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一次選考残留記念番外編

【うちの会社は】鷹さんの海外事業部異世界営業日誌【PMC】

一、戦争は 忘れた頃に やってくる

一、いつまでも あると思うな 治安とインフラ

一、万一に 備えておこう 自衛手段


              ――W・Oワイルドオーダー社社訓より一部抜粋





 W・O社は、珍しく日本に本社を持つPMC、民間軍事会社である。


 世界各国の退役軍人(自主退役者含む)を社員として迎え入れ、年に一度の社員旅行には、そんな社員たちのコネを使って、○○陸・海・空軍□□部隊△日間体験入隊とか、アンビリーバボーでエクストリームな体験ができるステッキー福利厚生もついている。

各種保険も実に手厚く、社員に優しい会社なのだ。


 市川鷹いちかわようは、W・O社の海外事業部に在籍する、女子・・社員のひとりである。

身長189.9センチの長身に、類い希な身体能力と戦闘・・能力を誇り、現地実働担当部署はもとより、社員旅行先の、某国や某某国や某某某国の陸海空軍から熱烈なラブコールを頂戴した、部内どころか社内屈指のイケメンと名高い女子・・社員である。

大事なことなので二回言いました。


 現在市川鷹は、某日本企業の現地法人が某地域に建設中の、海水の淡水化プラントで発生した、ある特定の思想の熱狂的信奉者による人質占拠事件を解決すべく、人質となった米国籍社員の家族が個人的に雇用した零細企業との、合同救出作戦の支援真っ最中であった。


 W・O社が独自に保有する通信(+α)衛星を介して、高度に暗号化された情報のやりとりをしているが、零細企業のオッサンどもときたら、こっちの提示する作戦案ガン無視の空気である。


 ちったあこっちの提案聞けやこンの世紀末高校バスケ部どもぐぁ! と台パンしたくなるのをグッと堪え、市川鷹は、海外事業部の専用デスクで、額にぶっとい青筋をのたくらせていた。


 どいつもこいつも俺ジナル杉だっつーの大体正面から強行突入って節子それ作戦やないただの突撃二十世紀(主に1980年代)アクション映画や頼んますからこっちの話聞いてつかあさい、と、零細企業のオッサンどもに感化されつつある現地職員のテンションにもギリギリしつつ、それでも、ジャパニーズトラディショナルなアルカイックスマイルは崩さない。


 バンダナと段ボールが似合う渋マッチョオヤジと評判の部長に、アイコンタクトで支援要請――メーデーメーデー、アルファリーダー、こちらブラボー1、現地の連中が思った以上にアレでしたタスケテー!

アルファリーダーよりブラボー1、あの手の連中は死んでも治らん諦めろ。健闘を祈る。

ブラボー1よりアルファリーダー、ひっど! うわひっど! そりゃないっすよあと一人くらい生贄プリーズ!


 そうこうしているうちに、零細企業のオッサンどもが勝手に作戦行動開始コンバットオープンしており、市川鷹は、癖のある黒髪を掻きむしりながら、現地実働担当部署の職員には、零細企業のオッサンどもを陽動に使いつつ潜入、後方班には潜入チームとオッサンどもの支援の指示を飛ばし、オッサンどもには、現地実働職員の通信システムから割り込みをかけ、衛星で確認した情報を流す。


W・O社ウチとの合同作戦である以上W・O社ウチの顔に泥塗りくさりおったらAV‐8Bかっ飛ばして八つ裂きに行ったるよって人質怪我させんな救出メンバーから死傷者出すなわかったかチ○○ス野郎どもッ!』(意訳・戸棚ツ子)


