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第六話  世界に選ばれた少女の不幸

前回の掲載からお気に入りも、PVもユニークも増えて本当にうれしいです!

読んでいただきありがとうございます。



さて、今回は説明くさい回となりました。

僕の作品って基本的に説明ばかりだからぜんぜん話が進んでいません。

完結まで一体何話になるのか予想がつかない状態です。


それでも、読んで楽しんでいただけたなら幸いです。










「とりあえず、自己紹介から。」




先ほど襲ってきたトナーク達の遺体を片付け、私達の痕跡が残らないように後始末を終えたところで男が私達に話しかけてきた。(始末していたのは目の前の男だけで、実際に私とマキナは見ているだけであったが。)




「キリシマ・シンヤだ。こちらの言い方ではシンヤ・キリシマと言った方が良いか。」




キリシマと名乗る男の名は、この大陸には珍しい名であり家名であり、形式であった。まず、この大陸の出身者には付けられ難い名前である。聞いた話によれば、東の果ての列島諸国の人間がこのような名前であるらしく、他にも亜人の鬼族や鬼人族の名前として多いとか。どのみち、マイナーであることは間違いない。



珍しいというほどでもないが、この大陸ではあまり知られていない。私自身このような名前に会ったのは今回で二人目だ。



その初めてがマキナであった。




「キリシマ……シンヤ………あの、すみません。一つ聞いても良いでしょうか?」


「…どうぞ?」


「…あの、これからおかしなことを聞くかもしれません。違ったなら忘れて聞かなかったことにして欲しんですけど、その…………。」


「……………。」


「あなたは“地球人”ですか?」




このとき、彼の名前がどこでもあるような名前であったなら、こんなことを思うことなどなかった。もしくは、マキナの名が珍しいものでなかったなら考えることもなかった。だが、現実は違った。



彼の名はマキナの名の形式と同じであった。そして、この状況で助けが現れた。この大陸では珍しい形式の名を持ったものが助けに入るなど偶然にしては出来過ぎている。



だからこそ、マキナは聞かずには居られなかったのだろう。

彼女の心は今何物の入り込む余裕もなく、ただ彼の答えを望んでいた。



いや、マキナは今まさに希望となるかも知れない男に出会えたのだ。彼女が望むのはYESの一言だけであろう。彼が、自分と同じ“異世界人”であること、そして、“元の世界”に帰るための方法を知っているという願いを。



しかし、そのような奇跡的なことが起きることなどまずありえない。マキナは皇国が長年かけて完成させた召喚術のためにこちらへと連れて来られた異邦人。彼女と同郷のものがこの世界に居るはずなど…。




「…いえ、すみません。変なこと聞いてしまって、そうですよね、私以外の「日本人だけど?」が居るはずなど……え?」


「……あの、すみません。もう一度お願いします。」


「だから、正真正銘日本人だって。」


「…………。」




開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろうと思う。私とマキナは口をあけて呆然としてしまった。こんな都合の良いことがあっていいのだろうかと?




「何時までも口を開けて驚いてないで、名前を聞かせて欲しいのだけど?」




キリシマに指摘され、急いで口を閉じてしまった。これでは道化そのもので、年頃の娘としてはあまりにもはしたない。いくら驚いたからといって、あのような見っとも無い姿を男性に見られるとは、少し考え物だが、ここは相手にこれ以上指摘される前に話を進めるべきである。



「誤魔化し」という意味が無いわけでもないが…。




「し、失礼した。私は中央エリツィド皇国親衛騎士第3皇女専任第6守護騎士団『白月の頂に至る閃光ノス・フィナンシャテル』所属序列代3位にして、エルドミナ地方伯フェリトール伯爵家が次女、エリゼナ・ベル・フェリトールと申します。先ほどは危ないところを助けていただき感謝します。」



「え、えと……私立八千代御大高等学校3年の新條真樹菜です。先ほどはありがとうございました。」



「ご丁寧にどうも。とりあえず、座って落ち着いたらどうだ?これからいろいろ話さなきゃならないことも多いだろうからな。」




私達はキリシマに座るよう勧められ、私とマキナは近くに置かれていた丸太にと腰掛けた。




「まずは、先ほど危ないところを助けていただき感謝する。」


「別にたいしたことでは何のだけどな。こちらもこちらの目的があって手を出したのだし。」


「それでもだ。命を助けていただいたことには変わりがない。」


「……なら、ありがたくいただいておくよ。」


「…感謝する。」




キリシマという男は。まだ信用はできないが、少なくともここで私達を襲うようなまねはしないだろう。でなければ、わざわざ自分の正体を明かすようなことはないだろう。


もっとも、彼に襲われたとしても、無事に切り抜けられることはないと思うが。


彼は強い。私ではマキナを守りながら逃げ切ることなんてできないだろう。だが、私は聞かねばならない。マキナを守るためにはこの男の正体と目的を明らかにしなければならない。



