第15話 墓前にて
ナッシュの遺体はユニックに乗せて持ち帰り、町の共同墓地に埋葬する。
墓穴を掘るのもあしょろ組土木が手伝った。
彼らを庇って死んだのである。このくらいはさせてもらわないと申し訳が立たない。
「ていうか、みんな、やたら手慣れてないですか? 社長」
「昔取った杵柄ってやつだよ。じょーむ」
「昔って……」
「ほら、私たちって三年前はヤクザだったじゃん。いろいろあんのよ」
ききたくないききたくない、と田島が頭を抱えた。
ヤクザが死体の処理に慣れているとか、生々しすぎる。
と、そのとき、城館の方からマーリカが駆けてくるのが見えた。
もちろん徒歩ではなく騎乗して。
茜と田島の前で勢いを殺し、何周か馬を円運動させる。
「報告は受けた。アカネたちの手を患わせてしまったようだな。不甲斐ない兵どもで申し訳ない」
ひらりと飛び降り、まずは謝罪。
茜の眉が視認できるギリギリの範囲でぴくりと動いた。
あ、これはいかんと田島が距離を取る。
そう滅多に怒ることのない茜だが、いくつか逆鱗に触れてしまうスイッチがあるのだ。そのうちの一つが部下をないがしろにすること。
テレビのニュースなとでパワハラが原因で自殺なんて話題に触れても、ち、と舌打ちするくらいなのである。
死を選ぶくらいなら、どうしてあしょろ組に駆け込まなかった、と。
そんな茜からすれば、客人を守るために勇敢に戦い死んでいった兵士を不甲斐ないなんてこき下ろすのは、まさに言語道断だ。
「マーリカ。ナッシュは勇敢だったよ」
おさえた声色で言う。
「不甲斐なくなんかなかった」
「いや、不甲斐ない。生還できなかったのだからな。生きて帰ってこその勝利だといつも言っているのに」
「…………」
表情を消したまま墓へと歩を進めるマーリカに、茜はそれ以上言いつのることができなかった。
部下を失って悲しんでいないわけがないと気づいてしまったから。
それでも彼女は部下を死地に送らなくてはならないのだ。
生きて帰れと肩を叩いて。
モンスターが襲ってくる世界の。それが騎士であり兵士である。
戦死というものとは縁遠いところで暮らしている日本人とは違う。
「シン。仇を討ってくれたそうだな。卿に感謝を」
埋葬と墓標作りを手伝っていた佐伯に対し、マーリカは騎士の礼をした。
主君に対するものではなく、同僚や戦友におこなう親愛の礼である。
「ナッシュの命とバケモノの命、とうていつりあうもんじゃありやせんが。責任は取らせやした」
「ああ」
頷き、マーリカが一振りのショートソードを差し出す。
「ナッシュの剣だ。使ってやってくれ」
「俺がいただいて良いんで? ご家族さんに渡してやった方が」
「天涯孤独なのだ。父親はすでに戦没してるし、母親はとっくに別の男に嫁いでいる」
身の置きどころがなくなってマーリカの私兵になったのだという。
だからなのか、普段から前に出すぎるきらいがあった。
命を惜しんでいないというか。
今回も、一人でオーガーに立ち向かうという無茶をしてしまった。本来であれば兵士四人で協力して足止めするような相手だったのに。
「愚かな男だ」
墓標の前に片膝をついたマーリカが呟く。
それは副音声で「私たちではお前の家族になれなかったのか?」と問いかけているように佐伯には感じられた。
しかし彼はよけいなことを口にせず、ただ、
「使わせていただきやす」
と言ったのみである。
オーガーの襲撃があったため、翌日の工事からはマーリカの率いる精鋭部隊が定時巡回することになった。
「新街道を使った移動の訓練も兼ねてるそうです」
「馬で走りづらい、とかいわれたらどうしよう」
「蹄鉄や馬の足にどのくらい負担がかかるか、正直ちょっと判りませんね。馬場整備はさすがに専門外です」
「女の子が走るゲームはやってるクセにねぇ」
「おかげで競走馬には詳しくなりましたけどね。残念ながら仕事に結びつきそうにはないですわ」
はっはっはっ、と笑う田島。
いい歳こいて、とは茜は言わない。
五十を目前にした中年男の趣味について、すくなくとも表面上は理解を示してくれている。
大変に居心地が良い。
オタクであることを隠してもいないし恥じてもいない田島だが、それでも若い娘に冷たい目を向けられるとちょっぴり傷ついちゃうのである。
微妙なオトコゴコロというやつだ。
「まあ、三十センぐらいも伸びた草が生えまくってる原野よりは走りやすいとは思いますけどね」
「www」
「はい。いうと思った」
二十五歳と四十八歳がきゃいきゃいと騒いでいると、マーリカたちがやってきた。
きっちり鎧を着込み、馬上槍で武装している。
さらに腰にはかなり大きな剣も吊し、かなり控えめにいっても格好いい。
「マーリカ。すごいね。いかにも騎士って感じだよ」
「じつは本物の騎士だったのだ。アカネ」
冗談を飛ばしあう。
マーリカの精鋭部隊は、彼女を入れて八名。
あしょろ組土木の護衛をしてくれている兵士と比較しても、三段階か四段階くらい強そうだ。
「道はどうだった?」
「素晴らしいの一言に尽きるな。馬たちも走りやすそうだし、アカネが予測しているよりずっと早く駆けられそうだ」
単刀直入に訊ねた茜に、マーリカがむふーと満足の息を吐いた。
見れば、他の騎士(準騎士というらしい)たちも同様の表情である。
ロードローラーでならした道は、馬の足とも相性が良いらしい。
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