第十八話
ルカ達が寝て何時間が経過したであろうか。外はもう暗くなってきていてカラスがカーカーと声を上げて鳴いている。ルカ達がいるところは森の中だから外に出るのは正直気が避ける雰囲気だ。
外は暗くなってきたがルカ達はまだ起きてこなかった。
メリンダはその間に夕飯の準備をする。冷蔵庫の中からほうれん草とベーコンを取り出して淡々と切っていく。メリンダの包丁の扱い方は器用で素早い。
「メリンダ、それ私も手伝っていい??」 料理をしている音だけが鳴り響く中、エナの声がぽつりと混じり合った。
メリンダは一瞬驚いた表情をしたがすぐに微笑み「起きられたのですね。いいですよ」とだけ言った。
「ありがとう……」
エナはメリンダの方へ近づいてじっとメリンダを見つめる。
メリンダは何をしたらいいのか分からないのかもしれないと思いエナに指示をする。
「ではエナは手を洗って卵を割ってくれませんか?このお皿に卵を入れてくださいね」
エナは置かれているお皿と卵を見て頭を縦に振りながら頷いた。エナは母親の料理をよく手伝っていたが卵は殻が入ったら悪いと割ったことが余りなかった。唯一卵を割ったことがあるのは学校の家庭科の調理実習の時だけだ。それも少し殻が入ったからグループのメンバーに怒られた。
エナは手を洗ってから卵を持つ。そして緊張した表情をして机の角で卵を叩いた。
「エナ、もしかして緊張していますか?私が割るのでエナは卵を溶いてくれますか?」
「でも、それだと私、少ししか手伝えない……」エナは俯いてか弱い声を漏らした。
エナは少しでも多く、お金を払わない代わりに手伝いをしたかった。そして感謝の気持ちを返したかった。
もともとは養うつもりなんてなかったのに私が来たせいで養わければいけなくなったのだ。——きっと面倒だと思われているはずだ。
「では私は卵を割り終わったのでエナは卵を溶いてくださいね」
「え、あ、分かった!」
エナはメリンダに返事をして泡立て器を手に持つ。母親の手伝いではよくホットケーキの粉を混ぜたりしていたから怖さなんてなかった。
エナがしばらくの間、卵を混ぜているとメリンダが「エナは母親譲りですね」と言ってきた。
エナは母親という言葉に思わず反応して動きが止まった。
「メリンダ、は、お母さんを知ってるの??」
「はい、勿論知っていますよ。何しろ私の生徒でしたからね」
「え、ていうことはメリンダは教師だったの!?」
「はい。でももうずいぶんと昔の話ですがね。マリは自分の意志が真っ直ぐ通っている賢い子でした。その分頑固せしたけどね。そりゃあまあ、大変でしたよ。一度決めたことは変えないので何度もぶつかっていました。でも本当に優しくて生徒皆から頼られる存在でした。エナはマリの意志が真っ直ぐ通っていることも似ているし頑固なところも優しいところも似ています。でもその分考えすぎて悩むところも似ています。マリも賢い分よく悩んでいたのでエナには無理しないでほしいです。」
メリンダはエナにそう伝えた後、にこりと微笑んだ。
思わず我慢をしていたエナは瞳から涙がぽつり、またぽつりと零れ落ちた。
「大丈夫ですか?エナ」
「私、お母さんが居なくなってからずっと不安が心の中にあって怖かった。メリンダに追い出されたらどうしようとかメリンダが迷惑になっていたらどうしようとかいろいろ考えて不安だった」
「エナ、私がエナとルカをを追い出すことはありません。そして迷惑になってもいません。エナとルカは今、助けが必要なんです。素直に人に頼って良いんですよ」
「本当に頼って良い?迷惑になっていない??」
「はい、頼って良いです。そして迷惑にもなっていません。エナはまず人の助けが必要です。なので頼ってください」
すると一瞬止まっていた涙がまたエナの瞳から溢れ出した。
「メリンダ、ありがとう」




