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閑話1 観察側の証人

証人1・台所女(56)



 え? ああ、あのの子供? あの薄っ気味悪いガキのことかい? そりゃ、死んだもんの悪口言いたかないけどね、ホント、可愛げのないガキだったよ。


 妙に弁えた顔しちまってさ、何か食べさせてください、って頭の一つも下げりゃ、犬も食わないようなカッチカチのパンよりゃマシなもん恵んでやったってよかったのに、ホント可愛げがないったら。


 は? 別にあたしらは何もしちゃいないさ。

ロクなもん食わせなかったって? でも生きてたじゃないか、森ん中で何か食ってたんだろ。ならあたしらがとやかく言われる筋合いの話じゃないね。

大体、ありゃ事故じゃないか。あたしらにゃ何の関わりもありゃしないよ。


 それより、今からベリーのパイを焼かなきゃなんないんだよ。お茶の時間にこれがないと、お嬢様のご機嫌が悪くなるもんでね。

全く、今の時期にベリーを集めるのがどれだけ大変か、分かっちゃいないんだから。


 え? アナ=マリア様のことかい? 熱病で倒れた時は、もう駄目じゃないかって皆で噂してたけど、今はピンピンしてるよ。

前は人見知りで内気な、大人しい方だったけど、今じゃ奥方様そっくりだよ、あたしらを人だと思ってないとこなんか、特にね。


 邪魔だよ、ほら、どいとくれ。こっちは忙しいんだよ。







証人2・庭師見習い(14)



 は? 女の子?

……ああ、あのいっつもボロ着てた? え、あれ女の子だったんだ。

え? 死んだの? へぇー、知らなかった。どうやって? 崖から落ちた? あー、そりゃ死ぬよなあ。


 薄情? いやだって親方から言われてたからさ、アレとは関わり合いになるな、ってさ。

事情くらい知ってるから、関わる気なんてなかったけど。

それに、裏庭の方から森に行くとこ見かけたくらいだからなあ。


 でも、いっぺんだけ、あの子が、旦那様を見てたのを見たことがあったんだけどさ。

……凄かったな、あの目。

ぜんっぜん関心ないって目してた。

全く全然欠片も関心ないって目でさ、そこらの木とか岩とか見るより無関心な目しててさ。


 旦那様は気付いてなかったけど、気付いてなくてよかったんじゃないかな。

あんな、心底無関心な目で見られるくらいなら、恨み辛みの目で見られた方がまだマシだって、絶対。


 けどまあ、今更だよな。死んじゃったんだし。

どうせ生きてても、一生飼い殺しだし、逆によかったんじゃないの?


 ……あ、果樹園でベリーの手入れしなきゃなんないんだ。もういいだろ?

そりゃ、こっちは年中暖かいけど、年中ベリーを生らせるとなると、大変なんだぜ?

できたもんを食うだけのお貴族様にゃ、そんなん知ったこっちゃないんだろうけどさ。







証人3・奥女中(42)



 左様で。ですが、わたしどもには関わりのないことです。


 そのようなことよりも、奥方様が来月開かれるサロンの準備の方が、余程重要ですので。

奥方様もお嬢様も、どのようなドレスを仕立てるかでお忙しいですし、仕立屋の手配もございますし、そのような雑事に煩わされている暇はございませんから。


 旦那様、ですか? 旦那様は、肩の荷が降りて清々していらっしゃるのではないでしょうか。

これに懲りて、女中に手を出すのも控えて下さればよいのですけれど。


 ……奥方様がお呼びですので、失礼いたします。







証人4・猟師(59)



 大山縞鳥ってえのは、数は少なかねえが、臆病な上に人の気配に敏感だで、野山の気配に紛れっちまわねえとあかんでなぁ、罠さ拵えて獲るでもせんと、難しいべな。

じゃから今日明日中に獲ってこいちゅうのは、まんず無理な話じゃの。


 ? そん話やのうて、崖で見付けたもんの話?

おう、わらしの靴と、崖下の血の跡のこつか。

村の童は、あないなとこにはよう近付かんからの。

一応、ご報告はしたがの、右から左で終わりじゃった。


 お屋敷に勤めとる娘が、ありゃ旦那様のお手付きの子供ん靴じゃ言うた時は、たまげたわい。

お屋敷で飼っとる犬猫がおったとして、そっちがおらんようになった方が、余程の騒ぎになったろうち話じゃったわ。


 貴族いうんのは、おっかねえもんじゃの。







証人5・子爵夫人(26)



 あら、そう。


 そのようなことより、来期の流行はどうなっているのかしら? 仕立て屋の手配は済んでいて?

年が明けてのサロンで前年の流行など着ていては、いい恥さらしですもの。


 最近では、娘もようやく貴族らしい振る舞いをするようになりましたのよ。

家具に礼を言うなど、青い血にあるまじき振る舞いも止めましたし、――夫人のサロンでの振る舞いも、サヴィニャック家の令嬢として恥ずかしくないものでしたわ。


 あら、もうじきお茶の時間ね。

宝石はティールームに運んでおおき。娘にも、身を飾るものを選ぶことを学ばせないとなりませんもの。







証人6・令嬢(7)



 だぁれ? それ。

お母様がお情けで置いていたって、使用人の子供? ふうん。それで?


そんなことより、お母様が次のサロンで着るドレスを仕立ててくださるのよ! 今度は宝石もつけていいんですって! 何で素敵なの、どきどきしちゃうわ!


 わたしは、この物語せかい主役ヒロインなの。

だから、主役ヒロインに相応しく、自分を磨かないといけないの。

ドレスも宝石も、主役ヒロインらしい、素敵なものでなくっちゃいけないし、お作法にダンス、他にもいっぱい身に付けることはあるけど、そんなの全然楽勝だわ。


 お母様が言うように、サヴィニャック家の人間らしい振る舞いだって大切よね。

だって、貴族令嬢なんて高貴な身分なんですもの。


 ……あら、もうじきお茶の時間だわ。

ベリーのパイはお茶菓子のお気に入りなんだけど、最近ちょっと飽きてきちゃったの。

次は何を作らせようかしら。桃のタルトなんて、可愛いしお洒落でいいかもしれない。


 ああ、何て素敵なのかしら! 物語せかい主役ヒロインなんて!

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