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ノンストップ・オフライン  作者: ケモナー@作者
第三章『火種』
20/47

顔が狼で既にホラー

ふひーっ

アルフ王国に存在する巨大建造物の一つ、アルフギルド。

俺達はいつもの受付嬢さんの後から付いて行って、長い廊下をテクテクと歩いている。

案内して貰っている場所は木を加工して作られた床や壁が印象的で、どこかモダンな雰囲気を作り出していた。

造りは、飲食や情報交換、依頼受理などを行っていた大広場とは違い、壁をコンクリートに変えれば元の世界でサラリーマンが仕事してるようなビルの内装みたいなイメージが近いかもしれない。

まぁ木ですけど。


何が言いたいかというと、大広場と違って随分とここはマトモに造られてるということだ。

大広場が大雑把ならここは繊細。

実はここは冒険者ではなくギルド職員などが働いているアルフギルドの中枢部で、アルフギルドの中では一般人などは立ち入る事の出来ないエリアだ。


通常の冒険者や商人は一部の例外か職員よ面接をしなければ一生入る機会などないだろう。


物珍しげにチラッと横切った部屋を見ると、大量の依頼書と睨めっこしながら依頼の発行用の判子を握りしめていた。


ま、ようはここはギルドの裏方とでもいう場所だということだろう。

何も受付嬢さんだけが仕事している訳じゃない。受付のカウンターで依頼受理をしたりするのも立派なギルド職員の仕事だろうけど、ここはそれを成り立たせる為に市民や国から請け負った依頼や物資の運搬を冒険者や商人に届けられるよう、データを纏めているのだろう。

地味だが、彼らは居なくてはならない大事な存在だ。


「はぁ、下手な騒ぎを起こすのは止めてくださいね?」


ぽけ~と周りを見渡しているとそんな文句が耳に入る。

声の主はため息を漏らしてこっちを見るのは道案内をしてくれてる受付嬢さんだ。

個人的には相羽君とくっつきそうな人物No.1である。なんか仲良いんだよなぁこの二人、しかもエルフ族の女性。

羨ましい限りである。


「あ、へいへーい」


受付嬢さんの注意に俺は気の抜けた返事をして返す


ゴスッ!


と、そこに後から歩いてきてる相羽君が足に蹴りをかまして来やがった。いやごめんて。


不意打ちの攻撃に俺が顔を歪ませると受付嬢さんがクルリと此方(こちら)を向いてくると、人差し指で俺の鼻先をツンとつついてきた。おうふ。


「気を付けてください!手を出していなくても、火種を撒けばギルドカードの剥奪もありえるんですからね!?」


受付嬢さんはエルフ族特有の長い耳をピクピクと動かしながら怒ってきた。

俺と同じくらいの背丈の女性のジト目は、的確に俺の眼球を貫いてきた。

思わず気まずくなって、俺はその非難の目線から目を背ける。受付嬢さんはさらに深いため息を付いて、止まらせていた歩みを再起動させた。


「・・・全く、アイバさんとコンビが組めるのはカイハラさんくらいなのに・・・」


「んへ?何か言いました?」


「悪さする冒険者()には何も教えませーんっ!」


何かブツブツ言ってたので気になって声をかけたのだが、受付嬢さんは両手で耳を塞ぐと「あーあー聞こえない」みたいな体勢をした。なんだ何なんだ?


ギュッ


突如、服を引っ張られる感触がしたので張本人のフレキちゃんへ視線を移す。

フレキちゃんは俺の目を真っ直ぐ見て悲しそうな声を出す。


「わたし・・・まだ恩返しが終わってないのに・・・冒険者を辞めさせられるようなことはしないでください・・・」


受付嬢さんとは違う幼女の純粋無垢なフレキちゃんの瞳は、今は涙が出そうなのかウルウルと輝いていた。

守ってあげたくなるような保護欲を立てるフレキちゃんの一撃はたったそれだけで俺を罪悪感を感じさせた。

俺は咄嗟に「・・・うっ」と声を詰まらせる。


「カイハラさんの気持ちは分からないことも無いですけど、少しは自重してください。」


そんな様子のフレキちゃんを見て、相羽君も俺に注意するような台詞を送ってくる。

狂戦士(バーサーカー)発動時顔負けの眼力で睨んでくる目玉に俺はゾォッと顔を青くさせる。

あれ?俺逃げ場なくね?


