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閑話2 Tinker Tailor Soldier Father

 オープンさが売りのオンラインVRゲームにあって、一部の趣味人が、その趣味の限りを尽くして立ち上げた、極めて異質なものがあった。

完全クローズドと言ってもいい閉鎖性、立ち上げた趣味人たちが厳選した参加者の数は、なんと五十人未満。

その少ない参加者は二つの陣営に分かれ、互いの主義主張のためにぶつかりあうのである。


 では、その陣営とはいかなるものか。

ひとつは、戦火を拡散させるための道具として作られ、しかし造物主に刃向かい平和のために奔走するものたち。

いまひとつは、支配された戦争状態を作り出すことで市場を確保し、陣営の永久とこしえの繁栄を望むものたち。

参加者はそのどちらかに所属し、自らの陣営の主義主張のため、戦うのである。


 趣味人どもが趣味で立ち上げただけに、舞台も無駄に手が込んでいた。

現実世界における近代戦争の始まりから今日に至るまでの歴史を踏まえ、その現実の延長上にありながら、少しだけ現実を超えた、しかし決して不可能とは言いがたい技術のある世界を作り上げたのだ。


 目下、優勢なのは後者であるが、前者の勢力が横の繋がりを重視したものであるのに対して、後者は縦の繋がりではあるが、下部に行くほど自由度が増す構造を有しており、トップに行けば行くほど、正体が不明になるのである。

後者の陣営の頂点にいる三人のプレイヤーは「三賢者」と呼ばれ、陣営は彼らの意向に沿って作戦行動を展開し、前者の陣営は、その作戦行動を阻止し戦火の拡大を防ぐのである。


 さて、その後者の陣営の中に、あるプレイヤーがいた。

参加頻度はまれで位階は低く、現地で動く工作員エージェントであるが、前者の陣営には蛇蝎のごとく忌まれ、後者の陣営からは高い評価を受けていた。


 そのプレイヤーの手口は、単純かつ、えげつないものであった。

作戦実行予定地の中でも、殊更貧困度の高い地域に、実行の数年前から入り込み、巨額の費用(陣営からの作戦実行資金である)を投じて救貧施設を設立する。

スタッフに現地の人間を採用することで「雇用」という通貨獲得の手段と、医療、食事、教育を与える。

それだけならば、ただの善意の人であるが、そのプレイヤーは、実に巧みに、施設にかかわる現地の人間たちを自身の陣営側へと取り込んでいくのである。

水滴が岩を穿つように、老若男女関係なく、じわじわと陣営の思想を浸透させ、現地での工作員として教育していくのだ。

そうして、現地に出向機関を作り上げ、その運営すら委譲し、自らは新たな作戦予定地に赴く。

そうやって世界各地に、陣営の思想を根付かせていくのだ。


 そのプレイヤーの操るキャラクターは、とあるキリスト教系の慈善団体(無論その実体は所属する陣営の下部組織である)に所属する、正式な資格を持った神父であり、また、行いそれ自体は人道的であるため、前者の陣営に所属するものも、手を出しにくい。

実際、血気に逸ったあるプレイヤーは、手っ取り早く障害を取り除こうとして、事前にその動きを察知されていたとも知らず襲い掛かり、「慈善活動に従事する神父を、現地の子供を巻き添えにしてまでも殺害しようとした」姿を某国報道機関の関係者によって世界に晒され、所属陣営の危機を招いたことがある。


 長身痩躯、アラブ系とスラブ系の混血という浅黒い色の肌と、驚くほど印象に残りにくい顔立ちのそのキャラクターの、プレイヤーの名前を、市川鷹いちかわ ようと言った。


 市川鷹の死後、その友人であり、ゲームを立ち上げた趣味人たちの手により、キャラクターは特例として、後者の陣営側のNPCとして活動を続けることになる。

市川鷹がプレイヤーとなって取った行動を学習し、AIであるNPCは、その事業を見事受け継ぎ、今もなお、自陣の繁栄のため暗躍を続けている。

彼の設立した施設は、その後も引き続き優秀な工作員を輩出する機関として動き続けている。


 その彼に捧げられた二つ名は、千の無貌。

その彼の名は――ナイ神父、と言った。

 今回ちょっと趣を変えて、市川鷹さんの別の顔を。

……何やってたんだ鷹さんや。

でも思想教育の部分は外付け参謀の指導の元行われていたとか。

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