ザ・ガマン
い、痛ぇぇ!!
昔……。小学生の頃、冬になると恒例行事があった。
雪の次の日に、必ず行う恒例行事。それは精神と肉体のどちらもを破壊し、勉学の意欲をねこそぎ奪い去る、とても恐ろしい行事だった。
決して教師の命令ではない。生徒が勝手に考え、生徒同士で絶対参加の指令を下す。女子は関係なく、男子のみの強制参加恒例行事。
【我慢大会】
大会というネーミングであるにも関わらず、参加者はクラスの男子十五人程度のみ。
競技内容は、いたって簡単。大きなバケツの中に雪を四分の三程入れ、そこに水を投入する。半シャーベット、半氷状態になったそのバケツの中に、ただ片腕を男子全員が同時に腕を入れるだけである。
バケツの中は、冷たいというよりも、冷たいを通り越して痛いだけ。そのバケツの中に、最後まで腕を入れている事が出来た者を優勝とするものだった。
強制参加のうえに、イカサマ退場禁止という暗黙の了解付き。それを一番長い二十分休みに行うので、かなり、たちが悪かった。
「位置に着いて――よ〜い、ドン!」
仕切屋の奴が叫ぶと同時に、全員がバケツの中に片腕を突っ込む。
「ぐぅぅあぁぁがぁぁぁぅぅ」
全員が、声にならない声を挙げ、バケツに入れたのと反対の手を握りしめる。
一分も経たない内に五人程度がギブアップし、冷たい筈の蛇口の水道水を腕に当てて
「はぁぁぁ……暖かい……」
と安堵の声を出している。
その間も、勿論競技は実行中。全員顔を真っ赤にして、耐えながら近くの奴と手を握りあったり、握りしめたりしていた。
その頃リタイアした奴らはといえば、教室の石油ストーブの上に水滴をかけて「イカヤキ」の匂いがすると大はしゃぎ。
そうしている間に一人、また一人と脱落者が続出していく。
最後の二人になると、お互いにお互いのバケツに入れていない方の手で、バケツに入れた手を抜かせないように押さえ込む。
顔色は、赤から青に変わり、腕をブルブルと震わせ、歯をガチガチと鳴らしながら、押さえ込まれた手を引き抜いた時、勝者が決定した。
「し、死ぬ! 腕が死ぬ! お湯! お湯!」
二人は叫びながら、水道まで駆け寄ると、水道水を腕にかけながら安堵の表情を浮かべた。
雪水(氷水)から引き抜いた二人の腕は赤や青ではなく、血の通わないような土色をしていた。その腕が、水道水に当てられ、青から赤に変わっていく。
真っ赤になった腕をさすりながら、二人は教室に飛び込むと、初めにリタイアした五人の背中に、その氷のような腕を突っ込むと
「罰ゲームじゃぁぁ!!」
と叫びながら冷えた手を温めていた。
「うぎぃやゃあぁぁぁ!」
「つべでぇぇぇ!」
「止めて! 止めて! いやぁ!」
背中に手を入れられた『イカヤキ』の匂いを堪能した五人は、苦悶の表情を浮かべながら、逃げ回りのたうちまわっていた。
これが雪の次の日の恒例行事【ザ・ガマン】である。
当時、人気のあったテレビ番組の名前を、そのままもらった最低最悪の恒例行事である。
この後、男子ば全員、腕をさすりながら、全く授業には集中出来ないのだった。
授業の後、先生に呼び出しをくらう。絶対強制参加なのに、男子全員。なぜに?