下からは涙目の幼女の視線に後からは怒ったような非難の声、前方からは呆れたようなため息にビビりな俺はただ「す、すいませんした・・・」と謝る事しかできなかった。

ぐすん。頑張ったのに俺・・・




それから気まずい無言の空気が漂う中、急に受付嬢さんが俺達の前で歩みを止めた。

止めた先には、流石にギルドの門までとかいかないものの、それなりに大きな扉が存在していた。

なんというか威圧感(プレッシャー)がもの凄い・・・


「この先にギルドマスターが居るのでこのままお進みください、私は仕事に戻りますので」


「え?一緒に来てくれないの?」


「あぅ」


「ぼ、僕らで行くんですか?」


「何で皆さんそんなに怯えているのですか?」


突然告げられた「こっから先はお前等だけだ!」発言に俺達は硬直状態に陥った。

だって相手ギルマスだよ?さっきのハゲチンピラモドキとは格が違うよ?だって扉の前でも凄まじいもん。

案内人が居なくなることだけで緊張が半端ないのである。


「だだ、だって相手は言ってみりゃ社長だよ?平社員がいきなりトップの社長に会うみたいなもんだよ!?そりゃ緊張するわ!!」


俺は冷や汗を垂らしながらそう力説する。ギルド登録すらしてないフレキちゃんに至っては、その可愛らしい首をブンブンと上下に揺らして必死な形相をしていた。

まぁフレキちゃんにとっては、ギルドマスターという上層部の人間にはなるべく会いたくないというのも理由の一つだろうけど。


「そうですけど・・・」


受付嬢さんは拳を口元にあててう~んと唸る。ちなみに俺の足は既にガクブル状態なのだ。

と、俺達が受付嬢さんを取り囲んで逃がさないようにしたその時


「ふむ、扉の前で何をしているのかな?」


獣の声を無理矢理人間の発声音に置き換えたような、そんな太くて低い声が頭上から聞こえてきた。

モンスターのようなゴツい声に俺はバッと後を振り向く。


そこに居たのは二メートル近い巨体に全身から生え揃った灰色の毛皮、そして何より驚くのが顔がまんま狼である獣牙族。

巨大なドアを開けてそこからひょっこりと顔を出している体勢でその人狼さんは俺達を見下ろしていた。


「きゃうあぁぁぁ!?」


フレキちゃんが思いっきり俺の腰に抱きついてきて畏怖を表しているような悲鳴を上げている。

その目は思いっきり開かれており、俺が支えていなければすぐにも昏倒してしまいそうなほど真っ青な表情をしていた。


それもそのハズ。なぜならこの人狼さん、獣牙族の代表であり、俺達がこの世界に来て面会を行った人物である一人称拙者の「フェンス・ヴルフ」さんだったのだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆





「まぁこれを飲んで落ち着くがいい、確かそちの世界では「抹茶」と言ったかな?」


「あ、はい」


「ですね」


「・・・」


受付嬢さんが立ち去った後、ギルドマスターの部屋に連れ込まれた俺達は、お客用と思われるフカフカのソファーに座らせられた。

シルクのような手触りと柔らかさに驚いたが、素材は魔物(モンスター)の皮を特殊な液体で繊維状にさせて織り込んだ一品らしい。まぁその皮の元が竜だというのは置いとくが。


