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恋人たちの永い遍歴  作者: のーりみっと
アトランティスとムー
6/20

それぞれの帰還

 見つめ合うテツロウとアカネは、胸に湧き上がる不思議な感情を言葉に表わそうとするが、相応しい言葉を見付けられなかった。躊躇うように口を開きかけては、閉じる。二人だけの空間は、互いの息遣いだけが二人に聞こえる音の全てだった。

 何時迄も続くかと思われた、二人の時間を破ったのは一人の佳人だった。

「ハイ、お邪魔してごめんね? でも、あなた達をこのままにさせておく訳にもいかなくって」

 突然現れたその女性からアカネを護るかのように、テツロウは二人の女性の間に立ちはだかる。

「警戒しなくてもいいわよ、テツロウさん。お二人には何もしないから」

 朗らかに笑うその女性の表情に嘘は無いように見えたテツロウは、ゆっくりと肩の力を抜いていく。アカネも彼の影からゆっくりと姿を現した。

「君は何者だ」

「そうね、今はディアナと呼んでちょうだい」

 テツロウの問いに答えた女性の名に、二人は軽い驚きを示した。何故なら、その名前はラムーから聞いた、そしてアトラスから聞いた、ある人物のものだったからだ。

「そう、おふたりが今思い浮かべたその人で間違いないわ。メガフロート計画の責任者の一人で、テツロウをムーの、アカネをアトランティスの維持計画実施者にした張本人よ」

 今度こそ二人は、心底驚いて互いに顔を見合せたのだった。互いに相手のメガフロート()が滅んだ事を確認している。ならば、目の前の相手は一体何処からやってきたというのか。探り合うよう二人を宥めるように、ディアナは言葉を続けた。

「あなた達ふたりは、それぞれ別の世界の人だから、矛盾は無いの。でもねぇ、これ、今のあなた達に知られて良い話じゃないのよね。この天体の発信機が誤操作したお陰で、おふたりを呼び寄せてしまって、申し訳ないんだけど、ここであった事は忘れて貰うわね」

 言い終わると、ディアナの瞳が妖しい光を放ちはじめた。別の世界の人という言葉に、ディアナに向き合っていた二人は、彼女の瞳を真面に覗き込んでしまう。それは、記憶の一部を絞り上げ、徴収しようという強制力として二人に働きかけた。痛みは無かった。只々、意識を吸い上げ、記憶を漂白していくだけだった。

「待て、君は何故、俺、と彼女を選んだ……」

「あなたが、介入者なの……」

 二人は、薄れゆく意識を何とか留めようと、必死で一番の疑問を投げかける。

「次にここに来られたら教えても良いかもしれないわね。ただ、ここ迄はほぼ計画通りだけど、この先は残された人びと次第だから、ふたり共頑張ってね」

 抗いようの無い力に、二人は意識を失う。と同時に、この何処とも知れない部屋から二人の姿は消え去った。

「こうやって別れさせた張本人が言うのも何だけど、いつの日にかおふたりが添い遂げられる日が来る事を祈っているわ」

 消え去った二人に届く事の無いディアナの言葉には、真摯な響きが宿っていたのだった。


『テツロウ。テツロウ。応答して下さい』

 耳を打つラムーの声が、テツロウを徐々に目覚めさせていく。目の前には、ありきたりの小天体の岩肌があった。意識が明瞭になっていくと同時に、何か大事な事が薄れていく様な感じをテツロウは覚えていた。忘れたくない事があった筈なのに、覚えていない。何としてもそれを取り戻したい、とういう焦燥感にテツロウは駆られる。

『テツロウ。テツロウ。応答して下さい』

「ラムー。大丈夫だ。どれ位、気を失なってたんだ?」

『貴方が小天体に接触したと同時に、宇宙服内のバイタルサインが途絶えました。一分後にバイタルサインが復活しましたが、貴方からの応答があるまで更に一分を要しました」

 そんなに長い間ではなかったが、ラムーの言葉には聞き逃がせない言葉が交じっていた。

「バイタルサインが途絶えた……俺は仮死状態にでもあったのか?」

『いえ、体温検知器の記録も途絶えていたのでテツロウは物理的に宇宙服内に存在しなかった可能性が高いです』

 不可解な現象が起きたという事だけ理解できたテツロウだが、今はこれ以上追求する気力が湧いてこなかった。

「ところで、謎の電波は今でもあるか?」

『テツロウの小天体への接触と同時に電波は停止しました』

「なら、これ以上の調査は止めておこう。往還機へ戻る。準備を頼む」

『了解』


 宇宙船へ戻る時も、戻ってから母星(ほし)への帰還コースを辿る今も、アカネの思考を占めているのは自身の存在が消失していた()()()の事だった。何時でも冷静な電子の知性であるアトラスが慌てる程の長時間、一体、何処に居たのか。記憶の無い一時間に何か重要な事があった、という確信だけがアカネに残された。

