ムニュッ
今回はながいです
冒険者ギルドはある意味町のシンボルでもある
それぞれの国にそれぞれのギルドが存在する
例えばアルフ王国のアルフギルド。俺達の元の世界の大きさでいうと東京ドームの半分くらいの巨大さを誇る建造物だ。
石煉瓦で造られた外壁は、内側にある質のいい木材での骨組みが組み込まれて、バランス良く支えているいる
その耐久力は巨大な要塞に匹敵する防御力を兼ね揃えている。地盤も強く地震にも強い。
よって災害やモンスターによる襲撃の戦があった場合、その巨大さと防御性を生かして避難所などにも利用される。
しかしそんな事は滅多に起こらない、なぜならギルドには大抵強力な冒険者が集まっているからだ。
冒険者はここで「狩り」「採取」「捜し物」など様々な依頼を引き受けて生計を立てているのだ。
さらにここではレストランでの食事もでき、冒険者のパーティの待ち合わせや情報交換も盛んに行われている、勿論情報のやりとりは冒険者だけではなく、一般市民や商人も利用され需要は高い。
つまり、冒険者ギルドは一国に最低一つはある高い需要性を持つ組織なのだ。
俺と相羽君を乘せてくれたスーオさんに別れを告げ、やってきたのはそんな冒険者ギルド「アルフギルド」だった。
アルフギルドの入口は非常に大きい。巨木で作られた扉は常に開かれていて、高さは5メートル、横は10メートルはある大きな入り口である。
そんな巨大な入口を行き来する冒険者や商人達を見て俺は「ほわぁ」と声を出す
「いつ見てもでかいよなぁ」
まだ2~3回しか見たことない扉だが、見ただけでとてつもない重量感を味わうことができる
なんといっても巨大なデットスネークの死骸を乗せた荷車でも余裕で通れるスペースだ。
古い遺跡かRPGにでもありそうな入口は、なにやら男心を擽る興奮感がある
後ろで荷車を押している相羽君もワクワクしてるように頬をすこしだけ染めている。
「大型モンスターを狩猟した際にそれを証拠品にしたり鑑定する事ができるように作られているんでしょうね」
モンスターの死骸は証拠品になるだけではない。食品、装備品、資源にもなったりして、その体は余すところなく利用される。
その時に利用するのが鑑定所、プロの鑑定士に素材を見てもらう事ができる。
鑑定所はギルドホール内に受付のように配置されていて、冒険者はそこで「植物鑑定」「鉱物鑑定」「素材鑑定」の三つのうち一つを選んで鑑定してもらう。まぁもちろん金はかかるのだが・・・
とりあえず鑑定も兼ねて俺達は受付へと向かった
受付所では俺のギルドカードを作ってくれたりデットスネークの依頼、パーティ受理を担当してくれたあの受付嬢さんだった。
俺は荷車を引っ張りながら彼女に挨拶を送る
「受付嬢さ~ん!」
俺が右手を上げて犬の尻尾のように振っていると営業スマイルのニッコリ顔を送り返してきた。
荷車に乗ってるデットスネークはボロ布で覆っている、まだ中身がわからないのだろう、シメシメ・・・
俺達はデットスネークの乗った荷車を受付カウンターの前まで運んで止める。
運び終わると相羽君も依頼達成報告の為にカウンターまでやってくる。
「デットスネークの討伐完了しました~」
「大変でしたよ」
「お疲れさまでした。お疲れの所申し訳ありませんが、依頼達成の証拠として証拠品を見せて貰っても構いませんか?」
受付嬢さんがニッコリと業務作業の証拠品提示を求めてくる。
俺と相羽君はお互い顔を見合わせてニヤリと笑う
実はボロ布で覆っているのは受付嬢さんを驚かそうと馬車の中で相羽君と作戦会議していたのだ、実際相羽君は超ノリノリだった。
「相羽君、一気に広げようぜ」
「そうですね」
相羽君は明らかに不審者のにやけ顔だ。恐らく俺も同じような顔をしているのだろう
俺と相羽君はボロ布の両端を付かんで「せーのっ!」の掛け声で一気に広げた
そこには大きな肉片が沢山乗せられている
そして山積みされてる木箱の中にはデットスネークの甲殻がギルド内に灯されてる火の光を反射しながら紅色に輝いていた。
受付嬢さんの顔に大量の冷や汗が流れる、営業中ということも忘れて受付嬢さんはカウンター越しに乗り出してくる
その顔がまさしく俺達が見たかった驚きの表情だ
「どどど、どうしたんですかこれ!?」
「どうしたって、デットスネークを討伐してきたんですよぉねぇ相羽君?」
「そうですねぇ苦労しましたよ」
「「あははははっ!!」」
目を限界まで見開いた受付嬢さんに俺達はにやけ顔で大笑いする
そんな俺達を無視すると受付嬢さんはカウンターから席を外して甲殻を手にとって確認する。
すると聞いたこと無い名前を口にした
「蟲王・・・」
「はい?」
「え?」
大笑いしてた俺達を沈黙させたのはデットスネークとは違う別の名前だった
俺達が変梃な声で困惑してると受付嬢さんは甲殻を持ったままズンズンとこっちへ歩み寄ってきた
えぇー!?何さ何さ!?
