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16話 花宮さんに、部活内暴力を。

 「あのさぁ!!!」


 「は? なに?」


 凍てつくような冷たい視線が注がれる。でも、もう怯むものか。バクバクとうなる熱苦しい心臓を頼りに、僕は全力で歯向かっていった。


 「白鷺さんを傷つけんなよ!!!」


 「……え、何その態度。雑魚ナメクジが私に噛みついてくるな。地を這うだけの虫ケラ風情が」


 「(口わっっっる!!!未だかつてない罵倒!!)」


 花宮さんには僕がナメクジに見えるみたいで、その後も、ヌメヌメしててうざいとか、踏み潰すとか、なんかよく分からない追撃を吐き捨てられた。でも、一つも納得できなくて、ダメージを負うことはなかった。だって、僕、ナメクジじゃないし。


 「僕のことはいいから、白鷺さんに謝れ! ネチネチ悪口言いやがって! 見てみろ、この萎れた白鷺さんの姿を!!」


 「どうでもいい。最初に傷付いたのは私。白鷺さんのせい」


 「絶対白鷺さんのせいじゃないって!!! 悪いのはクラスの男連中だろ!! 責任転嫁すんな! …………え、えっと、カタツムリ風情が」


 「私はカタツムリじゃない」


 「あっ、…………まぁそうだけど……」


 差し添えるように否定された。意味のわからない例えだったよね。ごめんね。言い淀んだ時に辞めればよかった。


 「あと、私に傷つけるなって言うならさ、まずあなたが白鷺さんを傷つけるのをやめたら?」


 「……はぁ?!僕がいつ白鷺さんを」


 「毎日、貴方を重そうに運んできて。吐いて、吐いて。気持ち悪そうに1日過ごしてる。横からずっと見てたよ。何してんのか知らないけど、貴方のせいでしょ。やめたら?可哀想だよ」


 「…………」


 「何言われても、"お前が言うな"って感じじゃん?」


 僕の中で、言葉が消えていた。何も言い返せなくなっていたんだ。

 思えば、白鷺さんはいつも、酷い状態だった。何でこんなに体調悪そうなんだ? なんて能天気に思っていたけれど。あれはきっと、僕のせいだ。あの重そうな台車で、自殺場所から学校まで、毎朝僕を運んでいたんだ。なんで僕は、今の今まで気にしていなかったんだ。それに比べたら花宮さんなんか、まだ……。


 "白鷺さんを傷つけるな"