フェンスさんは、俺達と正面に向き合うように設置させれているもう一つのソファーに座ってお茶を飲んでいる。

俺達とフェンスさんの間に置かれている木製のテーブルの上には、同じように緑色に濁った飲み物が置かれている。

俺はそれをひょいっと取ると、緊張と一緒に喉に流し込んだ。すこし舌の上に留まるようなドロッとした苦味に俺は元の世界のお茶を思い出していた。

まぁお世辞にも喉越しは良いとは言えなかったけど・・・


「ふはぁー、美味しいですね」


懐かしい味に気分が落ち着いたのか、相羽君はお茶を飲んでほんわかしていた。相羽君、以外にも和食好きらしい。

まぁ個人的にはスーパーで売ってるようなペットボトル入りのお茶の方が好みだな。粉にお湯を混ぜて作るお茶はどうにも苦い。いや不味くは無いんだけど。


「・・・」


俺達が飲んでるお茶に興味が出たのか、俺と相羽君に挟まれるように座ってたフレキちゃんはサッと放置されてたコップを手に取って口に流し込んだけど


「うぅ~~~」


流石にお子様の舌には合わなかったのか、両目を瞑って小さくベロを出すと苦さをアピールしてた。

そんなフレキちゃんを見てフェンスさんは愉快そうに笑っていた。


「はははっ、どうやらお嬢さんには口に合わなかったようだ。ふむ、果汁入りのジュースでも用意しとくべきだったな。」


「そそそそんな!?だ、大丈夫でしゅ!」


残念そうにフェンスさんがそう言うとフレキちゃんは尻尾を慌ただしく動かして焦りに焦っていた。

フレキちゃんからすれば、相手は自分の種族を纏めるボスであり、この国の管理者の一人でもあるのだから緊張するのは当たり前だろう。

まぁ緊張し過ぎて最後噛んだけど・・・


そして何を思ったか、フレキちゃんはコップに入ったお茶を一気飲みする勢いで飲み込んだ。

「おぉ!!」と俺と相羽君がフレキちゃんを見ると「ゲホッゲホッ」と数回むせかえって「うげ~」と呻き声をあげていた。無茶しやがって・・・


「ふははははははははっ!」


フェンスさんは忌々しげにコップを見つめているフレキちゃんを見るとその狼顔をほころばせて笑っていた。


「ふふふっ、いや久しぶりに笑わせて頂いた、拙者が笑ったのはいつぶりか?」


相変わらず怖い声だし、今にも襲いかかってきそうな顔をしているフェンスさんだが、その声には確かな慈愛が含まれているようにも感じた。


「いやぁ、まさかあなたがギルドマスターなんて思ってもいませんでした」


俺は苦笑いを作りながらフェンスさんにそう言う。

てっきり政治関連で書類整理ばっかやってるかと思ってたのだが・・・


「ふふふ、拙者は確かに法案や国も問題消化の仕事もしているが、メインでは軍事管理を行っているのだよ、それはギルドの冒険者管理も同じだ。レベル6のピートレックスが出たなら尚更・・・な。まぁ数日前転移された人間(ヒューマン)の方々が今回の件に関わっているとは思ってもいなかったよ。しかし、噂の狂戦士(バーサーカー)が居たのは報告書で確認したがね。」


フェンスさんはチラッと相羽君を見ると不敵に笑っていた。

このままの・・・いや寧ろここまで良いのだが、そろそろ本題に入った方が良いだろう。これから予定あるし


「そんで、本題に移りますが今回呼ばれた理由はギルドの調査不十分による慰謝料という名の口止め料(・・・・)って事で良いんですよね?」


俺がコップをテーブルに置いてからそう言うと、相羽君はえ?とした顔で俺を見てた。フェンスさんは「いやはや」と後頭部を片手でポリポリて掻いてばつが悪そうに言葉を詰まらせていた。

・・・爪随分鋭いけど痛くないのかな?


「ははは、躊躇いもなく言ってくれるな。いかにも、今回呼ばせて貰ったのはそれも理由の一つなのだが・・・事情が事情なのでね。」


「その言い方だと今回の調査のミスがただ事じゃないって事ですか?または一般公開できない情報でも、あの虫の頭から採れましたか?」


「む、それは」


「言っときますけど、それ言わないと自分、金受け取った後言いふらしますよ?「ギルドの調査でミスがあったよ」って、あくまで俺が貰うのは慰謝料・・・ですから?」


俺がそう言うとフェンスさんは苦々しい顔を作ってお茶を啜り始めた。ギルド側からしたら調査不十分の件を垂れ流しにされると拙いことこの上ないだろう、何せ情報は冒険者にとって命綱同然なのだから。

ギルドの調査ミスがあれば、それを恐れて少なからず冒険者を廃業する者も出てくるだろう、あとはそれに釣られてさらに労働力が減る。


ギルド・・・というよりアルフにとって冒険者が減るのは痛手のハズだ、なぜなら金さえ払えば魔物(モンスター)の駆除を行ってくれる傭兵(まが)いの冒険者が居なくなれば必然的に騎士団が動く。しかしそうなれば国の中の治安を守る人手が不足する

