第28話 戦闘開始!
騎兵突撃はせずにモンスター軍団を待ち構えるマーリカ隊。
最も攻撃力の高い戦法を封印するのは、もちろん兵力で劣るからだ。二倍の敵に突撃して、突破できずに受け止められてしまったら地獄である。
「それに、我々の第一はアカネたちを守ることだ。エースとユニックでとっとと逃げて欲しいという思いもあるんだけどな」
「マーリカたちを置いて逃げるわけがないでしょ」
「そういうと思った。それに、じつはあしょろ組の戦力もアテにしている」
「アテにされましょう」
どんと胸を叩く茜。
田島はアレとしても、他の十四人は戦闘力がある。
モンスターごときにびびって逃げ出したとあっては、元ヤクザの名前がすたるだろう。
そして、敵も突撃してこない。
凸形陣のまま、着実に距離を詰めてくる。
「慎重だな。小憎らしいほとだ」
ち、とマーリカが舌打ちした。
数の差で勝利を確信して短兵急な行動を取ってくれたら、足元をすくう方法などいくらでもあるというのに。
両軍の距離が縮まり、互いの顔まで確認できるようになった。
モンスターたちはオーガーやケンタウロスなど、かなり強力な編成である。ゴブリンやコボルドのような、いわゆるザコは一匹もいない。
しかも先頭にいる男は人間だった。
黒髪で黒い瞳。
「いや、ナリこそは人ですが、気配が獣と一緒ですね」
佐伯が呟く。
少し首をかしげた姿勢は、気に食わない相手を睨めつけるときの、彼の癖ともいえぬ癖だ。
「ユニックがあるってことは、あんたらも地球から呼ばれたのかい?」
右手をあげて軍を止めた男が嬉しそうに言った。
思わず茜と田島が顔を見合わせる。
も、ということは、この男も日本から来たということだろうか。
どうしてモンスターどもを率いているのだろう?
「俺たちは宝城市のあしょろ組土木です。あなたは?」
フレンドリーに見える態度で田島が応えながら男の方に近づいていく。
モンスター軍団と交渉など意味が判らない。
マーリカが頭を振った。
だからこそ田島は視線で大丈夫だと仲間たちに語る。
疑問は尽きないからこそ、相手に歌わせるのが最も手っ取り早い。
「こっちではザインって名乗ってる。クラスは魔人だな」
「ほうほう」
名刺交換の位置まで接近し相づちを打つ。
クラスとは、まるでゲームみたいだなと田島は感じたが口にも態度にも出さない。
ちゃんと話している内容は理解してるよ、という表情だ。
「あんたらは人間のままなんだな」
「大所帯なもんで」
まったく回答になっていない回答を使う。
もちろんザインとやらに勝手に解釈させるため。
「あー、たしかに全員でモンスターってのもアレだもんな」
うむうむと頷く。
彼のちょっとした言葉から田島の頭脳に情報が蓄積されていく。
どういう理屈か知らないが、日本から人間がきているらしい。そしてモンスターに変わる。おそらくは、選択できるのだろう。
上位のモンスターというのは数が限られていて、あしょろ組土木のような大所帯だと全員に「良い」クラスが行き渡らない。
だから人間のままだ、と、ザインは納得したということかな?
ほとんど一瞬のうちにこのくらいの推理を構築してしまう田島である。
鋭いというより、まるで正解を知っているような変態的な推理力だが、昨今のファンタジーライトノベルなどでは、あくびが出るほど使われている設定だ。
「でしょ? 人数が多いというのも大変です」
「そのかわり重機があるってことだろ? 俺もそっちにすれば良かったな。あー、でも燃料が切れたら終わりか」
「そこが厳しいところですね」
にこにこと笑いながら、田島は良い調子でザインに語らせる。
ときおり後方の茜や佐伯に視線を飛ばすのは、戦闘態勢を解くなという意味だ。
ザインの言動がどうにも気に入らない。
まるで遊んでいるように、真剣さが感じられないのである。
異世界に転移して、ここまで遊び気分でいられるものだろうか。
もう一枚か二枚、裏になったままのカードがある気がする。
「で、その騎士団っぽいのがあんたらの軍団? 弱そうじゃね? 人間ばっかりじゃん」
「無い袖は振れないですからねぇ」
「そいつらイケニエにして、魔王から軍団もらったほうが良くね? なんなら紹介する? 俺これでも四天王だし」
「まじですか。そりゃすごい」
「そのかわりさ、こっちにも資源をまわしてよ。やっぱりヤるならこっちの女より日本人の方が良いからさ」
ちらちらと茜を見ながら、下卑た笑いを浮かべる。
交換条件というわけだ。
あしょろ組土木の人間にとっては、まったく天秤に乗せる価値もない条件だが。
「ちょっと検討しますね。お待ちください」
そう言って、田島はくるりとザインに背を向けて、あしょろ組土木の陣営の方へと歩き始めた。
十歩、十五歩。
そして二十歩目からは全力疾走で距離を取りながら叫ぶ。
「交渉の余地なし! こいつ、社長の身体を要求した!!」
「死んでもらいやしょうか」
「戦闘開始!!」
佐伯の言葉とマーリカの号令が重なった。
いきなり急変した事態についていけず、きょとんと棒立ちになってしまったザインとモンスター軍団。
我に返る時間すら与えず、あしょろ組土木とマーリカの騎士団が襲いかかった。
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