 放った言葉がUターンして帰ってきた。そして、自分に牙を剥く。罪悪感と、何も反論できないという屈辱感が一挙に押し寄せてきた。

 言いしれぬ不快感が、心を支配している。このままだと、またさっきみたいに足がすくんでまともに喋れなくなってしまう。

 そんな僕とは裏腹に、白鷺さんはいつの間にか立ち上がっていて、花宮さんに真っ向から相対していた。

 僕を庇うように、懸命に、言葉を繋いでいた。


 「それは……私がやりたくてやってるだけ!! 私は傷付いてない!! だから……大丈夫なの!! 悪く言わないであげて!」


 「無理があるよ」


 論戦を繰り広げている。僕は呆然としながら、それを聞いていた。


 「目の下の薄いクマ、ほほのやつれ、肌荒れ。連日の無理が祟っているみたいだけど、大丈夫?」


 「……そ、それは……っ」


 「まともに寝れてないでしょ。ここ数日。この男のせいで。」


 「……っ!!」


 「まぁ、この調子なら近いうちに私勝てそう。2人で乳繰り合いながら自滅していってね」


 この人に舌戦で勝てないと、薄々気付き始めていた。

 それでも、負けたくなかった。イライラして、悔しくて、僕は声を絞り出した。

 でも、無意味に相手を否定する言葉しか出なくて。


 「うるさい……」


 言い負かされたくない。説き伏せられたくない。花宮さんの言葉に耳は貸さない。どんな正論も無視してやる。


 今はただ、花宮さんを貶したい。


 「うるっせぇんだよ!!!!」


 「あ?」


 花宮さんから、白鷺さんを守りたい。これが、僕の目的だったはずだ。

 だけど、そんなこと、忘れていた。僕は熱くなりすぎていたんだ。正論を突きつけられたせいで、花宮さんを傷つけようと躍起になってしまった。

 だから、僕は言ってしまった。言われて花宮さんがどう思うのか、簡単に予想がつくはずなのに。


「ずっと思ってたんだけどさ!! 2番手扱いされたくらいで傷つくなよ!! 白鷺さんには絶対に勝てないんだから欲張ってんじゃねぇ!!! 栄えある代役で、満足して諦めろよ!!」


 「…………」


 「何があっても勝敗は覆らないからさ!! 諦めて楽になれって! 可愛さの自力が違うから! 代用品扱いされるのも当然だから気にするなって! というか、性格悪すぎて代用にすらなるかわから」


 「……っ!!!」


 言い終わる前に、白鷺さんが僕の口元まで手を伸ばし、言葉に蓋をした。花宮さんに聞かせないように。けど、もう遅かった。


 「………………」


 花宮さんは明らかに怒り狂っていた。鬼の形相という言葉があるが、まさしくそれは、彼女のための言葉だった。

 そして、遅れて気付く。僕が何をしでかしたのか。不必要に、彼女を刺激して、不快にさせたんだ。白鷺さんを守りたいだなんて大義名分すら捨て去って、ただ夢中に攻撃した。

 僕は彼女の苦痛を知っていた。何を嫌だと思っているのか、涙ながらに話す彼女の姿は、まだ記憶に新しいんだ。

 だからこそ、最高に罪深い。一刻も早く、謝らないと。


 「あっ、ごっ、ごめ」


 もう遅かった。


 光の速さで何かが襟元に飛び込んできて、胸ぐらを掴まれる。

 凄まじい握力。ギシィィという、衣服の断末魔が聞こえてきた。

 そして、首元の拳が襟を掴んだまま華麗に半周デスロールし、僕の頸動脈が的確に締め上げられる。


 「ぐぅぅっ!!!」


 最後に、彼女の右手と共に、僕は空中へ掲げられた。激しい後悔と虚無感が渦巻く心の中で、なんか白鷺さんの時もこんな感じで首掴まれたなぁ……なんて、いつの日かの屋上を思い出した。


 「ち、ちょっと!!!」


 白鷺さんが急いで止めに入る。花宮さんの腕や手を掴んで、引っ張ったり押したり、拘束を解こうとしている。けど、全然動いてない。白鷺さんの微々たる力じゃ、どうしようもないようだ。


 僕は、あまりの苦しさに、襟元にかかった彼女の手首をガシッと掴み込んで抵抗した。しかし、そのせいか、彼女はさらに握力を強め。


 「私はっ!!!!」


 さらにキツく締め上げながら、叫んだんだ。


 「2位なんかじゃだめなんだよ!!!」


 さぞとんでもない報復を受けるのだろうと覚悟していたのだが、ただ叫ばれただけ。しかも放たれた言葉は、僕に向けられたものではなかった。まるで自分自身に向けて、吐かれているかのようだった。


 「私は誰よりも秀でていなくちゃいけない……!!! 特別な存在でいなきゃいけない……!!! 

 頭脳も、容姿も、力も!!! あらゆる面において! 私は人の上に、立たなきゃいけない!!!」


 「……ぐっ……え、なんの……ために……っ!!」


 「だって……っ!!!だって………………っ!!!!」


 花宮さんの力強い声が、教室に轟いた。


 


 「そうでもしなきゃ、また舐められて、いじめられちゃうでしょ!!」




 「嫉妬も許さないくらい、圧倒的に!! 競争心も芽吹かせないほど、大差をつけて!!

 全てにおいて上回って! 蹂躙して! 私を雲の上の存在だって思わせるの!!

