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第13話 メインヒロインの料理

「「いただきまーす!」」


 研究施設をでてこよみの家に来ていた。理由はこよみが夕ご飯を振る舞ってくれるらしい。

 そして目の前にはおいしそうなカレーが並んでいた。

 辛口だろうか、匂いを嗅いだだけで涎が垂れそうだった。


「お、おいしいこれ」

「でしょでしょ? めちゃくちゃ練習したんだから」

「人って練習すればここまでおいしくなるものなんだな」


 もともとどのくらいおいしかったのかわからないが、これほどおいしいのならば元から才能あったというよりも、練習しまくったということだろう。


「どう? 妹ちゃんとどっちがおいしい?」

「え、えー。どっちがおいしいんだろう」


 正直味は一緒だった。味は一緒で、作り方も一緒で……


「これって作り方を氷璃に聞いたのか?」

「え? どうして? 適当に調味料ぶっこんだだけだけど」

「なんかな、味はどっちもおいしいんだけど……そこが問題なんじゃなくて、味が完璧に一緒で、食材の使い方も似てて」

「あー、それはたぶんね……妹ちゃんと作り方っていうか、レシピを見ないからだと思うよ」


 た、確かにそれもあっているような気がした。氷璃や雪音、こよみは特に説明書なんかを見る姿が想像できない。


「料理って実験みたいなものと一緒だと思ってて、成分に関して知ってればどの順番に入れればおいしく仕上がるとか計算できるものなんだよ。数学だと答えが大体一つでしょ? それと一緒なの」

「たしかに、味が変わるといったら食材や器具の違いか。でもすごいな。氷璃に勝てるとは思っていなかったけど、まさかここまでこよみの料理がおいしいとは思わなかった」

「ふふん。さすがに氷璃ちゃんには負けたくなかったからさ。あ、でも……君のもう一人の妹のほうと比べたらわからないかも。食べたこともないらしいし」

「え? 雪音のことか? これも氷璃から聞いてるのか」


 雪音のことについての情報伝達が素晴らしい。そして、雪音って料理を作ることがないのか。

 でも雪音は完全に癒し枠だからな。うん。料理の腕なんかはどうでもいい。


「雪音っていうんだ。なんか、お菓子作りが趣味って言ってたかな。昔からお母さんとマンツーマンで教わってたとか」

「雪音のお母さん見たことないんだよな。氷璃もなんだけど。何してるんだろう」

「あ、あー。そうなんだ。でも君の妹たちを見る感じ生きてはいそうだけどね。とにかく死んではいないと思うよ。だから心配しなくても大丈夫だって」

「それもそうだな。今日は家に帰ったらこよみの料理を氷璃に……あ、雪音の分」


 そうなのだ。こよみには氷璃がいることは言っていたが、雪音の分についてはなにも言っていなかった。当然その状態ならば雪音の夕ご飯がない。時間的に今から氷璃に頼むこともできないだろう。


「雪音の分は結局作る必要出てくるのか」

「大丈夫。安心して、雪音ちゃんの分も作っておいたから。氷璃ちゃんが事前に教えてくれたからさ。それと、甘い系が好きって聞いてたからさ、甘口にしておいたよ」

「お、ありがとうな。雪音って辛口は無理だったんだな。舌も性格も甘口なんだな」

「いいじゃんいいじゃん。妹なんてみんな甘口だよ。それに君はそういう甘口な妹が好きなんでしょ?」

「え? 別に甘口が好きってわけじゃないぞ。甘えん坊でかわいらしい妹が好きってだけだし」


 しかし、この甘えん坊な妹が好きというのは妹として出会って、もちろん恋愛対象はしっかり者で軸がある女の人しか好みではない。


「へー、甘えん坊……ねぇ」


 と、こよみはなぜか懐かしそうな顔をした。


「どうしたんだ? そんな遠くを見るような」

「うんうん、なんでもない。ただ、昔が懐かしいなって。またあの頃に戻りたいなって」

「昔って……」

「いいや、なんでもないや。これは私が解決すべきこと。君には関係ないこと」

「不安なら僕に話しかけてくれればいいのに」


 僕だってこよみが悩みを持っているならば短い間ではあるが解決してあげたい。


「違う。そういうことじゃないの。これはもう解決ができないこと。だから、忘れてね」

「……わかった。詮索はしないよ。人の悩みに勝手に踏み入らない」

「うん、ありがとう」


 そうすると彼女は急に椅子から立ち上がった。


「えーっと、雪音ちゃんと氷璃ちゃんのご飯ね。少しだけ詰めてくるからここで待ってて」


 そしてキッチンのほうへ行ってしまった。

 こよみの悩みについて聞こうとしたが……氷璃と雪音の悩みについて深く考えたことがなかった。あの二人の性格的に悩みを打ち明けたりすることはないだろうが、もしそれで不安を抱えていたのであれば兄としての責任がある。それに、悲しんでいる姿すがたを見たくはなかった。


「なぁこよみ」

「え?どうしたの?」


 キッチンで料理を詰めているこよみについ話しかけてしまった。


「氷璃についての悩みって聞いてないのか?」

「えー、聞いてないなー。氷璃ちゃんって悩みそんなにあるの? 雰囲気的にそうとは思えないんだけど」

「いいや、絶対あいつには悩みがある。氷璃ってあーいう感じで明るく接するが悩みは絶対にあるんだ。でもその悩みは引きこもりになったことと関係はない」

「そ、そこははっきりとしてるんだ。一番思い当たる原因が引きこもりのことだと思ってたんだけど」


 氷璃の引きこもりは悩んで引きこもっているわけではない。あれは、好きで引きこもっている感じではないのだ。昨日の雪音との会話を思い出してみれば、氷璃は本当に明るい女の子だとわかるし、そもそも雪音いわく、『私と性格変わらないよ!?』って言ってたし……


「でも……兄であるからって踏み込みすぎるのはよくないし……」

「……はぁ、長年の関係ってところなのかな」

「え? 長年? 僕あってまだ4か月もないけど」

「あ、うんうん。気にしないで…… ところで、そろそろ時間じゃない?」


 何かを隠すように違う話題に変えたこよみ。絶対何かある。

 でも時間なのは事実だ。ここから家までは時間がかかるということもあり、ここを出るしかない。


「おっと、確かにこんな時間か。ごめんね、今日は夕食をいただいて」

「大丈夫大丈夫。この前のお返しね」


 そして先ほど詰めていた夕食をこちらに渡す。


「ありがとう。水色のほうが雪音か?」

「うんそうそう、そっちが甘口だから。それと……氷璃についてはあんまり詮索しないであげて。あの子……結構闇深くてさ、手あたり次第訊くと……ここら辺吹き飛んじゃうかも」


 こよみの言っていることには、妙に説得力があった。

 前々から感じていた氷璃に関しての違和感は膨大な闇が原因だったのか。


「じゃ、僕はこれで」

「うん、さようなら。また今度、研究施設で会おうね」


 こよみに別れを告げながら僕はこよみの家を出た。


「さて……氷璃について考えるのはしばらくはやめておこう」

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