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進め、異世界土木隊 ~我らの前に道はない。我らの後ろに道ができる!~  作者: 南野 雪花


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第29話 激闘・苦闘


 本当はもっと情報を引き出したかった。

 たぶんザインは、こちらの知らない事情をまだまだ知っていたことだろう。

 そこには、日本への帰還方法も含まれていたかもしれない。


「けど、ダメでしたね。社長の身体を要求された時点で、全部ご破算です」

「いま流行のキレる中年だね」

「いやあ、むしろ今は老若男女とわず、みんなキレるらしいですよ」

「みんなキレる時代なんだね」


 くすくすと笑う茜。

 こうやって冗談にしてしまわないと照れくさい。


 彼女が片腕と頼む男にもどうやら熱い血が流れているようで、利よりも義を優先した。

 それが自分の身を案じてのこととなれば、照れくささも倍増というものだろう。


「とはいえ、一本の麦すら収穫できなかったわけではありません。いろいろ判りましたよ」


 モンスターどもが、まるで草でも刈るようになぎ倒されていく様を見つめながら田島が言った。


 数は多く強力なモンスターばかりであったが、やはり機先を制しているのが大きい。

 よほどの実力差がなければ、いいのを一発もらってから逆転するというのは難しいものだ。素手のケンカですらそうなのに、この場合は武装しているのである。


 いいの、というのは普通に致命傷だ。


「ちょびっとは聞こえていたけど。あいつも日本人ってこと? あんまりそうは見えないけど」

「魔人だといっていました。おそらくこの世界に来るときに魔物になったのでしょう」


「そんなことあるんだ……」

「自然現象のわけはありませんから、何者かの意思が介在しているものと考えていいかと」


「なにものか?」

「定番どころでは、神とか管理者とか名乗るモノ、でしょうね」


 そして、世界を滅ぼすという「使命」を帯びた。


「救え、じゃないの?」

「神ですよ。方舟伝説だって、世界を滅ぼしたのは神だったでしょう?」


 心正しき者だけ残して世界を滅ぼそうなどという傲慢は、神の側でないと出てこない。


 あしょろ組はヤクザだった。つまり悪の側だ。悪は人類滅亡なんて望まない。適度に栄えていてくれた方が利益があると知っているから。


「それと同じです」

「なるほどね。それであの男……ザインだっけ、神の思惑に乗ってこの世界を滅ぼそうってことか」


「おそらく魔王とやらも、異世界から招かれたものなんじゃないかと思いますよ」

「けどさ、それだと私たちってなんなんだろ?」


 茜が首をかしげる。

 使命など与えられていない。


 気がついたらこの地にいただけで、誰からも世界を救えも滅ぼせも言われていない。

 そもそも最初に出会ったのがマーリカだ。


招かれざるの客(イレギュラー)なのか、あるいは別の何者かの意思が働いているのか」


 田島が腕を組む。

 判断するには情報が足りない。


 やはりもう少しザインからネタを引っ張りたかった。

 交渉相手としては申し分ない口の軽さだったのに。


 まあ、だからこそかるーく地雷を踏んでしまったという事情もある。






 戦局は一進一退だ。


 体勢と勢いでは人間たちが勝るが、数と個体戦闘力でモンスターが上回っている。

 最初の一撃で優位を確立したものの、時間経過とともに天秤は水平に戻ってしまった。


 ゴブリンなどと違い、オーガーを相手取るには練達の騎士だって二人くらいは必要なのである。

 もともと半分しかいない人間側が押されるのは、むしろ当然だろう。


「けどま、相手がでかかろうと強かろうと、いくらでも戦い方はあるけどね」


 緑谷の右手がひゅっと霞み、次の瞬間、オーガーが顔を押さえてもがきまわる。

 なにか喚いているが判らないが。


 そこに駆け寄ったマーリカが、馬蹄で鬼の頭を踏み潰した。


「お見事。マーリカさん」

「お前もな。ハヤテ」


 にやりと笑みを交わし、マーリカがふたたび混戦の靄へと突っ込んでいく。

 見送った緑谷が作業服のポケットからなにか取り出す。


 オーガーの目潰しに使ったのと同じアイテムだ。

 べつにすごい秘密兵器ではなく、鶏卵に砂を詰めただけのもの。


「けど、戦場のど真ん中で目を閉じるやつはいないからね。そして、目にかすり傷はないときたもんだ」


 投擲。

 野球部崩れの剛速球が、今度はウェアタイガーの顔面に炸裂する。






「兵隊がどんどん死んでるけど、なにか手を打たなくていいのかい?」

「うるせえ!」


 煽るように言った佐伯に、激昂したザインが斬りかかる。

 そして素晴らしいタイミングで跳ね上がった剣に音高くはじき返された。


 それだけでなく、すれ違いざまに佐伯の剣がザインの脇腹を薙ぐ。


「ぐ……きかねえなぁ」


 ぶしゅっと吹きだした血は一瞬で止まり、傷跡すら残らない。


「まったく、どんな身体なんだろうな。それは」


 佐伯の苦笑だ。

 何度目かの。


 戦闘開始から数えて、もう七回くらいは「殺して」いる。にもかかわらず、切った次の瞬間には回復しているのである。

 痛がってはいるから、まったく効いていないわけではないのだろうが。


 他のモンスターは殺せば死ぬので、たぶんこいつだけ特別なのだ。

 だからこそ、他の連中に任せることはできない。


 余裕で戦っているようにみえて、じつはザインはかなり強いから。


 まともに戦ったら、こちらの陣営に勝てるものは一人もいない。もちろん佐伯も含めて。

 挑発や心理戦で隙を突いているだけなのである。


「手足をバラバラにしたら死ぬかねぇ」

「やってみろよ。おっさん」


 ギラつく目で、ザインが唇を歪める。


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