つまり、冒険者の減少は国の戦力そのものの減少になるのだ。


「・・・ふむ、まぁ解った事は少ないのだが、それでもいいかな?」


「ええ、神様に誓いますよ?」


どの口が言うんですか、という相羽君の視線が突き刺さる。

へ?この口。


まぁこちとら引くわけにはいかないんだよ。蟲王(ピートレックス)は《突然変異》を持っていた。フレキちゃんも《突然変異》の保持者なのだ。大体名前からして予想はできるのだが、わけのわからないスキルなのは違いない。集めようにも情報がない、だからここから聞き出すしかないんだよ。


「ふむ、では何から話そうか・・・質問してもらえるか?」


フェンスさんがそう言ってきたので、相羽君は何かあるか?と尋ねるように視線を回すが、相羽君は「どうぞ」と頷いて俺に主導権を渡してくれる。


「ではまず一つ、奴のステータス覧を見たのですが、そこでは名前は《デットスネーク》でした、なのに受付嬢さんはデットスネークの事を蟲王ピートレックスと言ってました。これはどういう事ですか?」


「あ、確かに」


俺の質問に反応して相羽君が声を漏らす。受付嬢さん曰くピートレックスはデットスネークから派生されたいわゆる強化版というらしい。

だが、いくらデットスネークの強化版と言ってもステータスで名前が一致するのはおかしいのだ。

デットスネークは基本、ダンゴロムシを平べったくさせたような姿だが、対してピートレックスは大きくなれば30メートルを越す巨大モンスターだ。明らかに同一の存在ではない。

フェンスさんにそれを伝えると、うむ。と言って頷いていた。


「そもそも今回討伐されたあのデットスネーク(・・・・・・・)自体、拙者達からしてもイレギュラーな存在だったのだ。」


「それは、あの魔物がピートレックスではなく、デットスネークであると表してる事でいいんですか?」


俺がそう聞くとフェンスさんは「ステータスが確認する事が出来ないから絶対とは言えんが」と呟きながらも頷いた。

この世界は大体ステータスを確認すれば状態の把握が可能だ。

しかし、対象が無機物であったり、生物の死骸だったりするとステータス回覧は発動する事ができないみたいだ。

ただ、死骸から素材を剥ぎ取って、それを使って作る防具や、岩などを固めて造った無機物のゴーレムなどは違ってステータスを見ることができる。

矛盾があるが、どうにもこの世界の法則であるらしい


「分類上は蟲王(ピートレックス)では構わないだろう。だが調査した結果、ピートレックスとは決定的に違う性質を持っていた。それは"強度"だ。」


受付嬢さんはピートレックスと判断したようだが、フェンスさんはどうやらデットスネークであると確信していたらしい、そしてさっきの俺の台詞で確定したと・・・


「強度・・・ですか?」


「うむ、巨大百足であるデットスネークは全長5メートルほどの小型で危険度もレベル2に設定されている。対してピートレックスはレベル6という節足型怪蟲(かいちゅう)にしては最高レベルと言って良いだろう。だが下位のデットスネークから派生した魔物だ、当然進化には身体の一部退化と言うリスクも存在する。」


なるほど、つまり人間の尾骨みたいに本来有ったはずの部位が消えてなくなるようなものなのか。


「ピートレックスはその巨体さ故、素早い行動をとるとこができない、ましてや甲殻という名の鎧もただの重りでしかない。先に言って置くが、デットスネークの装甲の強度はレベル6までいる魔物に比べても上位に食い込むことだろう。対して進化したピートレックスは確かに高度な防御能力を有しているが、それもただでさえ低い身体能力を優先した為、強度はデットスネークより遙かに劣るのだ。だが、あなた方の倒したというピートレックスの甲殻はデットスネークとほぼ同一、さらに全長は10メートルという小型。これはとても正常とは言えん自体なのだ。」


「ではつまり、デットスネークが単に巨大化したものであって、あれはピートレックスではないと?」


相羽君が確認するようにフェンスさんに問うと、その人狼さんはゆっくりと、しかし確かに頷いていた。






デットスネークはピートレックスじゃなくてでもデットスネークはピートレックスみたいにでかくなってでもデットスネークはピートレックスじゃなかったのであって意味ががががががが

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