第22話 新しい仕事
コロナドが抜かれれば、モンスターは人間の領域に侵攻を始める。
その際どういうルートで浸食してくるか人間にはコントロールできない。
オルライトの聖都イングヴェイを目指すか、それともルマイトに食い込んでくるのか。
もしこっちにきたら地獄だ。
何万何十万という人がモンスターのエサになってしまうだろう。
だから、コロナドをしっかり守るというのは、ルマイト王国にとっても大切なことではある。
あるのだが、魔の森になんぞ近づきたくない、オルライトだけでやってくれというのが偽らざる本音だ。
「実際問題として、コロナドから三日の距離の範囲には宿場もないし、街道なんてあってないようなものなのだ」
とは、謁見後にマーリカが語ったことである。
結果からいうと、あしょろ組土木はこの仕事を受けた。
人類を守るために最も危険な場所に立ち続ける男たちがいる。そんな連中を放っておくような茜ではない。
ほとんど二つ返事で快諾した。
それにまあ、魔王を倒したら元の世界に帰れる、なんてのは定番だし。
「アカネは本当に侠気があるな。いつみても惚れ惚れする」
「辺境の砦に勤務なんてとんだ貧乏くじじゃない。そんな場所で頑張ってる連中のためになにかしたいと思うのは、べつに侠気でもなんでもないよ」
茜が笑う。
当たり前だろ、と。
マーリカが両手を広げてみせる。
それを侠気というんだと口中で呟きながら。
ルートとしては、まずモタルと王都ミッシクルを結ぶ。
間にある九つの街や宿場を、それぞれ最短距離で。
すでにサリーズ・モタル街道のノウハウがあるから、作業そのものはかなりの速度で進むだろうと予想されている。
そして同時進行で地図を作成するのだ。
これもまた大切な仕事である。
「ミッシクルからコロナドまでの最短ルートも開拓したら良さそうだけど」
「いらんいらん」
茜の提案に、ぱたぱたとマーリカが手を振った。
そんなおそろしい街道は必要ないと。
「なんで?」
「アカネたちは昨日、王都を観光したよな。城までまっすぐ行ける道というのは存在しなかっただろう?」
「うん。すごい不便だと思った。ミッシクルの中の道もなんとかしないとなーって」
「あれはあれで正解なんだ。入り込んだ敵を迷わせるために、わざと複雑にしている」
日本でも城下町はたいていそうだ。
住んでいる人に便利だということは、侵入者にとっても便利なのである。戦のある時代に、そんなのんきな街造りをする人間はいない。
街道も同じ。
王都から魔の森までまっすぐ進める道など、魔王軍にだって最高の侵攻ルートになってしまう。
「ルートを限定することができれば、防衛は容易になるような気もしますけどね」
「アトムは勝負師だな。こちらは移動の時間も短縮できるし、たしかに有利な条件で戦端を開ける。だが負けたら王都までまっすぐな道が敵の手に落ちてしまうぞ」
首をかしげる田島にマーリカが笑った。
田島の考えは勝つことに重きを置いていて、マーリカのそれは負けないことを最優先にしている。
「なるほど。俺が間違っていたようですね」
戦争はゲームではない。
ギャンブルで兵士の命を賭け台に乗せるわけにはいかないのだ。
王都までにある街が街壁に拠って戦い、敵の戦力を削ぐ。
消極的にみえるかもしれないが、負けないための戦いだ。
「どちらが正しいというものでもないさ。アトムのような軍師の方が大勝を引き寄せられるかもしれん」
「そのかわり、大敗してしまうかもしれませんよ」
結局、テレビや映画、ゲームの戦いしか知らない素人なのだと肩をすくめる田島だった。
ミッシクルとモタルの街道が完成したら、次はモタルからコロナドへの敷設である。
この間には三つの宿場があるが、それをすぎると三日分くらいは宿場どころかまともな道すらない。
これはルマイト王国だけの話ではなく、オルライトの事情も変わらないという。
いつモンスターに抜かれるか判らないコロナドの近くに住みたい人間などいないということだろう。
「ここもしっかり道を作って、ついでにしっかり防塁を築くというのはどうですかね」
「それは良いアイデアだ」
防御拠点を築いておけば、それだけ守りやすくなる。
コロナドから撤退した騎士たちだって、そこを頼りに戦えるだろう。
「ざっとの計算で、一年くらいかかりますかね」
「うん。そんなもんだろうね」
「大仕事ですなぁ」
「あしょろ組土木の腕の見せどころだよ」
へたな口笛を吹いた田島に茜が笑った。
そして、茜たちは一日半をかけてサリーズに戻る。
王都に滞在したのは二日間で、気分的にはちょっとした出張くらいな感じだ。
徒歩なら往復二十日の行程も、自動車にかかればあっという間である。
そして街道が整備されれば、徒歩の旅でもかなり時間短縮ができるはずだ。
サリーズとモタルの街道と同じように。
※著者からのお願いです
この作品を「面白かった」「気に入った」「続きが気になる」「もっと読みたい」と思った方は、
下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価していただいたり、
ブックマーク登録を、どうかお願いいたします。
あなた様の応援が著者の力になります!
なにとぞ! なにとぞ!!




