二巻発売記念・ストップ!! ツァスタバくん!
一巻特典SSですが、二巻発売に合わせて解禁しました。
本編更新までのつなぎとしてお楽しみください。
カレルレンさんがまだツァスタバさんで、おっさんたちと旅してる間のひとこまです。
世の中には、「誰でもよかった」に始まり、「魔がさした」とか、「つい出来心で」とか、「かっとなってやった」とか、動機としてはかなり社会を舐めくさった犯行動機が存在する。
聞くも涙、語るも涙の凄惨な過去から、それをもたらした憎き相手への復讐のため、下準備から何からものすごく頑張って、クローズドサークルの連続猟奇殺人やり遂げました、という犯人からすれば、「お前の部屋、この後密室な。被害者お前で」、くらい言いたくなるだろう。
それはさておき、目下ツァスタバを名乗っているところの私――何かもう、最近ツァスタバでいいんじゃね? とか思わなくもないんですが、それはそれ。
現在、心のどん底から猛省なう、でございます。
いえね? 今ではもはや薄ら記憶の彼方だけど、私の外の人って、あのままだと、ええと何だっけ、何たらかんたらって乙女ゲームの、主人公を陰で虐める陰険メイドに成長してたらしいんですよ。
今思うと、あれインフルだったんだろうけど、高熱でいい塩梅にラリった帰宅途中、DQNの車に轢き潰された時、バッグの中に友人から借りた(つか押しつけられた)乙女ゲームが入ってたせいなんでしょーか。
欧州情勢じゃないけど転生情勢は複雑怪奇なり、ですはい。
つまり、何が言いたいかっつーと、「果たして私がメイドなるものになるのは可能であるか」、それについて検証してみようとか、思ったのでございます。
思うだけならまだいい。
そう思って、検証するだけなら思考実験で十分だっつーのに、それを実証しようとか、世間一般で言うところの「血迷った」、「一時的狂気」、「おい馬鹿やめろ」とか言う狂気の沙汰と言うそれを、こともあろうにやらかしやがてくれやがっちゃったのですよこの馬鹿は。
ホントどうした私。
つか、これは不可抗力とかそーいう類のものだと思うんですよ。前世で嗜んでたVRMMOの運営が、運営をあそこまで追い込んだあのアホどもが全部悪いんであって、俺は悪くねぇっ!
どーいうことかと申しますと、私が生前嗜んどりましたVRMMO、タイトル『ミヅガルズ・エッダ』は、これといったグランドクエストやストーリーがなく、ミヅガルヅという世界をぽーんとプレイヤーに放り投げ、この世界を好きなように楽しむがいい! と楽しみ方をプレーヤーに一任しておったのです。
そんなミヅガルヅを、私は私なりに楽しんでたのですが、一部の連中がちょっと、こう、やらかしおったのです。
曰く、「ファンタジー世界なのにメイドがいない、訴訟」。
それだけならまだしも、NPCにメイド実装要求メールを、迷惑メールのごとく運営に送りつけるという真似をしでかしやがったのですよ。
事の顛末を聞いた時には、件のアホどもに、石抱きさせながら頭のネジ締め直してこい、と小一時間くらい説教してやりたくなりましたね。
が、運営もさるもの引っ掻くもの。ものっそい変化球で返してきたのです。
「あのクソムシどもメイドメイドるっせえんじゃダボがそんなにメイドが好きならいやってーほどメイドに囲ませたろうやないかいてめえらちょい体貸せやゴルァ!(意訳)」
そんなメッセージとともに、件のアホどもを除くすべてのプレイヤーに、あるアイテムが一斉送付されました。
……ええ、そうです。アホども除く全てのプレイヤーに、ネコミミつきホワイトブリムとフレンチメイドなゴスロリメイド服、ドロワーズ(ゴスロリ仕様)、ガーターリング付きニーソ、リボン付きアンクルストラップパンプスのセットが送付されたのです。
第一次運営発狂事件とも呼ばれるそれに、多くのプレイヤーが乗っかりました。
アホどもの行いにちょっとカム着火インフェルノしてた連中が水面下で根回しをし、アホどものログインに合わせて一斉にメイド服セットの着用に及んだのです。
