を聞かされ、バルベウスは冷静さを取り戻す。

さっきの事を無かったかにするように、バルベウスはコホンと咳をしてから話の路線を修復する。


「して、フレキ様は何処に居たのですか?」


「はいはい、亜人の中心国家、アルフの城塞都市に目撃情報があったそうです。」


「アルフですって!?」


バルベウスはその都市の名を聞いた瞬間、勢いよく立ち上がって驚きが含まれた怒鳴り声を上げた。

しかし立ち上がった反動でテーブルに置いてあるワイングラスを落としてしまう。


パリーンッ!


ガラスが粉々に割れ、残っていたワインが床を汚す。

ハッとして自分の失態を自覚してしまうが、それを意識で振り切って何とか声を出した。


「アルフと言えば、魔族様の奇跡の持ち主を処分するあのアルフですか!?」


「えぇ、そのアルフです。」


容赦なく即答したアスタロトにバルベウスは頭を抱えて絶望する。


(もし騎士団・・・いや、人に耳を見られてしまったらフレキ様は即座に処刑されてしまう!!あってはならん!!それはならん!!)


「す、すぐに信者達を向かわせ調査させます!!アスタロト殿、協力してくださいますか!?」


「えぇ、構いませんよ?フレキ様を失うのは我々にとっても大きな痛手ですからね。・・・ああ私だ。すぐに合成獣(キメラ)を用意しなさい。」


バルベウスの願いにアスタロトはさらりと同意すると通信器と呼ばれる水晶のアイテムを使って仲間との連絡をし始めた。

キメラとは様々な魔物を組み合わせて造り上げた人工生命体の一つだ。中には人の形をした者も居るので、それを使えばアルフに侵入出来ると考えたのだろう。


「バルベウス殿?もしフレキ様が騎士団に捕まっていた場合、アルフ軍と戦争になる可能性もあります。魔族も出撃させた方がよろしいかと。」


通信を終えたアスタロトは、この後の戦の火種を予想して、バルベウスにそう言った。

もし戦争などが起こった場合、多少武術の取り柄がある程度の信者では話にならない。そう考えたバルベウスは、アスタロトの忠告に頷く。


「はい、出来るなら魔族様のお力に頼りたくは無かったのですがね」


「背に腹は代えられないでしょう?未来の魔王様の為なら、魔族の方々もお力添えしてくださるはず」


一瞬躊躇っていたが、魔王を魔族が救うのは当然である為バルベウスはすぐに同意した。


「それでは私は本部に戻ります。出撃は明日あたりがよろしいかと」


「はいわかりました。すぐに準備いたします」


最後に言葉を交わすとアスタロトは霧のように姿を眩ませた。

それを見届けるとバルベウスはこれから起こる決戦に向けて、強い睨みを向けていた。

《突然変異》

魔力の超上昇による肉体の強制強化。

保持者を一種の魔族化にさせるのが主な能力。魔力上昇については常時発動するが肉体変化の発動する時間の規則性は不明。


《魔廻教》

魔族を崇拝し、大地を魔の地へと変貌させるのを目的とした狂人の集団。

大量の《突然変異》保持者を拉致しており、その数は一切不明。

戦力も未知数である。


《ソロモン》

魔廻教と手を組んでいる。目的は不明。

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