 アトランティス上空の外気圏で、宇宙船の速度を母星(ほし)の自転速度に同調させたアカネは、自機の重力中和を少しずつ解除していく事でアトランティスへの軟着陸を果した。

 アカネを待ち受けていたのは、神官ヌクレテウスだった。

「アカネさま。首尾は如何でしたでしょうか」

 アカネは彼の顔をじっと見詰めた。彼に二心がある訳では無い事は彼女にも分かってはいた。だが、その在り方が彼女に納得できるものかと問われると、そうとは言えなかった。

「ええ、当初の目的は果したと思う。けれど、これでアトランティスの未来が救われた訳では無いの。その事について、話があるわ。アトラスにもね」

 アカネの瞳には強い意志の光が宿っていた。その口調には、他者に口を挟ませない闘志が滲みでていた。


「なあ、ラムー。俺は、次の維持計画が発動しようがしまいが、もう一度仮死(眠り)に着く事にした。ラムー。君の判断で起こすかどうか決めてくれ」

 均衡点から持ち帰った資材を精製し終えたテツロウは、再び聖棺の中にその身を曝けだしていた。彼は自らの大賢者という称号を伏せて、ムーの人びとの生活を観察したのだった。そして、牧羊のように大人しいムーの人びとを知るにつけ、彼等が今後どのような選択をするのか、自分の目で確かめたくなったのだ。ラムーに選択肢を委ねる事は、彼にとっては賭に等しい。ひょっとしたら、このまま永遠に眠り(仮死)から目覚めないかもしれない。だが、テツロウは相棒(ラムー)を信じる事にしたのだ。

「テツロウ。貴方の信頼を裏切るような真似はしません。いつの日にか、貴方が自身の目で貴方の夢みた世界になるよう、私の全てを捧げます。そして貴方を必ず目覚めさせてみせます。その時は……私を褒めて下さい」

 ラムーの、その細やかな望に、テツロウは柔らかな笑みを浮べた。

「ああ、約束だ。その時には、ラムー、君を目一杯褒めるし、讃えよう。だから、俺を、必ず目覚めさせてくれ」


 再び聖櫃に横たわったアカネは、ヌクレテウスとアトラスに告げる。

「ヌクレテウス。あなたも含めての事になるけど、この(アトランティス)の人びとには、教育が必要だわ。知識ではなくて生き方についての教育よ。今のままでは、次の維持計画(一万年後)までこの国が持つとは思えないの。わたしは、宇宙船を使って彼等に次の目標となるものを一つは見せたと思ってる。だから、その火種を上手く焚き付ける事ができるかどうかは、ヌクレテウスとアトラス、あなた達次第よ。それが成功する事を祈って、私は仮死(眠り)につく事にする。どうか、私に、次の世界を見せてちょうだい。お願い」

 アカネの信頼しきった笑みに、ヌクレテウスは言うべき言葉を持たなかった。自分は只ひたすらに、大聖女への言葉を継ぐ事が使命だと信じて疑わなかったから。しかし、その大聖女は今、彼に更なる使命を課そうとしていたのだ。次に大聖女が目覚める時、自身は亡きものとなっているだろう。その自覚がヌクレテウスに安易な返事を躊躇わせる。結果の保証できない約束を、大聖女と契る事は不誠実な事ではないか。胸に去来するその想いをヌクレテウスは、苦い想いで噛み締める。だが、彼女は今次の預言を実現したのだ。

『アトランティスに禍い齎す者現るる時、目覚めし大聖女、これより民を護らん』

 禍いを齎す者が誰なのか、ヌクレテウスには知る由も無いが、次の一万年を大聖女は保証したのだ。

 であれば、とヌクレテウスは思う。彼女の想いを、できる限り叶えたい、と。

「お約束はできません。ですが、アカネ様の望みを実現できるよう、身命を賭す事を誓います」

 ヌクレテウスの真摯な言葉に感謝の頷きを返したアカネはアトラスの言葉を待った。

「わたしも、約束はできません。ですがアカネの理想を実現する努力は惜しみません」

「ええ、その言葉を聞けて安心して眠り(仮死)に着けます。気負いすぎずにね。気長に待っているから」


 ふたりは再び眠りについた。今度は自らの意志で。ふたりが目覚める時が来るのか。神ならぬ身に、それを予見する事は叶わない。


◇◆◇◆


 どことも知れぬ虚空に浮ぶ女性、ディアナは微笑む。

『テツロウ、アカネ。あなた達は再び遭いまみえなければなりません。そうならなければ、わたしはこの星を見捨てる事となるでしょう。どうか、わたしに、この星を見捨てさせる事のないように』



第一章終了です

もやもやする終方で申し訳ないです

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