「お二人はデットスネークの討伐に向かいましたよね!?なんでピートレックスの素材がここにあるんですか!?」
受付嬢さんは大きな、しかし周りには聞こえない程度の微妙な音量で言ってきた
それに俺はビビりながらも答える
「えっと、村の人から聞いた情報を頼りに討伐してきましたが?」
受付嬢さんが俺の掠れるような返答を聞くと顎に手を当て何やらブツブツと考えながら俺達と甲殻を左右に見てくる
なんや怖い。
「ピートレックスはデットスネークから派生した亜種になります。最大で30メートルになる大型モンスターでレベル6に認定されている危険種なんですが・・・これはまだ子供ですね、もしかしたら情報が見余っていたのかも・・・」
「あ、そういえば村長さんが調査に誤認があったって言ってましたよ?」
相羽君が受付嬢さんの『見余った』という言葉に反応して、受付嬢さんに言う
受付嬢さんはそれを聞いて益々難しい顔をすると俺達にこう言ってきた
「私はこれからギルド上部員に報告をしてきます。なお今回の依頼の誤認に我々(ギルド)からも調査不充分という事を謝罪をいたしますので後日、ギルドにご足労お願いいたします」
謝罪か・・・これ以上金が増えるのか?やだお金怖いわマミー。
「それと改めてこのモンスターについて調査したいので、できれば体の一部を預かりたいのですが」
「あはい。ならこれどうぞ!」
受付嬢さんがそう言うと相羽君は木箱からモンスターの頭を取り出した
そしてそれをカウンターにドンッ!と置く、衝撃で辺りに緑色の血液が飛び散る
しかし受付嬢さんは相羽君に頭を下げるとモンスターの頭を躊躇い無く抱えた
モンスターの死骸に抵抗が無いのかな?そういう風に訓練されてるとか?
涙ぐましいな、受付嬢って・・・
「それとその肉の山は素材ですか?」
受付嬢さんが手慣れた手つきでピートレックスの頭を布でグルグル巻きにしていると、肉片の山に気付き、訪ねてきた。
すると相羽君が俺を指で指して「灰原さんのです」と言う
その通り、相羽君がいらないって言ったので俺が全部引き取りました。
「カイハラさんはこの肉で何を作るんですか?罠ですか?それとも餌ですか?」
「いえいえ、焼き肉パーティーします」
俺がそう答えると受付嬢さんはあらか様に顔を青くする
「え?どうしたんです?」
「あ、いえ、モンスターの、しかも虫系の肉を食べる人は珍しくて・・・」
「そうすか?あ、食べます?」
「ご遠慮させていただきます」
チッここもかよ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「本当に食べるんですね・・・」
相羽君が若干引き気味に荷車を見る。その上には大量の生肉が積んである
デットスネーク改め、ピートレックスの肉だ。ちなみに今夜の夕食にするつもりである。
「男に二言はねぇよ?」
俺は荷車を引く部分を両手で握ると移動の準備を整える
外はもう真っ暗だ、時計はないが8時辺りかもしれない、なのでお腹はもう腹ぺこ、急いで帰ってこの肉の山を消化したいのだ。
相羽君は「がんばってください?」と何故か疑問系で俺に声援を送る。
さて帰るか。
「確か明日の昼だっけか?ギルドで集合な」
俺は反対方面にいる相羽君に明日の予定を再度聞き直す
俺と相羽君の借家は真逆の方面にある、見事に真逆。
「そうです、灰原さん帰り気をつけてくださいね?そっちはスラム街が近いんでしょう?」
相羽君は心配そうに俺に注意してきた。
この国にも元の世界のようにスラム街がある。
資源もある豊かな国だと思っていたのだがやはり裕福な人と貧しい人と貧富の差があるみたいだ。
なぜスラム街が誕生してしまうのか?
