10話 大切な出逢いに、エピローグを。
それから僕は、彼女に連れられて病院へ行った。左肩を診てもらうためだ。診断結果は。
「ちょっとずれていますねー。なんか強い衝撃でも与えました?」
「……いやー、心あたりないです…………」
隣に座る白鷺さんを睨む。ぶんっと、顔を大きく横にそらし、黙秘の姿勢。
めちゃくちゃ心当たりがあるらしい。聞いても答えてくれないから、聞かないけどさ。
「とりあえず治しときますねー」
「えっ?!」
医者っぽい人は、僕の二の腕と肩を両手でしっかり掴んで、何も言わずに思いっきし力むと……。
ガコッ!!
自転車のギアがハマるかのような音が肩から鳴った。
恐る恐る動かしてみると、ものの見事に、違和感が解消されている。
「よかったね」
「あ、ありがたいんですけど、雑すぎませんか?」
治し方がおかしい。ギプスとかで固定しない?普通。
「いつもは全治2週間くらいなんですけど、気にせず生活しちゃってください」
「雑すぎじゃないですか!?」
とりあえず、意外と大したことはなかった。
その帰り道。
夜風と共に桜の花びらが流されていく、心地よい桜並木。
二人で並んで、帰路を歩む。ちょうど小話もキリが良くなったところで、彼女に気になっていたことを聞いてみた。
「半年待たずして僕が死んだら、写真はどうなるの? 燃やす?」
まだ服の下に隠しているらしいそれを指差して、視線を投げかけたところ。
「あー、その時は、あなたのお墓に返すかな」
彼女は視線を前に向けたまま、淡々と答えた。
「へー、そっかー」
「まだ、死ぬつもりなんでしょ?」
今度は僕の方を見て、軽く首を傾げる。この質問、今日何度も聞かれている気がする。
「うん。死ぬつもりだよ。燃やさないなら別に良いし」
言った後、自殺はだめとか、死んじゃだめとか、また言われるんだろうなぁ、なんて想像してたけど、実際帰ってきた言葉は全然違くて。
「そっか。なら、頑張ってね」
ニヤニヤ笑いながらそう告げて、またすぐ前を向いてしまった。対応の変化に困惑しつつ、彼女に再度問いかける。
「……? もう止めないんだね」
「うん、だって、わかったし」
「何を?」
こほんっ、と小さく咳払いを挟むと、彼女は歩きながらスラスラと言葉を紡いでいく。
「結局は、自分勝手の押し付け合いだってこと。あなたは死にたいし、私は止めたい。どちらにも譲れない理由がある」
「…………まぁ」
「だったら、何も言わずあなたが死ぬのを止め続けるしかない。相手の理由とか、価値観とか、もう全部知らない! 私の全てを賭けて、全部阻止する」
「……はぁ?!」
とんでもなく無謀なことを口走った。無茶にも程がある。
思わずその場で立ち止まり、彼女に反論した。
「止め続けるって言ったって、死ぬ手段なんか幾らでもあるぞ! いつ死ぬかとか僕の自由だし、白鷺さんは学校も」
言いかけたところで、彼女も同様に足を止めた。そして、半身を翻し、格好よく宣言した。
「まあ見てなって」
「いや、物理的に無理だろ」
そんな僕のど正論も、全然聞く耳を持たず。
彼女は、自信ありげにニヤつきながら
「大丈夫。私しつこいから」
なんて、意味のわからない事を言っていた。
もう一度言おう。
これは、僕と彼女が過ごした
たった1ヶ月の
自殺の物語だ。




