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不死鳥の聖騎士は煌めく

 この世界には誰にでも守護獣が居る。猫だったり鼠だったり犬だったり。

 普通の人の守護獣は、まあまあ可愛いペットみたいな物だ。可愛がってあげれば、自分のために色々尽くしてくれる。でも稀に、とんでもない守護獣を産まれながらに持つ人間が居る。


「不死鳥のイリーナ……? 驚いたな」


 そう、この私……何故か不死鳥、フェニックスが私の守護獣。そして更に何故か、その守護獣は私の魂と同化しているらしく、私は産まれながらに背に翼を生やしていた。


「まさかこんな美しく成長するとは。女は怖いな」


「貴方こそ。素敵な紳士過ぎて誰か分かりませんでしたよ」


 この物語は、五歳の私が、この男……神龍バハムートを守護獣として持つ聖騎士との、冒険の日々を描いた物である。



※この作品はコメディですー☆




 《ぬくよ! 剣を!》


 あれは私が五歳になったばかりの時。この国、グランドレア王国では聖騎士の選定を行っていた。

 聖騎士とは、一言で言えば騎士よりも一段階上の騎士。貴族がお金をどれだけだそうと、なろうとしてなれるわけではない。完全に生まれながらの素質が物を言う。


「ま、まちなさいイリーナ! ドリアを食べながら飛んではいけません!」


「あむっ、あむっ……あむっ」


 五歳の私は元気一杯で、良く虐められていた。私の婆ちゃんに。

 なんとアツアツのドリアを私の口に突っ込もうとするのだ。なんて酷い婆ちゃん。

 私は仕返しにと、飛行しつつドリアを冷まし、そのまま食うという荒業をやってみせた。


「あつっ! なんか振ってきた……!」


「なんかドロっとしたものが!」


 村の人々にも婆ちゃんの作ったドリアを頭上からお裾分けしつつ、私は飛びながら食事を続ける。盛大に零しながら、婆ちゃんの作った美味しいドリアを口一杯に頬張りながら。


「イリーナ! こらっ! そんなボタボタ零しながら食べない!」


「ならん! こぼす!」


「こらっ! またそんな口の利き方を! っていうか零すな言うとるやろ!」


 パタパタと羽ばたきながら、アツアツのドリアを抱えて滞空。ちなみに口に入れると熱いが、私の体はその頃から特殊で、たとえ火の中に飛び込んでも熱くないし火傷もしなかった。その頃から不死鳥の守護獣は私と共にあったのだ。


 滞空しながら、かすかに少し離れた地。平原を挟んだ都会の様子が遠目に見て取れた。何かがキラキラと光っている。私はドリアを頬張りながら、そのキラキラした物が何か、とても興味をそそられた。


