WORLD 3-2 : 首が飛ぶゲーム
「聞いてないのか? 10億は分配制だ。人が死ねば死ぬ程一人がもらえる分が増えるんだ」
イズミは嘲笑うように言った。
「お前、書類ちゃんと読まないタイプだろ」
ハルカの父ほどでは無いが、体格の良い男が、俺を地面に押さえつけながら話した。
「契約書類に小さく書いてあった」
彼はスキンヘッドで、胸には54番のワッペンが光る。
「バカはこういう所で足元すくわれるんだな」
ぐうの音も出ない。
俺は思わずつぶやいた。
「クソ……」
「じゃあ、頼んだぞ。スズハラ」
イズミは、スキンヘッドの男にそう言うと、仲間を3人連れて、テレビの方へ向かった。
「ゲーム再開だ」
気がつくとブラウン管テレビの画面表示が変わっていた。
『* 1 PLAYER GAME』
イズミはコントローラーの横に座った。
コントローラーの前にはメガネをかけた細身の男が座る。
「プラットフォーマーは任せて欲しいです」
メガネの男はそう言うと、ゲームをスタートさせた。
『WORLD 2-1 ザンキx96』
うまい。
アヤノとは比べものにならないほどに。
そのままノーミスでWORLD2をクリアし、WORLD3へ突入する。
3-3をクリアした時、突然イズミが大声を出した。
「おい、つまらねーーぜ!!」
プレイ中のメガネの男に近づき、小声で言う。
「ここらでさぁ……な?」
スズハラは俺の方を顎でしゃくった。
メガネの男はニヤリと笑う。
その時、俺は全てを察して、声を荒立てる。
「イズミはお前も裏切るぞ! スズハラ!」
しかし、スズハラは動じず、俺を押さえつける手を強くした。
「イズミは俺に力では勝てないってわかってる。だから、そんなバカな真似はしない」
(クソ…揺さぶりは通用しないか)
ふと見ると、ハルカは泣きそうな顔をしていた。
俺は精一杯の力でハルカに近寄り、できるだけ穏やかな声で言った。
「大丈夫だ。俺が必ず助けてやる」
そう言うやいなや、俺はスズハラの腕に噛みついた。
「いでぇ!!」
そして、俺は立ち上がり、右手でスズハラの胸元を掴む。
そして、左手で殴った。
しかし、スズハラはびくともしない。左手だと明らかに力不足だ。
俺はすぐに三人のイズミの手下に取り押さえられてしまった。
舌を噛んでしまい口から血が出る。
押しつぶされる俺を見て、イズミがせせら笑った。
「最後の抵抗も無駄だったな。目の前で見てろ。お前のせいで女の首が消し飛ぶ様を……」
ハルカが目の前で今にも泣き出しそうな顔をしている。
アヤノは既に目を逸らしていた。
イズミはコントローラーを持つ男に目配せをした。
そして、画面で、トゲだらけの敵にプレイヤーキャラクターがぶつかり――
画面が、黒くなった。
『GAME OVER』
そして画面は切り替わる。
『* SELECT DEATH PLAYER』
それと同時に、ピコ、ピコ、ピコ……と不気味な音と共に、カウントダウンが始まった。
10…9…8…7…。
メガネの男はハルカの方を指さして、叫んだ。
「死ぬのはそこの女だ! 54番!」
6…5…。
一瞬、イズミの眉間にシワがよる。
「ん? 何か……」
その時、アヤノが声を張り上げた。
「やめて! 選ぶなら……私にしろ!!」
その声は、張り裂けんばかりだった。
震える声。にじむ涙。
アヤノは、ハルカの前に一歩出て、叫び続けた。
「彼女は……何もしてない!! 殺すなら、私を選べ!!」
一瞬、空気が凍りつく。
イズミは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「バカめ。プロゲーマーを殺すわけがない。死ぬのは……」
4…3…。
その瞬間、イズミの目が見開かれる。
「54番…? おい、まずい! 違うぞ!!」
しかし、もう遅かった。
2…1…。
ボン!!
鈍い破裂音と共に、54番。スズハラの首が消えた。
大量の血が俺の身体中に飛び散る。
俺は血まみれで彼の腕の中から脱出した。
「スズハラ!!」
イズミが彼に駆け寄った。
しかし、首のない死体は力を失っている。
イズミはワナワナと震えてその場に座り込んだ。
みんな、その様子を固唾を飲んで見守る。
「貴様……女の番号ワッペンをすり替えたな……よりにもよって……スズハラと……!!」
イズミは絞り出すように言った。
鬼の形相で俺を睨みつける。
「絶対に、絶対に許さない。殺してやる…」
そんな中、場違いな電子BGMが響いた。
『ヤラレチャッタ』
『ザンキx95』