 弱みなんか、一つも見せない。 付け入る隙なんか、与えてやらない。

 そうすれば、誰も私を舐めてこない。いじってこない。


 私はもう、いじめられない。


 そう思ってた。なのに……!!!

 白鷺さんがいて……! 白鷺さんのせいで……!!! また昔と同じで……!

 私は……私は……!!!」


 花宮さんの頬に、涙が伝う。何筋も。止めどなく。それから、堰を切ったかのようにボロボロと溢れ出していった。


 花宮さんは泣きながらも、歯が潰れてしまいそうなほど強く噛み締めて、左の拳を振りかぶった。血管が浮き出るまで握り込んで、腕が千切れんばかりに後ろへそらす。

 その拳が向かう先は、きっと僕だろう。なら、これは、正当な暴力だ。そのまま振り抜けばいい。彼女の心を軽んじた、僕への報復。やりすぎだなんて、微塵も思ってない。


 「だめ!!!」


 優しい白鷺さんが、悲鳴をあげている。でも、邪魔しちゃだめだよ。

 僕は、彼女の怒りを真っ向から受け止めるために、目を瞑った。殴られなきゃいけない。わかっている。けど、怖いものは怖くて。迫り来る痛みへの恐怖に情けなく怯えて、足を震わせていた。

 でも何故か、一向に殴られる気配がなくて。


 襟を掴み上げていた彼女の手が、突然解かれた。


 「えっ??」


 バタッ!!


 目を開けると、床に倒れ込んでいる花宮さん。

 そして、そのすぐ横には、四つん這いで吐き戻している白鷺さん。


 「え?? …………は??」


 何が起きた?! 殴りかかってきていたはずの花宮さんが、なんで倒れてる? 白鷺さんもなんで吐いてる? いやいつも吐いてるから、今はいいや。

 少しずつ増えていく白鷺もんじゃを横目に、花宮さんの方へ急いで駆け寄る。曖昧な保健の知識を元に、見よう見まねで脈を取ってみる。


 「脈はありそう……息も大丈夫だけど…………気絶してる…………」


 なんで気絶してるの? 血が頭に昇り過ぎて卒倒したのか? いやそんなことあるか普通。

 というか白鷺さんも白鷺さんだ。なんで吐いてるの? いや、なんかもう慣れたけど。屋上でも教室でもよく吐いてたし。


 「ん……?」


 意味がわからない状況。一つも理解できない。

 でも僕は何故かこのタイミングで思い出した。


 1時間ほど前の会話。僕の自殺を止められる理由を、尋問した時。

 「超能力?」

 「…………っ!!」

 あからさまに反応していた、愚かな白鷺さんの挙動を。


 「超能力みたいなので気絶させたの?」

 「いっ……いや、ちょっと……今は…………うっ」


 ずっと思ってたんだよ。誰も手出しができないような僕の完璧な自殺を止められるとしたら、魔法か超能力だろうって。

 もし彼女が、僕の自殺を止めるために超能力を使っていて。

 その反動が吐き気だったとしたら。

 色々と繋がる。


 「僕の時も、こうやって意識を奪ってたの?」


 「あっいや……おろろろろ」


 「………………だ、大丈夫?」

 

 「大丈……夫な……わけ…………あるかぁ…………おろろろろ」


 確証はないけど、おそらく、僕の時もこうやって…………。


 「え、ガチ??」

 「おろろろろろ」


 

人知れず始まった2章も明日で終わりです。感慨深いですね。でもそんなことより、見てください。ほら、私の足の爪が割れたんです。しかも見て。中央が三角形に割れて、見事なハートマークに。ふつくしいでしょ。こっちの方がよっぽど感慨深いです。なろうって、画像貼れないんですか? 私のキューピー爪を囲ってパーティーしましょうよ。


ハートといえば、クリスマス近いですね。皆様はいかがお過ごしですか? 一人なんですか?笑 独りものですか?? (ははは)。爆笑(独りだなんて)


あ、私ですか?

私も独りですよ。


18〜21時の間に毎日投稿しています。


レビュー、感想等お待ちしています。

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