防御力はもとより、特殊効果の類は、着用者に対するサイズ補正以外一切ない、ただのゴスロリメイド服セット(ネコミミ付き)。
美女美少女美少年男の娘のそれならば眼福であっても、巨人族のオネエに率いられたオネエ集団(加工前)、てらてらひかるマッチョエルフ爺と愉快なビルダーどもを筆頭に、視覚の暴力を超えた精神攻撃とも言うべき、むくつけきメイドで溢れ返ったログイン広場に響き渡ったアホどもの断末魔は、実に心地よかったとは運営の御言葉。
なお、アホどもは全員心に深い傷を負って『ミヅガルヅ・エッダ』から去っていったそうな。
その、第一次運営発狂事件で配布されたメイド服は、アホども除く全てのプレイヤーに配布されており――当然私もそれを受け取っていた訳で。
でもって、今生で何故か使えているインベントリにも、それはしっかり入っていた訳なのですよ。
……うん、「そういうこと」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
幸いなことに、今日の宿は一人部屋。
試してガッカリ前提で、「もしあのままメイドになっていたら」大実験、やっちゃったのでございますよ。
直接型を取ったように抜群のフィット感、感触から察するに、総シルク製と労働着にあるまじき贅沢さと感動の肌触り、下品にならないギリギリのラインで踏み止まったコケティッシュが、そこはかとない労働着としての品性と融合した神デザインは、至高の一着と言ってもいい。
それも全て、着てんのが私じゃなけりゃの話だけどな!
何かのイベントの抽選で当てた姿見があったんで、引っ張り出して前に立った瞬間、ピシッて音したからね。
そりゃ姿見だって自害したくなるだろうよ。こんなもん映させられたら、自分の仕事に絶望しか感じねーよ。
もうね、視覚の暴力っつーか視覚の対精神殺傷兵器。
そこでやめときゃいいのに、アイデアロールに立て続けに成功しちゃったのか何なのか、姿見に向かって、
「いってらっしゃいませご主人様」
とか、やらかしちゃったのでございます。
一時的じゃなくて永続的狂気の沙汰です。
ヤンデレの「行ってらっしゃいませご主人様、死ね!」は拗らせた愛情表現の発露と言えなくもないけど、これは「(あの世に)逝ってらっしゃいませご主人様、死ね(物理)」です。
確実に殺す気です。
直接手ぇ下さなくても、ちょっと心臓弱かったらショックで「(あの世に)逝ってきます」ってなっても不思議じゃないレベル。
でも、この蛮行によって、私は確信したのですよ。
私のこれまでの行いは、間違いなんかじゃない。決して、間違いなんかかないんだから……! と。
うん、ここまで明らかにあからさまに見るからに「本業殺し屋です」みたいなメイドがおったら、乙女ゲーム爆発四散してサヨナラ! 次回より殺し屋メイド暗殺帖、お命頂戴! だもんな。
いやー離脱して正解正解。
さて、これ以上はマジで私の正気がやばい。
最終視覚兵器を映す姿見を、続けてメイド服セットをインベントリに放り込み、いつもの格好に戻ったところで、何かがこみ上げてきた。
「は」
あ、やばい。
「はは」
これはやばいぞー。
「ははは」
咄嗟にベッドにダイブして、枕に顔を押し付ける。
外に漏れたら、確実に疑われる――私の正気が。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
躁病じみた笑いの発作に、腹筋が波打つ。
分かっているけど、やめられないとまらない。
仕方ないよ、ツボに入ったんだもの。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
あーこれあかん、マジ止まらん。
助けてドラ○もーん!
……結局そのまま笑い落ち、気が付けば朝でした。
寝落ちはあれど笑い落ちって。
とりあえず、自分にメイドは無理だと、頭ではなく心でりかいしたツァスタバさんはっさいなのでした。