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エピローグ1

 クレーターと化した平行世界研究所跡地。


 複数の研究者たちと共にそこに降り立ったミュラーは親指を噛んで眉間に皺を寄せた。まるで、この世で一番苦い果実を噛んだような顔をしている。


 その巨大なクレーターから、平行世界の研究の欠片だけでも見つからないか、と期待して来たものの、そこにはなにも残されてはいなかった。なにも残らないようにきっちりとこの研究所を吹き飛ばすための爆弾を加來博士は用意したのだろう。それくらいのことはできる男だということを、ミュラーはよく知っている。


 いま、世界は大きな絶望感に覆われている。


 資源の供給源が断たれたのだから、当然だろう。


 サブアース1から奪った資源の貯蔵にはまだ余分はある。とはいえ、それが尽きる前に人類の助かる道筋が見えるかどうかはわからない。


 その先行きの不透明さから、世界中では早くも略奪行為や犯罪行為が横行している。

 多くの罪なき人々が、苦しんでいる。


 ――いや、加來から見れば、そんな人々も共犯のようなものなのだろうな。


 皆、異世界からの物資の略奪を良しとしたのだから。それによって人類が助かるのならば、それでいいと願ったのだから。


 加來博士がトゥルーアースを嫌う理由はその最愛の人を失い、そして、サブアース1に暮らすその最愛の人も失ったからだ、というひどく個人的なものだけれども、それでも、その願いが、世界を滅ぼしたのだ。


 彼にとって、この世界に暮らす人々に罪のない人はいない。


「ま、アイツの選択も、間違っちゃいない、か」


 ミュラーはサブアース1を侵略し、トゥルーアースを救おうとした。加來博士はトゥルーアースを滅ぼし、サブアース1を救おうとした。


 結局のところ、ふたりは似たもの同士だったのだ。だから、ミュラーは加來博士に目を付けたし、加來博士はミュラーと手を組むことに決めた。


 そして、(たもと)を分かったふたりの戦いの勝者は加來博士だった。と、いうだけのことなのだろう。


 ――だが、俺だって負けっぱなしでいてたまるか。


 もう一度、ありとあらゆる道を模索しよう。


 もちろん、第一候補は平行世界の穴をもう一度開くことだ。けれども、それだけじゃない。宇宙への進出も、新たなエネルギー資源の開発も視野に入れながら、前へと進もう。今は苦しくても、必ず輝かしい未来が待っているのだと信じて、もがきながら、足掻きながら。


 世界はまだ、終わっていない。人類はまだ、滅びていない。


 ――俺は絶対に人類を救ってみせる。


 そう決意をして、ミュラーは(きびす)を返した。

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