 と、通信の最後に、ノンブレスで吠えた荒ぶるOLへの返答は、


『イエス、マム。作戦こいつが終わるまでに、冷えたブドヴァル、ケースで用意しといてくれ、ついでにいい女もな。ああ、お前さんでもいいぜ』


 であった。

くそうこのオッサンやりおるわ、と想定外の返球に苦笑しつつ、逐一変化する状況を確認し、潮目の変化を待つ。


 その時は、思ったより早くに訪れた。

それはもう容赦なく、男子中学生のようにヒャッハーしていくオッサンどものせいか、犯人側の戦意が折れたらしい。


 モニタを通してもわかる変化に、部長がアイコンタクトで飛ばしてきた制圧の指示を、間髪いれずに現場に送る。


 余談ではあるが、この変化について、同じ部署の他の社員は、「そんなんわかる訳ねーだろJK」らしいが、市川鷹としては、なぜわからないのかが、わからない。

休憩中、コーヒー片手に、何でわからないのかがわかりません何でなんでしょう、と部長に相談したところ、部長も、確かに、あれだけわかりやすいものが、なぜわからんのだろうな、と不思議そうな顔をしたので、自分は間違っていないとの認識を新たにしてしまい、部長ともども“逸般人”の称号を得ていることを、本人は知らない。


 逐一送られてくる状況を確認する一方、赤字で至急!! と見出しを入れた走り書きのメモを手空きの同僚に渡す。

同僚も心得たもので、素早く更に後方、現地兵站の補給・輸送担当部署に要請を出す。


 メモ書きの物資の手配が終わり、現地への輸送手続きが終了した、と現地兵站からの返信と、潜入チームからの人質救出の一報は、ほぼ同時に入った。


 家に帰るまでが遠足です。安全が確保された後方に救出した人質を届けるまでが人質救出作戦です、と念を押し、楽しくヒャッハーしているオッサンどもに、潜入チームの脱出支援の要請を入れる。

九割九分九厘、いい感じに頭おかしい、支援という名の世紀末スポーツ大会にしかならないのは承知の上だ。

別にどうにでもなーれ、とか思っている訳ではない。多分。


 生ぬるい感じの眼差しでモニタを眺める市川鷹を、同僚たちが生ぬるい感じの眼差しで見守っている。

うわあアレ担当しなくてよかったわー、と、そんな感じの生ぬるさだ。


 後方に展開していた部署からの、人質と潜入チームの無事な帰還を知らせる一報は、更に二十分ほどしてから入った。


 人質は、軽度の栄養失調と脱水症状が出ていたが、二、三日も入院して安静にしていれば済むレベルであり、人質占拠事件に巻き込まれた精神的ショックの方が深刻らしい。

医療チームからのコメントは、可及的速やかなメンタルケアが望ましい、であった。


 潜入チームの損害は軽微。八名が負傷したが、有効射程距離外からの攻撃であり、一人合計五針未満の裂傷を負った程度と命に別状はない軽傷ばかりで、事前に想定していた以上に低く押さえられている。


 問題のオッサンどもであるが、こちらも損害は軽微だったらしい。

社長を含めて総員六名の零細企業ながら、何と驚きの負傷者ゼロ。

あのオッサンども連邦のモビルスーツか、と口走ったのもむべなるかな。


 犯人側の被害状況とかプラントの被害状況とかはまだ聞きたくないです言うなよ絶対言うなよフリじゃねーぞ、な空気を漂わせつつ、ぐてっと脱力している市川鷹の耳に、現地の喧騒が遠く響く。

爆音がするところを聞くと、救出した人質の搬送用ヘリが着いたのだろう。

それに混じって、場違いに陽気な口笛が聞こえる。“荷物”も無事届いたようで、何よりだ。


 もうゴールしてもいいよね、とか言い出しそうな風情でぐでんとしている市川鷹の目の前に、インスタントには決して出せない、ジャバロブスタの香り高い湯気が立ち上る大ぶりのマグが現れる。


