煙センパイマジ
終わった、終わったんだ・・・
先ほどまで俺達に猛威を振っていたデットスネークも今は力なく地面に永眠している。
その事実を確認しただけで、身体から力が抜け落ちた。
俺はペタンと地に座り込んで呼吸を整える。
倒したのは相羽君だけど疲れた。目を潰ったら気絶しそうだ。
回復ポーションを使って体力は回復させたとはいえ、精神的疲労は消し去るはできない
戦いの間は精神を集中してデットスネークと戦ってたからだ。
だがそれも終わった。
俺は安堵のこもったため息を吐く。
「あ゛~、疲れたぁ」
「お疲れ様です」
労いの言葉を言ってこっちに歩いてきたのは狂戦士を解除した相羽君だった。
彼の笑顔を見てると、さっきまでの戦いが嘘のように感じる。
『覚醒スキル・狂戦士』を機動させた彼は序盤の削り合いから打って変わって完全な殺戮と化していた。あそこには作戦も技術も関係ない、本能による『殺し合い』しか見えなかった。
ぶっちゃけ、相羽君の顔が笑っててモンスターにしか見えなかった。
そんな事を思い出して相羽君を見ると、返り血を被った笑顔を見えた。
仲間の俺でも少し恐怖心が沸いてくる。
お化けより怖いと感じたのは初めてかもしれない、うん。
「お、お疲れー、身体は大丈夫?」
「そうですね、少しダルいです。狂戦士を使った反動でしょうね、最初に使った時もそうでした」
ありゃ!やっぱり身体に影響はあるんだ。覚醒スキルってのも、便利なだけでは無いという事か。
ははっ!欠陥があってうれしいなぁ!
「すごかったよ相羽君、いきなり蹂躙したからね。」
「はははっ最初から使えれば良かったんですけどね」
そういや、なんか最初「溜め」とかがいるって発動しなかったんだっけ?あの時は時間もなかったし、今思えば超無謀だったな俺達。なんで戦ったんだっけ?あ、そうだ俺ら狙われてたんだ。
「相羽君俺が生き返った後いきなり狂戦士使ってたよね。あんなに早く溜が終わるなら最初から使えばよかったんじゃね?」
多分俺が死んでから生き返るまで約数秒だろう。あの猪仕留めた時はすぐ食ってたのに俺の身体は食われてなかったのだから意識はすぐ復活したのだろう。その程度の溜めなら草むらで隠れてた時から狂戦士を使えたんじゃないか?という話だ。
すると相羽君はバツが悪そうに頭を掻いて重そうな口を開けた。
「実を言うと・・・僕、まだ狂戦士の発動の仕方が分からなかったんですよ」
「・・・はい!?」
何それ聞いてないんですけども!?
相羽君は申し訳なさそうに俯きながら話してくれた
「覚醒スキルって、通常のスキルとは違って心の中で「発動しろ」って唱えても発動しないんですよ最低でも「溜めによる威嚇」と「敵対心鑑定」だけなんですよ」
一般的な「生活必需シリーズ」などのスキルの発動はそれ程苦労しない。ただ念じれば簡単に発動することが出来るからだ、それこそ5才の子供でも扱えそうな代物
それは日常に必要なものだからでもある、料理をするときにレシピを思い出すような感覚に近い。
だが覚醒スキルはそことは違うようだ。発動には何かしら条件が必要になるのか?うわっ、めんどくせー
しかも覚醒スキルは一人一人同じのが出ないらしいから元からいる冒険者から聞いても多分答えがバラバラだろう、これでも答えを見つけた相羽君に賞賛を贈りたいね
パチパチよくできましたー
「じゃ、相羽君はどうしてさっき発動できたの?」
俺は相羽君にそう問う。
これから自分が覚醒スキルを開墾する事にもなるかもしれないから、少しでも何かしら情報は欲しい。参考にはなるかもしれないしね。
「・・・敵対心です」
「んへ?」
ヘイトって相手にかけるんじゃないの?
「・・・灰原さんが、そのっ死亡した時に、僕はデットスネークに怒りを感じました。すると周りに意識を送ってた感覚を全部デットスネークに向けたんです。その後は容易に発動出来ました。」
あ~、俺が死んじゃった時かぁ、あの時はびっくりしたねぇ過去の俺ドンマイ!
