第五話 旅は道連れ、世は理不尽ばかり
何時の間にやら、PVが5000、ユニークが1200を回り、お気に入り登録も11件に増えていました!本当にありがたいです。
だというのに、投稿が遅れてしまい本当に申し訳ないです。
今後はもうちょっとがんばって早めに投稿できるようにしていきたいと思います。
こんな私を末永い目で見守っていただけたらなと願います。
今回も少しでも皆さんに楽しんでいただけたら幸いです。
国が発展していくにはいくつかの要素が要るが、その一つが交通網の整備である。
交通網も発展は国内の商業を発展させる。人の体にたとえるなら街道は血管で、商人はヘモグロビンであったりする。体中の隅々にまで酸素を運ぶためにはスムーズな流れがあって初めて成り立つ。血管が細くなっていたり、弱くなっていたりしたらスムーズな血流なんてできないし、血栓や何かで血管が詰まってたら死んでしまう。
街道においても同じで、街道は獣道などではなくしっかりと道を広げ整備し、川でさえぎられているなら橋を渡し、商人や旅人がより安全に行き来できる環境を作ること。これは国の発展のためには大切な国家事業なのである。
つまり、何が言いたいのかというと、
「大国を自称するなら、道路整備ぐらいしっかりとやれよ!なにこれ?!」
王都に向かってレグタントを出発してから10日あまり、いくつかの街を通って何の問題も無く順調に歩を進め、全行程の三分の一は消化したことになるのだが、ここに来て問題にぶち当たった。
「…道が無い。」
王都へ続く街道を通っていたはずなのにいつの間にか道が細くなり、森を抜けて行くうちに獣道になり、最終的には道が無くなった。
つまり、
「…迷った?」
おかしいだろ?
王都に近づいているはずなのにどうして道が無くなっていくわけよ。普通逆だろ?
ここに来るまで一本道であったから迷うはずはなかったのだが、道が無くなったらどこを目印にしていけばよいというのだろうか。森のなか入ったら遠くなんて見えないから、道がなくなると迷うしかない。これで、今までの人はどうやって王都まで行ってたのだろうか?
と、何時までも愚痴っていても先に進めないので、とりあえず方角的に来た方とは反対の方角、王都がある方角に真っ直ぐ進み始めた。
目検討なんで間違っているかもしれないが、その時はその時で。
*****
方針を決めてから、2、3時間。時たま出会う魔物を蹴散らしながら依然として変化も無く歩き辛い森の中を彷徨い歩いていた。
そうこうしている内に日もずいぶんと落ち、あたりはさらに闇深くなり、木々の先が見えなくなってきた。携帯食料も水もまだ十分あるので、このままここで野宿にしようと決める。せめて街道の近くにてとりたかったが、暗くなってからの移動は基本的に御法度だからここいらで足止め。
早速野宿の準備と始めたは良いが、かなり久しぶりだったため時間が思ったよりかかっていた。「火起こしってこんなに難しかったか?」とまあ、自分自身の抜けている部分を確認してしまうはめになり悲しくなる。
そういえば、幸喜たちと一緒のときは何時だってあいつらが魔術で火を起こしていたからほとんど火を起こした経験が無かったことに今気づいた。俺魔術なんて使えないから、魔術使って火起こしができないんだよ。ライター持って来るべきだった。でも俺、タバコ吸わないからライターとか持たないし。
火を起こし、携帯食料で腹ごしらえを終え一息つくころには当たりは一面闇に覆われていた。それこそ、火を消してしまえば真っ暗闇になり、1m先も確認できないほどだ。その分星や月がきれいに見えるが。
「それにしても、なぜに道が無くなっているのか。」
今俺を悩ませているのはその問題であった。この森に入って途中から道が無くなっていた。それがあまりにもおかしい。
この森に入る前に地図を見、街道が通っていることを確認し入った。少なくとも道を間違えるといったことになることはない。地図が古すぎて情報が間違っているなんてミスも犯していない。ここはしっかりと確認している。なら何故このような破目になっているのか?