私は深く息を吐き、心を落ち着かせ、彼に問いただした。





「キリシマ殿、貴女はなぜ私達を助けたのか?助けてもらっておきながらこのような言い方は失礼だろうが、聞かせて頂きたい。


「……どうぞ?」


「トナークは皇国守護騎士の鎧を着ていた。そのトナークに害を及ぼそうということは、皇国に牙を剥くということになる。普通の旅人ができることではない。」


「………。」


「そこまでして、見知らぬはずの私達を助けるのは何故だ?それだけでなく、マキナが勇者だと知っていた。何故それを貴女が知っている?そして、彼女が異世界人、それも“日本人”であることを知り、尚且つあなた自身も“日本人”だと言う。」


「………。」


「……あなた一体何者だ?」




あまりにも不自然なことが多すぎる。

そして、このような偶然が起こりえるものだろうか。




「疑われてしまうのは仕方ないことだとは思うが、今ここに私が『日本人だ』と貴女が納得できるような証拠があるはずもない。」


「…なら、」


「信じるも信じないも貴方たちの自由にすれば良い。好きに判断したら良い。どんなに言い繕ったところで納得させるのは難しいからな。」


「どこで、その言葉を知ったのかは知らないが、むやみやたらと口にしないで頂きたい。マキナの気持ちをもてあそぶようなことだけはやめて頂きたい。」


「何を勘違いしているのか知らないが、先ほども言ったけどな、俺は紛れもなく日本人だ。新條さん、君とおな……。」


「…………。」


「…………。」


「……?…どうかしたのですか?」




キリシマは途中で言葉を切り、話を止めてしまった。

一体何があったのかと思い声をかけたところで、彼がマキナを見ているという視線に気付いた。私も同じようにしてマキナに視線を向ける。




「マキナ?」




張り詰めていた気が緩んで、疲れが一気に出てきてしまったのだろう。そこには、いつの間にやらマキナが私の肩にもたれ掛かりながら寝てしまっていた。




「話は明日にしようか。彼女も一緒の時に話した方が良いだろ?」


「しかし…。」


「信じられないかもしれないが、襲う気はない。」


「……。」


「…わかった。フェリトールさん、貴女守護騎士ならば結界が張れるだろう。俺を結界外にしておけば良い。それなら納得もできるだろう。」


「……そうしてくれると有り難い。」





キリシマが離れるのを確認すると、私は術式を構築し、騎士団が野営時に使う守護結界を展開した。




「……助けてもらった恩人に対してなんと恥知らずなことだろうか。」




人として、フェリトール家の者として、あまりにも礼儀のない対応であった。しかし、騎士として、私には命に代えても守らなければならない命があるのだ。




マキナの体を用意されていたシートに横たえた。




「貴女は必ず、元の世界へと帰します。…必ず。」




今はただ、生き延びられたことに感謝しよう。



問題を解決するのはそれからでも遅くはないから…。





















*****




















日が昇ると、俺達はこの森を抜け出すために一路、王都へと向かい進み始めた。

向かう中で、あれやこれといった質問攻めにあったが、どれも俺のことに関する情報を引き出そうとするもので面倒であった。



この世界には個人情報保護法なんてないだろうが、根堀葉堀聞くものでもないという考えはないのだろうか?



