第9話 遺跡の入り口
師匠たちとお茶した後、リトスは魔術の実験に勤しんだ。気兼ねなく魔術が使える精霊界だからこそ、試してみたい術式が沢山ある。
張り切って魔術に集中しているリトスの頭の上に、精霊鳥がぽとぽと落ちてきた。かなり邪魔だ。
魔力と星瞳を解放すると、精霊鳥にたかられてヒヨコまみれになってしまう。バネッサは「小鳥ちゃん可愛い~!」と喜ぶがリトスは遺憾だ。とはいえ、この精霊鳥たちは自主的にリトスを守り、魔術の補助をしてくれるので、あんまり無下にできないのだが。
いろいろ用事を済ませ、人間界に戻る。
門をくぐり抜けると、精霊界に行った時と変わらない朝の空気が出迎えてくれた。
「何回やっても時間差が慣れねーな」
精霊界で一日過ごしても、人間界では一刻に満たない。
時間の流れが違うのだ。
まだ休日は終わっていない。日も高いし、今日は何をしよう。
「それにしても、レイヴンの目的は、遺跡か」
リトスは、精霊界で聞いた情報を思い出した。
遺跡なら学園の地下にもある。
うっかり学生が迷い込んだらまずいので、心配性のリトスは遺跡の入り口に結界を張って封じていた。もちろん、学園の教師が施した結界もあるのだが、それでは心もとなかったので、念のためだ。
「……見に行くか」
レイヴンが学園に来たのは、遺跡を観察するためかもしれない。
学園の中に漂う自分自身の魔術の痕跡は消したが、地下までは対処していなかった。
リトスは学園に引き返し、遺跡の様子を確認することにした。
休日でしずまりかえった学園の施設に侵入し、他の学生に見つからないように、隠密の魔術を掛け、地下への階段を下る。
誰にも声を掛けられず、遺跡の入り口に辿り着いたリトスは、自分が一足遅かったことを悟った。
「あいつ……!」
遺跡の入り口に、小さな黒竜が丸くなって寝ている。
それがレイヴンの契約精霊だと、リトスは一目で分かった。
その精霊が、遺跡の入り口を見張るためにいることは明らかだ。
「まずったな」
柱の陰に隠れながら、リトスは苛々と腕組みする。
レイヴンは遺跡を封じている封印をすり抜けようとして、できなかった。だから精霊にここを見張らせているのだ。十中八九、彼の邪魔をしたのは、リトスの施した封印だ。
これでレイヴンとの対決は、避けられなくなった。
「そもそもあいつ、遺跡に何の用だ?」
星瞳の魔術師だからって、全員善人だとは限らない。
もし、この国に災いを起こすのが目的なら、黙認できない。
リトスには、このメレフを守る義務がある。それは生まれ育った国だから愛着があるとか、そういう単純な理由ではなく、もっと現実的な約束があるからだ。
「確認しないとな……」
柱を背に腕組みするリトスの瞳が、一瞬、鮮やかな空蒼色に輝いた。