「……やってらんね。アイツにかかわるとホント碌なことにならない。」
とりあえず、幸喜達に責任を転嫁し愚痴って落ち着く。
実際には違うのだが、感情的に譲れない部分がある。できない人間の僻み以外の何者でもないけどな。
「醜い感情だな~」とは思うものの積み重ねてきてしまったモノを簡単に無かったことにすることは難しい。少なくとも心の中で思うに止めておくようにしている。
本人たちの目の前で言うことでは無いのだから。
…別にここでしんみりする必要は無いのだけど、意外と暗い森に一人だけってのも寂しいものなんだよ。
「独り言も多くなるんだよな、無駄に。………ん?」
今何か甲高い音が聞こえた。
「…なんだ?」
意識を集中し、周囲の気配を探ると。
「移動している。…魔物じゃないな。…人?」
この暗い森の中をかなりの速度で移動するものがある。十数人が駆け抜けてる、…いや、先頭の二、三人が追われてるといった感じだろうか。
最近神経を研ぎ澄ますようなことに出会ってなかった上に、この世界は今までの世界とは比べ物にならない程魔力素が豊富なため感覚が合わなくて分かりづらい。意識集中しないと気配が探れないなんて……、使えないにも程がある。鈍ったな~。
…………鍛錬し直そう。
「と、反省する前に確認作業を急ぎましょうってね。」
俺は左目に手を当てて眼球の機能を作動させた。
「クアッドラスキャナーの索敵範囲を拡大……領域内を移動中のHからUにマーク、固体情報と状態の情報、その他もろもろの情報を収集………なるほどね、…得た情報をフォルダ“異世界4”にファイルを新規作成し保存。」
あながち間違っていませんでしたと。
でも、鍛えなおすことには変わりないのだけどな。
「それにしても、今はもう何の疑問も無く気配を探ったり、魔力の残滓を読み取ったりと、おまけに左目も、完璧に人間やめちまったよな。」
感慨深げにため息を漏らした。
昔はこんなでは無かった。……高校生までは。
「…ん?」
どうやら、俺が物思いにふけっているうちに先ほどの集団がこちらに向かってきている。
「まぁ、こんな森の中で焚き火なんてしたら目立つよな。」
さて、どうしようか?
こういうイベントは追われているのが何処かの貴族だったりして、助けに入るのが主人公の常道だけど、さっきから頭の中で警報がガンガンなってんだよ。「絶対に碌なことならない」と。まあ、さっき手に入れた情報も含めての判断なのだけど。
逃げているのが俺にとってプラスとなる人物という可能性は低いだろうし、実は警官に追われている泥棒だったりして。この世界に警察があるとは思えないけどな。
実際には夜盗に襲われている旅人というあたりが妥当なところだろう。こんな世界じゃ別に珍しくも無い。
しかしな、介入するのが一番情報を得られるし、助けたほうが良いのか、捕まえたほうが良いのか判断もつくのだけど。どうにも、リスクしかないように思うのは気のせいだろうか?
はてさて、どうしたものか?
*******
何度も転びかけるのを必死に堪え、私は足を前へ前へと出して行く。先の見えない森の中を頼りない篝火とともに駆け抜ける。
追いつかれるわけにはいかない。
捕まるわけにはいなかない。
私は死にたくなんてない!
どうしてこうなった!なぜ私がこんな目にあわなくちゃいけない!
泣くことも、喚くこともできなかった。逃げなければ、逃げ切らなければ、私に待っているのは死だけ。
後ろから徐々に私を追い詰めていく黒い影、振り返ることなんてできない。振り返ってしまったらもう二度と家族に会うことができなくなる。
こんな知らない、誰一人として知り合いもいない、訳も分からない土地で死んでいくだけ。そんなことは絶対に嫌だ!
私の足は限界をとうに超している。それでもなお走り続ける私を支えるのは、「死にたくない」ただ一つだけだった。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!こんなところで死にたくなんてない!!
