プロローグ
ただ彼女の幸福だけを願っていた。
けれども彼は、その願いを自らの手で破壊し尽してしまった。
文字通り、彼女を取り巻くなにもかもを。
こんな結果になるだなんて思わなかった。自分はただ理想郷が在るのだと知ることができればそれだけでよかったのに。彼女が笑って日々を過ごしてくれる世界があるのならば、他にはなにもいらなかった。
彼女がただ微笑んで街中を歩く姿を、彼女がただ楽しそうに買い物をする日々を、彼女が嬉しそうにソフトクリームを頬張る姿を、彼女がほんの少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせるのを、少し離れた場所から見守っているつもりだった。
幸せに日々を過ごす彼女のその日常こそが、彼にとっては宝物だったから。
それらすべてを失ったとき、彼は初めて自らが過ちを犯したのだと気付いた。
自分が門を開かなければ。あの男と出会わなければ。こんな研究をはじめなければ。そもそも、あのとき彼女と出会わなければ。
そんな不毛な思考がただただ巡り続けていた。
過ぎたことをあれこれ考えたところで、どうしようもないというのに。
だからある日、彼はその堂々巡りの思考を捨てて、前に進んでいくことに決めた。
これからのすべての彼女を救済するために。
彼は決意する。
世界を滅ぼしてしまえ、と。