「あまり意味の無い証明書」に翻弄された日
役所の担当者の動きがピタリと止まってしまいました。
それは「登記されていない証明書」の確認をしている時でした。
「あの……大変申し訳ないのですが、住所が違うので法務局で取り直してください」
「え……そんな。何度も確認したはず……」
担当者の指したところを見直すと何と住民票の住所のある所に「‘」が付いていた! こんなところについているのを見たのは初めてで、全く気付かなかったのでした……。
バラバラッ! と言う音で我に返ると、あまりの動揺で持っていた書類を落としてしまったのでした……。
こうなってしまうと、ほとんどの場合で修正を拒否する権利はないことは分かっているので、「はい分かりました……」と小さく応答してから書類を拾い直したのでした。
法務局に立ち寄ってからだと今日の時間だともう間に合わないのは、確定になってしまったために、もう一度出直して再提出することになったのでした(のちに再提出は通りましたが)。
◇「登記されていない証明書」は何のためにどういう役割があるのか?
完全に「住所をやらかした」のは僕であり、お役所の方は「ちゃんと仕事をしていた」ために理不尽さと言うのは実はあまり感じていないのですが、
そもそも「登記されていない証明書」について「存在疑義」があるんですね。
あまり、ご存じない方のためにこの書類についてまず解説させてもらいますと、
『登記されていない証明書(登記されていないことの証明書)』は、特定の人物や法人について、不動産登記や商業登記などの公的登記に登録がないことを証明する書類のことです。
個人の場合は破産者でないかどうか? 成年被後見人になっていないかなどかが分かる書類になっています。
身分証明書との違いは成年後見制度の前身である禁治産者(成年被後見人とみなされる者)、準禁治産者(被保佐人とみなされる者)については、その内容が本人の戸籍に記載されていたので「身分証明証」を取れば良かったのですが、それ以降の成年後見制度からは記載されなくなりました。
※かつて戸籍に「禁治産」や「準禁治産」と記載されることは、本人に対して社会的な烙印となり、差別や不利益を招く「スティグマ」の恐れがありました。
成年後見制度により、そのような情報を公に記載しないことで、本人のプライバシー保護を図るようになったそうです。
そのために、平成12年以降では「登記されていないことの証明書」が必要になったのです(基本的に本人または代理人しかとることが出来ないです。僕の場合は今回代理人として取りました)。
この主に国家資格の登録や会社の許認可申請などの際に活用される書類となっています。
◇問題点と改善案
しかし、住所が少しでも「住民票と違ったら取り直し」になるかなり繊細な書類であるにも関わらず、これにはいくつかの限界や疑問視される点があるのです。
「登記されていない証明書」では、
特定の登記簿に「その名前の人物の記録がないこと」を証明するだけで、本人の実在や他の形態での登録の有無までは証明できません。
例えば、「通名」で普段活動しており住民票にも「通名と本命の両記載」が載っていないケースの場合には、全く意味が無いものになります。
(マイナンバー等を記載する欄も無いために、架空人物の証明の可能性すらある)
また法人の場合は以前に法人が存在していたものの、すでに解散・抹消されている場合、その情報は証明されません。
つまり、解散する前に破産をして新しく創立した場合には全く意味の無いものになります(ほとんどの場合は個人が連帯保証人となっており破産することが多いでしょうけどね)。
更に証明される成年後見関連の制度は裁判所による手続きであり、民間での任意後見契約の有無については証明されないのです。
一般の方に見せる際にはほんのちょっと住所を変えることや、転居する前後の住所を提出することで「違う人物と判定して、無いことを証明してくれる」ために騙しやすくなるのです。
この書類は基本的には役所に提出するモノなので、法務局で取ることになると思うのですが、役所同士の連携が取れていれば自主的に調べ上げて調査することも可能なはずです。
いずれにせよ、多額の費用と手間をかけて作ったマイナンバー制度と蚊帳の外の存在であるために、まったく意味が無く存在価値も感じさせないと言え、デジタル化とは何だったのか? と思わず言いたくなるような存在です。
ハッキングをされたら一気に資産情報が流出してしまうマイナンバーと口座情報やクレジットカード情報を紐づけるより先に、
役所同士の「情報の横連携」をマイナンバーで行うべきだったと思います。
そうすれば、法務局の係担当者は最低でも減らすことが出来るために人口減に対応できると共に、事務担当者分の費用削減にも貢献できます。
住所の些細な違いを目を凝らして探すのでは無く、抜本的な公的事務を改革して欲しいな……。
と、通算2回目の登記されていない証明書を「やらかした人間」がちょっとした愚痴をこぼしてみました。