スラム街には主から命懸けで逃げ出した奴隷、没落した貴族、無職や収入がない市民、希にだが盗賊などで構成される、結果治安の悪い地域が出来てしまう。
アルフ王国が改善しようとしているスラム街問題は最も力を入れているモンスターに次ぐ問題らしい。
スラム街に住む住民に冒険者家業や王国からの仕事の募集などの改善計画している。
しかし準備している最中、タイミングの悪い事にヤタガラスによる転移時期が被ってしまい人工が増え、土地が減りスラム街問題改善計画が難航しているそうだ。
あの害鳥本当に余計なことしかしねぇな。
「まぁスキル持ちの冒険者を襲うバカな輩は居ないでしょうけど・・・油断しないでくださいね?」
相羽君が再度念を入れるように言ってくる
親かお前は。
「わーてるって、ほんじゃ明日!」
「おやすみなさいです、灰原さん」
お互い手を振り、別れを言い合う。
相羽君はピートレックスの甲殻がギッシリ入っているギルドで買った巨大革鞄を軽々しく背負うと、まるで空のリュックをでも運んでいるかのように歩いて行ってしまった。
言っとくけどビックって本当にデカいから、どの位大きいかというと牛一頭丸々入っても少し余る感じ、あの中に甲殻7枚とその他諸々入ってるんだよ?どんくらい重いんだろう・・・?
「・・・さて、帰るかな?」
俺は人外冒険者を見届けると荷車を引っ張ってギルド前を後にする
この世界の朝が早い分夜も早い、大抵の家は既に寝静まっているようで家から明かりが消えている
驚いた事に、この世界で電気や火が一般家庭に普及しているそうだ。
その原動力は『魔石』。魔石はその名の通り、魔力を含んだ特殊な石だ。
魔石に例えば火の魔法を注入するとそこに火の魔力が貯まる、それを使用するとそこから火が出る、という具合にそれぞれの魔石に魔力を使えば自由に魔法が使えるということだ、ちなみに威力の調整はできる。
だがこれが糞高いのなんのって、まぁ一般家庭に『火の魔石』『電気の魔石』『水の魔石』があるのが一般的だ。
火と水は料理や風呂(この世界でも風呂は一般的)、電気は照明という風に利用する
長々しい説明はいいか、とりあえずそんな関係で夜でも起きてる者は未だに家の中が明るいのは見て取れる。
きっと間違いなくスラム街にはそういった明かりが一切無いのだろう
本当はスラム街なんか行かない方が安全なんだけど、実は俺ん家と冒険者ギルドの間にスラム街を挟んだ位置になってしまっている、遠回りすれば3時間はかかる道をスラム街を通れば1時間まで短縮できる。いやぁ俺ん家ギルドまで遠いなぁ、位置も結構端っこだし・・・あの家を選んだのはハズレだったみたいだ。
あ、因みにギルドとスラム街が若干近いのは無法地帯と化してるスラムを監視下に置く為でもあるって相羽君が言ってた。
冒険者ギルドは勝手に強者が集まるし。
そうこう考えてる内にスラム街へと到着した。
辺りにちゃんとした木、石造りの家が見当たらなくなり、代わりに大量のモンスターのゴミ素材では溢れかえっているゴミ処理場が目に映ってきた。
「スラム街」・・・かつてはモンスターの使えなくなった素材や道具、燃やせないゴミなどを捨てるゴミ処理場、今はその素材を使って建てられた簡易的な家がそこら中に点々と存在する居場所を持たない者達の巣窟。
「これは・・・予想以上かな・・・?」
俺は眉毛をハの字に崩して顔を伏せた。
イメージはジャカルタのスラムよりは街っぽいって感じ
モンスターの素材は大抵は腐敗しないでそのまま残る場合が多いので臭いはそこまで酷くない、ただ腐敗臭が無いだけで、消臭処理がされてない素材から発せられる、モンスターの臭いが混ざって何とも言えない・・・
辺り一面ほぼ真っ暗に近い、俺は狩りスキルの夜目を使って視界を確保する
これでまぁ盗賊とかの奇襲を受ける事はないだろう。
これで俺に気付かれずに近づいたら天さ━━━
「お兄さん、お兄さん」
天才がいるようだ。
足下から聞こえる声を辿るとそこにはショタとロリがいた。あ、はい少年と少女です。
着ている服はボロ布を縫い合わせたような服装で、その裾から生えた手足はまるでミイラのようにやせ細っている、この子らはスラム街の子達かな?
