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28、加速

 最初に飛び出してきた数十体の敵。その動きはさっきまでとはまるで違っていた。無駄がなく、効率的。それゆえに、その動きは予測のしやすいものだった。


 まっすぐに向かってくるその数十体を撃墜すると、サムとケンははその場から離れた。博士の護衛をクリスとジョシュが務める。役割を分担し、とにかく加來博士を死守することを最優先とする。


『経験値が(まさ)ったな』


 ジョシュが独り言のように呟いた。その言葉に、クリスも内心で頷く。


 彼らは再起動されたばかりで、まだなにも学習をしていないAIだ。対してクリスたちはディープラーニングを経て成長している。その差が出た。彼らの動きはあまりに効率的すぎたのだ。愚直(ぐちょく)で原始的ともいえる。その攻撃をかわし、倒すことは容易だった。


 けれども、その次に来た第二波はその動きがほんの少し複雑になった。とはいえ、それらを排斥(はいせき)するのも、そう難しいことではなかった。ただ、その動きの変化はひとつの事実を示している。


『コイツら、情報を共有しているぞ!』


 そう、彼らのAIはさっきやられた兵たちの動きから、明らかに学習をしている。当然ながら、ディープラーニングはクリスたちだけの特技ではない、ということだ。彼らが学習し続けていけば、クリスたちでさえも手に負えなくなる可能性がある。ならば、今の状況でクリスたちの取り得る手段は、敵兵たちがクリスたちを上回るほどのディープラーニングを終えるまでに倒しきるか、もしくはそれを上回る速度でクリスたちのほうが学習し続けるか、のふたつしかないだろう。


『マジかよ、こりゃヤバいんじゃないの?』


 サムはそう言いながらも、敵を二体墜とす。


『博士! まだなの⁉』


『もう少し……もう少しだ』


 そのもう少しが、どれくらいなのかが知りたいというのに。けれども、文句を言っても仕方がない。この計画を実行すると決めた時点で、もはや後戻りはできないとわかっていた。とにかく、博士を最後まで守りきるしかないのだ。


 ディープラーニングを重ねる敵兵はあっというまにその攻撃の練度、精度を高めてくる。けれども、クリスたちもその学習スピードを(わきま)えた上で、彼らの攻撃パターンを学習する。互いが互いに学習し合う。絡み合い、螺旋状に互いがそれぞれ思考能力を高めていく。


 先に学習をしていたクリスたちのほうが若干進んではいる。けれども、その数の差は圧倒的で、追い越されるのも時間の問題なのだろう。


 個々の能力では未だ負けはしない。けれども、数的優位はあちら側にある。そのコンビネーションが噛み合いだせば、あっというまに敗北する。




 真っ直ぐに効率的な無駄のない攻撃だったのが、その動きにフェイクを混ぜるようになった。それにより、相手の動きのパターンを複数想定しなければいけなくなった。

 同じリズムで動き続けていたものが、緩急をつけるようになった。それにより、テンポが崩されないように気を付けなければいけなくなった。

 標的に向けてだけ繰り出していた攻撃を天井や壁にも向けるようになった。周囲の状況も利用できると学習したのだ。それによって、注目するべき情報量が爆発的に増えた。




 そうして、どんどん相手はその戦術的な戦い方を加速させていった。それでも、なんとか堪え続けてきたのだけれども、やはりその学習スピードに対処しきれなかった。その圧倒的な数を使い潰しながら蓄積させる情報に、追いつけなかった。やつらは、情報の取得という面においても、効率的に兵を()()()始めたのだ。明らかに、無駄に思える動きの兵も現れた。それは、明白に実験的に動かしているのだとわかった。


 積み重ねた相手の死体ぶん、相手はより手強くなっていく。

 そして、最初に崩れたのがサムだった。


 片腕を無くしていたことが仇となったのだ。いつもよりもバランスを制御することにリソースを割いた結果、判断にわずかな遅れが生じた。その判断の遅れと連動してかすかな挙動の遅れも生じる。それ見抜いた敵がサムを集中的に狙い始めた。


『……くっ!』


 腕を無くしながらも、立体的に飛び回り、うまく相手の攻撃をかわしていたのだけれども、その動きを攻撃によって遠回しに操作していたのだ。敵兵たちはサムの行動の癖、習慣を見抜き、研究所の一角に追いやった。一角に追いやるように計算していた。


『サム! そこは……』


 クリスが()()に気付いたときにはもう手遅れだった。サムは壁に気付く。そして、周囲に逃げ場がない状態で敵兵十三体に囲まれている状態を把握した。その十三体が同時に人差し指をサムに向ける。


 きっと、やつらは寸分の違いもなく同時に攻撃をするのだろう。前後左右頭上に退避する空間はなく、被弾は(まぬが)れない。


 その光景を前に、サムは死を意識した。


『――は』


 瞬間、サムの口から漏れ出たのは、ほんの短い笑い声だった。

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