表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

なろうコン一次通過記念

うちのお嬢様が腐女子なのはどう考えても前世が悪い(本タイトル)

腐女子死すとも801は死せず      ――詠み人知らず





 アナ=マリア・マルゲリット・ガブリエル・サヴィニャック子爵令嬢は、レリンクォル王立学園における、「引っ込み思案で人見知りの、内気で目立たない令嬢」グループの一人である。

サロンも一応開きはするが、呼ぶのも呼ばれるのも大概は固定メンバーで、お世辞にも社交的とは言い難く、成績も、可もなく不可もない平均のど真ん中で、砂糖菓子のようなふわふわとした薄桃色の髪や淡い忘れな草色の瞳が愛らしい美少女ながら、妙な影の薄さがある。

もっとも、王太子殿下をはじめ、綺羅綺羅と見目麗しい男子生徒の当たり年な上、その中でも容姿に加えて家柄実力にも恵まれた男子生徒を片っ端から落として侍らせている、話題沸騰、(ある意味)人気沸騰、王立学園のショッキング・レディのおかげで、大概の生徒、特に女子生徒は影が薄くなっているのだが、それはひとまず置いておこう。


 今日も今日とて、思わずアッホくさ、と白けざるをえない空気を撒き散らす御一行をよそに、アナ=マリアはごく少数の“大切なお友達”をサロンに招いていた。

老修道女の寄り合い、雑草の寄せ植えと揶揄されるサロンで交わされるのは、そう遠くない未来に訪れるであろう嵐に備えての、昨今の学園内部の事情についての情報であり、安全な立ち居ちについてである。

だが、それも、真の目的の前フリに過ぎない。

彼女たちの、真の目的。

それは――。


「……こちらを」


 アナ=マリアが、ティーセットの並んだテーブルにそっと乗せたのは、小花柄の布地やレースの端切れで装丁された、手製本らしき本であった。

ぱっと見はスクラップブックのようである。

押し花や絵葉書、小さな彩色石版画など、少女らしい感性が「可愛らしい」と感じたものを寄せ集め、ささやかに自慢しあう?

――否。


「まあ! 三ヶ月ぶりの新刊ですわね!」

「あら、狡いですわクロティルド様! 前の新刊では、わたくしが順番をお譲りしたのをお忘れではなくて?」

「落ち着きなさいませヴェロニク様。アナ=マリア様の新刊ですもの、お気が急くのも分かりますが、待つほどに萌え上がるものでしてよ?」

「ミュリエル様の仰有る通りですわ。わたくし、前の新刊を最後まで待ちました時には、それはもう萌え上がりましたもの!」


 うっすらと頬を染め、ほう、と幸福そうな溜め息をつきながら、少女たちは、世に二つとない宝石に触れるように、テーブルに置かれたそれに手を伸ばす。


「ヴァランティーヌ様は、待つのがお好きですわよね。……わたくしは、最後で構いません。――皆様には申し訳ないのですけど、先に目を通してしまいましたの」


 ミュリエル、と呼ばれた少女に、アナ=マリアを除く少女たちの視線が突き刺さった。


「……どういうことですの、ミュリエル様?」


 クロティルドと呼ばれた少女が、硬い声を出した。

ぴん、と空気が張りつめる。


「それは――」

「今回の新刊から、ミュリエル様に挿絵をお願いしたからですわ」


 先回りしたアナ=マリアの種明かしに、再びミュリエルに視線が突き刺さるが、二度目の視線には、一度目の視線にはない熱さがあった。


「まあ! ミュリエル様、ついに絵師デビューなさいましたのね!」

「わたくし、どちらも“ろむ専”ですから、羨ましいですわ……」

「アナ=マリア様の新刊で絵師デビューだなんて、贅沢ですわね」


 きゃっきゃうふふ、和気藹々と背景に花を飛ばしながら語り合う少女たちの姿は、実に愛らしい。

会話を聞きさえしなければ、眼福といってもいいほどに。


「……アナ=マリア様には申し訳ないのですけど、わたくし、俺様主人×暗殺者アサシン執事の方がしっくりしますの。確かに、俺様主人の山より高いプライドをへし折る爽快感はたまらないのですが、それでしたら自分の所有物の暗殺者アサシン執事が、かつての師に希薄な感情を揺り動かされ、師を選んでしまう方が、萌えると思いますの」

「クロティルド様は執事右派ですものね。ですけど、執事左でもそのシチュエーションは萌えますわ……!」

「ヴェロニク様は執事左派ですの?」

「そう仰有るヴァランティーヌ様は、師匠×暗殺者アサシン執事推しですわよね」

「どちらかと言えば、修行時代に同門の先輩、同輩に玩ばれる少年時代の暗殺者アサシン執事、ですかしら」

「……どうでしょう、クロティルド様、ヴァランティーヌ様。それで何かお書きになってみては?」


 聞く者と第四の壁の向こう側の存在のSAN値を、容赦せん! と音を立てて削り殺しに来る会話に、温かい紅茶とお菓子を絶やさぬよう、背景に同化しながら立ち回っていたアナ=マリアつきの(書類上では)メイドであるところのヴェルヘルミナは、「聞かなきゃよかった」と、ただただ沈痛な眼差して、後悔の溜め息をつく。


 ……手遅れすぎたんだ。腐りきってやがる。


 汚嬢様、もといアナ=マリアの、シックスセンスもス○イダーセンスもフォー○の暗黒面ダークサイドもビックリの超能力的嗅覚が探し当てた腐女子の“原石”たちは、アナ=マリアという、目下ケレンディア唯一にして最強のお超腐人によって、腐女子から貴腐人へと変貌を遂げつつあった。

いわゆる“ただならぬ仕上がり”への第一歩である。つまり、これでもまだ“曖昧な状態”というやつなのだ。


 貴腐人として覚醒した少女たちは、やがてお超腐人へと至り、かつて自分たちが見出だされたように、腐女子の“原石”を見出だすことだろう。

そうしてゆっくりと、しかし確実に、それは広がってゆくに違いない。

まだ幽霊いっぱいグロいっぱいな病院併設した孤島の廃墟とか、湧く湧くガイキチ&ゾンビランドの方がマシなんじゃないだろうか。特殊な機材が必要だったり難易度に差はあれど幽霊もゾンビも退治できるし。ジャーナリスト型対ゾンビ殲滅兵器? あれは論外。


 私を転生させやがった神さまだかなんだか知らないナニカさま、一ッコだけ聞きたい事があります!! 私、もうSAN値減少続きでヒドイ有様です。この先もずっとSAN値直葬まっしぐらな人生なのでしょうか……。

そう胸のうちで呟きつつ、死んだ魚のように濁った目で、ヴェルヘルミナは何度目になるかわからない溜め息をついた。

お超腐人と貴腐人化待ったなしな腐女子たちのきゃっきゃうふふは、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