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壬生家の事情  作者: 桑島 龍太郎
第1章 今日は今日とて明日は明日の風が吹く
9/20

夕食

「最後まで言わせろよう、いぢわる。でもさー壬生さんだっけ? どっかで聞いた事有るような名前なんだよなーどこで聞いたんだっけかなぁ」

「そうなのか? まぁでも雛菊の話はどうだっていいじゃないか。まずは俺の無事を祝うのが先ではないか? ほれ、さっさと」

「あんだって?」

「いえ、なんでもないです、すいません……」


 俺の無事を祝って今日は貴様が何か作れと言おうとしたのだが、正直豹華の作った料理は食べたくない、なぜならばこいつの料理は世界一、いや宇宙一まずいに違いないからだ。


 その昔――といっても1年ほど前の話なのだが俺がインフルエンザに罹り高熱を出した時だった、学校から親に連絡が行ったのだろう、俺が学校を休んだ次の日にその悪夢は舞い降りたのだ。


 両手に持ったスーパーの袋、ニラやら長ネギやらアボカドにんにく生姜に卵、アスパラガスやどこで見つけたのか高麗人参なんかも入っていた気がする、「おにい! 今日はウチがんまい料理作っちゃるけんね! しっかり栄養つけて復活しておくれ!」なんて意気込んでキッチン立ったはいいが、数時間後に出来あがったそれは料理ではなく異臭を放つ毒物と化していた。


 花が咲くのではないかと思うほどの満面の笑みで俺のまえに座る豹華、そして灰と緑と黒と赤の絵の具をごちゃ混ぜにした色をしたソレは圧倒的な存在感を出しながらテーブルの上に鎮座していた。


 妹の気持ちを無下にしたくは無かったので勇気を出してソレを口に運んだのだが、それがいけなかった、口の中で暴れまわる異臭を抑えつけ、涙目になりながらも嚥下したソレは胃袋でさらに活性化しトランザム状態と言うくらいに俺の胃袋を荒らしまわった、1発目は甘ったるい味、2発目は猛烈な刺激臭、3発目は内臓を抉られるかのような名状しがたい苦味。


 俺はそれをジェットストリームディナーと命名した。


 その後の俺は、想像はつくだろうが胃に押し込めた全てのモノを盛大に噴射、ナイアガラノの滝の如くそれはそれは勢いよく口から外界へと解放された、簡単に言ってしまえばゲロだ。


 高熱で朦朧としていた俺はそのまま意識を混沌の海へ投げ込み、肉体を吐瀉物の海へ沈めて行ったのだった、ちなみに豹華はそうなった原因はインフルエンザのせいだと思っているらしい。


 幸せな事に豹華は自分の料理が、壊滅的かつ毒性を持ち戦争で支給しようものなら化学兵器禁止条約に引っ掛かる事が間違いない程の腕だとは欠片も思っていない、しかしお菓子作りともなれば話は逆転する。

 豹華は全国スィーツコンテスト小学生の部で2度栄光に輝いた天才的な腕を持っているのだから始末が悪い。

 いっその事、風邪や体力回復に効くお菓子なんてーのを開発してくれればいいのだが。


「愛しのお兄様へのすいーつは無いのかね? もしくは勇気ある行動を讃えたケーキでもいいぞ?」

「いきなりだから作って来てないよ! あ、でもしばらくこっちに居るから明日作ってあげるね! あにいの好きなチョコレートケーキでいい?」

「お、おう……さんきゅ……機嫌が悪かったり良くなったり忙しい奴だな、お前は」

「うっさいな! 心配してたんだから仕方ないでしょ! ありがたく思え粗チン」

「きさまああ! 1度ならず2度までも! 親父にも言われた事ないのに!」

「お父さんが言ってたよ、情けないって」

「親父は俺の真の姿を知らんのだ、俺の剣はな一度鞘から抜き放つと雄々しくも繊細、それでいて妖艶な空気を纏い、見る者全てを魅了する妖刀と化すのだ」

「でも童貞じゃん」

「黙れ小僧! 貴様にマイサンの何が分かる! 決戦の時を心待ちにしながら日々その刃を研ぎ澄ましているんだ! いつか貴様は思い知るだりょぶ、思い知るだろう! はっはっはっは!」

「大事な所噛んでるし、小僧じゃないし、勝ち誇られてもいまいち理解出来ないし、そんなんだから彼女出来ないんだよ……ウチ的には出来ない方がいいケド……」

 豹華がため息交じりに俺の演説を否定する、たびたび入る相槌にやや心を痛ませながらもそれを感じさせない猛々しい俺のポーカーフェイスは見事な物だ、最後はなにやらモニョモニョ言っていたが聞き取れないのでまぁ良しとしよう。


 騒ぎ疲れ空腹になったのでちゃっちゃと夕飯作りに取り掛かる俺、冷蔵庫から買って来たばかりの材料を出し手際よく下処理を進めて行く、一方豹華はソファーに体を投げ出してお気に入りのアニメに見入っていた。


「メインはキャベツハンバーグで後は適当にお浸しでも作るか……」

 ボウルに合びき肉、多めに刻んだキャベツ、卵、パン粉、みじん切りにした玉ねぎを入れ揉み込むように混ぜていく、玉ねぎを炒めてから入れる家庭もあるみたいだが俺は生のままだ、にちゃ、にちゃ、と肉とその他の材料が絡み合って行く音がキッチンに響き、合びき肉の赤みがだんだんと複雑な模様を描き出す、粘り気が出るまでこねたら適度な大きさに丸めパンパンとスパンキングをする様に愛情を込め左右の掌を往復させ優しく空気を抜いていく。

 ハンバーグを焼いている間に野菜を切りサラダを作り、焼き上げたハンバーグの油を使い人参とコーンを炒め、仕上げにバターを絡ませる。


 所要時間約30分か、我ながら手際がいい、洗い物は……まぁ豹華にやらせるか。


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