あ!もしかして俺のお陰で発動できた?俺のフラグ発動も相羽君に作用したのかな?
ナイス俺!
「僕の狂戦士は、敵一体に僕自身の敵対心を集中させる事が発動条件みたいです。ステータスの「賢」が減るのは、理性を消して自分を獣のように戦わせる反動でしょう」
相羽君は淡々と自分の意見を言ってくれた。
つまりあれか、一対一の戦いで負ける事はないスキルって事?
あれ?だとすれば・・・
「・・・相羽君のスキル、パーティ戦や複数戦に向いてなくね?」
パーティで行動するにあたって、大切なのはやはり連携だろう。
しかし、相羽君の言う「敵対心を敵一体に集中させる」なら仲間に気を配ることや援護、連携すらままならない、確実にソロ用のスキルだ。
そう俺が言うと相羽君は言いにくそうに「は、はい・・」と言ってた。
まぁ相羽君の場合は狂戦士を起動させなければいい話だろうな、剣術も上手いし
ステータスの伸びもいい、基本ノーマルを軸にして狂戦士を奥の手として取っておくスタイルがいいかもしれない。
「まぁいいや、とりあえず狩りお疲れ様。」
俺がそう言って片手を上げると、相羽君も察したのかニッコリ笑って同じく片手を上げてお互いの拳をぶつけ合った。
革の装備が当たって柔らかい音が鳴った。
「とりあえずこの後どうすれば良いのかな?」
狩りが終わった後の後始末なんてわからない、だが心配はいらない。
経験者がここに居るのだから聞けばいいのだ。
すると経験者(相羽君)は口元に手を当て考える仕草をしてデットスネークを見ると指示を出してきた
「まずはデットスネークの解体処理をしましょう。ここまで堅い甲殻なら良い防具や金になります、銅の剣で外しながらいきましょう。」
あら、やっぱりモンスターの素材とかあるんだね。異世界ってすげぇなぁ。
だがゲームのようにアイテムボックスとかなんてものは存在しない。しかし持ち帰るには量が多すぎる。運ぶ手段なら荷車があるけどアル村まで戻らなければならない
「どうする?村に戻って荷車でも持ってくる?
」
俺がそう聞くと相羽君も同じ事を考えていたようた。相羽君は頷いて地図を取り出していた
どっちかがここで解体をしてもう一人が村まで戻らなければならない。どう分けるか・・・
「灰原さんに村まで荷車を持ってきてもらっても良いですか?ここに留まるならデットスネークの肉を狙ってモンスターが集まりそうですし、解体に使う銅の剣も僕のはまだ健在です。」
相羽君はそう言って少し不安げに地図を渡してくる。自分の判断が正しいか不安かもしれない
俺が銅の剣が折れてナイフ程度にしか使えない今、もしここに群がったモンスターを俺が相手にするのは不可能だしあんな堅い甲殻とかも解体は難しい。俺としては妥当な判断だと思う。
「いちようモンスター除けの煙薬があるんですが僕の双剣の片方を灰原さんに渡せば解体できると思いますけど?」
相羽君は地図と同時に花火の煙玉のようなピンポン玉サイズの玉を渡してきた、役割はどちらでも良いらしい、判断は俺に委ねるっぽい。
う~ん、俺達は一時的のパーティだからアルフ王国に帰ったら解散するだろうな、そしたらデットスネークみたいな大型モンスターの解体の経験なんてとれないだろうし・・・
モンスター除けの煙玉があるなら俺の「解体してたらモンスターに囲まれちゃった!てへ☆」の心配はないということだ。
剣を貸してくれるというし、折角の機会だ解体してみよう。
「それじゃ俺は解体してみるよ。折角だし」
「わかりました出来るだけ早く荷車を持ってきますね。煙玉はどこでもいいので表面に火を付けてください、その後煙が出るのでその煙をデットスネークを囲むようにまいてください。それが終わったら中央に捨ててください。そうすれば経ち煙になって僕からも目印になります」
そして相羽君はまるで脱兎の如くのスピードで走り去ってしまった。
