第27話 遭遇
パルコダテからコロナドまでは街も宿場もないため、最短距離を割り出して結ぶという感じにはならない。
基本的には現在の街道に沿う形でなるべくまっすぐに道を敷設していく。
「それに、あんまりにも最短距離だと問題ありますし」
「城下町がうんぬんって話? じょーむ」
「そうです。人間の領域をモンスター軍団がなんの抵抗もなく最短距離で進むってのは、都合の良い話じゃありませんからね」
敷設した新街道は誰でも利用できる。だれかが監視しているわけでもないのだから。
もちろん魔王軍だって見つけたら使うだろう。
むしろ使わない理由がない。
そのとき、街まで最短距離で敷かれていると防衛戦が間に合わなくなってしまうかもしれないのである。
「だから、多少は大回りしていた方が良いんです」
「バランスが難しいね」
コロナドへの補給なのだから、なるべく速い方が良い。
しかし防衛を考えたら適度にうねっていた方が良い。
「時間があれば、何本か不正解のルートをわざと作っておくというのも手なんですけどね」
パルコダテからコロナドに向かう場合は一本道で最短距離。しかし、コロナドからパルコダテを目指した場合は、何ヶ所も分かれ道がある。
そして正解ルート以外は十数キロも進んだところで行き止まりになるという寸法だ。
「壮大な嫌がらせだ」
くすくすと茜が笑う。
この罠に引っかかった場合、兵はべつに損耗しないが徒労感の蓄積は大変なものになるだろう。
「一回か二回引っかかれば、敵は分かれ道のたびに軍を止めて斥候を走らせるようになります。つまりその分だけ時間が稼げるということです」
防御を整えるための貴重な時間である。
「じょーむは策士だね」
「派手な魔法や奇策で敵を一網打尽、なんてのは俺には考えられませんからね。この程度の小細工がせいぜいですよ」
「今回、補給路がうまく作れたら提案してみようよ。メグさんなら採用してくれるかも」
ダミー街道敷設の料金を試算してみる茜であった。
工事のペースとしては一日に六キロほどだ。
最短距離を割り出すという手間がない分だけスピードは速い。
それでも、完成したら半日くらいで歩ける道を作るのに十日近くかかってしまう。
「こればかりは仕方ないことですけどね。ネットは地球の反対側とも一瞬で繋がりますけど、そこまでケーブルを引くのは人力です」
どんなものでもそうだが、便利な生活を支えるのは現場で働く人々の地道な作業だ。
「そろそろ半分くらいきたのかなぁ」
「アテにならない地図によると、コロナドまではあと一日というところですかね」
ものすごく適当に描いてある街道を大雑把に三等分した結果を田島が告げる。
言ってる本人すら確信はない。
なにしろ縮尺という概念のない世界だ。
なんとかの大木が目印とか、川までいったら上流に向かうとか、そういう情報が地図に書き込んである。
「宝の地図かよって話だよね」
「あ、でも、遠くに見えるあれが千年樹とやらじゃないですかね。目立ちますし……ん?」
額に手をかざした田島が目をこらす。
何かが近づいてきているように見えたのだ。
「気をつけろ。あれは軍隊だ」
マーリカが注意を喚起し、護衛の騎士団がさっと陣形を組む。
あしょろ組土木の面々も作業を中断し、仕事道具をユニックやワゴン車に収納した。
とくにトータルステーションは慎重に厳重に。
なにしろ予備がないので。
そしてかわりに、思い思いに武器を取り出す。
王都ミッシクルなどで買い求めた刀剣類だ。
土木建築会社の社員が剣で武装するというのは物騒なことこの上ないが、徒手空拳というわけにはいかない世界なのである。
茜としても、けっして自分から手を出さないようにと言ったのみで、おとなしく黙って殺されろなどという頭のおかしい指示は出していない。
元ヤクザ以前の問題として、降りかかる火の粉は払わなくてはならないのだ。
例外は田島だが、こいつが武器を持ったところでまったく意味がないので、とくに問題にはならなかった。
「あんたたち、本職さんの邪魔するんじゃないよ」
「判ってますよ。姐さん」
作業服のベルトにショートソードを差した佐伯が安心させるように笑う。
マーリカ隊百五十名の後方で、あしょろ組土木も戦闘態勢を取った。
茜と田島を中心に入れ、どの方向から攻められても対応できるように。
「警戒! 前方の軍団はモンスターどもと視認!」
索敵を担当する兵士が叫び、茜はごくりと息を呑んだ。
モンスター軍団がここにいるということは、コロナドが抜かれたという証拠である。
「こいつは、悪い方の予想が当たりましたかね……」
田島の声もかすれていた。
まさに、こうならなければ良いと思っていた事態。
街道はかなり完成に近づいているにもかかわらず、防御はまったく整っていない。
つまり敵は最短距離で進軍しやすい道を使えるということだ。
「数およそ三百!」
「少なくないっすか?」
アキラが首をかしげるが、それでもこちらの二倍である。
なかなか勝算のたつ戦力差ではない。
「諸君らには、私の麾下にあることを不運と諦めてもらうぞ! ここで迎撃する!」
緊張した声を張り上げるマーリカ。
ここを抜かれればパルコダテまで遮るものはない。
どうやら、覚悟を決めるしかないようだ。
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