「ばあちゃん! なんか光ってる!」


「きっと貴方のヨダレよ。頼むから降りてきて、私の可愛いイリーナ」


「むふぅ、致し方あるまい」


 ふよふよとゆっくり下降し、ばあちゃんの胸の中へと。むふぅ、あったかいなり。


「あっつ! ドリア抱えたまま飛び込んでくるな! あっつ!」


「ばあちゃんばあちゃん、イリーナは街にいきます」


「ダメです。また大騒ぎになるわ。ただでさえ不死鳥の守護獣なんて事が知られたら……」


 その時のばあちゃんは、私の事を本気で心配してくれていたんだろう。

 だがその時の私、当時五歳の私は……ガン無視した。


「ぁっ! こらっ! イリーナ! また飛んで……どこにいくの!」


「イリーナは街にいきます! きらきら綺麗なのですっ!」


「待てぇぇぇぇ! 絶対にいかせーん!」


「あはは、鬼さんこちらー!」



 ※今思い出すとマジで鬼の形相でした。





《選定してます!》


 街へと赴くなり、私は婆ちゃんにお菓子をねだり、甘いふわふわの小さなパンを買ってもらった。甘くて柔らかくて、中に更に甘いクリームが入ってる奴。


「まったく……こんな我儘はこれっきりよ、イリーナ」


「むふぅ、羽はちゃんと仕舞ったから、次はあれがほしいのです」


「一個だけ! っていうかドリア食っただろうが!」


「むぅ」


 ぷくーと頬を膨らませながら、甘い甘い柔らかいパンを頬張る私。

 頬張りながら、婆ちゃんと手を繋ぎつつ街を見て回った。五歳の私にとっては何もかもが珍しくて、輝いて見えて、ここには何でもあると胸を躍らせた。


 そして私は、先程飛びながら見た、あのキラキラの正体が気になり始める。


「婆ちゃん婆ちゃん、あっちの方、何してる?」


「ん? あぁ、きっと聖騎士の選定だねぇ。だからこんなお祭り騒ぎなのか……」


「せいきし? せいきしって……なんぞ?」


「偉い騎士様のことさ。この国を支えてくれる人を探してるの。ここに集まった皆の中からね」


「ほむぅ」


 きっとあのキラキラは、あの人混みの中にある。そう思った私は、婆ちゃんの目を盗んで……


「ん?! イリーナ! ばあちゃんの眼鏡返しな!」


「めをぬすむー!」


「こらぁぁぁぁぁ!」


 そう、眼鏡を盗む事で目を盗む。五歳の私にしては、中々に賢い選択だったと思わざるを得ない。そのまま私は人混みの中へ。背が小さいから、人の足の間をスルスルと抜けて、人混みの最前列まであっといまに辿り着いた。


 そこで私はキラキラの正体を見た。それは……剣。

 土台に突き刺された剣を、そこに集まった者が抜こうと必死になっていたのだ。


「はい、失格ぅー、次の人ー」


 土台の横で審査をしている人間がそういうと、周りの人間は溜息を吐きながら静まり返ってしまう。一体これで何人目だ、本当にあの剣は抜けるのか、と言いたげに。


「はい! はい!」


 そんな空気など五歳の私には関係ない。私は元気よく手を上げた。すると集まった人々は一気に爆笑。


「あははっ、こりゃいい! おい、偉いさん! ちいさな候補者が挑戦だぜ!」


「誰にでも挑戦権あるんだろ? やらせろやらせろー!」


 それは今思えばただの嫌がらせだったのだろう。全く抜けない剣。実は何かカラクリがあるのではないかと、民衆は疑い始めていた。しかし表立って文句を言おう物なら摘まみだされてしまう。五歳の子供に剣を抜かせようとするなど、厄介でしかない。


「はぁ……まったく……お嬢ちゃん? 何歳?」


「はい! ごさいです!」


「元気いいねー。でも危ないから、あとニ十個くらい歳とってからきてね」


 選定員がそう言うと、民衆からブーイングの嵐が。誰にでも開かれたと銘打っておきながら、それはないんじゃないかと。念のため言っておくが、私は選定員の味方だ。五歳の子供に剣を握らそうとする馬鹿が何処の世界にいる。その剣は大の大人が全力を出してもまともに振れるか分からないくらいの大剣。この時の選定員が言った事は正しい。


 だがそんな事知らんと、私は自信満々の表情を浮かばせながら剣の傍へと寄って行った。


「いけー、お嬢ちゃんー、ぬいちまえー」


 ギャラリーからまったく期待してない応援。私はその応援に手を振って答えつつ……思い切り両刃の剣、その刃の部分に抱き着くようにして掴んだ!


「……! ば、ばかやろう!」


 選定員が急いで剥がそうと私を抱きかかえる。

 だがその時……私が抱きしめた剣が一緒に抜けた。抜けてしまった。


「……お?」


 今でもその時の光景が忘れられない。


 あの口を半開きにした、民衆の唖然とした顔が。




 ※今思うと、あの選定員の腕力凄いな(私+大剣を持ち上げた)




 《おおさわぎ!》



 当然ながら、五歳の子供が剣を抜ける筈が無いと途端に大騒ぎに。何かの間違いだと誰もが思った。だがその時、その光景を見ていた、あの男が現れた。ここで私は、初めてあの男と出会った。


「沈まれ! 聖騎士の誕生ぞ!」


 その男……その人物こそ、既に聖騎士として認められた男。神龍バハムートの守護獣を持つ男。


「……あのおっさんだれ?」


 私はヒソヒソと私を抱っこしている選定員へと尋ねた。

 選定員もヒソヒソと、私に教えてくれる。


「聖騎士のアルフェルド・アンジェリス様。俺より若い十八歳の生意気なガキだけど、たまに奢ってくれるからヘコヘコしとけよ」


「聞こえてるぞお前。で、新たな聖騎士よ。お前の名は?」


 選定員に抱っこされたままの私。私は抱えている大剣が重くなってきて、パっと手を離してしまった。するとその大剣は地面に突き刺さるかと思いきや、そのままワンバウンドしてアルフェルド・アンジェリスの脳天へと倒れていった!


