第二十話
「メリンダ、花の水やり終わったよ!あ、そういえばルカは?」
「ルカなら大分前にチェスターと一緒に近くの川に行きましたよ」
「もうルカったら、いつも家の手伝いじゃなくてチェスターの方へ行くんだから」
「大丈夫ですよ、エナ。ルカも動くことは良いことです」
ルカとエナがここにきて約一年が経った。季節は夏で、去年の夏があっという間に過ぎていったのを感じる。ルカとエナは完全に体と共に心も成長した。ルカは148cmから152cmに、エナは145㎝から151㎝まで伸びた。 平均的に考えれば身長は低い方だがそんなことを二人は一ミリとも考えていなかった。
「エナは最近、大人になってきましたね」メリンダはエナを見てそう言った。
エナは予想外の言葉に少し戸惑いながらも「ありがとう」とだけ伝えた。
13歳だったエナは正直に言うと自分の成長は感じていなかった。ずっと弱虫なままだし身長だけが伸びたと思っている。まだあの時の出来事が夢に出てくる。そしてそのたびに自分がどれだけ無力なのか感じさせられる。ふとした瞬間泣くことだってある。
だから大人になってきたなんてありえないと思った。
「エナ、大丈夫ですか?今日はもうゆっくり過ごしていいですよ」
「えっと、大丈夫だよ!」
「あまり、無理をしないでくださいね」
「うん」
エナは持っていたじょうろを置いて「先に家の中に入っとくね」とだけ伝えた。
「分かりました」
エナは家の中に入るなり靴を脱いでキッチンへと向かった。そして冷蔵庫の中からお茶を取る。コップにお茶を注いでごくりと飲んだ。外は夏の真っ最中で鳥がギャーギャー鳴くほど暑い。
「生き返る」
そしてふとした瞬間調味料たちが目に入った。
エナは思った。どうやって買い物に行っているんだろうと。
約1年半ここに過ごしてきたが一度も一緒に買い物に行ったことが無い。それに見たことのない、スーパーに売っていないような調味料だってある。
メリンダが買い物に行くと聞いて昔ついていくと言ったがきついくなるだの、ゆっくりしてていいだの、頑なに拒否された。
今考えれば、何かある気がする。
その思いも束の間、「ただいまー」とルカの声が聞こえてきた。
しばらくするとリビングに汗をかいて髪から汗の水滴が垂れているルカが入ってきた。
「お帰り、ルカ。めっちゃ汗かいてるね」
「めちゃくちゃ暑かった!でもチェスターは全然汗をかいていないんだよ!凄いよな!」ルカは瞳をキラキラさせて語る。
ここ一年いろんなことがあった。ルカはあまり話すことのないと思っていた不愛想なチェスターとよく話すようになったし近くの川へ釣りにも行くようになった。
きっかけは単純だった。
チェスターが大事な道具を忘れたから届けてほしいとメリンダからルカは頼まれた。ルカはエナと行きたかったがエナは別のことをしているから一人で行くことになった。ルカの手にはメリンダから渡されたチェスターの居場所が書かれた地図と長靴を持っている。
ルカは外に出て森の中に入るのは正直、気が引けたが地図通りチェスターがいるところを目指して歩いた。メリンダに迷惑をかけたくなかったからだ。だが以外にも森の中は全く怖くはなかった。
そして歩き続けること約5分、一つの小屋が見えた。木で作られた家だ。
ルカはドキドキしながらも小屋の前に立ち止まって地図を開く。
「ここで合ってるよな……」
地図を見ても間違っては無さそうだったから小屋のドアの前に立ちノックしようとする。するとタイミングよくチェスターが出てきた。
「どうしてここに居る?」
ルカは背が高いチェスターを見上げながら答える。
「メリンダにこれを届けてほしいって」
「一人で来たのか?」
そう言ってチェスターは険しい表情をするものだからルカは怖くなった。
「はい」
「敬語はいいといっただろう」
「ごめんなさい」
ルカはすっかり怯えた子犬みたいに丸くなってしまった。きっと耳としっぽがあれば垂れているだろう。
「ゴホンッ。もしかしたら帰りは雨が降るかもしれん。ついてこい」
ルカの頭には一つのことが浮かんだ。
——今日、大分は1日中晴れるでしょう。暑いので熱中症には気を付けてくださいね。
ルカは疑問になったがチェスターの後についていった。




