第19話 献上品は軍手!?
王都ミッシクルには、なんとワゴン車で行くことになった。
馬車で行くのだろうと茜と田島は思っていたのだが、マーリカの方は最初からワゴン車を使うつもりだったらしい。
「だって、馬車は乗り心地が悪いではないか」
簡にして要をえた理由だった。
「エースだってべつに良くはないと思いますがね……」
と、田島が苦笑する。
車種としてはあきらかに作業車寄りである。
普通の乗用車、いっそ軽自動車の方がずっと乗り心地が良いだろう。
「馬車よりはマシだ」
「乗ったことがないので比較できませんが」
「よし。それなら乗ってみれば良い。いまから」
「いまからですか!?」
マーリカの一声で体験乗車をすることになった茜と田島は、あっという間に根をあげた。
ものの三十分も乗らないうちに。
だって、尻が痛いなんてものじゃないのだ。
クッションもなにもない木のベンチに座り、サスペンションすらついてない車で未舗装の道を走るのだから当然である。
喋ってると本気で舌を噛む。
「エースで行きましょう」
「そだね。そしたら誰か運転の交代要員を一人連れて行った方が良いかも」
乗り心地の悪いワゴン車の方が一千倍くらいマシ。
街道は狭いから車体がはみ出してしまうとか、舗装もされてないから気をつけないとパンクしてしまうとか、いろいろ注意しなくてはならない。
だからこその交代要員だ。
運転手が茜と田島だけでは疲れてしまうのである。
「緑谷くんですかね」
「普段からエースを運転してるしね」
さらっと決めてしまう。
まだ二十二歳の若い社員だが、ワゴン車の運転を担当している。ユニックの担当は井筒、ロードローラーは高橋という中年だ。
「せっかくだから、なにか複製して献上しよう。ただでものをもらって哀しいやつはいないからな」
「マーリカさんの忠誠心って、本当に微妙ですよね」
「そうは言うがな、アトム。私にとって主君というのはリリス子爵だ。あまり国王陛下にお仕えしているという実感がないのだ」
「そんなもんですかね……」
「先生ってのは担任で、校長なんて見たこともない、みたいな?」
こてんと首をかしげながら茜が言う。
やたらと極端な例を。
さすがに校長先生を見たこともないってことはないだろう。
構造が複雑になればなるほど複製は難しくなる、というものではないらしい。
「魔法学的には、その剣先スコップとやらと、トータルステーションとやらは同じものだよ」
「そんバカなぁっ!」
魔法使いイファの言葉に田島が頭を抱えた。
気持ちは判る、と茜が笑う。
値段が全然違うのだ。剣先なんかホームセンターで二千円も出せば買えるが、トータルステーションはその五百倍以上する。
レンタルやリースを使っている会社だって少なくない。
「落ち着くが良い、アトム。複製できるというだけで、使い物になるかどうかは別の問題だ」
形はそっくりに作ることができても、同じ性能が出るとは限らない。
結局、精霊力と魔素をどうコントロールするかにすべてかかっているのだ。
ちんぷんかんぷんである。
魔法、よく判らない。
「これ以上簡単には説明できん。そもそも、感覚で使っている者も多いしな」
ひどい説明だった。
むしろ説明になっていなかった。
「つまりトータルステーションは複製できないってこと? イファ」
「複製するだけならできる。ただ、オヤカタがいうような正確な数値が毎回出るとは限らない」
正確なときもあるし間違っているときもある。
計測機器としては、ほぼ最悪の性能だ。
いっそ常に間違っている方がマシだろう。そんな道具を使わなければ良いだけだもの。
「ならばそれを複製して敵国に渡してやるという手もあるな」
不穏当なことを言うマーリカだった。
発想が鬼畜のそれである。
「そんないい加減な道具を献上できるわけがない。やっぱり安全帽か軍手かな」
王様に安全第一と書いた素敵な帽子をプレゼントしようする女、それが茜である。
「グンテの方が便利そうだな。私も一つ欲しい。剣を握るとき滑らなくて良いしな」
そしてイボつき軍手で剣を握ろうとする女、それがマーリカである。
「違う。そうじゃない」
謎のポーズを決める田島だった。
まったく似合っていない。むしろ、ちょっと太すぎる。
結局、マーリカのリクエストにより五十双の軍手を献上することになった。
もちろん女騎士は自分用の軍手もキープしている。
あとは、予備の燃料やエンジンオイルなどの消耗品も作ってもらう。
王都までは徒歩なら十日もかかる大行程だ。
充分な準備が必要なのである。
「地図もアテにならないし」
「せめて距離を測りながら行きますか。エースの距離計で」
「だねぇ」
基本的には街道に沿って走るしかない。
そして街や宿場に泊まりながら進む。
ただ、ワゴン車は徒歩よりずっと速いので、どの宿場で宿を求めるのか判断が難しくなってくるだろう。
「案内は私に任せておけ」
「あ、そうだ。マーリカの部下の人は何人一緒に行くの?」
どんと胸を叩く女騎士に茜が訊ねる。
ワゴン車は八人乗りなので、荷物を降ろせばマーリカ陣営は五人まで乗れるのだ。
「私一人だ。あくまでもアカネたちの案内が仕事だからな」
どこまでも容儀の軽い騎士なのである。
「違う。そんな騎士はいない」
ふたたび田島が変なポーズをした。
やっぱり、まったく似合っていない。
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