村の方角がわかるのだろうか?とにかく相羽君は草むらのなかに入るとそのまま行ってしまった。樹海の中って足場悪そうなのにね・・・
まぁ相羽君が頑張って走ってるって事で俺は持ってたマッチで煙玉に火を付けた。
シュボッ!という音が鳴るとまるで火事の消火器のように煙が噴出してきた。
一瞬焦るが俺はその噴出してる方向を地面に向けて、デットスネークの死骸に円を描くように歩いて回った。
そこで気づくが、この煙、噴出した場所に一定時間消えずに残るっぽい。
お陰でデットスネークから一定の範囲外から霧で囲まれてるようにも見える、ちょい怖いな。
兎に角これで雑魚モンスターは近づかないみたいだ。まだ煙玉から煙が排出されてるので地面に置いて噴出してる方向を上に向けた。
うん、焚き火の煙みてぇ。
というわけで俺は相羽君から借りた片双剣を握ってデットスネークの解体を始める。
堅い甲殻は、甲殻と甲殻の間に剣を差し込んでテコの原理で外す。少し外すのに力がいるがこれで順調に外す事ができた。
なんか瘡蓋を外してるようで中々楽しい。
「ガルゥルルル・・・!」
突然、狼のようなうなり声が聞こえた。
雑魚モンスターは近づかないって言ったじゃん!まさか不良品か!?
俺は盾を装着して辺りを監視する。するとドンドン足音は増えてきた。
うわぁマジで止めてぇ本当に怖いわぁ
俺が戦いを覚悟したが、いつまで待っても襲ってくる様子は見れない。それどころか声すら聞こえなくなった、試しに煙の壁から首を出し周りを見るが、何も居ない。
もしかしてこの煙がモンスターを追い返したのだろうか?この煙には何かモンスターの苦手な成分や臭いが混じってるのかもしれない。
いやぁマジ煙センパイやばいっす!マジぱねぇっすこれからも俺を守ってくだせぇ!
冗談はさておき・・・
さっさと甲殻剥いで終わらせちゃおう
ピキパキッと音を立てて、デットスネークの死骸から1メートルほどの甲殻が剥がれ落ちた。
剥がれた甲殻を手にとって思う。
硬い。
触った感じでは鉄よりも硬く、そして軽い。
これだけの強度を誇っていながら多分俺の革鎧総重量よりも軽るく、強度も高い。
冒険者がモンスターの鱗とかで装備を着てるのを見たことがあるが、それは自慢かファッションかと思ってた。
でも実物を見てみると、これほど理想的な素材は他にないだろうと思うことができた。
異世界様々だなぁ。
数時間後、相羽君が荷車を引きずりながらやってきた。煙玉の煙で居場所がすぐ分かったらしい。いやぁ煙センパイマジ(ry
俺達は一抱えほどある甲殻をドンドン荷車に乗せる。
落ちないように一端箱に入れてからそれを紐で縛って荷車に固定する。
その作業を何回も続けるのだが、採取出来た甲殻は全部で15枚。つまり甲殻を仕舞う作業を15回続けたが、それなりに疲れてしまった
甲殻が軽いのが唯一の救いだ。
さて、残ったのはデットスネークの甲殻が無くなった身体と切り落とした首だ。
これをどうするのか・・・
「相羽君、余った死骸はどうすんの?」
俺は死骸に指差しをして聞いてみた。
相羽君は空の箱を持ちながら答えてくれた。
「頭は持ち帰って討伐した証と突然変異種という証拠品にします。余ったのは・・・好きにしてもいいですよ?狩り取った獲物はその人の所有物になりますから」
まぁ大抵は素材を剥ぎ終わったらそのまま廃棄する人が大いですけどね、といいながら相羽君はデットスネークの頭を木の箱に収納していた。
俺は無言でデットスネークの死骸を見る。
甲殻の外された背中は肉丸出しだった。
だが、あれだけの巨体を支えていた筋肉はよく引き締まっている、血抜きをすれば食べられないことめないだろう・・・
そうすることができればアレはただの肉の山盛りだ。
「・・・食うか」
「え!?」
相羽君が裏声になって驚いていた。
この肉が、彼の人生を変えるかもしれないしそうでもないかもしれない。
甲殻かもしれない。




