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元聖女は魔王に恩返しがしたい  作者: 和執ユラ
第三章 原因

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14.第三章四話



 不眠症の原因は聞き出せそうにないけれど、フィーネはせっかくだからと、思い切って別の気になっていることも確認するために口を開いた。


「あの。他にも聞きたいことがあるのですが」


 そう切り出すと視線で先を促されるので、フィーネはそのまま続けた。


「人間について、です」


 様子を窺いながら口にする。

 ゼノンルクスは人間の話題を出しても特に機嫌を損ねることはなく、目でまた先を促した。フィーネは内心で安堵の息を漏らす。


「本で読んだんです。人間が数百年前に絶滅したって」


 二百年ほど前。聖女が死んでから三百年。いくら他の種族と比べて寿命や体の丈夫さ、瘴気を含んだ魔力への順応力が低いとはいえ、人間が完全に滅ぶには長いようで短い年数、と見るのが妥当だ。


「人間は魔族にとって、扱いやすい労働力だったはずです。なのに保護せず滅ぶのを見過ごしたのは、どうしてですか?」


 魔力を持っていながら上手く扱うことができず、他の種族に勝っていたのは数だけであった人間という非力な種族。戦争で他種族に勝った魔族にとっては簡単に手に入る、弱いがゆえに容易く思い通りに動かすことができる労働力でもあった。なくすには惜しい種族。それは間違いない。

 だというのに、ゼノンルクスは人間を保護しなかった。

 世界中で増えていく魔力や瘴気から彼らを守ることは、魔法道具を使えば案外容易なこと。けれどその選択をしなかったのだ。


 何か理由があるはずだ。人間が生きていた方が、魔族は比較的楽な生活を送ることができただろう。その生活を捨てて人間の滅亡を選んだのは、どうしてなのか。

 ゼノンルクスはほとんど無表情で何を考えているかわかりづらい、難しい魔王。しかし、魔族のことを考えているのは確かなのだから、どうしても疑問が残る。


 聖女が再び生まれることを懸念したのだろうか。けれど、聖女は脅威として育つ前に命を奪えばなんの問題もないだろう。

 そうなると、支配下に置かれる人間の反発を危惧したのかもしれない。数だけは多いから、抵抗する力もそれなりになる。

 しかしそれは、これまでの魔王が放置してきた過去何千年にも渡る状況と同様とも言えるのではないだろうか。今更、方針を変える必要はあったのだろうか。


「人間に興味があるのか?」

「あ、いえ……ただ、理由が気になったので」

「そうか」


 一体どんな事情があったのかと、彼の形のいい唇がそれを語るのをじっと待っていれば。


「それを望んだ女がいた。それだけだ」


 淡々と、ゼノンルクスはそう紡いだ。

 フィーネはぱちぱちと瞬きをする。


(女……)


 あっさり答えてくれたことにも驚いたが、何よりその理由に驚きを隠せなかった。

 あの魔王が、まさか他者の――それも女性が望んだからと、みすみす人間を滅亡させたとは。

 その女性は一体誰なのか。ゼノンルクスにとってどんな存在なのか。フィーネの中で更にいくつも疑問が生まれる。


「その方のために人間が滅ぶのを止めなかったと、そういうことですか?」

「ああ」

「大切な方、なのですね」

「特別ではあるな」


 肯定、された。

 特別。ゼノンルクスがその単語を口にしたことに、フィーネは物凄く違和感を覚えた。


(人間が滅ぶことを望んだ、魔王の特別な女性、か)


 もしかしたらその女性は、人間に何か酷いことをされたのかもしれない。

 人間は単体では弱いけれど、数が多い分それを有利に知恵を絞り、他種族より優位に立つこともある。さすがにゼノンルクスのような桁違いに強い魔族相手では、数で攻めたところでそうそう敵わないだろうけれど、中級の魔族ならぎりぎり押さえることは可能だろう。捕らえた魔族を見せしめに拷問したり、無理矢理従わせる契約魔法などを使うこともあった。


 話題の女性も、そんなことをされたのだろうか。

 そうだとすれば、ゼノンルクスが何もせずに人間の滅亡を見過ごしたのも納得である。むしろただ傍観しているだけで率先して滅ぼさなかったことが疑問なほど。


「その方は……」


 どうしているのかと続けようとしたところで、フィーネは言葉をつまらせた。

 気まずそうに視線を逸らすと、ゼノンルクスの声が届く。


「死んだ」


 また。今までと変わらず淡々と、あっさり口にした。

 フィーネがその可能性に気づいて躊躇ったのに、ゼノンルクスはまったく気分を害した様子もなく、静かに事実を述べたのだ。


「……申し訳ありません」

「別に謝る必要はない」


 そう言われて、フィーネは再びゼノンルクスに視線をやる。


「殺したのは、俺だ」


 その表情からは、何を考えているのか読みとれなかった。





 ゼノンルクスに睡眠魔法をかけて自室に戻ったフィーネは、ベッドで眠れずにいた。

 ぐるぐると、ずっとゼノンルクスの言葉を思い返し、考えてしまう。


 不眠症の原因は、教えてもらえなかった。

 けれど、思考は止まらない。


 五百年前の大きなことといえば、やはり聖女の死だろう。ゼノンルクスの周りの者――ジェイラスの推測もある。不眠症のきっかけがフィーネの前世、聖女フィリアーナである可能性は否定しきれない。あくまでフィリアーナが意図を持って何かをしたのではなく、それ以外で。


 ゼノンルクスが手にかけた聖女は、フィリアーナで三人目だ。過去二人を討ち取って何もなかったのであれば、五百年前だけ不測の事態があったということになる。

 けれど、特に特別なこともなかったはずである。むしろフィリアーナには魔王に対する敵意などなかったのだから、排除するのもかなりスムーズだったのではないだろうか。


(……でも、確かに異例のことがあるといえばあるんだよね)


 本来、魔王に殺された聖女の魂は消滅する。聖女が転生できないよう、魔王が聖女の魂をも壊すためだ。そうすることで、新しく聖女の魂が創られてこの世界に誕生するまで百年の猶予が生まれる。そういうふうにできている。

 聖女の肉体と魂に干渉して壊す力。神より魔王に与えられた、魔王だけの力の一部だ。

 けれど五百年前、ゼノンルクスはなぜかフィリアーナの魂を壊さなかった。だからこうしてフィーネが存在している。つまり、魂にとどめをささなかった理由があるということだろう。

 そして恐らく、周囲の者たちはそのことを知らない。フィリアーナの魂にまでは、彼が手を出さなかったという事実を。


 不眠症の原因はくだらないことだと、ゼノンルクスは言っていた。本当なら気にしなくてもいいようなことが心のどこかに引っかかっているのだ。

 人間が滅ぶことを望んだ女がいたと、言っていた。特別な女だと。


 自意識過剰かもしれない。けれど、フィーネはある結論に達した。


『殺したのは、俺だ』


 それはもしかすると、フィリアーナのことなのではないだろうかと。



  ◇◇◇



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