WORLD 4-1 : 沈黙の街
巨大ブラウン管に、1から20の文字が縦に並べて表示される。まるで、何かの順位のようだ。
そして、ハイビジョン対応テレビが、壁際に20台、一列に並んだ。
画面には、反重力マシンと思しき20台の機体がコースに並んでいた。
『STAGE 4:DEATH RACE』
巨大なブラウン管テレビに表示されたルールは、あまりにも簡潔で、そして残酷だった。
* 参加人数:20名
*ルール:最後の1人になるまでレースは終了しない。1分間最下位だった者、機体HPが0になった者は死亡する。
*制限時間内に20名がコントローラーを握らなかった場合、全員死亡とする。
各テレビの前には、見慣れない形のコントローラーが置かれていた。
十字キーに、LとRのショルダーボタン。
そしてカラフルな4つのボタン。
「に、20人……?」
「最後の一人って……19人死ぬのかよ!?」
「冗談じゃねえ!誰がやるか!」
パニックが伝染する。
誰もが後ずさり、コントローラーから距離を取った。
これまでとは桁が違う。
1ミスで1人が死ぬのではない。参加した時点で、ほぼ死が確定するのだ。
「落ち着け!」
その声を張り上げたのは、ヤマギシだった。
彼は皆を見渡し、静かに、だが力強く言った。
「やりたくない気持ちはわかる。だが、このままでは全員死ぬことになる。それだけは避けなければならん」
彼はゆっくりと、コントローラーの一つに向かって歩き出した。
「私はレースゲームなど、やったことがない。おそらく、君たちの中で一番下手だろう。だが……君たちが参加しないというなら、私だけでも参加する」
その背中には、覚悟が滲んでいた。
俺は思わず叫んでいた。
「ヤマギシさん、待ってください!俺がやります!」
しかし、ヤマギシは振り返ると、静かに首を横に振った。
「カドクラ君。君のその勘と知識は、ここから脱出するために必要だ。こんなところで死なれては困る。……ここは、わしに出番を譲ってくれよ」
それは、年長者としての、そしてリーダーとしての決意の言葉だ。
俺は何も言い返せなかった。
その時だった。
「どけよ、ザコどもが」
イズミが、近くにいた男を蹴り飛ばし、無造作にコントローラーの一つを掴んだ。
彼は舌なめずりをしながら、ニヤリと笑う。
「面白いじゃねえか。19人殺せば、賞金も独り占めに近づく」
彼の仲間たちが数人、それに続く。
恐怖に駆られた者、自暴自棄になった者が、次々とコントローラーを握っていく。
画面の参加者カウンターの数字が、1、また1と増えていく。
【19/20】
あと、一人。
テレビ画面のタイマーが、赤く点滅を始めた。
【TIME : 10】
「誰か……誰かいないのか!」
【TIME : 05】
もうダメだ、と思ったその瞬間。
フードを深く被った影が、人々の間をすり抜けるように走り出た。
【TIME : 03】
「……ったく、男どもが、ごちゃごちゃやってんじゃないわよ」
【TIME : 01】
アヤノだった。
彼女は忌々しげに呟くと、最後のコントローラーの一つを強く握りしめた。
【20/20】
ヤマギシが、アヤノを見て目を見開いた。
「アヤノ君、なぜ……」
「……あんたみたいな素人が出しゃばって、すぐ死なれるよりマシでしょ」
彼女は視線を逸らしながら言った。その声は震えていた。
プロゲーマーとしてのプライドか、それとも――。
カウンターが満たされ、ブザーが鳴り響く。
20人の参加者が確定した。
その中には、覚悟を決めたヤマギシがいる。
そして、レースゲームが専門外のはずの、アヤノがいる。
今、まさにレースが始まろうとしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!
いいねやブクマ、感想がとても励みになります。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️も是非……!
少しでも面白いと思ってくださったら、何卒よろしくお願いします!