「マキナ!こちらへ!」
私の護衛騎士だったエリゼナは私の手を引き右へと強引に曲がっていく。魔力によって強化された彼女に引き伸ばされた右腕が悲鳴をあげ、激しい痛みを私に与える。しかし、それでも足を止めるわけにはいかなかった。
「エリゼナ!」
「明かりが見えました!そこに行けば誰かが居るはずです!」
「そ、それじゃあ誰かを巻き込むことになる!」
「そんなことを言っている場合じゃありません。あなたは生き延びることだけ考えてください!」
「…で、でも!」
「急いで!!」
私は言われるがままに走った。どこを走っているかなんて全くわからない。前を走っていいるはずのエリゼナの背中ですら薄っすらとしか見えない暗い森の中を走る。
こんな世界で数少ない私の味方となってくれた友人は自分を犠牲にしてまで私を守ってくれていた。
このとき、私は恐怖以外の何も感じてはいなかった。
考えることなどとっくに放棄していた。私のことを真剣に助けようとしている人たちすらチップにして、自分だけでも生き残れるようにと願っていた。
言い訳に過ぎないというのは十分理解している。ひどく醜いことだということも解っている。
それでも、それでも!
私は自分を助けてくれた友人すら犠牲にしても助かりたいと思ってしまった。
死にたくないと思っていた。
神様に祈る前に、神様を呪っていた。
こんなはずじゃなかったと。これは悪い夢なのだと。
わずかな希望をかけて、私とエリゼナは先に見える光に向かって必死に走る。
「人がいますように」と憎き神様に祈りながら。
飛び込んだ先に待っていたのは、少し開けたスペースの中央にある焚き火と、それを囲むようにして並べられていた丸太であった。
「…だ、誰もいない?」
私たちの思いに反して、向かった場所には誰もおらず、静かに燃える火がユラユラと私たちの影を映すだけであった。
「馬鹿な!焚き火があるというのに誰もいないなどと!」
エリゼナの絶叫に近い怒鳴り声が響く。
人がいると思って走り込んだ先には人がいた痕跡はあるが誰もいなかった。
私たちを追うものにとって、誰かに見られてしまうということは多大なリスクを負うはずであった。だから、人が少しでもいるこの場所に逃げ込んだというのに。
ほんの少しのやさしさでいい、神様が慈悲深いというのならば、その慈悲を与えて欲しい。
しかし、いくら望んでいたとしても目の前の現実は変わらなかった。
「…エ、エリゼナ。」
「…クッ、急いでここを離れます。」
エリゼナは再び走りだそうとして、私の手を取らずに腰に挿した剣を引き抜き私を背に守るようにして前に出た。
「…囲まれたか。」
エリゼナがつぶやくと、私にも感じなかった人の気配というものが感じられた。私とエリゼナを囲むように10人ほどの兵が見えるようになり、完璧に退路を断たれてしまっていた。
「マキナ、決して私の後ろから出ないように。今の貴女ではとても敵う相手ではないわ。」
「一人でこれだけを相手にするって言うの?!」
「私には貴女を守る使命がある。殿下から賜ったのは貴女を無事にもとの世界へと帰すことです。こんなところで死なせる訳にはいかないのよ。それに、貴女のきれいな顔に傷一つつけるわけにはいかないしね。」
エリゼナはそう言って私に笑いかける。
「すばらしいことだ、エリゼナ・ベル・フェリトール。その忠義見習いたいものだね。」
「っつ、トナーク・エッフェンド…。」
「久しぶりだね。まさかこんな所で君と会えるとは思わなかった。」
追手の中からエリゼナと同じ騎士鎧を身に纏った男が歩みでてくる。エリゼナにトナークと呼ばれた男は軽薄な笑みを浮かべ私たちに言葉をかけてくる。一目見ただけだが、彼の立ち振る舞いは騎士というより貴族といった人物のように感じられた。その態度、言葉の端はしに私たちを見下した態度が見て取れる。
「まさか君が皇国を裏切ってこのようなことをするなんて思いもよらなかったよ。さぞかしお父上もお嘆きになっていることだろうさ。」
「…家は関係ない、これは私が独断でしたことだ。」