というか新條、お前はもっと自重しろ。



帰れるかもしれないとわかり、興奮するのは致し方ないが、俺自身この世界のことは良くわかっていない。物書き《ライター》と連絡が取れない現時点では、明確に帰る方法がわかっていない。他にもいろいろとこの世界への干渉率についてもわかっていない。



うかつなことは話せないので、お茶を濁してばかりである。



フェリトールの「お前はどこの廻し者か?」といった痛くない腹を探られるのも面倒くさいというのもあるのだけどな。





適当に王都の方角らしき方向に向かっていた俺だったが、あながち間違いではなかったらしい。着実に王都に向かって進んでいたらしい。新條とフェリトールは王都から真っ直ぐこちらに来ていたというのである。



勘もたまには役に立つことがあるとしみじみと感じてしまった。




話していくうちに、この森についてもいくつか聞くことができた。



どうやらこの森が街道をなくしてしまったという。

もともとここには街道がしっかりとあったが、この森ができたため、街道がつぶれてしまったのだとフェリトールは言う。




『ここ数年のうちにできた森だって?―ありえないだろ。これほどまでの木々に成長するには半世紀はかかるぞ。』


『原因はわからないが、ここ数年こういった異常現象が皇国各地で確認されている。被害自体、今はそれほどでもないが、今後どうなるかわからない状態だ。』


『異常現象?』


『一晩にして森や湖が出来たり、本来は生息するはずのない生物が生息地域外で発見されたりと、様々だ。』


『……その原因が東にあると?』


『……皇国の上層はそう考えたらしい。詳しいことは知らないが…。』


『それで、勇者召喚に魔王退治か……なんとも、きな臭い話だ。』





とまあ、このような会話がありましたと。ファンタジーの一言で片付けるのはどうだろうかとも思う。物理法則無視しすぎな気がする……。


巻き込まれる前に幸喜たちを見つけて帰りたい。




「キリシマ殿、こちらは王都の方角なのだが…。」


「王都に向かって歩いてるからな。」


「……私達は王都から逃げ出してきたのですが?」


「俺は王都に用事があるのでね。」




彼女達が逃げ出してきたのなんて予想は簡単に付くが、親方の仕事を放り出すわけにもいかない。もう、報酬はもらっているのだし。




「仕事で、勇者のための武器を納品するために王都に行かなきゃならない。」


「…ああ、あの勅令か。お前は武器商人なのか?」


「鍛冶屋で働かせてもらっていただけだ。別に商人て訳ではないな。」


「なるほど…。」




何が、なるほどと言うのだろうか。

どうにも厄介なことになりそうで恐ろしい。さっさと幸喜達を見つけてつれて帰りたい。




「……俺が言うのもなんだが、良いのか俺についてきて?」


「このまま王都までいかれたら困ります、でも、同じ日本人である霧島さんとここで別れたらもう戻る方法がなくなりそうな気がするんです。」




新條は俺が、元の世界に帰るための鍵の一つであると考えているらしい。


…間違っていないところが恐ろしい。




「私は、元の世界に帰りたいんです。これはただの勘ですけど、きっと、あなたは私の望む帰還の方法を知っていると思うのです。」


「……どうしてそう思う?」




何故、ここまで断定してくるのか。この子、『天測者』といった心読スキルとか持っていたりするのだろうか。




「長年この世界に住んでいるというならば別かもしれませんが、日本人があんな簡単に人を殺せるわけがありません。…だけど、あなたがこの世界の人間であるならば、皇国にたて突くようなことはしないと思う。自分の首を絞めるようなまねをするほど向う見ずな人間だとは思えません。」


「……それで?」


「そして、この世界に来てそう時間もたってないのだろうなと知りました。今皇国各地で起こっているこの異常現象は周知のことですから、長い間暮らしている人が知らないなんてことないでしょう?」


「………。」


「霧島さんは私に『日本人だ』と言いました。日本人なんて言葉は異世界人しか知らないですし、本物だろうなと思いました。」


「………それでは俺が元の世界へ帰る方法を知っている理由にはならないだろ。」


「この世界において異世界人を召喚するにはかなりの手間だそうです。個人レベルでは無理で、それこそ一大国家プロジェクトです。それ以外でこちらに呼ぶ方法はないそうですよ?前例はないと言ってました。なのに霧島さんはここに居ます。どうやって?ある国家に召喚されたなら、こうして自由に旅人生活や鍛冶屋で働くなんてできませんよね。国が多額の資金を投じて行ったのに、自国の利益にならないことを許すとは思えませんから。」


「…………。」


「だから、霧島さんはこちらから呼ばれたのではなく、自分からこちらに来たのではないかと考えました。それならば、自力で帰る方法も知っているのではないかと。……あくまで、私の予想と希望を織り交ぜた勘なんですけど。」