「よくやった」


 滅多に人を褒めない部長の一言ごほうびに、滅多に形状変化しない市川鷹の頬がゆるんだ。


「……ありがとう、ございます」


 マグをおしいただくように両手で持ち、豊かな香りにうっとりと目を細める。

はい、滅多にない貴重なWデレいただきましたー、とか謎の音声が聞こえているが、気にしたら負けだ。


 嵐のような一時が過ぎ、そこはかとなく弛緩したような空気が流れてゆく。


 異変は、その最中に突然襲ってきた。


 キィン、と甲高い金属質の音が、鼓膜を突き破かんとの勢いで襲いかかり、短い悲鳴とくぐもった苦鳴がそこかしこから上がる。

市川鷹も、本人的には盛大に顔をしかめ、低く呻く。

咄嗟にデスクに置いたので、マグを取り落とさずに済んだのは、不幸中の幸いだ。


 左手で耳を押さえ、市川鷹はデスクに置いた業務連絡用のスマートフォンを取り上げ、他の部署へとかけるが、応答がない。

人が出ないのではなく、電波そのものが届いていないのだ。

続けて複数の部署にかけるが、やはり応答はない。


「報告します! 現在他の部署との通信が断絶している模様、指示を願います!」


 多少ふらつきながらも立ち上がり、部長に指示を仰ぐ市川鷹に、つられるように周囲の社員も他の部署へと連絡をいれるが、つながる気配はやはりない。

しかも、窓の外の光景が、明暗反転輪郭抽出エンボス加工エトセトラしたような摩訶不思議空間になっているのだ。どう考えても普通ではない。


 普通ならパニックに陥っても不思議はないが、皆一様に落ち着いている。

さすがは、経営方針に『第三次世界大戦を戦い抜けるPMC』などと斜め上なモノを掲げているだけのことはある。


「こちらも確認した。これより防衛準備状態の段階を上げ、デフコン3とする。各人準備に入れ!」


 部長の指示に、市川鷹はじめ各員がデスク下のデッドスペースから、荷物を引っ張り出す。

市川鷹が引っ張り出したのは、二つのバッグ。

一つは、外資系の倉庫型マーケットのショッピングバッグだが、もう一つがショルダー付きアリスパックというあたり、斜め上である。


 市川鷹だけが斜め上かと思いきや、周囲の同僚たちも似たり寄ったりなモノを引っ張り出しているところを見ると、海外事業部総斜め上であるらしいが、市川鷹がショッピングバッグから出したものは、更に斜め上であった。

W・O社謹製標準作業服・・・――どう見ても陸戦用野戦服、しかも特殊部隊仕様ですありがとうございます。


 男性社員もいるというのに、退かない媚びない省みない潔さで黒のパンツスーツとローヒールのパンプスを脱ぎ、グレーのハイネックと下着姿になるが早いか、手早く作業服・・・に着替え、分厚い靴下をはいた足を、生物化学災害対応耐腐食性ソールのごっついコンバットブーツに突っ込む。

タクティカルベストを着込み、全長五十センチはあろうかという鉈のようなボウイナイフ(商品開発部謹製・炭化タンタル添加の超硬合金製(物理気相成長済))を、タクティカルベルトの左腰に吊るしてベルトで太腿に留め、手袋をはめアリスパックを背負う。

もはやどこにどうツッコむべきかわからない。


 部長以下、他の同僚たちも似たり寄ったりで、特殊警棒とか円匙とかコンパウンドボウとか消防斧とかバールのようなものとか約束された勝利の鈍器エクスカリバールとかを手に、法治国家の意味を考えざるを得ないステキスタイルである。

もうこうなると、ツッコミとかしてる場合ではない。


 飛び道具持ちと女性社員を中心に、その周りを囲むよう、男性社員が円陣を組み、油断なく周囲に意識を向ける。

ちなみに、市川鷹は当たり前のように外周組であった。南無。


 と、不意に、あの不快極まる音が再び響いたかと思うと、今度は床に光の筋が浮かび上がった。

光の筋は、強いていうならライトノベルやジャパニメーションに出てくる魔方陣めいた、円と記号を組み合わせた奇妙な図形を描くように走る。

図形が完成すると同時に、閃光手榴弾のような強烈な光が生じ、部屋を飲み込む。

閃光は一瞬にして消え――W・O社海外事業部十五名の社員もまた、その姿を消していた。


 後にW・O社海外事業部マリー・セレスト事件と呼ばれる失踪事件はかくして発生し、その二年後、とある零細企業がドンパチ真っ最中の某国某地域の某組織最大の麻薬生産拠点に突如として現れることとなるのであるが――それはまた、別の物語おはなし

あくまでネタです。ノリと勢いと一時のテンションでやった。反省も後悔もしている。

続くかどうかは不明です。



……ところで零細企業でニヤリとしたアナタ。

僕と契約して、同志オッサンスキーになってよ!

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