「あれ、それはおかしいね?先ほどの言葉といっていることが違うように思うけど。君の敬愛するフェルエミーナ殿下のご意志の元ではなかったのかな?」
「ちっ、白々しい真似を!調べはとっくについているだろうに!」
「ハハハ、当たり前だろうに!そうでなければ、君たちなんてこう追いかけることなんてないんだよ!」
トナークは厭らしい笑みを浮かべ、こちらに少しずつだが距離をつめ、周りの男たちも徐々にその包囲を狭めていた。
「それにしても困ったものだ。いくらフェルエミーナ殿下からの命とは言え、この国の期待を背負った勇者の一人であるマキナ様を勝手に国に返すなどと…その意味、君は分かっているのかい?」
「十分に承知の上だ。皇国のためとはいえ、皇国とは何の関係もない異世界の人の一生をわれらの都合で決めるなど、決して許されることではない!」
「何言ってるんだか。何のため莫大な資金を投じて勇者なんて眉唾物の異世界人を召喚したと思ってるんだ。彼らには莫大な血税が使われたんだよ。それに、今までの生活だって誰が保障していたって言うのさ?」
「……それは…。」
「いまさらなのさ。そんなことをいってたら政治なんてできないよ。他国の一人より自国の数百万の民をのことを考えるのが政治ってものでしょうに。それにマキナ様だって別に奴隷って訳じゃない。魔王を討つ勇者の一人として、皇国繁栄のための礎となれるのだから名誉なことなんだけどね。マキナ様、貴女もレオン様を見習って欲しいものだよ。」
「マキナ殿がそう望むのであらば、私も力の限りを尽くそう。しかし、何の前触れもなく平和な世界から連れて来られ、戦争の道具としての役割を押し付けるなどと、貴様も皇国守護騎士ならば恥を知れ!」
「僕たちは騎士だ。騎士は主に仕え、その命を守るのは当然のこと。その主命を僕は守っているに過ぎないよ。今まさに王命に背き、騎士としてあるまじき行いをしているのはどちらか。君こそ恥を知れ。」
二人の意見は真っ向から対立し、彼らのあり方の違いをそのまま反映したかのような有様であった。
「結局のところ、皇国が君たちを見逃すなんて選択はないんだよ。特に勇者なんて資質を持った人間を見逃すなんてありえない。皇国の利益にならないのなら尚のこと。」
「…エッフェンド!!」
「それに君たちは知りすぎている。これ以上他国に隙を見せるわけにはいかないのでね。ここで死んで欲しいのさ。」
「私がフェルエミーナ殿下直属の騎士だと知っていてのことか!このことが知られればお前とて無事にはっ、」
「誰が、殿下に伝えるというのさ?」
「っつ、貴様!!」
「…まあいいさ。どの道君たちの処遇は変わらない。ここでお別れさ。残念だよ、君たちみたいに見目麗しいご婦人方とお別れするのは。本当に残念でしょうがない。」
彼は芝居がかったように、両手を広げ笑みを浮かべていた。
「――――――」
「……始末しろ。」
トナークの言葉がいい終わると同時に、私たちを囲んでいた兵たちが武器を構え、一斉に襲い掛かってくると思ったその瞬間。
私たちを包囲していた兵二人の首が落ちていた。
「何?」
「……ぎゃ!」
短い悲鳴が聞こえ目を向けると、背後から襲われたのか、数名の兵が背中を袈裟切りにされ命を落としていた。
「…何だ!一体何が起きている?!」
「…な、何者かがわれわれを襲撃しています!」
「さっさと見つけて反逆者ともども抹殺しろ!!」
トナークが指示を出す間にも囲いを作っていた4人がやられていた。
「…い、一体何が?」
私もエリゼナも訳がわからずその場で止まってしまっていた。敵の姿は見えず、音も気配もせず、ただ一方的に命を刈り取られていった。
目の前で起きていることは一方的な狩りであった。それも、私たちを追い立てていた狩人が獲物として繰り広げられていた。その様子はまるで映画を見ているようで、私はただの観客となっているような心地であった。現実感があまりになかったのだ。
殺気も怒気も覇気もなく、悪意も善意もない。生きている気配すら感じられず、機械が行う作業のごとく流れていくだけであった。
