表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

WORLD 3-4 : テストルートの影

(なら、信じろ。開発者の勘を)


 俺は深く息を吸い、ジャンプボタンを押した。


 キャラが上に跳ぶ。

 一瞬、天井に頭をぶつけたように見えた。

 だが、スッと壁を抜け、画面の外へと昇っていった。


 音がない。敵もいない。

 そこには、ただ一直線に伸びる細い足場だけがあった。


「……行けた」


 その声と共に、部屋の空気がわずかに動いた。


 画面の中では、キャラが「何もない空間」に立っていた。

 背景はそのまま、足場だけが一直線に右へ伸びている。


 敵も罠もいない。

 コインも無い。

 ただ、目的地までの道だけが残されていた。


「やっぱり……」


 俺は静かに呟いた。


「これはテスト用ルートだ。開発中に、ここまで辿り着けるか確認するための」


「草の挙動で勘づいたのか。しかし、よくやるな。違ったら死んでたぞ」


 サエキが感心したように言った。


 キャラを右へ進める。

 音もなく、敵もなく、ただ、夕焼けの背景だけが流れていく。


 ゴールフラッグが、唐突に現れた。


 その瞬間、何かを振り返るように、俺は一度だけ下のルートを見た。


 理不尽さはない。ただ、難しかった。

 俺には、できなかったかもしれない。


「行くぞ」


 俺は小さくつぶやき、Aボタンを押した。


 キャラが旗に飛びつく。


『CLEAR STAGE 3-4 ザンキ x95』


 歓声が上がった。

 イズミは顔を逸らす。


「おつかれ」


 アヤノの声が、珍しく真っ直ぐだった。


「つまんないプレイ、って言ったの、撤回してもいい?」


 俺は肩をすくめる。


「どっちでもいいさ。俺は生き残った」


 ハルカが泣きそうな顔で出迎えた。


「……ありがとう」


 俺は彼女の肩にそっと手を置いた。


 そのとき、テレビが一瞬だけノイズを走らせた。


『NEXT STAGE COMING SOON』


 その文字が、じわりと現れて――

 しばらく、何も起こらなかった。


 休憩時間だ。


 次の瞬間、天井から「カシャン」という音が響き、何かが落ちてきた。


 地面を見ると、レーズンパンと緑茶が落ちていた。


「レーズンパン緑茶って、センスどうなってんだ? 嫌がらせか?」


 ヤマギシが眉間にシワをよせる。


「まあ、生きて飯食えてるだけでも、良いじゃないですか」


 俺は彼をなだめた。


「しかし、見事だったよ。感動した」


 ヤマギシが握手を求めてくる。

 俺は苦笑いで応じた。


「ふん。今のうちだけさ」


 イズミが吐き捨てるように言った。


「お前のような覚悟では、次は勝ち進められない」


 彼は踵を返し仲間の元へ去っていった。

 しばらく彼の背中を見送る。彼の背中はずいぶん小さく見えた。


「ゲームって何個あるんだろうな?」


 アヤノがパンをかじりながら言った。


「セオリー通りならWORLD8までだろう」


 ヤマギシはそう言うとお茶を一気に飲み干した。


「じゃあ半分くらいまで来てるって事ですね」


 ハルカが少し嬉しそうに微笑む。


 その時だ。

 ガシャンガシャンと大きな機械音を鳴らし、少しだけ薄くなったハイビジョン対応テレビが、壁の中から現れた。サイズは一般的なそれと大差ない。


 しかも一台ではない。ざっと数えただけで20台はある。

 それらが壁から一列になって並べられた。


 そして、巨大ブラウン管に、1から20の文字が縦に並べて表示された。まるで、何かの順位のようだ。


「何が始まるってんだ…」


 サエキが疑惑の声を上げた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!!

いいねやブクマ、感想がとても励みになります。

⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️も是非……!

少しでも面白いと思ってくださったら、何卒よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