「あ、俺の財布様!」


「さいふ?」


 てっきり剣に潰される、そう思った。だが、あろうことか、その大剣はアルフェルドに触れるだけで飴のように溶けていく。


「誰がサイフだコノヤロウ、もう決めた、お前には絶対おごってやらん! 今度、聖女達と一緒の飲みにつれてってやろうと思ってたのに!」


「ひぃ! すんません! 連れてって!」


「駄目だ駄目だ! 俺の機嫌を損ねた奴は連れて行かん!」


 その茶番を見せられていた民衆と私の心境は誰が説明してくれる? その時の私にはチンプンカンプンだったが、なんだか今になって腹立ってきたな、このスケベ共が。


「さて、話は逸れたが……可愛い聖騎士よ。改めて問おう。君の名は?」


 恐らく五歳の時の私は、チンプンカンプンにも関わらず、その男のスケベ心を見抜いていたのだろう。顔を近づけてきた男の顔を、私は……


「ん? ほぐぁ!」


 思い切りビンタしていた。言い訳ではないが、この時の私は特に何も考えていない。ほぼほぼ本能に従って生きている。だから本能が言ったのだ。目の前の男はスケベよ! と。


「……! アルフェルドを……殴った?」


「ば、馬鹿な……」


 ざわめく民衆達。驚きのあまり口が塞がらない審査員。

 神龍バハムートを守護獣として持つ者は、己に降りかかるありとあらゆる攻撃に対してカウンターを食らわせる。大剣が飴のように溶けてしまったのも、そのカウンターのせいだ。だが私は、そんなカウンターなど関係なしにスケベ男……いや、アルフェルドを殴った。


「おっさん、だいじょうぶか?」


「……ククク、生まれて初めてだ、殴られたのは……。親父にもぶたれた事ないのに……」


 審査員の男は危機感を感じたのだろう。私をそっと地面へと降ろすと、逃げろとジェスチャーしてくる。私はそのジェスチャーを「慰めろ」と受け取った!


「おっさん、よしよし」


 自分で殴りつけた男の頭を、ナデナデしてあげる心優しい私、当時五歳。

 

 自分で言うのもなんだが……私、超いい子だったな……。




 ※いい子の私は、眼鏡を盗まれた婆ちゃんに滅茶苦茶叱られました。





 《にんめい!》



「ただのイリーナよ。そなたは今宵より、不死鳥のイリーナと名乗るがよい」


「おす」


 数日後、綺麗なドレスを着せられた五歳児は、国王より正式な聖騎士として任命された。本来ならば長剣を渡される場面だが、危ないという理由で剣の形したパンを。即座にその剣を齧る私。そんな私の頭を撫でながら、国王はあの男を指名する。


「アルフェルド・アンジェリス。神龍バハムートの聖騎士よ」


「はっ……」


「そなたにはこれより、イリーナを鍛え上げる旅に出てもらう!」


「……はっ?!」


「聖騎士として任命した以上、ただのお子様として育てるわけにもいくまい。聖騎士として育て上げるのだ! 最終的には西の火山へと赴き、蒼き竜を打ち取ってみせよ!」


「んな無茶な! 一国の全軍隊を動員しても全滅させられる、あの怪物を! このお子様と!?」


 パンの剣を齧る私を、国王はニッコリ見ながら、アルフェルドへと一言。


「いいから行けや。聖女との飲み会はワシがいく」




 ※お前もかーい! このスケベ共!




 それから五歳の私と、若き青年のアルフェルドの旅が始まった。

 なんやかんやあって一年くらいで別れて、十五年ぶりに再会した私達は、これから西の山へと赴き……蒼き竜を討伐する。


「頼むぞ、相棒(イリーナ)。これが終わったら飲みに行くか。聖女達にお前を紹介しろって言われててな……来るよな?」


「うるさいスケベ(アルフェルド)



 この物語は、不死鳥の聖騎士と、神龍の聖騎士の……ちょっとおかしな冒険奇行である。


 





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― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女とのコンパ大人気(≧▽≦) 一年で別れて再会って、その間何があった〜!(笑) みんないいキャラで面白かったです♪
[良い点] 拝読させていただきました。 イリーナ可愛らしくて、しっかり者ですね。 アルフェルドは腕は立つのですが、先々いろいろ心配ですね。
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