舞台の上では次々に人が死んでいく。
舞台まではたった数メートル。だというのに、目の前の光景はできの悪い劇でしかなかった。
訳がわからない。こんな簡単に人が死んでいく。私たちを殺そうとした者たちがあっけなく消えていく。そこには恐怖もなく、嫌悪もなく、その醜悪ささえ私には感じ取れなかった。
私が思ったことはただ一つ
ただただ、「綺麗だな」と思った。
何も見えないはずだった。何も感じることなどなかった。
でも、そう想ってしまった。
そしてこのとき、私は「ああ、壊れてしまったのだな」と、心のどこかでそう感じていた。
私はこの光景が、当然のことだと納得していたのだから…。
*******
簡単に言ってしまうと、あっけない終わりであった。
会話の内容からそれなりに手練の部隊であるのかと思っていたのだが、結局奴等は最後までこちらの位置すら把握できずに処理できてしまった。
というより、人選の選択ミスであるとしか思えない。
普通、秘密裏に処理をしようと思うなら、獲物の前にわざわざ姿を現してあんな演説をやるのは無意味でしかない。彼女らが足を止めたときに、取り囲むのではなく真っ先に殺してしまうべきだった。あのように人前にわざわざ出てべらべらと要らんことを話す必要なんてない。しかも、どうやらトナークという騎士は自分の身分や出自が絶対の行き過ぎた選民思考の持ち主のように感じる。
ただの馬鹿でしかない。人を見下す暇があるならさっさと主命を果たせよと声を大にして言いたい。部下も気配を隠すことすらしないなんて素人もいいところだった。本当に彼女たちを消す気があったのだろうかと本気で悩む。皇国は人材不足なのだろうか?
そんなやつらであったから、後ろから近づいて首を落とすなんて簡単なことだった。わざわざ人前に姿をさらす必要なんてない。こういった輩はさっさと消すに限る。
とりあえず、混乱しているうちに隊長であるトナーク残してあとは片付けておく。
「糞っ!役立たず共が!!」
部下が全員やられてしまってからようやく自分に降りかかった問題に気付いたのか、周囲に意識を向けだした。実際には彼女たちから目を離すわけにもいかず、注意が散漫になってしまっていたが。
追い詰めていたはずなのにいつの間にか自分が追い詰められていたというのは精神的に圧力が相当かかる。そんな状態を作り出した自分が言うのも何だが、ご愁傷様と言っておく。
「一体誰だ!こそこそしてないで姿を現したらどうだ!それとも何か、そんなに僕が怖いのか!」
「ハハハッ!!姿を見せることもできない腰抜がっ!この僕の部隊に手を出してただで済むと思っているのか!だが、僕もそこまで鬼じゃない、素直に姿を見せ、許しを請うなら命だけは助けようじゃないか!」
なんとまあ、ご期待道理につまらない台詞を吐いてくれるものだ。今の状況もわかってないのか。経験がないのか、よくこんなで騎士が務まるな。
「後ろだよ。」
だが、一応人生の先輩として話には乗ってやることにした。
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そいつは前触れもなくトナークの背後、私たちから見て正面に現れた。中肉中背の体格をしたごく普通の男であった。見た目的には特徴的というほどの特徴もなく、服装も少し軽装かとは思うが一般的な旅装束を着ていた。しいて言うなら、彼が持った赤い大剣が特徴的であったぐらいだ。
だが、私はこの男に恐怖を抱いた。見た目はそこいらにいる男と同じでしかない。なのに、私はこの男が只者でないと感じていた。
彼は目以外の感覚に存在を訴えていない。
視覚以外で彼を捉えられない。彼を見ていなければ、そこに彼がいるとは感じられなくなるほどに存在感がない、分からないのだ。気配も魔力も何も感じ取れない。
彼の異常さはおそらく、魔法や魔道具を使用した隠蔽術ではなく、身体のみによる気配遮断。だとするならば、彼はかなりの実力を持った暗殺者だ。ならば、なぜ彼は最後の最後で我々の前に姿を現したというのか?