…この子は鋭いな。あれだけの情報で、ここまで読み解くか。

少々深読みすぎているし、証拠もどこにもない推論でしかないが、実際には正解だから恐ろしい。

勇者というのは伊達ではないということか。




「……驚いた。本当に驚いた。新條さん、君の推論はほぼ正解に近い。」


「!?…なら、帰る方法も知っていますか?!」


「方法は知っている。が、俺は君を帰すことができない。」


「…どういうことですか?」




新條は少し興奮気味でこちらに来ていたが、一瞬にして顔をしかめ、問いただしてくる。

フェリトールも同じように難しい顔をしている。




「世の中そう上手くは行ってくれないということだよ。」




できないことを約束するのは詐欺だから、そんなことはしないが。

とりあえず、お茶を濁すしかないな。




















*****




















私達は昼過ぎには森を抜け、近くにあったパッセトという街に着くことができた。



着いた早々、「まずは宿の確保だな。」と言って霧島さんは宿を取りに行ってしまう。あわてて私とエリゼナも後を追い、一軒の宿屋へと入っていく。




「女2人、男1人で二部屋欲しい。空きはある?」


「はい、大丈夫です。ようこそ《灰猫の安らぎ亭》へ。ご滞在予定は?」


「一泊。」


「かしこまりました。お名前をお教えいただけますか。」


「シンヤ・キリシマ。」


「キリシマ様でございますね。……お部屋は二階の202と206となりますが、よろしいでしょうか。」


「かまわない。」


「それでは、202がキリシマ様、206がお連れ様となっております。どうぞごゆっくり。」


「ああ、ありがと。」




あっという間に、チェックインをしてきていた。少しはこっちの意見も聞いて欲しいと思ったが、困らせても仕方ないと思い飲み込む。



荷物を置いたら、遅めの昼を取ろうということになり、宿を出て町へと繰り出して行った。




私達は一軒のお店に入って昼食を取った。昼過ぎだったから店自体は空いていてすぐに料理にありつけたのが良かった。朝なんてほとんど取っていなかったからものすっごいお腹空いていたんだ。


ここの料理も結構おいしかったし、雰囲気も悪くなかった。山奥のロッジって感じでなかなかに綺麗だった。



でも、この世界にきて2ヶ月。

そろそろ、ご飯やお味噌汁、煮魚といったものが食べたい。お母さんが作ってくれるおでんが食べたい……。




好きなんです。大根が!












「さっきも話したけど、俺は君を元の世界に戻すことはできない。だけど、君を元の世界に帰すことのできる人物を知っている。だから、君が元の世界に帰ることは十分にできる。」


「…ならば、その者に会わせては貰えないだろうか?」


「お願いします。会わせていただけませんか。」


「……残念だけど、それは無理な話だ。」


「……何故ですか?何故会わせていただけないのですか?」




霧島さんは少し困ったように笑っていた。




「……別に、君達に意地悪をしているつもりじゃない。だからそんな目で睨まないでほしいな。」


「…理由を聞かせて貰えるか。」




エリゼナが少し怒っている。言葉か硬く威圧感が出ている。


というか出過ぎている。




「君を元の世界に帰すことのできる男、物書き(ライター)というのだけど、そいつはこの世界の住人ではないからだ。この世界にいない人間に会わせることなんて出来やしない。」


「……この世界の住人じゃない?どういうことですか?」


物書き(ライター)は俺たちと同じ世界の住人であり、彼は俺をこの世界に送り込んだ張本人だ。今も、元の世界にいるよ。」




……それは………それでは、この世界からどうやって抜け出すというのだろうか。




「暗くなるな。まだ話は終わってない。」




結論。


霧島さんの話によると、元の世界の物書き(ライター)さんが、両方の世界にまたぐ道を作ることが出来る人で、連絡さえ取れればすぐに帰れるという。今は連絡が取れないからすぐには帰れないが、これといった問題は他にないという。

私が元の世界に帰るため必要な労力はほとんどないに等しい。むしろ、こちら側に来るほうが大変とのこと。



そこで疑問が生まれたので、霧島さんに正直にぶつけてみる。

「帰れる」と解ったためか心も軽くなり、同郷のよしみとして霧島さんにも




「……あの、簡単に帰れるのは解りましたが、どうして来るのが大変なんですか?普通逆のような気がしないでもないのですけど?」


「…正確には、『来る』ではなく、『呼び込む』といったとが難しいということなんだけど。それを知るには、この世界の成り立ちから説明しないといけないからな。」


「…この世界の成り立ちですか?」




この異世界の成り立ちについてはエリゼナやフェルから何度か聞かされていた。この世界が信仰する神とこの世界に住む人々の根幹をなす考え方は大事だからと、真っ先に教えられた。




