妹
「そうだよなぁ! お前なんかに彼氏が出来る訳ないもんなぁ! あははは! やはり貴様は雑魚だ! 我を崇めよ! ひれ伏すがよいぞくはははは!」
「………………! しねっ!」
結論から言うと俺は負けた、手も足も出なかった、今起きた事をありのまま話すぜ……?
豹華の腕が鞭のように動いたかと思ったら手近にあった電気ポットを掴み、その重さを感じさせぬ程のしなやかさで弾丸の如く解き放ったんだ……そりゃあもう見事なもんだったぜ、至近距離で放たれたソレは避ける間もなく俺の顔面にめり込んだ、鼻がもげるんじゃねーかってくらいの衝撃だったぜ……
「お前なぁ、少しは手加減ってもんをだな……」
一瞬視界がブラックアウトし、見える訳がない流星群を見た俺はベッドに横たわり鼻にティッシュを詰めながら顔面に冷凍食品を乗っけているというなんとも間抜けな姿でベッドに横たわっていた。
「あにい、大丈夫? ちょっとやりすぎたよ、ごめんね? 嫌いになった?」
ベッドの隣でアンバー色の瞳を微かに潤ませながら豹華が聞いて来た、あくびをしたんじゃないかと言うぐらい微かにだ。
「謝るなら最初からやるんじゃないよまったく……おーいてぇ……普通電気ポットで殴るか? 鈍器だぞ鈍器、打ち所悪ければ死んでるわ」
「ドンキって激安の殿堂のアレ?」
「そりゃドンキ・ポーテだ、つまらんボケかますな、でも何で豹華がここにいるんだ? 家出か?」
「ちゃうわぼけ! あにいが入院したって連絡が有ったんだけどさ、お母さんが悪戯じゃないかって言ってお父さんはすぐ行くって言って喧嘩始めちゃったから代わりにウチが来たってワケです。記憶したか?」
「そうなのか。わざわざ悪いな……そんなにお兄ちゃんが心配だったのか、愛い奴め、ちこうよれ、苦しゅうないぞ」
そうは言っても顔の上に冷凍食品を乗せたままなので尊大さにかける、ちなみに自分で言うのもなんだが豹華は黙っていれば可愛い部類に入る、そして年の割に発達したおっぱい、きゅっとした小ぶりな桃尻、適度にむっちりとした太腿、突けば返すこんにゃくのような弾力の肌、だが先の通り口を開くと残念な事にすこぶる荒い言葉を発し、事あるごとにアニメやゲームのセリフを口にする為に中々男が出来ない。
出来てもすぐに消えてしまい寄せては返す波の如しだ、当の本人もそれは理解しているみたいだが直そうという努力は無いらしい。
「でも母さんはなんで悪戯だと思ったんだ? 実の息子が入院だぞ、普通疑うか?」
「なんでも電話の相手が若い女の子だったらしいよ、病院からなら主治医とか看護師が説明してくれるけどその子は病院の名前とあにいの名前だけ言って切っちゃったみたいなの。あ――そうだ壬生……」
「雛菊か?」
「そうそうそうそう! その子が電話して来たんだって。だからじゃないかなぁ? それでさ、どうして入院なんかしたの?」
俺の上に跨りながら質問してくるのは止めて欲しい、妹に性欲を抱く程落ちぶれてはいないのだがこう至近距離でおっぱいをたゆんたゆんされると少し目のやり場に困ってしまう。
豹華は幼い頃体が弱く、同年代の友達と遊ぶ事が少なかった、ほぼ家の中で過ごしていた為遊び相手はもっぱら俺だった、そのせいもあって口では罵詈雑言を飛ばしながらも俺に懐いている事は確かなのだ、そう、あれは豹華が5歳の時だ……お風呂に入りながら「しょーらいはおにーたんのおよめさんになるんだぞう! うへへ!」なんて言っていたっけな……
「あにい? 聞いてんの?」
「あぁ……実はなかくかくしかじかで……」
「馬鹿にしてんの?」
「いやすまん」
そんなじと目で睨まれると冗談が言えなくなるじゃないか……アンバーの瞳は俗称ウルフアイと言われており、博物館でオオカミの剝製を見た時は豹華と似すぎていて驚いた、俺はそのウルフアイに睨まれつつ事の顛末を話し始めた。
話が進むにつれ豹華の目がどんどん開いていくのが分かった、始めは事あるごとに茶々を入れていたがその内に相槌しか言わなくなってしまった。
まぁ豹華の気持ちも分からんでもない、この俺が命を張って誰かを助けるだなんて神でも予想しないだろうな、うん、仕方ないさ。
「そうだったんだ……あにいやるじゃん……誰もが出来ない事を平然とやってのける! そこにしびれ」
「そこまでにしとけ、みなまで言うな。お兄ちゃんにはちゃあんと伝わっている」
豹華の言葉を遮り、俺は別の話題をする事にした、だがしかし特におもしろい話もないし、どうしたものか。