「貴様か!こそこそと我が栄えある皇国守護騎士たるこの僕の部下を!」
「この状況でいちいち確認する必要あるか、それ?」
「…っく、貴様のような下賎な輩が、このトナーク・エッフェンドにそのような口を利くなど!」
「えーっと、後ろの君、マキナさんといったかな。君にいくつか聞きたいことがあってね?」
「…な、なに?」
「……え、あ…はい…。」
彼は何の前触れもなくマキナへと話しかけていた。その声色は優しく、先ほど感じていた恐怖が全く感じられなかった。そして、彼の気配を感じることができるようになっていた。
「君が勇者の一人なんだな?」
「…はい、そうです。」
「一人ということは、他にも召喚された勇者が居るか?」
「はい、私のほかにもう一人、レオンという男の方が。」
「参ったな。予想外にも程がある。」
「っつ!この、僕を無視するって言うのか!!!」
何時の間にやらトナークと私を挟んでの会話が成立していた。というかマキナ、正体不明の輩に質問されて律儀に答える人が居ますか普通。
「いや、君にはいろいろいろんなことを教えてもらった。礼を言っておく。だが、今はお前と話すことはない。少し黙ってろ。」
「ば、馬鹿にしやがって!!」
トナークは剣を抜き、男に切りかかろうとして剣を振りかぶり、
「アホ、状況を見極めて行動しろ。」
剣が振り下ろされる前に、何時の間にやらトナークの懐に入り込んでいた男の赤き大剣が奔り、剣を持つ腕ごと切り裂いていた。
「があああぁぁぁぁぁ…!!!う、腕が、ぼくの腕がぁぁぁ!」
「大の男が、腕一本なくなったぐらいで喚くな。」
「ごぉっ!!」
男は、腕を切り落とされ蹲っていたトナークの腹部を蹴り上げ、強引に彼を黙らしていた。
「さて、さっきの続きだが…。」
「糞っ、糞っ、糞っ、糞っ、……貴様らみたいな屑を始末するのになんでこの僕がこんな目に!!」
「…どっかで聞いたような台詞だな。」
「こんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「これもどっかで聞いたような台詞だな。」
「僕は、かのウエンドリタの英雄ガシュペー・エッフェンドの息子、トナーク・エッフェンドだ!!皇国の名の下に貴様たちを必ず極刑にしてくれる!!死ぬより辛い責苦に苦しむがいい!!」
「…まだ喋る元気があるのか。」
男はあきれたように地面に蹲ったままのトナークを見下ろしていた。先ほどとは打って変わって、ありありと男の感情が読める。あの何も感じられなかったということが嘘のように感情豊かな表情を見せていた。
「このことが皇国に知られれば、貴様らの命など!」
「知られなければいいことだろ?」
「ま、まさか…や、やめ!」
言い終わる前に、いとも簡単にトナークの首が刎ねられていた。
あれほど私たちを追い込んでいた者たちが、たった一人の人間にものの数分足らずで一人残らず骸と化していた。
このときの私はあまりの展開に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くすのみであった。ただ一言、私の後ろでマキナのつぶやいた「綺麗」という言葉がいやに耳に残っていた。
このときの出会いが、運命の歯車を動かす破目になるなど一体誰が想像できたというのだろうか。少なくともこのときの私には予想できなかった。
これを境に私の人生は一変した。今まで以上に苦難の道を歩くこととなった。
このときの私には想像も付かないことだったが、振り返れば後悔や苦悩の波に飲み込まれる日々であった。その一端がマキナであり、あの男であった。
他人に言わせれば、「不幸」であったのだと。
だが、あえて言わせて貰おう。
このエリゼナ・ベル・フェリトールの人生において、彼らと出会えたことは幸福であったのだと。
この名に誓って。
思っていた以上に変な方向に行ってしまった気がします。当初の予定からかなり外れてきました。
というか、キャラの性格が安定していない気がする。
書きたいことがたくさんあって、ころころ変わっていきます。…キット。
それでも、楽しんでいただければと思い、最後まで書き続けます!
最後に、もし語尾、脱字がありましたら指摘などをしていただけるとうれしいです。また、意見や感想も随時受け付けてます。
こんな未熟な作者に渇を入れていただけたらそれだけでありがたいです。