少女の方は息も絶え絶えで少年に寄り添って立つのもままならないようだ。
原因は空腹による衰弱・・・痛々しい姿の子供を見て俺は同様を隠せない
貧富の差ってデカすぎだろ・・・
「な、なんだ?」
出来る限り穏やかな声で少年に返事をする、こんな子供にボケなんてできねぇ!!
「お願いしますお兄さんっ!お金は後でちゃんと払います!だからそのお肉を分けてください!!」
少年は少女が倒れないように必死に支えながら土下座をかましてくる
どうしよう・・・俺の心と彼の心との温度差が激しい
ここはなんて答えれば良いんだ・・・
A「帰れ糞ガキ!!」
B「好きなだけもってけぇ!!」
C「いいお」
AとBは即却下だな。
俺は頭の中で軽いシミュレーションを終えると軽く答えた
「いいお」
俺がそう言うと少年はバッと顔を上げて心底驚いているような表情をする。俺の返答がそんなにも意外だったのか?
「どうしたの?」
「あ、ありがとうございます!」
「それとお金とか・・・別にいらないから」
「え?」
お金の返却を俺は断った。
別に英雄談に出るような同情とかそんなんじゃない、ぶっちゃけて言うとこの量の肉の保存に少し困ってたし、この少年がお金を後から払うって事はどこかで待ち合わせしたりするってことでしょ?普通に面倒くさい展開が起きそうだから回避しておきたい、俺の『フラグ』はメンドクサいスキルなんだよ。
「い、良いんですか・・・?」
「はよう持って行った行った、そこの娘瀕死やん」
「ありがとうございますお兄さん!」
すると少年は肉片の一塊を抱えると少女を連れて歩いていった、さてイベントは終了かな?
帰るか。
「あ、あのぉ・・・」
後ろから遠慮気味の声が聞こえる。
振り向くと沢山の大人や子供の人達がこっちを見つめてた。
おぅふ・・・
ここら一帯のスラム街住民が集まって来ちゃったよ、種族は様々、獣牙族やドワーフが主だな、ざっと30人は居る、足りるのか?これ。
その後も食料を求めて人が来るわ来るわ
15メートル以上の怪物の肉は大人気のようで予想外の勢いで消えていく。
断りたいどほかの人に配ってしまったので今更止めることは出来ない。
結果大量の肉が姿を消した。
もうちょっとしか残ってねぇ・・・
山詰みされていた肉片はもう一塊しか残っていない、食品店などはもうとっくに閉まっている時間だ。
これを失えばもう今夜の夕食は諦めるしかない
それはアカン兎に角、誰にも見つからないように移動するしかないか、流石にこんな時間だしこの辺りにも配り切ったしスラム街で人に合うことはないだろう。
『フラグ発動』
油断してた。
このスキルの運命には逆らえないのはピートレックス以降学んである。
俺は荷車を引きながら前進する、どんな奴に会うんだよ・・・スラム街の人の雪崩?騎士団?もしかして盗賊かもしれない
はぁ気が重いなぁ・・・
重い足取りで帰宅路の道を歩くなか突如不思議な感触が足しから伝わった
ムニュッ
柔らかい・・・しかし力の無い、人を踏みつぶしたような音がした。
「・・・へ?」
(●´ω`●)ムニュッ