「創世神、女神ティターリアによってこの世界は創られた。そして、創世神の6人の娘によりこの世界の秩序と安寧がもたらされた。だから、この世界では六女神信仰が最も信じられているとか、そのように聞いてますけど?」


「そう、この世界は女神ティターリアよって生み出され、その娘である6名の女神によって守られた世界。………そういう設定のもと作られた世界だ。」




「…設定?」




…彼は「設定」といった。間違いなく「設定」と。

それはどういうことを意味するのか。


その言葉はまるで、




「……設定だと?キリシマ殿どういうことか。」


「この世界を創ったのは女神ティターリアじゃない。この世界は、物書き(ライター)という俺たちの世界の1人の人間が描き出した『物語』なんだよ。」











「…ありえない。ありえるはずがない!」


「……フェリトールさん、何がありえないと?」


「貴様の話すべてが、だっ!!―馬鹿にしているのか!次元の壁を越えるなどと、そんなことは『深淵の魔女』ですら出来ない偉業!それこそ神の御業だ!それに付け加え人間がこの世界を作っただと。いくら異世界人とはいえ、そのような人間がいるなどっ!!」




今まで沈黙を守っていたエリゼナが烈火のごとく怒り、声をあげ否定の言葉を連ねる。



だが、それも当然のことだと思う。

今まで信じていたことが根本から覆されるようなことなのだ。特に、この世界では六女神信仰が広く信じられている。それこそ、世界中の国で生きる人々のほとんどの生活が教義とともに日常の生活に深く根付いている。霧島さんの言葉は、彼らの生きてきた歴史、誇り、そのすべてを否定したのだから。




「真実は得てして残酷なことが多かったりするんだよ。まあ、それはそれとして、信じるも信じないもそちらの勝手だから好きにすると良い。別に俺はどちらでも良いのだから。だが、これから話すことは先の話を前提に聞いてもらいたい。その上で判断すれが良いさ。」


「………………良いだろう。」


「異世界人が勇者としてこの世界に呼ばれるのは何もはじめてのことじゃない。もう何度か呼び出され、そのつど世界が救われている。違うか?」


「……………その通りだ。だから、今回も同じようにマキナやレオン殿が召喚されたのだ。」


「では、何故異世界人が毎回世界を救えるほど力を持ったものが召喚されたのか?」


「……それは、資質のある人、力の持った人を選ぶように術式が組まれていたということじゃないでしょうか。」




そうであるならば、一応の納得はできるはず。


いや、待って。じゃあ何で私が召喚されたのだろうか?私にはそんな力も才能もないただの一般女子高生だ。力なんてないし、現にこの世界に来てもそれは変わっていない。




「確かにそういう術式を組んでいるのだろうけど、それだけで一般人だった人がこの世界で勇者となれるような力を持てるというのは都合が良すぎる。そんなに簡単なことじゃない。」


「ならば、何故異世界人は勇者としての力を持っているのだ。」


「簡単に言えば、俺たちの世界とこの世界では位階が違いすぎるからだ。」


「…位階?」


「世界としてのレベルが違うということだよ。」




私もエリゼナも首を傾げていた。




「先ほども言ったが、この世界は物書き(ライター)によって創られた物語だ。」


「っつ、私達はこの世界で生きているのだ!!そのような世迷ご「話を最後まで聞け!」……。」


「……この世界は異世界人の住む世界の人間が創り出した世界だ。つまり、異世界とは、この世界から見れば『神の住まう世界』となる。この世界を創った神と同じ世界に住んでいるものが勇者としてこの世界に“堕されている”ということになる訳だ。」


「つまり、異世界人は神様ということになるの?」


「そこまでじゃないが、『100m走で子どもがオリンピック金メダリストに勝てますか?』という話なんだよ。立ち位置がもう違い過ぎるの。」


「……生まれた世界が違うだけですよ?」


「人が平等でないように、世界も平等ではないのさ。人間に上下あるなら、世界にだって上下はある。」


「……。」


「そもそもの存在のレベルがこの世界の人と俺たちの世界では違いすぎる。俺たちの最低ラインが、この世界にとっては雲よりも高い“はるかなる頂”ということになっているんだ。だから、元の世界で一般人だった者もこの世界なら勇者となれる。」




なんというか、理屈としては解ることが出来るが、納得したくない。

それが本当なら、私は化け物ではないか。




「あの……私が力を持っているような話で会話が今まで進んできてましたけど、私に勇者なんて力ありませんよ?」




そうなのだ。この世界に来てからも私の力は元の世界のころとなんら変わりはしなかった。

霧島さんの話が本当ならば、私はこの世界の人が到達できないほどの力を持っているということになる。だというのに私にはこの世界の人となんら変わらない程度の力しかない。それはどういうことなのか?




「そりゃぁ、君の力は封印されてるからな。………なあ、フェリトールさん?」


「え?……あ、いや、あの……その、何だ…………まあ、いろいろとな……。」




……何というか。エリゼナ、それではもう…



「………暴露しているも同然ですよ。」


「う!!…………………………すまない。」












*****














「つまり、本来の私には紛れもなく勇者として振舞ってもおかしくないほどの力があるということなんですね。」


「そうだ。マキナにはこちらに召喚されてすぐに封印の円環が付けられた。だから今はその力を発揮することが出来ないだけなのだ。」


「君を保護していた姫様が何を考えて君の力を封じたのかは知らないが、元の世界に帰る前にその封印を解かないと帰れないな。」


「……大変なことになりますか?」


「力を抑えられたまま帰ったら、元の世界でも今の力のまま生活することになるからな。大変どころの話じゃない。箸すら持てないんじゃないか?」


「…………なんでこんなことに。」


「………すみません。まさかこのようなことになっているなんて…。」




私の力はフェルの指示で私に封印を施したというらしい。エリゼナによると、フェルは私が召喚されることすら反対していたらしい。「自分達の問題を異世界人に押し付けるなど人の上に立つ王がすべきまねではない」と。だから、勇者として利用されないように力を封印し、一般人と誤魔化し、元の世界に帰せるようにといろいろやってくれていたらしい。




「………封印を解けるのは姫殿下だけだ。」


「なら一度王都に戻って、その姫殿下にお会いしないといけないな。帰るのはそれからだ。」


「あの、今更かもしれませんが…………どうして私がこの世界に来ることになったのですか?霧島さんのお話なら、誰が来てもよさそうな気がしますけど…。」


「…………………さあ?」


「…………………わかりません。」


「え、それじゃぁ偶然ってことですか!?」




選ばれた意味なんかないってことは、私の運が悪かったって言うことなのですか!?

あんな命がけな目に会わせておきながら、その原因が運のなさなんて………………………………………………………………やっぱ神様恨みます。




「まあ、それは何れわかることだと思うよ。とりあえず、王都に向かわなきゃならないな。」


「……あの、一緒に来てくれるんですか?」


「ここまで係わって視てみぬ振りも出来ないだろ。それに、どの道俺は王都に行かなきゃならない用事があるわけだからな。フェリトールさんも構わないか。」


「……そうだな、キリシマ殿が来てくれるならば安全だろうな。何しろ、勇者と同じ力をお持ちのようだからな。私などひとたまりもないだろう。」


「…なんとも棘のある言い方ですこと。」




エリゼナはどうにも霧島さんが信用できないのか、それともさっきの話が未だに気に入らないのかすごい冷たい目で見ていた。



私はそう悪い人だとは思えない。

そんなに話した訳ではないし、まだ知らないことも多いけど、きっと私達を裏切るようなまねはしないだろうと思っている。



これはただの勘でしかないけど、きっと外れることはないだろうと感じている。






宿に帰って、自分のベットにもぐりこんでからふと思ったことだけど、こんなにも無条件に人を信じたことって霧島さん以外にいないなと…。



そう思いながら私は夢の中へと落ちていくように意識を手放していった。






ああ、こんなにも安らいだ気持ちで寝るのは何時以来かな………。














わかる人にはわかると思いますが、一応マキナがヒロイン候補です。


もう1人考えているんですが、何時に出てくるのかはまだわかりません。

早く続きを書けよってことなんですけど、いろいろと忙しくて…。


基本的に私は人物の姿を描写していません。

そこまでの力がなくて書けないという、すみません私の問題です。

読者の皆様には脳内で妄想して補完して欲しいです。


出来たら改定して直せるようにしていきたいと思っています。

(何時になるのかはわかりませんが。)



今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

次もがんばって書いていますので、気長にお待ちください。よろしくお願いします。



かしこ



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